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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第二十六話
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1

若い海兵は人生で一番緊張していた。

彼が漕ぐ小舟に自国の姫とその仲間達が乗っているからだ。

安全が保てるギリギリまで近付いた船から船へと移る短い航海だったが、お陰で外洋でも安定していた。


「無事で何よりですわ! テルラ!」


軍艦から謎の中型船に問題無く乗り移ったレイとプリシゥアとカレンは、金髪少年の元気な姿を確認して駆け寄った。

銀色の鎧を着た銀髪美女に力いっぱい抱き締められるテルラ。


「レイ達も無事で良かったです。でも、ちょっと苦しいので」


テルラのタップを見て、亜麻色の髪の僧兵が二人を引き剝がす。


「はいはーい、興奮するのはそこまでっスよ、レイ。で、怪我とかないっスか? テルラ」


「はい、大丈夫です。プリシゥアも元気そうで何よりです」


黒髪をヘアバンドで留めておでこを出しているカレンは、一歩遅れてしまったせいで再会の挨拶に加われなかった。

手持ち無沙汰を誤魔化す様に甲板を見渡すと、見知った顔で目が止まった。


「あ、ミマルンも無事だったんだね。……え?」


褐色の肌で黒髪の女性の陰に立っている、赤髪黒コートの少女を二度見するカレン。

見間違いかと思い、もう一度見直した。


「ま、まさか、グレイ?」


「おう、俺だ。お前達は相変わらず元気でうるさいな」


「どうしてここに?」


駆け寄ろうとしたカレンを片手で制する、右目に百合の花を模した眼帯をしているグレイ。

変に騒がれるのが嫌だったのでミマルンの後ろに隠れていたのだ。


「色々有って海に出ていたら、たまたまテルラを助けたんだ。とんでもない確率の奇跡の再会だった。テルラの話を聞いてお前達と合流させようと動いてたんで、こっちの再開は偶然じゃない」


赤髪を潮風になびかせているグレイは、こちらの船を伺っている軍艦を見る。

乗り移った王女が心配なのか、緊迫感が見て取れる。


「王女が海で遭難したんなら船乗りの噂話になるだろうと思って、ポーカンカの港で情報収集したんだ。そうしたらエルカノートの港にそれっぽいのが居ると聞いたんで、だから北に向かって航行していたんだ」


ミマルンが続いて言う。


「まさかみなさんが軍艦に乗っていたなんて。この船は海賊船だからと距離を取ったんですが、迷い無くそちらから近付いて来ましたよね。どうして私達が乗ってるって分かったんですか?」


「それはですね――」


レイは、遭難中に無人島に辿り着いて一人の男と出会った事を話した。


「その男は魔法で遠くの様子が分かるとおっしゃいました。体格しか分からないそうですが、この船にテルラとミマルンらしき人が乗っていると感知しましたので、コンタクトしてみたんですわ」


話を聞いていたミマルンが神妙な顔をする。


「その魔法……もしかして、リビラーナ王国の『遠見のホーク』では有りませんか?」


「本人はバードと名乗りましたわ。リビラーナ王国の関係者ですの?」


レイは神妙な顔で訊く。

テルラとプリシゥアも再会の喜びを脇に置いてミマルンの顔を見た。


「優秀な遠見魔法でリビラーナ王国を守っていた武将です。望遠鏡以上の性能を持つ遠見の魔法が使えるのは彼くらいしか知りません」


「訳有りとは思っていたのですが、リビラーナ王国の関係者ですか……」


「向こうの軍艦に乗っているのなら、本人に聞けば確証を得られるのでは」


「確かにその通りなのですが……」


視線をミマルンの喉元に固定して動きを止めるレイ。

考え込んでいる様子なので、テルラが話に入る。


「リビラーナ王国の関係者なら、魔物について何かご存じかも知れませんね」


「それもその通りです。しかし、彼は5年くらい無人島生活をしていたとおっしゃいました。魔物の害が認知された時期と同じ頃です。同時期過ぎるので何も知らない可能性が高いですわ」


「なるほど」


「しかも、彼は自分の事を話したくない様子でした。下手に尋問すると、とぼけられるかウソを言うと思われます。そう言う性格の男に見えました」


「難しいですね……」


「だからと言って何もしない訳には参りませんので、尋問するならプロに任せた方が良いでしょうね。丁度海軍の方がいらっしゃいますのでお願いしましょう。それで構いませんね? テルラ」


「後で教会の魔法通信を使い、何か聞き出せたかどうかを問い合わせましょう。ここではそうするしかありませんね」


レイは、小舟に続く縄梯子の前で待機していた海軍の男にバードの尋問を頼んだ。

王女の命令と受け取った男は海軍式の敬礼を返す。


「了解しました」


「現時点では犯罪者ではないので、人道的でお願いしますね。口を割らなければ、国や王家と相談して、ほどほどの飴を与えても構いませんので」

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