1
姿見で自分のシルエットを確認した銀髪の美女は、視線を頭の方に上げた。
「これは何と言いましたかしら。そう――アフロ。まるでアフロですわ」
レイは、銀髪の上に乗せている毛皮の帽子を座りの良い位置に直す。
胴体の方も通常の防寒具の上に毛皮のコートを羽織っているので、モコモコのダルマみたいだ。
「腕を上げるにも力を入れなければならず、かなり動き難いですわ。こんなに着込む必要が有るのでしょうか?」
「必要無かったら脱げば良いんです。荷物になりますが、防寒具が必要なのに無いと言う状況は命に係わりますからね。レイさんには、更にこれを」
レイに防寒マスクを差し出すコクリ・コツン。
北の国の巫女は自前の黒いコートと帽子のままだが、北の大地で作られた防寒具なので、それで十分間に合うと言う。
今利用している衣服店の商品よりもはるかに高性能らしい。
「顔が凍傷になったら、傷跡が一生残ります。王女様は人前に出るお仕事をなさりますので、最大限お気を付けて。他の方も必要とご自身で判断されたならマスクをご購入ください」
「上着はともかく、肌着まで何枚も重ねる必要って有るのかな。凄い出費になるし、暑いくらいなんだけど」
いつもは黒髪をヘアバンドで留めておでこを出しているカレンだが、今はレイと同じモコモコな帽子を深く被って頭を隠している。
他の仲間達も、全員が過剰とも言える防寒対策をしている。
「絶対に必要です。異常気象による猛烈な寒気は、皆様の想像を二回り以上厳しくした物です。南の砂漠越えなら容易に過酷さを想像出来ると思いますが、今だけはそれ以上に命の危険が有ると思ってください」
コクリ・コツンが厳しく言う。
彼女の後輩であるポツリ・ポツンも同じデザインの黒いコートに帽子姿で、
他人事の様に離れたところで商品の陳列を眺めている。
「砂漠より危ないってのは言い過ぎじゃないかって思うっスけど、そこまで言う寒さはきっと辛いんだろうなと想像出来るっスから、しょうがなく言う事を聞くっス」
亜麻色の髪のプリシゥアは僧兵で戦闘の主力なので比較的軽装を心掛けていたが、北の国の巫女にダメ出しされ、結局はみんなと同じくらいの厚着になった。
大きな帽子を被った女性陣の背丈はほぼ横並びになってしまっているので、髪と体型を隠すと誰が誰だか分からなくなる。
「準備は完了しましたか? オッケーならパーティ共用の財布で会計しますよ」
唯一の男子で一番背が低いテルラが確認すると、全員がオッケーのハンドサインを出した。
それを受けたテルラは、大きなリュックを背負ってカウンターに向かった。
着膨れした状態で歩いているパーティリーダーを見てウットリするレイ。
「ヨタヨタしていて、可愛いらしさ300%増しですわ……」
「ヨタヨタしているのは私達も同じっスけどね。寒い地域には魔物が居ないそうっスが、完全に居ない保証が無いっスから、ヨタヨタしたくないんスけどねぇ」
そんな話をしている仲間の横で、テルラと同じ荷物持ちのカレンも大きなリュックを背負う。
「これから乗合馬車乗り場へ行くんだっけ? 旅が楽で良いけど、散財し過ぎじゃないかなぁ。歩きじゃダメなの?」
「ダメではありませんが、雪国に慣れていない方達には、あらゆる意味で歩きは危険です。雪道で凍傷になったら足の指がもげますよ」
「もげ!?」
コクリ・コツンに脅されて後退ったカレン達が居る防寒具店の外では、季節外れの雪がチラチラと降っていた。
しかし地面が全てを溶かしているので、テルラ達は危機感を全く実感出来ていなかった。




