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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第十四話
124/277

8

真夜中だと言うのにあちこちの家で明かりが点いていて、行きより歩き易かった。

しかし右目の怪我が辛くて身体から力が抜けているので、行きより移動に時間が掛かった。


「くっそ……いってぇなぁ……」


宿にも明かりが点いていて、玄関前はかなり明るかった。

三組のハンターパーティが居て、それぞれの荷物持ち担当が大き目のランタンを持っていたからだ。


「あ、グレイっスよ!」


夜目が効くプリシゥアが、闇に溶ける色の黒コート少女に気が付いた。

戦闘装備をきっちりと着込んでいる他のハンターもグレイに目を向ける。


「ちょっと、グレイ! こんな夜中にどこに行ってましたの? 探したんですのよ!」


レイの怒りに溜息を返すグレイ。


「勝手に動いて悪かった。それより、何だ、この騒ぎは」


グレイが訊くと、テルラがランタンをグレイの方に向けた。


「海の方で爆発音がしたとかで、海賊がまた攻めて来たかも知れないからと街の人が――って、どうしたんですかグレイ! 血だらけじゃないですか!」


「ちょっとな。むぅ……血を流し過ぎたか」


めまいを起こしてよろめくグレイ。

立っていられないほどではないが、目的地に着いたのでその場に座る。


「その海賊に呼び出されたんで、ちょっと船を沈めて来た。だからもう騒がなくて良い」


「船を沈めたんですか? 一人で?」


「色々有ってこの傷を貰ったんで、代償にボムスライムを召喚してな。爆発音はそれが原因だ。――悪いが、テルラ。治癒魔法をくれないか」


「え、ええ。勿論です。傷は右目ですか? 押さえている手をどけてください」


ランタンを脇に置き、傷の具合を確かめる。

顔は勿論、黒コートの右側全体が赤く濡れそぼっている。


「大出血ですね。僕の治癒魔法だけでは足りないでしょう。プリシゥア、宿の人に病院の位置を聞いてお医者様を連れて来てください。カレンはベッドと着替えの準備を、レイは濡れタオルで血を拭いてください」


「了解っス!」


「すぐに用意しますわ!」


仲間達はリーダーの指示に従って散って行った。

その様子を見ていた他のハンターの中の一人が話し掛けて来た。


「大変なところ悪いが、海賊の船を沈めたとはどう言う事だ? それが本当なら海賊はどうなった?」


「船に乗ってた奴は全員死んだんじゃないかな。陸に残っている奴が居るかは分からん」


グレイの声に力がこもっていないので、テルラは治癒魔法を発動させながら話し掛けて来た男性ハンターに視線だけを向けた。


「すみません、大怪我なのでこれ以上は。船が沈んだのなら、今夜海賊が攻めて来る事は無いと思いますので、僕達はこれで宿に戻ります」


「そうだな。後は俺達に任せろ」


宿のベッドで医者の治療を受けたグレイは、丸一日眠り続けた。

その次の日に目覚めたグレイは、右目を覆っている包帯を撫でて溜息を吐いた。


「……痛い。なんか悪い夢を見ていた気がするが、怪我は夢じゃなかったな」


「目覚めましたか。良かった」


ベッドの横にテルラが居た。

その声に反応してレイもベッドの横に来た。


「テルラは、ずっとグレイの怪我に治癒魔法を当てていたんですのよ。感謝しなさい」


「でも、まだ顔色が悪いね。血になる物を食べないと。食べられる?」


カレンに訊かれ、自分の体調に意識を向けるグレイ。


「起きた直後だから食欲は無いが、果物くらいは腹に入れないとな。……プリシゥアは?」


それに応えるのはカレン。


「この街の役所に行って海賊退治の報酬を受け取ってるはずだよ。またフラフラと寄り道してなければ」


「そうか。リバース海賊団に報復されたとか、怪しい奴に襲われたとか、そう言うんじゃなんだな?」


「うん、そう言うのは全然無かったよ。――まずはお水を飲んで。胃の中がカラッポだから、水を入れて誤魔化しておいて。すぐに消化の良い物と果物を買って来るよ」


「ああ。ありがとう。テルラも魔法をありがとう。痛みは残ってるが、お陰で辛くない」


上半身を起こしたグレイは、カレンが差し出したコップに手を伸ばした。


「あ」


しかし目測を誤ってコップを取り損ねてしまう。

コップは床に落ち、水が零れる。


「そうか。片目だから距離感を誤ったのか。すまない。――ん? これはマズイかも?」


ハッと気付いたグレイは、慌ててベッドの上を探した。


「俺の銃は?」


「そこに」


テルラが指差したのは、壁に掛かっている黒コート。

洗濯したので血の跡は無い。

そのコートの真下に三丁の銃が置いてある。

ベッドから飛び降りたグレイは、多少よろけながらも長銃を構えた。


「どうしたんですか? まだ動いたらいけませんよ」


テルラの言葉を聞きながら長銃をそっと置いたグレイは、続いて銀色のリボルバーを構える。

居心地悪そうに首を傾げてから、力無く腕を下す。


「なぁ。この包帯、取って良いか?」


そう訊かれたテルラは、言い淀んでから、意を決して口を開く。


「気をしっかり持ってくださいね。グレイ。貴女の右目は――もう見えません」


「……そんなに悪かったのか?」


「はい。お医者様が仰るには、眼球が完全に潰れているそうです。僕の治癒魔法で復元を試みたんですが、無理でした。すみません」


「ハハ……。そうか。道理でボムスライムの威力が高かった訳だ。これだけの代償なら、そりゃそうなるよな。ハハ……」


グレイは天井を仰ぎ、納得する様に笑った。


「とりあえず今はベッドに戻り、怪我を治してください」


テルラに手を引かれたグレイは、呆けた顔でベッドに座った。

その格好のまま、カレンが買って来た温かいパン粥をすすった。

数分後、ドアが静かに開いてプリシゥアが帰って来た。


「ただいまっス。お、グレイ、起きたんスね、良かったっス。海賊退治の報酬を貰って来たっスよ。早速分配するっスか?」


「そうですね。分配しましょう」


お金大好きなグレイを元気付ける様に、テルラはすぐに計算を始めた。

食事を終えたグレイは、現金を数えるテルラの手元を見ながら皿を脇に置いた。


(ああ。もう無理に金を稼ぐ必要は無いんだなぁ。あいつ等が死んだから……チャク海賊団の復活は、もう無い)


そこに気付いたグレイは、姿勢を正してパーティリーダーに向き直った。


「テルラ。聞いてくれ」


「はい?」


「右目が潰れ、銃の命中率が実戦では使えないくらい下がった。だから、俺はもうハンターは出来ない。――パーティを、抜けさせてくれ」

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