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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第二話
13/277

3

聖都の正面出入り口である巨大門の前に着いた新人ハンター四人は、門を護る担当官にハンター用の身分証の提示を求められた。


「みなさん、財布の中に木製の小札(こざね)が入っているはずです。それを取り出してください」


テルラに言われ、貰ったばかりで新品の財布を取り出すパーティメンバー達。

生誕地とフルネームが掘られ、ハンター協会の焼き印が押された木の小札が確かに入っていた。


「バッジが身分証じゃなかったんスか? 何でふたつも有るんスか?」


プリシゥアがしきりに不思議がっているので、テルラが小声で答えた。


「見える場所に着けているバッジも身分証ですが、それには名前等を掘る事が出来ません。なので、こう言った警備員が居る場所を通るには、ちゃんとした物を別に用意する必要が有るんだそうです」


「そう言う事っスか。分かったっス」


プリシゥアが納得している横で、話に聞き耳を立てていたカレンも一緒に納得していた。

彼女も実は不思議に思っていたのだ。

当然ながら小札の身分証に不備は無いので、すんなりと巨大門脇の通用門から街の外に出られる。


「こんなに小さな門が有ったんですわね」


レイの呟きに、門を開けた担当官が緊張した笑顔で頷く。


「王族の方々や大聖堂の偉い方々が通る際は正面門を開けますから、レインボー姫がこの門の事を知らないのは当然ですね。門を開けるのは大変な手間が掛かるので、普通はこちらを通ります。式典以外で門を開けるのは、大規模な商隊が通る時くらいですね」


「なるほど。――って、なんですの?」


妙な気配を感じて振り向いたレイは、自分達の後ろに10人程の大人が居る事に驚いた。

制服を着た担当官だけではなく、聖都を表す紋章が掘られた鎧を身に着けている兵士まで居る。


「レインボー・オン・エルカノート姫とテルラティア・グリプト様のお見送りです」


門番の言葉を聞いたテルラが苦笑する。


「彼等は自主的に判断し、王国民としての常識に従って動いています。――これだから聖都を出て旅をするんですよ。聖都なら情報収集はし易いでしょうけど、普通のハンターとしての活動は難しいでしょう?」


「納得しましたわ。遠出の度に大勢の人が動いていては迷惑になりますわね。門を護る方々にも、わたくし達にも」


巨大門の警護を務める大人達は、自国の姫、そして大聖堂の跡取りと言う有名人二人を見送る。

それを背にして、新人ハンター四人は綺麗に整備された道を進み始めた。


「いよいよハンター生活の始まりですわね」


レイは、腰に差した剣の柄を撫でながら感慨深く言った。

こうして仲間内だけで自由に歩いた事が無かったのでワクワクしている。


「街の外に出た事ですし、隊列を組みましょうか」


大きなリュックを背負っているテルラが言うと、カレンがすぐさま質問した。


「隊列って何ですか?」


「ここは街の外ですので、いつ魔物に襲われても不思議ではありません。――まぁ、聖都に近いこの辺りは先程見送ってくださった方達が見回っているので大丈夫ですが、それでも危険である事には変わりません」


「外、ですもんね」


「ですので、いつ戦闘になっても良い様に準備するんです。先頭は、剣士であるレイが担当してください。そして正面を警戒してください」


「分かりましたわ」


「荷物持ちである僕とカレンは、その後ろで横に並びます。そして、僕が右側を、カレンが左側を警戒します」


「残った私が後ろを警戒するんスね?」


プリシゥアが意気揚々と後ろの方に移動する。


「基本、この菱形で移動します。たった四人での陣形は不意打ちを食らわない程度の意味しか有りませんが、旅に慣れても緊張感を忘れない様に、この形を崩さないで移動しましょう」


「分かりました。……でも、その」


オデコを出しているカレンは、言い難そうに視線を泳がせている。


「どうしました? 何かが起こってからでは遅いので、気になる事が有ったらすぐに言ってください」


「そう……ですね。プリシゥアの事です」


「へ? 私っスか?」


カレンに不安そうな視線を向けられた少女僧兵が意外そうな顔になる。


「気になる物が有ると、あっちへフラフラ、こっちへフラフラ、と落ち着きが有りません。彼女に後ろを任せるのは、ちょっと不安かも……」


実際、プリシゥアがジッとしているのは眠い時と食事の時だけだ。

それ以外は基本的に歩いている。

それを知っているテルラは失礼を承知で同意する。


「確かに。プリシゥアは、僧兵になれるだけの力量が有るにも関わらず、その悪癖のせいで故郷に帰される寸前でしたからね」


「うう、耳が痛いっス」


半笑いで頭を掻くプリシゥア。

あんまり深刻そうではないので、テルラはあえて厳しめの言葉を口にする。


「もしもプリシゥアが勝手に動いていた時に魔物に襲われたら、この中の誰かが死ぬだけです。死ぬ確率が高いのは、戦闘技術に乏しい僕かカレンでしょうね」


「え? ま、まぁ、そうなるっスかね……?」


「僕が死んだら48の魔物を見付けられなくなるので、このハンターパーティはそこで終わりでしょう。世界も300年後に消滅です」


「……」


怒られていると察したのか、プリシゥアは身を縮こませ、段々と小さくなって行く。


「しかし、出発したばかりの今から最悪を考えても仕方ありません。聖都を囲む壁も見えますし、僕達以外にも通行人が居ます。まだ安全です」


周囲に視線を巡らせるテルラ。

ここは聖都へと続く道なので、観光や礼拝に訪れる人は結構多い。


「ですので、次の村に付くまでは多少なら隊列を崩しても叱ったりはしません。勿論、崩して良いと言っている訳ではありませんよ。訓練だと思って、なるべく隊列を崩さないでください。良いですね? プリシゥア」


「はいっス……」


しおらしくなったプリシゥアをしんがりにして、新人ハンター四人は菱形の陣形を保って歩き出した。

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