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小舟に乗って海流に流されるまま進んでいる三人は、何もしていないのに疲れていた。
日差しが思ったより体力を削り、やたらと喉が渇く。
なので、見えて来た島に向かう事にした。
「あの島には木が有るっスから、真水が有るはずっス! 死ぬ気で手で漕ぐっス!」
エイホエイホと頑張って、汗だくで島に辿り着く三人。
荷物を砂浜に下ろし、自分達も降りる。
身体が重くてへたり込みたいが、その前に波に持っていかれない様に小舟を海から上げなければならない。
港ならロープを結ぶだけで良いのだが、この場には固定出来る物がひとつも無いので、気力を振り絞って力仕事をする。
「お水を見付けて落ち着いたら、すぐにテルラを探しに行きましょう」
息も絶え絶えに言うレイ。
他の二人は返事をする元気も無い。
しばらく砂浜をベッドにして休憩する。
息が整うと、カレンがリュックを上下正しく置き直した。
「どこまで水吸ってるかなぁ。レイの鎧も洗わないと錆びちゃうよね」
「保存食を出してみるっス。濡れてたらすぐ食べないといけないっス」
プリシゥアに指摘され、「そうだよねぇ」と言って頭を掻くカレン。
海水が乾いて塩が付いたからか、黒髪がギシギシする。
頭も洗いたい。
「ここで出すと砂だらけになるから、あっちに行くね」
海を背にしたカレンは、濡れて重くなったリュックを引き摺って林の方に行った。
プリシゥアも行こうとしたが、レイは座ったまま動かない。
「わたくしはここでテルラが来るか見張っていますわ」
「そうっスね。お願いするっス」
レイを置いて木々の方をチェックするプリシゥア。
近付いてみると、かなり奥まで茂みが存在する事が確認出来た。
森と言っても差し支えは無いだろう。
「上り坂になってるっスね。ゴールドグラスとポーカンカの間に有る山のどこかっスかね。でも、陸地に辿り着くほど進んだとは思えないんスけどねぇ」
プリシゥアが首を捻っている間に、森からはみ出ている草地にリュックの中身をすっかり出し切るカレン。
衣類やテントはずぶ濡れ。
保存食も半分くらい浸水していた。
「ねぇ、二人共。テルラもミマルンも全然姿が見えませんわ。まだどこかで浮かんでいるかも知れません。助けに行きましょう」
浮き輪付きの皮ベストを着たレイがやって来て、心配そうに言った。
しかしプリシゥアが即却下した。
「残念っスが、もう無理っス」
「なぜですの? プリシゥアはテルラの護衛でしょう? すぐに行くべきと判断しなければならないのでは?」
「ミイラ取りがミイラになるって言葉が有るっス。無策で海に出ても私達が死ぬだけっス」
「しかし――」
食い下がろうとするレイの言葉を遮るカレン。
「荷物を乾かさないと重くて持てない。保存食の半分がダメになった。それと、疲れてもう動けない」
プリシゥアが続く。
「もうすぐ日が暮れるっス。夜になったら海でも陸でも人探しは出来ないっス。日が沈む前に真水を確保しないと、何もしなくても自分達の命が危なくなるっス」
仲間二人に否定されたレイは、さめざめと泣き始めた。
レイが人前で泣くのは公私含めて初めてではなかろうか。
「……ゴールドグラスの時と言い、どうしてテルラが危険な目に逢いますの? 世界を護ろうと頑張ってらっしゃいますのに」
「だ、大丈夫っスよ。テルラは女神様のご加護を受けてるっスから、絶対大丈夫っス。むしろ、テルラの仲間でしかない私達の方が危険っス」
慌てて慰めるプリシゥアとカレン。
「そうだよ。今はとにかく体力を回復させなきゃ。それに、私達の方にも女神の加護が有るから大丈夫だよ。死の国の女神だったけど。ホラ、これ」
頑丈そうな帯に縛られた本をレイに見せるカレン。
水没したはずなのにシミひとつない。
「錬金術を使えば海水を真水にする事が出来るよ。凄いよね、神様の知識って。でも、私がそれをするための機材の準備はすぐに出来ない。やっぱり今日のところはここの安全と状況の確認しか出来ないよ。まだテルラがここに流れ着かないって決まった訳じゃないし」
「そ、そうですわね。疲れて気弱になっていましたわ。テルラは大丈夫ですわよね」
鼻をすすって涙を引っ込めたレイは、救命胴衣を脱ぎ捨てた。
「鎧を着たら森に入って水を探しましょう」