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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第十七話
150/277

7

帰る準備が整ったテルラ達はすぐに宿を引き払い、乗合小屋で馬車が来るのを待った。

普通の乗合小屋は道路に面した壁が無くて馬車の到着を目視出来たり、軽食の屋台が近くで営業していたりするのだが、ここはドアを閉められる無人の山小屋の様だった。

奥にカウンターとキッチンが有るが、客が入れない様に棒やカーテンで閉ざされている。

異常気象でなくても一年の半分が寒い北の国では他の地方の常識が通用しないのだろう。


「あ、このロッカーに毛布がいっぱい入ってるっスよ。待ち時間、寒かったら使えって事っスね」


「あったかそうだけど、こう言うところで知らない人が使った毛布に包まるのは抵抗有るなぁ」


プリシゥアとカレンが落ち着き無く小屋の中を漁っていると、ファー付きの白いフードを深く被った人がドアを開けて中を伺った。

白いコートの上に旅行用の大きなリュックを背負っている。

顔は見えないが、布を被せた大きな鎌を持っているので、プリシゥアがその正体に気付いた。


「その動き方と体格……ポツリっスか?」


唇に人差し指を当ててシーと言ったポツリは、ドアを閉めてフードを取った。

全身白いのは巫女の身分を隠しているつもりなのだろう。


「コクリ先輩は居ないよね?」


時刻表を探して、結局は見付けられなかったテルラもポツリの前に来た。


「王宮の警護をするとおっしゃっていたのでここには居ませんが、探してましたよ。僕達に説得されて帰ったと言えば罰は受けないと思いますので、大事にならない内に帰った方が良いですよ」


「色々と込み入った事情が有って、帰りたくても帰れないんだよね。まぁ、帰りたくないんだけど。みんなはなんでここに?」


「情勢が悪くなったのと、魔物退治が無くなる流れなので、帰るところです」


「そっか。退治してないのに雪が止んだのは、やっぱり神だったって事だもんね。――あ、そうだ。強いハンターとして頼みたい事が有るんだ。ちょっと待ってて」


ポツリは小屋の外に一歩出ると、何やら合図をした。

すると、ポツリと同じファー付きの白いフードを深く被った男女二人が小屋に入って来た。

二人も旅行用のリュックを背負っている。


「む、君達は……」


「あの人達が信用出来るのはご存じでしょう? ちょうど帰るところみたいだから、国を出るまでの護衛をお願いしたらどうかなって」


「なるほど」


男性の方がフードを取った。

その顔を見て驚くテルラ達。


「ククラ王子!?」


「シーッ! 見付かったら騒ぎになりますので、どうかお静かに」


そう言った女性の方もフードを取る。


「リカチ王女! これは一体……?」


目を白黒させるテルラ達を身振りで落ち着かせるククラ王子。


「細かい説明は省きますが、テロに関しては、両陣営とも一歩も引きませんでした。むしろ、率先して戦争を行い、両陣営とも武力で相手を屈服させようとする始末。王子と王女の発言には誰も耳を貸さない異常な状況になってしまった」


「私達の話を無視するのなら、いっその事姿を消そう、となったのです。私達が居なくなれば、戦争が起こっても軍か王の暴走にして処理出来るのでは、との狙いも有ります。私達のせいにされてはたまった物ではありませんもの」


ククラ王子に続いて言うリカチ王女に困惑の表情を向けるレイ。


「それはいくらなんでも有り得ない判断では……。無責任過ぎます」


「このままでは王族である私達は神輿に乗せられます。私達の意思は無視されて。そんな戦争をする国は、私達の方から捨ててやるんです。それで目が覚めれば良し。このまま争うのであれば……」


にわかに外が騒がしくなったので、リカチ王女は話を中断してドアの方を気にした。

直後、ドアが勢い良く開けられる。


「すまない! 馬車はいつ来るだろうか?」


小屋に飛び込んで来た男が切羽詰まった声を出す。

慌ててフードを被った男女二人が王族である事を気付かないくらい落ち着きが無い。


「日が高い内に来ると思いますが、どうされたんですか?」


護衛のプリシゥアに庇われているテルラが訊く。

小屋の外では結構な人数が動いている気配と雪を踏む音で混んだ大通りの様な賑やかさになっている。


「原住民が攻めて来て、劇場が有る一帯に火が放たれたんだ。戦争だよ。原住民にとってはエンターテインメントの場が一番の敵だから、戦争開始の合図にされたって話だ」


「そんな……」


よろめくリカチ王女の肩を抱いて支えるククラ王子。

かなり遠くだが、鬨の声まで聞こえて来た。


「始まってしまったのならしょうがない。馬車を待たずに逃げよう、リカチ。モタモタしていたら逃げ遅れるかも知れない」


「そうですわね……。馬車は必ず街道を通ります。街道沿いに逃げて、街に入らない様に引き返して貰った方が良いでしょう。観光客が居たら、戦禍に巻き込まれます。それは避けた方が良いですわ」


「出来れば、引き返すついでに馬車に乗せて貰いましょう。テルラ様達はどうしますか?」


「僕達も同行しましょう。馬車に引き返して貰うなら、ここで待っていても無意味ですし。ポツリさんは僕達に護衛を依頼したかった様ですが、こんな形の同行者なら依頼料も発生しませんので安心してください」


その会話を聞いていた男が話に入って来る。


「逃げるのか? なら、俺達も一緒に連れて行ってくれ。火が出た劇場からほうほうの体で逃げて来たから、旅の準備がほとんど出来ていないんだ。役者や歌手、裏方ばっかりで戦えないし、薄着の奴も居る。頼む、助けてくれ」


「薄着の人は、ここの毛布を拝借するっス。緊急時だから許されるっスよね」


プリシゥアがロッカーの中の毛布を指差すと、男が仲間を呼び、数人でその全てを運び出した。

毛布を運ぶ一団の中に、テルラにチラシをくれたあの背の高い女性も居た。

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