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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第二十一話
184/277

5

避難キャンプの端、なるべく邪魔にならない位置に自前のテントを張って一晩過ごすテルラ達。

警備担当の強い人がキャンプの外周であるこの付近を警戒しているので安全だと思うのだが、塀の外なので、念の為に旅の途中と同じ様に一人が寝ずに周囲を警戒した。

何事も無く夜明けを迎え、身支度を整えるテルラ達。

街の人達も明るくなると同時に動き出しているので、彼等を観察しながら動き、水場やトイレを貸して貰った。

商店テント通りも有り、量は少ないものの食材が買えた。

行商の立ち入りは断っていない様で、日用品関連は目立った不足は無い。


「お嬢さんは見ない顔だけど、旅人さんかな?」


今朝の買い出しを担当しているプリシゥアが買い足りていない商品は無いかと確認しながらウロウロしていると、お節介そうなおばさんが話し掛けて来た。


「はいっス。金山の街に向かう途中なんスよ。そしたらこんな状態だったから、仲間みんなビックリしてるっスよ」


愛想笑いをするプリシゥア。

朝食が済んだらネズミ退治をしないまま旅立つ予定なので、ハンターである事は言わなかった。


「そうよねぇ。馬車便も止まっているから、歩きの旅でしょ? 宿屋に泊まりたかったわよねぇ」


「みなさんの苦労を思えばなんて事ないっスよ。みなさんに女神の加護が有る事を祈っているっス」


「ありがとう。向こうで炊き出しのパンを配ってるから、一緒に貰いに行かない?」


おばさんが言うには、このキャンプ生活ではかまどの火が使えない。

たき火でスープ鍋を煮る程度の事は出来るが、火事が起きない様に厳しい制限と罰則が課せられているし、風が吹いたり雨が降ったりしたらそれも出来ない。

天気次第で飢えてしまうのは不便なので、少し離れた広場で街が大きなかまどを作ってパンを焼いている。

緊急事態下なので、例外無く無料配布している。

配布は朝の一回だけだが、とても助かっている。


「昼近くまで貰えるくらいいっぱい焼くから、旅人さんでも貰えると思うよ。一緒に行く?」


「おお、それは助かるっス。一緒に行くっス」


買い物を切り上げたプリシゥアとおばさんは並んで歩き、テントの群れから離れて広場へと移動した。

聞いた通り、大きなパン焼き専用のかまどが有る。

それが三基有り、エプロンを着けた男女が生地を捏ねたり薪を足したりしている。

美味しそうな匂いと煙が澄んだ早朝の空へと上って行っている。


「あ、そうそう。勇者のステージ、見た?」


パンを受け取る列も三列有り、大勢の人が行儀が良く並んでスムーズに進んでいるので、そんなに時間は掛からないだろう。

そう思っても待ち時間はヒマなので、おばさんが雑談を始めた。

プリシゥアも知らない人との交流を好む質なので、愛想良く受ける。


「歌ってた奴っスか? いや、見てないっスね。音は聞こえていたから気になってはいたんスが、いろいろやっている内に聞こえなくなったっスね」


「それは残念。勇者は今日もステージするから、余裕が有れば見てみれば?」


「多分見れないと思うっスけど、一応仲間に訊いてみるっスよ」


「あら、何で見れないの? 急ぐ旅?」


「急いではいないっスがのんびりも出来ないって感じっスから、すぐ出発の予定っスね」


「あらそう。まぁ、旅はお金が掛かるもんね。でも、急がないなら留まっても良いかもよ?」


「なんでっスか?」


「これは噂なんだけど、どうやら旅芸人一座が北門の方に来ているみたいなの。

勇者のステージは、ここ南門と、街を挟んで反対側の北門の方を二日刻みで回ってるから、何日か待てば入れ違いでこっちに来るかも」


「旅芸人一座……っスか? それはどんな芸を見せてくれるんスか?」


旅芸人一座と訊いて大鎌を持った黒いゴスロリ少女を連想するプリシゥア。

黒いゴスロリ衣装は、北の国の教会で正式に採用されている巫女の正装。

縁有って一緒に旅をした事も有る黒いゴスロリ少女が居て、そいつは色々有って北の国の教会から逃げた。

今は新設された旅芸人一座の巫女兼護衛をしているはずだ。

旅芸人一座はしばらくエルカノート国内を回ると言っていたので、その一座である可能性は高い。

と言うか、魔物が出現した以降は旅をする芸人自体が珍しいから、余計に可能性が高い。


「さぁ? 噂だし、詳しくは知らないよ。でも、歌じゃない事は確かだね。勇者と被ってたら、こんなに早く噂が広がらないだろうし。一座だから大人数でやる芸だろうねぇ。何だろうねぇ」


「もしかして、劇とかっスかね?」


「劇かぁ。見れたら良いねぇ。出来ればタダで」


「そうっスね」


雑談をしている内に二人の番になり、プリシゥアは五個のパンを貰えた。

夜用も含めた六個のパンを貰ったおばさんと別れ、焼き立てほやほやのパンを抱えて自分達のテントに帰る。


「ただいまっス。無料でパンを貰えたっスよー」


旅の途中で拾っておいた薪で湯を沸かしていたカレンとミマルンが吉報に頬を緩ませる。

朝しっかりと食べられるかどうかで一日の疲れが変わるからだ。


「あと、北門の方に旅芸人一座が来てるそうっス。もしかするとポツリの居る――」


テントを畳んでいるレイを興奮気味で手招きしているプリシゥアを横目に、朝食の下準備をしていたテルラが異変に気付く。


「地震……?」


勘の良い街の人も地面の揺れに気付き、立ち止まって周囲を確認している。

嫌な音がした。

街を囲む木製の壁が軋んだのか?

音がする方に耳を向けた直後、壁が粉塵と木片を撒き散らしながら崩れ、壊れた部分から大量のネズミが飛び出した。

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