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王都観光を何日も楽しんだ末に訪れたエルカノート国王女の誕生日当日。
朝から花火が上がったり、大道芸人がそこかしこで人を集めていたり、国家や聖歌が歌われていたりと、国を挙げてのお祝いムードになった。
お昼前になると、王都各地に有る公園や教会関連施設でジュースやケーキが無料で振舞われた。
今日も飽きずに王都をウロウロしていたカレンとネロは、ケーキで満腹になっていた。
「食費は浮くけど、ケーキばっかりじゃ身体に悪いよねぇ」
カレンが気持ち悪そうにゲップすると、ネモは水筒に容れたぶどうジュースを飲みながら胸を張った。
「こんな時、神は便利だぞ。この身体が糖分にやられても、また身体を作り直せば良いんだからな。しかも本体は全然平気だ」
「ケーキの食べ過ぎが平気になってもお得感は無いなぁ。王女の成人と言う一生に一度の特別な日なんだから、こんなチャンスはもう無いだろうし」
カレンが肩を竦めると、近くに居たおばちゃんが無遠慮に話し掛けて来た。
手に大皿を持っていて、ケーキが何個も乗っている。
「レインボー姫のお兄さんのヴィンセント王子が成人した日も、同じ様にケーキ食べ放題だったのよ。だから、おばちゃんはこれで二回目なのよ」
「だから用意が良いんですね」
カレンは大皿を指差す。
良く見ると、他にも皿を持っている人は居る。
山盛りにしている人は居ないので、無料配布と言っても、無制限に取れる訳ではない様だ。
「夕方になるとお酒と串焼きに変わるわよ。こっちは子供は参加出来ないから、お嬢ちゃん達には関係ないけど」
「夕方は行くところが有るんで、どっちにしろ参加出来ませんけどね。でも、すっごい大盤振る舞いですね。私なんか田舎者だから、王子の誕生日の時は村長から家族分のクッキーが配られただけだった記憶が。それでも嬉しかったので覚えてますけど」
「まぁ、王都は物価も税金も高いからね。これくらいして還元しないと、王家の人気が下がると思ってるんじゃない?」
「ふーん」
「今の王のお子様は二人だけだから、次は王子か王女の子供が成人した時ね。早くても20年後くらい? その時は、お嬢ちゃん達も夜に参加出来るわね」
「でも、その時に王都に居ないといけないからなぁ。参加出来ると良いですよねー」
笑顔を残して次の公園を目指すカレンとネモ。
公園毎で提供されるケーキが違うので、一か所に留まらない方がお得らしい。
「予定では、正午と同時にレイが王城のバルコニーで挨拶するけど、見に行く? 記念コインとか売ってるってさ」
「王族の挨拶なんか聞いてもつまらん。祝詞を大人しく聞いてる神とか、良くやってるなぁって思うよ」
「あはは、私もそう思うよ。――レイとテルラは、その挨拶の後、王城で他国の王族や国内貴族が集まるパーティーに参加。プリシゥアも護衛でそっちに。そこにランドビークの王女が居たら呼ぶから、夕方まで待ってから王城に来いってさ」
「呼ぶって、この人込みの中で私達を探すのか? そりゃ大変だ」
「えっと、教会の鐘が三回鳴るのが合図だってさ。鐘は時報にも使われていて、午後に三回鳴る事は無いから分かるって。でも確実に鳴るだろうから、気付かなくても王城に来いって言われてる」
「ああ、たまに鐘が鳴るのは時報だったのか。まぁ、レイとの約束だったから行くさ」
普段なら午後のおやつを食べる頃、鐘が三回鳴った。
それを聞いたカレンとネモは、王城から離れない様に祝日を楽しんだ。




