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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第二十七話
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2

10人部隊の誰も隠れ里の存在を知らなかった。

少なくともグラシラドの地図には載っていない。


「戦争が長い間続いているので、戦火を逃れた人が山奥に小さな村を作るのは珍しくありません。そんな人達なら警戒心猜疑心が高まっているので、下手に近付かない方が良いかも知れません」


ミマルンはそう言ったが、ラカラは遠見の魔法を使いながら首を傾げた。


「急造の村にしては人口が多いです。100人以上居ます。私の魔力では把握出来ないほどの広さなので、200、300居てもおかしくありません。この規模で見付かっていないのは不自然だと思います」


「リビラーナ王国の国境に近いので調査されていないだけでは?」


テルラがそう言ったが、ミマルンは即座に首を横に振った。


「リビラーナ王国の国境付近だからこそ調査しているはずです。山賊に紛れたスパイが居るのも、他国もリビラーナ王国を調査しているからこそです」


前方を警戒していたルロンドが振り向き、疑問に表情を曇らせる。


「スパイや国内警備隊の魔法に見付かっていないのに、なぜラカラの魔法で見えたのでしょうか。何か嫌な予感がします」


「ルロンドの勘は信用出来ます。隠れ里の調査は国に任せ、私達は遠回りしてでもスルーする事を提案します。どうしますか? テルラ」


ミマルンに判断を任されたテルラは、村が有ると言われた方をガーネットの左目で見た。

読めないくらい小さい潜在能力が密集しているので、人間が大勢居る事は間違いない。

一度に大勢の能力を見ると体力がごっそり持って行かれるので、すぐに指の輪を解いた。


「女神様から授かったガーネットの左目でも隠れ里の存在が確認出来ました。どんな形かは分かりませんが、集落は有ります。となると、大きな疑問が有ります」


「こんなところに有る隠れ里が魔物に襲われずに存在しているのは怪しい、だな」


長銃に付いている望遠スコープを覗きながら言うグレイ。

木々が邪魔で遠くの様子は分からない。

それでも隙間から何かが見えるのではと期待したが、得る物は無かった。


「グレイの言う謎をスルーするのは勿体無いでしょう。魔物を近付けない秘密を持っているかも知れないからです。危険を承知で寄ってみましょう。勿論、拒否されたり攻撃されたら即座に撤退しましょう」


よその国の人も居るので多数決で寄るか避けるかの最終判断をしようと思ったが、こんなところでノンキに手を上げるのは時間の無駄だとルロンドが言うので、リーダーであるテルラの独断に従う事になった。

10人部隊の男性7人はミマルンの部下なので、ミマルンに従う以外の行動は取れない。

つまり自己主張や意見を言う事を禁止されている状態なので、決に参加出来ないんだそうだ。

これが戦時中の兵士騎士の常識らしいので、ここではリーダーが全てを決めて引っ張らないといけない。


「では、今まで以上に慎重に進みましょう」


隠れ里に行軍の向きを変え、前後左右、木の上までも注意を向けて進んだ。

間も無く一人の気配が前方から近付いて来た。

気配を隠す事無く、派手に草や落ちた枯れ枝を踏んで歩いている。

陽動の可能性を考えて、隊列を崩さずに気配の登場を待つ。


「止まれ。迷子とかの格好じゃないな。何をしに来た」


15、6歳くらいの優男に剣を向けられた。

褐色肌の黒髪。

少し開けている場所で剣士らしい構えを取っているので、こちらの出方によっては戦う意志が有る様だ。


「僕達はエルカノート王国から来ました。不死の魔物退治が目的です。魔物の発生源であるリビラーナ王国に入りたいので、その国境付近に居る貴方達と少し話をしたいんです」


「エルカノート? グラシラドの人間じゃないのか? 黒いのも居るけど」


「彼女はミマルン、グラシラドの王女様です。道案内をして頂いています。僕達に敵意はありません。お話をしましょう」


テルラが隊列の一番間に出て、無抵抗を示す様に両手を広げた。

交渉中の空気を読んで部隊の全員が武器に手を掛けていないが、レイ、プリシゥア、グレイはいざとなったらすぐさま攻撃出来る様に緊張を肩に込めていた。


「俺には難しい事は分からない。とにかく引き返せ。帰らないのなら斬る」


「お話は出来ませんか? 一番偉い人を、とは言いません。お話し出来る人を呼んで来てくださいませんか。僕達はここで待ちますから」


「ダメだ。帰れ。話はしない」


優男が構えを深くしたので、レイがテルラの前に出た。

武器は触っていない。


「わたくしはレインボー・イン・エルカノート。エルカノートの王女ですわ。貴方のお名前は?」


「俺はキャン」


「キャン君。キミの武器はカタナって言うんでしょう? 知っていますわ。異世界の武器らしいですが、それでもわたくし達には勝てませんわ。ねぇ? カレン」


いきなり名前を呼ばれたカランはレイの意図を悟り、おもむろに自分の額にダブルピースを当てた。

森の中で日光が少ないし、このまま潜在能力を使うとレイとテルラを巻き込むので、ポーズを取るだけに留める。


「魔法か? 何をしようと、俺は負けられない」


場の緊張が高まって行く。

10人部隊が武器に手を添え、魔力を高めていると、もう一人の気配が近付いて来た。


「待て、キャン。そちらも待ってくれ。そちらに女神からお言葉を頂いた聖人は居られるか」


褐色肌で三十代くらいの屈強な男が現れ、焦った風に声を張った。


「聖人教に定義される聖人と言う意味なら、テルラです。ガーネットの左目がその証拠ですわ」


レイは庇う姿勢を解かずに慎重に金髪の少年を紹介した。


「テルラ君。エルカノート人だな。エルカノート人のみ、入村を許可しよう」


「おい! どう言うつもりだ、関係無い奴を村に入れるなんて!」


「村長の命令だ。従え」


「村長が言うなら仕方ない」


キャンが屈強な男の腕を掴んで声を荒げたが、命令と言われたらアッサリ落ち着いた。


「グラシラドの人間は村の入り口付近で待機して欲しい。拒否したり逃げたりするなら戦いになる。何せ、俺達は隠れて暮らしているもんでな。理解して欲しい」


ミマルン達も人間相手の戦いは目的ではないので、大人しく従う事にした。

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