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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第二十話
172/277

2

旅の準備を始めるために外に出ると、筋肉ムキムキの男性数人が正面道路を行き交っていた。

高級住宅街に似合わない光景に思わず門のところで立ち止まってしまうカレン。


「え? 誰?」


「どこかの家で工事するのかも知れないっスね。身体付きが職人か人足のそれっスし」


プリシゥアも立ち止まって言うと、テルラがハッと顔を上げた。


「ああ、工事で思い出しました。そう言えば、トキミが管理してくださっていた回覧板の控えの中に、あっちの大通りに防風目的の街路樹を植樹する計画が有るって有りました。きっとそれでしょう」


「って事は、下見か測量で仕事人がウロウロしてるんスね。余所者が増えると治安が悪くなるっスが、大丈夫っスかね」


レイがふと気付く。


「治安に不安が有ると言う事は、それを警備する派遣勇者達が居るかも知れませんね。帰りの旅費を稼ぎたいとおっしゃっていたミマルンも居るかも知れませんので、探してみましょうか」


「ミマルンに何か用が? 不死の魔物の倒し方とか、私達が知っているのは昨日の内に全部話したと思うけど」


カレンが訊くと、レイは人足が多い方を選んで歩き出す。


「王都に帰る目的は、わたくしのお誕生日会でしょう? それには国内貴族と諸外国の王族も参加される。ミマルンも王族ですので、声を掛けないのは失礼に当たりますわ」


「ふーん。王族ってそう言うのも気にしないといけないんだ。私ってば、ミマルンはもう帰るって言ってたから、もうそれで終わりって思っちゃってた。テルラも注釈付きの特殊能力を持ってないって言ってたし」


会話しながら歩くと、すぐにピンク鎧を着た派遣勇者を見付けた。


「これはこれは、レインボー姫。皆さんもお揃いで、何か問題でも?」


「ベリリム。ミマルンはどちらにいらっしゃいますの?」


レイは、これからすぐに王都に帰る理由と、ミマルンを探している理由を簡単に説明する。


「お誕生日おめでとうございます、レインボー姫。王国の騎士としておそばでお祝いしたいのですが、勇者の仕事が有りますので、この街からお祝いしましょう。――ミマルンですが、今日は商店街通りの方で警護の手伝いをしてくださっています。グラシラドとの定時連絡で手紙のやり取りをしているそうなので、郵便局に用事が有るとかで」


「そこなら旅の準備も一緒に出来ますわね。丁度良いですわ、行きましょう」


商店街通りに移動したテルラ一行は、旅人用の保存食を買い込みながら、店の人にミマルンを見なかったかと訊いた。

褐色肌の若い娘はかなり目立つので、客や通行人からも目撃証言が得られ、かなり正確な居場所の情報が手に入った。


「居ましたわ。ミマルン、ちょっとよろしいですか?」


レイは大きく手を振り、路地裏でたむろしている野良猫の群れを眺めていたミマルンの気を引いた。

テルラ達の登場で猫達は逃げて行く。


「丁度良かったです。私も皆さんに話が有ったんですよ」


「では、まずはわたくしから。もうすぐ、わたくしの18歳の誕生日なんです」


「まぁ。おめでとうございます」


「エルカノートでは18が成人なので、正式な王位継承権を受け入れるかどうかの儀式も有りますの。それには諸国の王族もいらっしゃいますので、グラシラド国のミマルン・ペペ・グラシラド姫として貴女も招待したいのです」


「私もですか? うーん、とても重要なお話なので、本国に連絡しなければなりません。でも、お誕生日がもうすぐならば、手紙だと間に合わないと思います」


テルラが話に入って来る。


「それならば、教会通信を利用なさってはいかがでしょう」


「良いのですか!?」


ミマルンの喜び様が大袈裟だったので、レイは「んん?」と喉を鳴らした。

テルラに向ける眼力の圧が違う。


「迅速な返事が必要な場面ですしね。大事な国交ですので、問題無く要求は通るでしょう」


「ありがとうございます!」


「返事は王都の大聖堂の方にお願いしたいと思います。ミマルンには、王都の大聖堂にも来て頂きたいと思います。魔物退治の方法は昨日お伝えしましたが、大聖堂なら広い地域の情報が集まっています。その情報を持ってからグラシラド国に帰る方が良いでしょう」


「重ね重ねありがとうございます!」


「で、そちらの話したい事とは?」


少し視線が冷たくなったレイが訊く。


「あ、はい。実は、ジビル・カサーラ・リビラーナ王の出国記録が見付かったんです。今日グラシラド国から届いた手紙に、その情報をレインボー姫に伝え、どう言う事か推理して頂きたいと書かれていたんです」


「ジビル・カサーラ・リビラーナ王とは、魔物の発生源になった国の王様ですわね。なぜリビラーナ王の出国記録がグラシラド国に?」


「グラシラド国が軍事国家である事はご存じですよね。周辺の小国を軍事的に征服し、その国民を奴隷として扱っています。リビラーナ国も、その小国のひとつです」


頷くテルラ。


「僕の耳に届いている噂では、他国からの侵略に反抗するために、リビラーナ王が魔物を世に放ったとなっています。僕の目にも、不死の魔物がリビラーナ王の一部である可能性が見えていました」


「その彼が出国した目的は、ランドビークの図書都市でした。そこで数冊の本を入手し、帰国の際にグラシラド国の検閲を受けています。これが持ち込んだ本のリストです」


ミマルンは懐から一枚の紙を取り出し、テルラに渡した。

仲間達は、テルラの後ろからその紙を覗く。


「……!」


カレンは目を剥いた。

並んでいるタイトルの中のひとつに、自分がランドビークの図書都市で買った本と同じタイトルが有る。

それに気付いていないテルラが声に出して読み上げる。


「タイトルで内容が分かるのは、『人体のひみつ48』『錬金術のイロハ』『錬金術の軌跡』『神様辞典』ですか」


「48って、不死の魔物の数ですわね。露骨に関係有りそうですわ」


レイが言う。

テルラも頷く。


「錬金術二冊と神様辞典は、まぁタイトル通りでしょう。残りは抽象的なタイトルで中身は分かりませんね」


ミマルンは頷く。


「それは小説らしいです。検閲で没収された物は書かれていませんが、記録は残っています。軍事関係、言ってしまえばグラシラド国への反抗に使えそうな本だったそうです」


「なるほど……。その情報は時間を掛けて考えましょう。僕達はこの後すぐに王都に向けて出発するので、ミマルンもすぐに準備してください。待ち合わせは教会にしましょう。そこで教会通信をして、そのまま出発です」


「はい!」

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