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聖都や王都に近い街だけあって、大通りを歩けば様々な店を眺める事が出来た。
八百屋や肉屋には商品がたくさん並んでいるし、デザイナー直営の服屋やアクセサリー屋なんてのも有った。
「都会って良いなぁ。お金さえ有れば、食べる物も着る物も困らないじゃん。魔物が少ないから武装した怖い人も全然居ないし」
適当な服屋に入ったカレンは、都会のオシャレを観察しようと店内を一回りした。
やはり故郷の商店とは品揃えが全然違う。
故郷も言うほど田舎ではないので布地だけを見れば大して差は無いのだが、デザインや種類が比べ物にならないほど豊富だ。
どんなニーズにも応えられるくらい選び放題だ。
「いらっしゃいませ。どの様な物をお探しですか?」
無意味に歩き回っているカレンを不審に思ったのか、店員が話し掛けて来た。
「素敵な服ばかりで全部欲しいくらいですが、すぐに違う街に移動するみたいなんで、荷物が増やせないんですよ。残念」
「左様でございますか。旅に使える服もございますよ。あちらのコーナーに」
「今着ているのも予備も新品ですから。でもまぁ折角なんで、三着ほど肌着を貰えますか。旅先で洗濯し易いタイプを」
「畏まりました。サイズはいかほどで」
サイズを伝えると、店員さんは素早く移動して肌着を包装した。
カレンは商品を眺めながらのんびりとレジに向かう。
「5,940クラゥです」
「あらお安い。上下セットですよね?」
「はい」
「万が一の時に仲間に貸す事も考えて三着にしたんですが、これなら仲間にも買ってみてって言っても良いかもですね」
「ありがとうございます。よろしくお願いします。またのお越しをお待ちしております」
店員に頭を下げられたカレンは、買い物袋を抱いて店を後にした。
「まぁ、レイは胸も腰も大きいし、グレイは逆に小さいから、よっぽどの緊急事態じゃないと肌着の貸し借りは出来ないけどねー」
大通りは一通り見て回ったので、適当な脇道に入る。
帰る教会は街の入り口付近に有るので、ちょっとくらい迷子になっても問題無く戻れるだろう。
「都会って言っても、大通りから外れればウチの村と変わんないな。小さいけど畑も有るし」
カカシが立っている畑には葉物野菜が植えられており、鳥避けの鳴り物が申し訳程度にぶら下げられている。
鳴り物が少ないのは、民家が近いので、風が吹く度に鳴っていたらうるさいからだろう。
「こんなに家が近いと、野菜泥棒なんかすぐ見付かっちゃうだろうな。都会じゃ悪い事は出来ないなー」
家から遠くて広い畑だと、魔物の害以上に野生動物や不届き者による農作物の盗難が深刻な被害となる。
四六時中畑を見張る訳には行かないし、どんなに堅牢な動物避けの柵を作っても万全じゃないからだ。
逆を言えば、よほど目立った行動をしなければ、グレイみたいなのが通りすがりにちょこっと盗んでもバレない事になる。
そこまで考えてふと思い付く。
「あ、そうか。グレイがあんなところで狙撃してたのは、街中じゃ悪い事が出来ないからか。となると、悪い事をしたいと思ったら、人目を避けて仕事をする機会を伺わないといけないのか」
悪い事をしたらお天道様の下を歩けなくなるっておばあちゃんが言ってたのはこう言う事だったのか。
なるほどなるほど。
「ハンターを辞めて悪人になったら、こんな自由には街中を歩けなくなるんだろうな。――ん?」
小さな爆発音が聞こえたので、カレンは耳を澄ませた。
子供の声も聞こえるので花火かも知れない。
「こんな昼間から花火?」
興味が引かれたので、音がする方に行ってみる。
木の柵で囲まれている広場で、数人の子供が木人に向けて炎の魔法を撃っていた。
広場の端の方に長屋の様な大きな建物が有るので、魔法を習う学校か。
「凄いな。魔法を使える子があんなに沢山。ここを卒業したら勇者やハンターになるんだろうな」
魔法使いの卵達は、教師の指示に従って炎の他にも氷や風の魔法を撃っている。
魔法は生まれ付きの才能がなければ使う事が出来ないらしい。
才能が無い人間がいくら修行をしても魔法が使える様にはならないそうだ。
以前は戦争くらいしか魔法の使い道が無かったのだが、魔物が現れた現在では魔法が使える人間はとても重要な人材となっている。
だからこそ、カレンはテルラにスカウトされた。
そこらの村娘が王女と言う超重要人物と共に行動出来るのは、通常なら有り得ない事なのだ。
「……私も魔法みたいな物が撃てるんだから、練習すればあんな魔法を撃てる様になれるかな」
丸出しのおでこが持つ熱を確かめる様に手を当てながら見学していると、銀縁メガネを掛けた中年男性が近付いて来た。
子供達を見ている教師と同じ格好をしているので学校関係者だろう。
「こんにちは。入学希望かな? 年齢的にちょっと大きい子だから、生徒のお姉さんかな?」
「いえ、ただ見ていただけです。あの子達が使っている魔法が私にも使えたら、今後便利かなーって」
「便利?」
「はい。これからハンターとして働こうと思っているので、魔物を攻撃出来る魔法が使えたらなって」
「ほう、君はハンターなのか。普通の女の子に見えるが」
「潜在能力って言う不思議な魔法が使えるんで、スカウトされたんです」
「スカウト。すると君は有望なのかな?」
「多分。まぁ、直接戦うのは他の二人ですけどね。いや、三人か。銃を使う子がパーティに入るから」
「銃使いも居るのか。しかも、結構な人数だ。 ――君達は、何か仕事を受けているかな?」
「いえ。ロクな仕事が無いので、銃使いの子のハンター許可証が届いたら次の街に行こうって話になっています」
「こんなところに居るからそうだと思った。なら、僕の仕事を受けてみないか? 個人的なお願いなので、報酬はそんなに出せないけど」
「役所以外からの依頼を受けても大丈夫なんですか?」
「勿論さ。ただ、そう言うのは勇者に頼む物だけどね。ハンターは安い仕事はあんまりしないから」
「なら、何で私に?」
「僕はこの学校の教師だから、魔力の有る無しを見れるんだ。君には不思議な力を感じる。だから頼んでみようと思ったんだ」




