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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第二話
17/277

7

ハンター生活第一日目の目的地に着いたのは、予定を大幅に遅れた黄昏時になってしまった。

聖都の隣の街なので結構大きく、こんな時間でも通行人は多い。


「役所にハンターの仕事が有るかを聞きに行くのは明日にして、今日はもう宿を取りましょうか」


リーダーであるテルラに従い、明かりが灯った鉄製の提灯を探す少女達。

大聖堂で旅の基本知識を叩き込まれたので、世間知らずなテルラとレイでも施設の探し方を知っている。

なので、知らない街でもすんなりと宿を見付ける事が出来た。


「すいません。僕達ハンターなんですけど、宿代はいくらになりますでしょうか」


10歳の少年にそう言われた初老の店主は、値踏みする様に少年少女達をねめ付けた。


「ハンターの証を指で示してくれ」


「あ、はい」


四人は胸や首元に付けているバッジを指差したが、黒コートの少女は不機嫌そうにそっぽを向いている。


「俺はハンターの証なんか持ってないぞ」


「あ、そうでした。では、ハンター四人と、子供一人で」


「一泊?」


「はい。明日の朝まで」


「ハンターは一人2000クラゥ。子供料金は無いから大人と同じ5000クラゥ。食事は無いが、飲み水は言えばタダで出してやる。だが飲み放題ではない。それで良いなら先払いだ」


「分かりました。ええと、13000クラゥですね」


頷いたテルラは、パーティ共用の財布から紙幣を取り出して払った。

それを受け取った店主はカウンターにふたつの鍵を置く。


「確かに。一部屋三人だから、二部屋使え。二階の七番と八番だ」


「ありがとうございます。――さ、みんな行こう」


一行は、急な階段を登って二階に上がる。

その途中でプリシゥアが小声で囁く。


「宿を使ってたら、20万クラゥなんてあっと言う間に無くなっちゃいそうっスね」


「そうですね。だから僕のリュックにテントが入っているんでしょう。野宿ならタダですし」


指定された部屋の前に着いたテルラは、扉を背にして女性陣の顔を見渡した。


「一旦この部屋に入って、グレイに報酬の分配方法を説明しましょうか」


「そうですわね」


五人は七番の部屋に入った。

部屋は結構広く、入り口ドアが有る方を除く三面の壁にひとつずつベッドが有り、中心に小さなテーブルが有る。

ハンターが会議するのに丁度良い感じなので、ハンター用の部屋なんだろう。

説明するテルラとそれを受けるグレイがテーブルに着き、それ以外の少女達は一人ひとつずつベッドに座った。


「まず、さっき宿代を払った共用サイフが有りましたよね。ここみたいに全員分を払う場合は、この共用財布から出します。これはリーダーである僕が管理します」


部屋の中なのでバイコーンの帽子を取っているグレイが頷く。


「ハンターの仕事を完遂して報酬を受け取ったら、まずこの財布を満タンにします。そして、余ったら仲間全員で均等に分けます。つまり、共有財布を使う機会が少なかったら、その分個人の報酬が増えるシステムです。端数が出たら共用財布に入ります」


「ふーん。俺の船と同じだな。まぁ、一番文句が出ないやり方だわな」


「海賊もそうなんですか。ならもう理解しているでしょうけど、齟齬が有ってはいけないのでこのまま続けますね」


「金のいざこざはケンカの元だからな。続けてくれ」


「そんな訳で、仕事をしない日が長く続くと、その分分配が減ります。また、買い食いや装備の買い足し等で個人の財布が寒くなっても、特別に分配を増やす事は絶対にしません。絶対なので、そこのところは覚えておいてください」


「絶対って事は、例外は無しか? 一番働いた奴にボーナスが出たりしないのか?」


「今のところは考えていませんが、グレイがスライム召喚を行った場合、一人だけ損をする形になります。なので、その分を補填しなければなりませんよね。不公平ですから」


それを聞いたグレイは、少し考えてから首を横に振った。


「いや、それは考えなくても良い。後で補填されるとなると、代償の価値が薄くなる。つまり、スライムの寿命が短くなる。そうなると魔物を殺すのに余計な手間が掛かるかも知れない。俺の事を考えてくれるのなら、スライムに頼らず、銃の腕で勝負させて欲しい」


グレイの長銃は黒コートの下に隠してあり、人目に付かない様になっている。

今は椅子に座っているので、下半分がコートから顔を出している。

元々銃を隠せる様に作られていて、そうなる様に切れ込みが入っている。


「分かりました。ボーナス無し、特別分配も無しです。みなさんも宜しいですね?」


「異議は有りませんわ」


「了解っス」


「良いよ」


全員の頷きを確認したテルラはグレイに向き直る。


「ハンターとしての仕事が軌道に乗り、分配方法を変更した方が良いとなったら、その時にボーナスについて話し合いましょう」


「リーダーに従う」


グレイが頷く。


「報酬の分配についての話は以上です。質問は有りますか?」


「今は無い。何か有ったら、その時に訊く」


「結構です。――そしてグレイのハンターの証ですが、一旦聖都に戻って特別発行して貰った方が早いですよね。グレイも早く仕事をして分配を受け取りたいでしょうし」


「なら、この街の教会に寄って通信した方が早くないっスか?」


プリシゥアが提案する。

教会には独自のネットワークが有る。

大規模小規模に関わらず、その地域で戦争が起こった場合、教会が非戦闘員の避難所になる場合が有る。

そうなると、物資の援助を他の街に頼まなければならない状況に陥ってしまう事も有る。

しかし戦闘状態の街中や街の外を移動するのは危険なので、教会から出なくても他の街へ連絡出来る様にと、魔法を使った通信方法が確立された。

教会関係者のみに分かる隠語での信号となっているので、敵国や盗賊だけでなく、王国騎士団や役所からの盗聴も防止出来る便利な通信だ。

そのシステムが、魔物の害のせいで気軽に外出出来ない現代で有用になっている。

勿論一般人は利用出来ないが、テルラ達は女神からのお願いで不老不死の魔物を全国から探さなければならないので、特別にこの通信の私的利用が許可されている。


「そうですね。そうしましょう。グレイの銃の腕は僕達で確認済みなので、それを分かって貰えばすぐ発行されます」


「凄い遠くから細い木の枝を撃ってたもんね」


カレンの言葉を受けて胸を張るグレイ。


「ふふん。親父仕込みの狙撃術だ。揺れる船の上でも百発百中だぞ」


「それは頼もしい。では、今日はこれでお開きにしましょうか」


テルラがそう締めたが、部屋を移動しようと立ち上がったのはカレン一人だけだった。

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