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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第十四話
122/277

6

海賊に壊されたり燃やされたりした建物と船を撤去する音は夕方まで鳴っていた。

報酬の計算は落ち着いてから、早くても明日以降と言われたので、やる事が無いハンターはさっさと宿を取った。


「港の様子はどうでしたか? 結構な数の被害者が出たそうですが」


取った部屋に荷物を置いて一息吐いたテルラが訊いて来たので、グレイは三丁の銃に込められている銃弾のチェックをしながら応えた。


「酷いもんだったよ。まぁ、海賊の方も結構死んだから、仕返しにまた襲って来る事は当分無いだろうよ。運良くオカロ・ダインが居たお陰だな」


「確かに騎士様が居たなら心強かったでしょうね。しかし、あえて『当分』と言う言葉を使いましたよね。また襲われる可能性が有るのでしょうか」


「リバース海賊団くらい大所帯になると商船を狙うより活気の有る港を狙った方が良いんだろう。ならまた来るさ。腹いせと言わんばかりに小さな漁村を襲って物資や人員を補給してからだから、早くても数か月後だろうが」


櫛で銀髪を梳いていたレイが肩を竦める。


「海賊対策は国の防衛費次第ですから、襲われ難い貧しい漁村は後回しになるんですわ。猟師は腕っぷし自慢が多いですので、小さい海賊程度なら追い返してしまう場合も多いですし」


分かってないなレイ、と言って口の端を上げるグレイ。


「漁村出身の海賊は多い。貧しさが極限になったら、腕っぷし自慢の猟師が海賊になるんだ。猟師と海賊の二足の草鞋をやってる話も聞く。そこを襲ったら海賊同士の戦いになる。平和的に人員補充で終わる事も有る。それが分かってるから国は貧しい漁村を後回しにするんだ。猟師の海賊化回避にはアホみたいな額の金を回して援助しないといけないからな」


「そんな事はありませんわ。少なくとも我が国では……」


「全部の国で貧しい村を護ってたら、海賊団員の補充が出来ずにリバース海賊団は縮小して行くだろうさ。他の海賊団もそうなるし、俺も海賊に復帰出来ない。だが、現実は甘くない。海賊は減らず、今日みたいな戦いは今後もどこかで起こるだろうさ」


チェックを終えた銃を黒コートの下に戻すグレイ。


「さて、日が暮れる前に夕飯にするか」


「そうっスね。洗濯は明日にするっス。朝からやれば昼過ぎには乾くっスから、一気に全部やるっス」


一行は宿を出て、昼に入った食堂にもう一度入った。


「昼は途中で切り上げたっスからねぇ。もう一度同じ物を同じ頼み方で注文するっスか?」


プリシゥアがメニューを見ながらそう言った。

しかしカレンは首を傾げる。


「うーん。頼み方は同じで良いけど、同じ物を食べるのはなぁ。折角の外国の港街だから、違うのを食べたーい」


「そうですわね。わたくしも違うのが良いと思いますわ」


レイもカレンに同意する。

今回は荷物が無いので、店の中心付近に座っている。

夕飯時でもあるので、店の中を大勢の客や店員が行き来している。


「……ん?」


客の一人が通り過ぎた後、グレイが自分の赤髪を手で撫でた。

他の仲間の方を見ていたテルラはその仕種に気付かなかった。


「グレイはどう思いますか?」


「ん? ああ、色んな物を食えば良いんじゃないか? 便所が俺を呼んでるから後は任せた」


立ち上がったグレイは、女子トイレの個室に入った。

そして黒コートの襟足に挟まっている紙を取る。


『深夜日付が変わる頃、港に有った櫓に一人で来い。リバース海賊団の戦闘トップが行くので、逃げたらお前は勿論、仲間の女共もただでは済まないだろう。役立たずの元仲間も皆殺しにする』


「リバース海賊団からの呼び出しか。スカウト、じゃないだろうな。儲けが少なかったから、どうしても俺から隠し財産の事を聞き出したい、ってところか。――そんな物、本当に無いのにな。どうするかな」


あいつらは弱くないが、夜中ではカレンの能力は使えない。

戦闘のプロとガチで戦うとなると、徒手空拳のプリシゥアが高確率で死にそうだ。

テルラとレイが重要人物である事はバレていない様子なので、余計な波風を起こさない様に、グレイは大人しく呼び出しに応じる事にした。


「あいつらの緊張感の無さは俺とノリが違ってウザいが、嫌いじゃないからな。ここが俺の頑張りどころか」

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