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宿屋付近に有った大きめの食堂に入ったテルラ一行は、荷物が邪魔にならない様に壁際の席を取った。
そしてメニューを開く。
「海辺の街なので、やはり魚料理がメインですね」
テルラは淡々と、カレンは上機嫌でページを捲って行く。
文字が読めない人向けに料理の絵が描かれていている。
「揚げ物蒸し物焼き物……。みんな美味しそうだなー。どれにしようかなー」
「海の魚は久しぶりだから、俺も魚にしようかな」
いつもは真っ先に肉料理に決めるグレイも、珍しくメニューを睨んで悩んでいる。
そんな仲間の様子に気付いたレイが思い付き、提案する。
「そうだ。全員が魚料理を頼むのなら、いっその事全員で違うのを頼みませんか? そうして全員で全部の皿をつつきますの。少々お行儀は悪いですが、色んな味を楽しめますわ。どうでしょう、テルラ」
「それは良いアイデアですね。そうしましょうか」
メンバーからの反対が出なかったので、テルラが店員を呼んでこの街を代表する料理とスープを五種類ずつ頼んだ。
その横でプリシゥアがメニューを一纏めにしてテーブルの端に片付ける。
「食い足りなかったら美味しかった物を追加注文すれば良いっスね。これは結構良いやり方かも知れないっス」
「好評で嬉しいですわ。――テルラと同じ皿をつつけるこの案は、もっと早く気付くべきでしたわ……うふふ」
たくらみ顔で笑んでいるレイに呆れたグレイだったが、ふと思い出してテーブルに肘を突いた。
「ちょっと訊きたかった事が有るんだが、良いか? レイ」
「なんですの?」
「騎士と兵士の違いって何だ? 勇者とハンターみたいに、役割が違う同じ職業って感じで良いのか?」
「そう聞かれると難しいですわね。魔物相手のハンターと違って昔から有る役職ですから、深く考えずにそう言う物と受け取っていましたので。でも、国境軍だけを見れば役割が違う同じ職業に感じるのも仕方が有りませんわね。どちらもやる事は人間相手の戦争ですし」
白いテーブルクロスに視線を落とし、どう説明した物かと考えるレイ。
テルラとプリシゥアは専門外の事なので黙っている。
「誤解を気にせずにザックリと言えば、グレイの言う通り役割が違う同じ職業ですわね。騎士は貴族の家に仕え、兵士は国に仕えていますから、街に所属する勇者と自由なハンターとはちょっと違いますけど」
「ふむ。報酬が出るところが国か貴族かで違うって事か。で、ハンターと勇者はどっちも役所から報酬が出る、と」
「更に言うなら、騎士は貴族の次男以下の者がほとんどで、家の力関係に活動が制限されています。兵士は平民がほとんどで、権力的なしがらみとは無縁ですわね。ただし、兵士は上からの命令には絶対服従と聞きますので、個人の意思は活動に反映されません。自由が無いのは両方同じですが、意味合いが違いますね」
「ふーん。大人の事情であれやこれやになって、結局は違うもんになってるって感じか。いや、身分で所属が区別されてるだけかな。――多分正しく理解出来ていないが、取り敢えず疑問は晴れた。ありがとう」
「どういたしまして」
話している間に料理が並んだ。
今回は区別無く全部の皿をつつくので、テルラとレイの食前の祈りが終わるのを待ってから、全員同時に食事を始めた。
「うん、旨い。魚なんか食い飽きたと思っていたが、久しぶりとなると笑えるくらい旨いな」
満足気に舌鼓を打ったグレイは、乱雑な音を立てて店に入って来た六人の男を見て目を剥いた。
「お前達!」
大声を上げて立ち上がるグレイに顔を向けた男達も驚いた。
「お嬢! お嬢じゃないですか! なんでこんなところに!?」
「俺は縁有ってハンターで稼いでるんだ。こいつらが仲間さ。お前達は?」
テーブルから離れ、男達の方に行くグレイ。
服の上からでも良い筋肉を持っていると分かる男達の方は、10歳程度の少女から気まずそうに目を逸らしている。
「俺達は……すまねぇ、急いでいるんでこれで」
「お、おう。頑張れよ」
急いで店を出て行く男達を見送ったグレイは、不思議そうに首を捻りながら元の席に戻った。
「何も食わずに出て行ったが、あいつら何しに来たんだ?」
「あの方達はグレイの知り合いですか?」
「あいつらは――」
グレイがテルラの質問に応えようとすると、一人の男が食堂に飛び込んで来た。
勢いが良かったので、店の中に居る全員が彼に注目した。
「ハンターは居るか?」
「はい、ハンターですが」
テルラが手を挙げる。
他にも二組のハンターパーティが居た。
それ以外の客は観光客か商人だろう。
「助けてくれ! 緊急クエストだ! 今、この街は海賊に襲われている! あいつらを追い払ってくれ!」
「……海賊、だと?」
眉間に皺を寄せて固まっているグレイを、仲間達は物言いたそうに見詰めていた。




