6
「まさかとは思ったが、本当にテルラじゃないか。こんなところに不死の魔物が居たのか?」
突っ込む勢いで砂浜に乗り上げた小舟に乗っていたのは、右目に可愛い造花の眼帯をしているグレイだった。
トレードマークだった海賊帽は被っていないが、黒のロングコートは一緒に旅をしていた頃と変わっていない。
相変わらずタイトなミニスカを履いていて、船べりに片足を乗っけているから中身が見えそうだ。
「いえ、実は遭難しまして。のろしを上げて助けを待っていたんです」
旗から手を放して倒したテルラは、グレイの目をしっかりと見ながら定期船で海を渡っている最中に海賊に狙われて小舟で逃がされたと説明した。
その小舟が転覆し、自分ともう一人がリュックに掴まってこの島に流れ着いた事も簡単に伝える。
「なるほどな。ちゃんとした船ならそんな事はしないんだろうが、王女の存在にビビったんだろうな。ま、テルラも変わりないみたいで――」
グレイがいきなり拳銃を抜いた。
銃口の先には曲刀を抜いたミマルンが居た。
「その肌の色、南の国の人間か」
「そちらは海賊ですか? その割にはお若い様ですが」
空気が張り詰めたので、テルラは慌てて間に入る。
「待ってください、二人共。こちらはミマルン。グラシラド国の王女様です。そして、こちらはグレイ。彼女は海賊ですが、僕等の仲間です」
「元海賊で、元仲間だがな」
グレイが拳銃を仕舞ったので、ミマルンも曲刀を鞘に納めた。
「テルラの叫び声が聞こえたので急いで戻って来ました。これは救助で宜しいのでしょうか。元海賊と言う事は、今は海賊ではないのでしょう?」
「まぁ、色々有ってな。テルラと別れた後も、色々有ってな。詳しい話は船に乗ってからにしようか。助けて欲しいんだろう?」
グレイは砂浜に降り立つ。
同年代で同じくらいの背丈のテルラの顔を見詰める。
「日焼けで顔が真っ赤だな。でも飢えた様子は無い。遭難して一週間経ってないくらいか。他の奴等は?」
「レイ、カレン、プリシゥアの三人は行方不明です。この島には居ません。出来ればすぐに探しに行きたいです」
「探しに行くねぇ。――定期船に乗ったと言う事は、目的地は半島の港町あたりか? 俺達は南から来たが、のろしを見たのはここだけだった。それを望遠鏡で覗いたら見た事が有る金髪頭が見えたから、こうして来たって訳だ」
喋りながら注意深く周囲を見るグレイ。
確かに二人以外に人の気配は無い。
あの三人が居たらキャンキャンとうるさいはずだ。
「半島の港には寄らなかったからその付近は知らないが、この辺りの海流から予想すると、ここに居ないなら沈んでる確率の方が高いな」
「いえ、あの三人の方には脱出に使った小舟が有ると思います。こちらには無かったので。それに乗れていれば僕達よりも生きている確率は高いはずです」
「ひっくり返った船はすぐ沈む。それを望みには出来ない」
グレイが呆れて海の常識を言う。
ミマルンがテルラの横に立った。
そして赤髪黒コート少女が乗って来た小舟を指差す。
「しかし、遠洋で船を捨てるとは思えません。あの三人が何とかして船に戻れたとしたら、私達よりもどこかに流れ着いた可能性は高いはずです。そして、私達は無事に無人島に流れ着いた。あの三人も生きているはずです」
「はい。僕達には女神様のご加護が有ります。きっと無事です」
力強く頷いているテルラを鼻で笑うグレイ。
「ハッ。お前等はそう言う奴だったな。まぁ、俺もあいつらが簡単にくたばるとは思えない。だが、探しに行けるかどうかは船長の判断次第だから、俺からは何も言えん。取り敢えず荷物を纏めて船に乗せろ。ええと、黒女」
「ミマルンです」
「ミマルン。お前は力が強そうだから、準備が出来たら一人陸に残って船を押してくれ。水に浮いたらすぐ飛び乗れ。出来るな?」
「出来ます」
「よし。さぁ、テルラ。さっさとテントを畳んで来い。忘れ物するなよ」