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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第二話
16/277

6

パーティリーダーの指示に従い、カレンがグレイプニルの手と足を縛っていたロープを解いた。

自由の身になった海賊娘は、手首を擦りながらレイとプリシゥアから一歩だけ距離を取る。

お互いが警戒しているので空気が緊迫している。


「仲間になろうって誘っているのに縛ったままなのはおかしいですからね。でも、武器を返すのはもう少し待ってください」


警戒心を解こうと、テルラは笑顔で言う。

しかしグレイプニルは若いハンター達をきつく睨んだ。


「ハンターになるのを嫌だと言ったら?」


「結論を出すのはまだ早いですよ。まずは僕達の目的を聞いてください。僕達は、ある目的を持ってハンターになったんです」


テルラは、48体居る不老不死の魔物を退治すれば魔物の生命力が弱まり、最終的にこの世界から魔物が消える事を説明した。


「しかし魔物を退治せずに放置してしまった場合、300年後にこの世界が消えてしまうんです。僕達はそれを阻止したいんです」


「300年後? そんな未来に世界が消えるって、何で知ってるんだ?」


「それは女神様が教えてくださったからです。グレイプニルの潜在能力が見えるこの左目も、女神様から直接賜った物です」


「ふーん」


半信半疑な目付きでテルラのオッドアイを見るグレイプニル。


「ここで問題がひとつ有ります。それは、不老不死の魔物をどうやって退治するかです」


「退治出来るからハンターになったんじゃないのか?」


「残念ながら、退治の方法はまだ見付かっていません。現在は、不老不死の魔物を見付けたら目印を付けるしか手は有りません。目印を付けたら、後は王国騎士団に任せる予定になっています」


「ふーん。女神様って、そう言うところ意地が悪いよな。愛だ救済だ言ってるくせに、肝心な時に助けてくれない」


教会の跡取りである金髪の少年は、女神に対する悪口をあえて無視して話を続ける。


「しかし、グレイプニルの話を聞いて退治する方法を思い付きました。アシッドスライムです。それって酸ですよね」


「そうだ。炎のレッドスライムだとこっちの船も被害を受けるから、酸のスライムで敵の船底に穴を開けたんだ。まぁ、結果的には無意味な配慮だったけどな」


「不死身の魔物でも、酸で溶かしてしまえば退治出来るんじゃないでしょうか。生物としての形が無くなれば、いくらなんでも生きていられないと思うんです。みんなはどう思いますか?」


「素晴らしい発想ですわ。完璧ですわ」


レイは反射の様に同意した。


「ちょっとグロいっスけど、どっちみち殺すんスから、方法は何でも良いんじゃないっスかね」


「私もプリシゥアと同意見だよ」


他の二人も頷く。

それを見たグレイプニルは薄ら笑いを浮かべる。


「そっちの事情は分かった。さっき話したから俺の事情も分かってるよな? 俺は金が欲しいんだ」


「ハンターになって魔物を討伐すれば報酬が貰えますよ。強い魔物ほど報酬は高額らしいです。命懸けですが、旅人を襲うよりは儲けが多いはずです」


「それも分かる。だが、お前達はひとつ大事な事を忘れてないか?」


「何ですか?」


「スライム召喚には代償が居るんだよ。魔物を一匹溶かし切るだけのスライム、どれだけの代償が要るか。それを48回繰り返せ? バカを言うな。俺だけ丸々大損じゃないか」


「貴女こそ大事な事を忘れていませんか?」


レイが冷たい声で言う。

テルラに対する態度とは打って変わって、まるでドブ川に住む薄汚いゴミ虫を見る様な目付きになっている。


「貴女の恰好と発言が真実なら、海賊であり、野盗でもある貴女は犯罪者なんですよ? わたくしは、犯罪者である貴女の首をここで刎ねても許される立場なんです。ですが、テルラが利用価値が有ると仰るから、仕方なく目を瞑っているだけなんですよ?」


「何でだよ。ハンターは魔物を狩るのが仕事なんだろ? なのに何で俺の首を刎ねても許されるんだよ。お前は何様だよ」


「王女様だよ」


グレイプニルが小生意気な口を利くと、カレンがあっけらかんと言った。


「バカじゃないのか? 王女がこんなところでハンターなんかしてる訳ないだろ」


グレイプニルが鼻で笑うと、プリシゥアが鼻で笑い返した。


「まぁ、普通はそう思うっスよね。でも、本当なんスよ」


「わたくしが王女でなくとも、犯罪者を捕まえるのは力持つ者の義務です」


偉そうに言ったレイは、横目でテルラを見て微笑んだ。


「ですが、心優しいテルラは手打ちを許してはくださいませんでしょう。ですから首を刎ねたりはしません。その代わり、わたくし達の仲間にならないのなら、この銃は破壊させて頂きます」


プリシゥアが持っている長銃を指差すレイ。


「何でだよ」


「当然ですわ。武器が壊れれば悪事が出来なくなりますもの。――どうしますか? わたくし達の仲間になり、魔物を退治するか。大事な形見の銃を捨て、ここから逃げるか。選ぶのは貴女ですわよ」


「……お前達の仲間になれば、銃を返してくれるのか?」


「魔物と戦うには武器が必要ですから仕方ありません。返さなければならないでしょう」


「脅迫で俺を仲間にして、お前達は俺を信用出来るのか? 俺の戦い方は狙撃だぞ? 基本、後方支援だ。お前達の背中を撃つかも知れないぞ?」


「それはもっともですわね。――では、48の魔物を倒し切り、わたくしと貴女、そしてテルラの三人が生き残っていたら、貴女に私掠免許状を発行して差し上げましょう。ただし、これはこの場での口約束でしかありませんので、絶対の約束ではありません。物が物だけに、王女であっても一存では発行出来ませんから」


「し、私掠免許状だと? マジでか!?」


飛び上がって驚くグレイプニル。

しかしプリシゥアとカレンはキョトンとしている。


「しりゃくなんとかって何ですか?」


テルラがカレンの疑問に応える。


「簡単に言えば、敵国に対してなら悪い事をしてもエルカノート国はグレイプニルを捕まえませんよって言う約束です」


「へぇ。そんな物が有るんスね。でも、悪い事をしても捕まらないなんて、ちょっとズルくないっスか?」


長銃を持っているプリシゥアが腕を組んで不満を顔に出す。


「普通は戦争時に発行される物なんです。海賊が敵国の物資を奪えばこちらの有利になりますからね。ですが、魔物が出てからは人間同士で戦争している場合ではありませんでしたから、ここ数年は私掠免許状の更新は行われていないはずです。魔物が居なくなればまた戦争が起こる可能性が有りますので、今後再び許可される可能性は決して低くありません」


テルラの説明が終わるのを待ってから交渉を再開させるレイ。


「どうですか? 多少の代償なら目を瞑れる報酬ではありませんか? わざわざ後ろから撃つかもと警告してくださるお人好しの貴女なら、魔物を殲滅した英雄の一人になっても悪い様にはならないでしょう」


レイが上から目線で訊くと、グレイプニルは喉を鳴らして生唾を飲んだ。

破格の報酬に目が血走っている。


「お前が本当に王女なら、確かにそうだ。――分かった。お前達の仲間になろう。ただし、スライム召喚はここ一番でしかやらないぞ。良いな?」


「構いませんわ。構いませんわよね? テルラ」


「その様にしましょう」


「なら、銃を返してくれ」


「プリシゥア」


テルラに名前を呼ばれたプリシゥアは、念のために確認する。


「良いんスか?」


「約束でしたからね。ナイフも返してください」


「はいっス」


形見の長銃と二丁の拳銃、そして大中小の三本のナイフを返して貰ったグレイプニルは、長銃を抱いて銃身に頬擦りした。


「はー。無事で良かった」


「君はこれから一緒に戦う仲間ですから、親しみを込めてグレイと呼びますね。――よろしくお願いします、グレイ」


差し出されたテルラの右手を見た赤髪の海賊娘は、その手をじっと見詰めながら「ちょっと待って」と言った。

グレイは手慣れた手付きで小さなナイフを右の袖口に隠し、大きなナイフをコートのポケットに入れ、

中くらいのナイフをブーツの中に仕舞った。

二丁の拳銃はコートの内側に仕舞う。

銀色のリボルバーを腰に、もう片方のおもちゃみたいな水平二連銃は背中側に。

そうしてから左手で長銃を持ち、右手でテルラと握手した。


「よろしくな。ただし、報酬をケチったりしたら怒るからな」


「分かってますよ。じゃ、日が暮れる前に近くの村に行きましょうか」

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