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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
第一話
10/277

9

「テルラ様! ――あら? 騒ぎは収まりましたの?」


銀の鎧にラベンダー色のロングスカート姿になったレインボーが広場に戻って来た。

騒いでいた人々は、大聖堂関係者の解散指示に従って帰り支度を始めている。

折角聖都に来たのだからと意地汚く酒や料理を抓んでいる者も居るが、満腹になれば大人しく退散するだろう。


「はい。このカレンのお陰で」


「えへへ。私、何だか凄い事をしちゃいました」


テルラティアに紹介されたおでこ丸出しの村娘は、照れ臭そうに会釈する。


「テルラ様に何か有ったら一大事と思い、急いでハンター装束に着替えて来ましたのに。今持っている剣は儀礼用に刃引きされていますし、この恰好ならわたくしに何が有っても一人のハンターとして処理されますし。――まぁ、何事もなくて良かったですわ」


王城の宝物庫から持ち出したのだろう、派手な装飾のバスタードソードを腰に戻すレインボー。

そんなレインボーに礼を言ったテルラティアは、村娘に向き直る。


「カレン。もし良かったら、僕達とハンターをやってみませんか?」


「ハンター……ですか? 魔物を倒す、あのハンター? 私が?」


「そうです。さっきの君の光線で魔物の攻撃力を奪えば、僕達は安全に戦える。絶対に負ける事が無い。僕が作る魔物退治のパーティには、君の力が必要なんです」


「私の力が、必要……?」


テルラティアの言葉を噛み締める様に繰り返しているカレンの前に割り込んで来るレインボー。


「わたくしは? わたくしは必要ですか?」


「そうですね。カレンが魔物の攻撃力を奪い、レインボー姫が止めを刺す。カレンの潜在能力が使える昼間なら無敵でしょう。しかし、レインボー様。生き物を剣で切り殺せますか? 相手は魔物ですが、殺生を行うには相当な覚悟が必要になると聞きます」


テルラティアは表情を引き締めて訊いたが、レインボーは朗らかに応えた。


「生き物を切り殺した経験はございませんが、テルラ様の為なら何でもやって見せますわ。王女の身分を捨てろと仰るのなら、迷い無く捨ててご覧に入れましょう」


「例え話の内容はともかく、レインボー姫の覚悟は分かりました。レインボー姫の力も、凄く必要です。僕には戦う力は有りませんから」


「テルラ様、ありがとうござグフゥッ!?」


愛する人に必要とされて感動したレインボーは、テルラに抱き付こうとした。

そんなレインボーの腹に、落ち着き無くウロチョロしていたプリシゥアの拳がめり込む。


「な”に”を”な”さ”い”ま”す”の”……」


レインボーの腹部は銀色の鎧に守られているのに、銀髪の姫は苦しそうにうめきながらうずくまった。

鎧の防御力を貫通する勢いで殴られた様だ。

武装していなかったらとんでもない事になっていただろう。


「あいたぁー……手が、手がぁ~~」


鎧を殴ったプリシゥアも、右手を痙攣させてうずくまる。

その左手には精進料理が乗った皿が有る。


「も、申し訳ないっス、姫様……。料理が余ってたんで警護しながら食べようと思ったら、足が滑って転んじゃったんスよぉ~」


教会側の護衛役である僧兵少女が起こした予期せぬ事態に一瞬だけ固まっていた姫の護衛役である騎士達が駆け寄って来ようとしたので、テルラティアは手を振ってそれを制した。

大事になったらプリシゥアが牢に入れられてしまい、不要に時間を浪費してしまう。


「これは、警護対象を完璧に守ると言うプリシゥアの潜在能力が働いたんだと思います。武装したレインボー姫が不用意に近付いたから発動したんですね。やっぱり、プリシゥアの潜在能力は本人が意識しなくても発動するみたいです」


「ハァ、ハァ……な、なるほど。護衛としては、頼もしい限りですわね……ハァハァ。良いですわ。この芯を捉えた一撃……未知の体験ですわ。プリシゥアと一緒にハンターをするのが楽しみになって来ましたわ……」


苦しそうに声を絞り出しているレインボーは、頬が上気して呼吸が荒くなっている。

とても辛そうだ。


「レインボー姫。プリシゥアの狼藉をお許しください。辛いなら医務室に行きましょう」


テルラティアに謝られたレインボーは、赤らんだ顔で笑んだ。


「この恰好のわたくしはハンターですので、勿論許しますわ。ウフフウフフ……。治療も、必要ではありませんわ……。テルラ様も一緒だなんて、素敵な環境ですわ……」


苦しそうにも嬉しそうにも見える自国の姫を見ていたカレンは、思わず吹き出した。


「何だか楽しそうですね。私なんかで宜しければ、ぜひ仲間に入れてください。私としても、丁度仕事が欲しかったですし」


「どうしてっスか? 見たところ着ている物も粗末じゃないし、仕事に困ってる風には見えないっスが」


立ち直ったプリシゥアが、自分の拳に息を吹き掛けながら訊く。

思いっきり鎧を殴ったのに、怪我や骨折はしていない様だ。

彼女が強いと言う話が事実である証拠だろう。


「いやー。自分で言うのも何なんですが、私って村では一番か二番目くらいの美人らしいんですね。スタイルも悪くないらしいですし、村長の二女ですし。結構なお嬢様なんですよ。ま、田舎の狭い世間の中でですけどね」


頭を掻き、照れながら続けるカレン。


「なんで、村を護る勇者に愛人になれって言われちゃったんですよ。妻なら考えますが、愛人はちょっと無理なんで」


「当然ですわ。そんな物、断って当然ですわ!」


やっと痛みが和らいだのか、レインボーが立ち上がる。

頬の上気は取れていないが、呼吸の乱れは治まっている。

内臓に深刻なダメージが残っていたりはしていない様だ。


「でも、村を守ってくれている勇者様の機嫌を損ねて村を出て行かれたら死活問題ですし、本当に困っていたんですよ。で、返事をせかされている時にこの招集が有ったので、これ幸いと逃げて来たって訳です。そんなのは一時凌ぎだって分かっていたから諦め掛けていたんですけどね」


「地方の村ではそんな事が行われているんですか……」


深刻そうに俯くテルラティア。


「他の村がどうかは知りませんけどね。まぁ、実際にウチで有るんですから、他でも似た様な事があったりするかも知れませんね」


「早く魔物を退治しないといけませんね」


テルラティアの決意の表情に同意して頷くレインボーとプリシゥア。


「そんな訳で、仕事が貰えて嬉しいって訳です。私には凄い能力が有るみたいですし、ぜひ活用したいです」


「ありがとう。では、僕を含めたこの4人は、今からハンターとなってパーティを組みます。命を預け合う仲間なので、ハンターとしての活動中は身分の上下は無しです。宜しいですか?」


「はい。わたくし達は仲間です」


レインボーが右手を差し出したので、テルラティアは笑顔で握手をした。


「仲間なら、呼び捨てでも良いっスか? いちいち様を付けるのは他人行儀っスから」


プリシゥアは、握手している手に右手を乗せた。

カレンもその上に右手を乗せる。


「では、改めて自己紹介をしましょうか。僕はテルラティア。テルラとお呼びください」


「わたくしはレインボーですわ。テルラ様に倣って、レイとお呼びください」


「私はカレン。よろしくね」


「私はプリシゥアっス! 私の名前を短縮されるのは嫌なんで、しないで欲しいっス」


全員が全員の手の温もりを感じ、名乗った事で、ハンターパーティ結成の誓いとした。



「ちなみに、プリシゥアの名前を短くするとどうなるの?」


プリシゥアは、黒髪のおでこ娘の耳元で他の人に聞こえない様に小声で応える。


「親はプシゥって呼んでたっス。プシゥって力が抜ける音が気に入らないんで、親以外にふざけて呼ばれたらぶん殴る事にしてるっス。気を付けてくださいっスよ、カレン」


「うん、分かった」

第一話・完

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