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「テルラくん達は私に協力するべきです。なぜなら、それが波風立てずに解決する一番の道だからです」
ルーメンの言う事はもっともだと思っているテルラだったが、ひとつ気になる事が有る。
「神の召喚を行うと言うお話ですが、新世界を作れる神に心当たりはお有りですか?」
「残念ながら、有りません。有ったらもう実行しているでしょう。でも、当ては有るので大丈夫です」
「当て、ですか?」
「はい。詳細はお話し出来ませんが。まだ検討段階ですからね」
「そうですか……」
目を伏せるテルラの顔を覗くルーメン。
「何か気になる事でも?」
「先ほどは長くなるだろうと思ったので流しましたが、ハイタッチ王子が行おうとした神の召喚を詳しく言うと、カミナミアの街の住人全員を生贄にしようとしていたと聞いています。しかし、魔物の肉を食べていた住人が多かった事で、毒を送られるのは困ると言いながら死の国の女神の分身が自ら顕現したと」
「魔物を食べているんですか?」
テルラの言葉に驚くルーメン。
詳細を知っている者からは、魔物を食べると言う発想は絶対に出て来ない。
「僕も驚きました。でも、カエルやミミズの魔物を食べている街は有ります。きっと他にも食べている地域も有るでしょう。死の国の女神は人体には影響ない毒とおっしゃっていたので、今のところは禁止していません」
「ホムンクルスの分身体の原料は魔法結晶。それを食べると毒って事かしら。確かに、洞窟や岩場とかに出来る魔法溜まりに長時間居ると身体に悪いと言われていますが……」
考えるルーメン。
「しかし、魔法溜まりに生える魔法結晶は魔法の媒体にも魔力回復にも使えます。それが身体に悪いと言う話は有りません。しかも、死の国の女神の身体も魔法結晶で出来てるはず。うーん……」
「謎は多いですが、それはともかく。ハイタッチ王子が行おうとした神の召喚と同じ事をやるおつもりなら、それは大量の生贄が必要なんですよね? ならば僕がそれを選ぶ事は有りません」
「神の召喚を拒否すると。では私を倒しますか?」
「ルーメン様を倒すかどうかは、一旦は後回しにしましょう。それ以外の解決方法を話し合いで探しませんか?」
笑っているのか困っているのか分からない微妙な表情を誤魔化す様にお茶を啜るルーメン。
「教会の跡取りとして育ち、女だらけのぬるい旅をして来た君なら日和った事を言うと思っていましたよ。勿論、バカにしている訳じゃありません。そんな君だからこその第三の選択肢が有ります」
壁の上の方を見るルーメン。
そこには神棚が有り、聖人教の象徴である小型の男性裸像が祀られていた。
「神の召喚が出来ないのなら、この世界内で神を作れば良いんです。その方法とは。聖人であるテルラくんを神の座に座らせ、新世界を支える神とする事です」
「僕が神になるんですか?」
「詳しい方法はまだ研究中ですが、不可能ではない案です。異世界渡り案も可能なはず。下手に実験して関係無い者が神になったら困りますから、ハイタッチ王子にも情報を渡していません」
レイが不機嫌そうにテーブルをノックした。
その音で話が止まる。
「わたくしは反対ですわ。テルラを他国の神にする? とんでもない。しかも、新世界を作ると言う話をそのまま受け取ると、要するに国ごと異世界に飛ぶと言う事でしょう? 以前出会った異世界の者達みたいに、この世界から出て行くと言う事でしょう?」
立ち上がり、ルーメンをきつく睨み付けるレイ。
「成功するかどうかも分からない、テルラや生き残った国民の命を脅かすとんでも行動を許せるはずもありませんわ!」