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港の方はまだ騒がしいので、海賊はしぶとく暴れている様だ。
耳で抵抗が続いている状況を確認したテルラは、神妙な声色で黒コートの少女に一歩近付いた。
「どうします? グレイ」
「どうする、とは?」
「街を防衛するクエストをこのまま進めるとなると、海賊と戦う事になります。恐らく、グレイの仲間とも。どうしますか?」
苦悩を顔に出さずに悩んだグレイは、爺に顔を向ける。
「爺。リバース海賊団に寝返ったのはあいつらだけか? 生き残りはあと五人は居たよな?」
「お嬢に倣って陸に上がった奴等は海の知恵を使って就職しようとしたが、結局は山賊や盗賊に混ざったって聞いてる。――俺だって他の海賊になんか行くつもりは無かったが、俺達みたいな特別なスキルが無い奴は海しか無かったんだ」
「親父の海賊団はあらくればっかりだったから、まともな仕事に就ける奴は居なかった訳か。そうか……」
地面に視線を落としたグレイは、しかしすぐに顔を上げた。
「リバース海賊団に行った奴等は、もう他の海賊団のメンバーだ。元の主人が現れたから抜けさせてくれ、が通じるほどリバース海賊団は甘くないだろう」
「それはそうだが、しかしお嬢……」
「良いんだ。親父の船が沈んだ時点で、親父の海賊団は死んだんだ。こうなったのも丁度良い機会だから、俺は俺の海賊団を新たに作る。爺だって、恩が有るのは親父で、俺じゃないだろ? だから逃げろ。俺は追わない。それとも戦うか?」
先程とは違い、銀色のリボルバー拳銃を老人に向けるグレイ。
「俺は海賊撃退のクエストを受ける。船を買う元手が居るからな。そうなると爺は敵だが、ここは戦場じゃないから見逃してやる。消えろ」
「な、なら、俺もお嬢の海賊団に入れてくだせぇ。下働きでもなんでもしやすから」
「バカ。堅気の仕事が出来ねぇって言った奴がその舌で適当言うな。それに、船資金はまだ頭金にもなってない。今はまだ邪魔だ」
「しかし……俺もリバース海賊団に帰れない。行くところが無いんだ。だから……」
「リバース海賊団を退治した後、俺達はこの国を横断してエルカノート国に帰る。半月以上の歩きの旅だ。年寄りはそれに耐えられない。騒ぎが収まるまでどこかに隠れて、静かに余生を過ごせ。少ないが、これは餞別だ」
数枚の高額紙幣を持たされた老人は、捨てられた飼い犬の様に背中を丸めて小道の奥に消えて行った。
それを見送ったパーティーメンバーは、気持ちを戦闘態勢に切り替えた。
「では、わたくし達は港の方に行きましょうか」
剣の柄に手を掛けたレイに首を横に振って見せるグレイ。
「王女が海賊に攫われたらシャレにならん。大人しく後方に居ろ。荷物持ちのテルラとその護衛のプリシゥアも、今回は戦力にならん。カレンの潜在能力は役に立つだろうが、あてにしない方が良いな」
「どうして?」
カレンが訊くと、グレイは拳銃を仕舞って長銃を構えた。
「魔物相手とは違い、海賊は戦術を持って戦っている。援軍を背後から突く伏兵や、俺みたいな狙撃担当を警戒しなくてはならない。カレンは日の当たるところで棒立ちにならないとあの光線が打てないから、目立っているところを狙撃されて頭が割れたトマトになったら目も当てられない」
「割れたトマト……」
「海賊の中で育った俺が一人で動けば、そう言う奴等を殺せる。って事で、一人で行って来る。お前達は怪我人の保護でもしてろ。それも必要な仕事だ」
グレイは返事を待たず、軽い身のこなしで小道の陰に消えた。




