8
三十人ほどの大所帯となった避難民達が雪道を歩く。
南下すればするほど魔物が出現する可能性が上がるので、武器を持っているレイとポツリが先頭を務めた。
ククラ王子も戦えるが狩猟用の短剣しか持ってないので、その一歩後ろを歩く。
リカチ王女とテルラとカレンが王子の後ろ、更に後ろを芸人達が列を作って続く。
街から逃げて来る人、もしくはテロリストが追い付くかも知れないので、プリシゥアと力自慢の劇場の裏方数人がしんがりを務める。
「逃げたのは良いですけど、これからどうしますの? 王族が真っ先に逃げたとなると、民意は絶望的に離れますわよ」
レイが肩越しに後ろを見ながら訊くと、リカチ王女は覚悟を決めている微笑みで応えた。
「レインボー様達が隊列を決めている間、私達は芸人達と話し合いました。私達はここに居る全員で旅芸人一座を作ろうと思います。劇場が燃やされた以上、芸人達は帰っても仕事が有りません。そんな人達を見捨てるのも、王女として失格かと。ならば出来る事をしませんと」
「旅芸人になるって事は、もう帰らないって事? それで良いの?」
「そのつもりです、カレンさん。こうして逃げた以上、どのみち落ち着くまで帰れません。一応連絡は入れますが、逃げた王女王子は要らないと言われたら、それを受け入れます。ね? 王子。いえ、ククラ」
「ああ。安易に戦争を受け入れる国はこちらから願い下げだと返します。昔からお互いに非人道的ないざこざを起こしていましたから、王族の婚姻程度で仲が良くなる訳がなかったんです。今回の戦争の結果は大方、戦犯を罰し、他の貴族が王位に就いて現状維持になるでしょう」
ククラは白い溜息を吐く。
「が、それはそれで最善でしょう。血を流した歴史が有る以上、国も人間も簡単には変わりませんからね。しかし、争いが変化を呼ぶ事も有る。現状維持と分かっていても、変化への希望が有るなら、古い血族の王子王女が消えて見せるのも手助けになるでしょう」
「お考え有っての結論でしたら、わたくしとしても良き方向に行く事を祈るしか有りませんわね」
前に向き直るレイに力強く頷いて見せるククラ。
「俺とリカチは芸を持っていませんが、経営が出来る。なので旅芸人一座の座長として取り仕切ります。そうして旅を続け、軌道に乗ったら、結婚を視野に入れようかと」
「え? 国を出たなら、もう政略結婚する意味は無いのでは?」
驚くレイ。
退屈凌ぎに耳を傾けていたポツリも興味を持って振り向くと、王子王女は揃って顔を赤くしていた。
「私と彼は、実は好き合っていたんです。政治的なお見合いではありましたが、数回お付き合いした結果、良いかもと言う事になって」
「ただ、結婚は好意だけでやる物ではないし、レインボー姫がおっしゃる通り政略結婚の意味合いが強い。だから表向きは冷静を装い、お互いの人となりを観察していた風を装っていたんです」
「ですが、これからは普通の男女と同じ関係になります。旅人ですが、ある意味同棲ですわね」
「それは素敵ですわ。応援していますわ!」
手を打って微笑むレイ。
分厚い手袋越しなのでバフンと音が鳴る。
「ありがとう。しかし今は降雪地帯を抜けるのが先決。食料がかなり少ないので、やって来るであろう馬車に助けを求めませんと」
ククラが言ったそばから、馬車がこちらに向けて走って来るのが見えた。
避難民の半数が手を大きく振って馬車を止め、ハープネット国が戦争状態に入った事を伝えた。
そして、引き返すその足に乗せて貰えないかと交渉した。