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さればこそ無敵のルーメン  作者: 宗園やや
プロローグ
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プロローグ

その庭は、まるで天上の楽園として描かれた絵画の様な場所だった。

開けていて視界を遮る物は無いが、遠くの風景が白くけぶっていて空間の広さが全く測れない。

その中心で、二人の美しい女性が芝生に座っていた。

ゆったりとしたローブの様な物を着ていて、それぞれが緑色の地面を凝視している。

芝生の本数を数えているかの様に、深刻な表情のまま微動だにしない。


「ティングミア様。オグビア様。神の国から天使様がいらっしゃいました」


突然現れたメイドが告げると、座っていた女性の片方が顔を上げた。

もう片方の女性が全く反応していない様子を見て溜息を吐いた後、メイドに向かって頷く。


「お通しして」


「畏まりました」


メイドは深く頭を下げた後、霞となって掻き消えた。


「ホラ、お姉様。立ちましょう。天使様に失礼が有ってはなりません」


女性は立ち上がり、未だに微動だにしない女性に向かって手を差し伸べた。


「……そうですね」


妹の手を取った姉は、無理に笑顔を作って立ち上がった。

そして二人並んで来訪者の到着を待った。


「天使です」


背中に白い羽を生やした性別不明の存在は、現れるなりそう名乗った。

二人の女性は恭しく膝を折り、頭を垂れる。


「女神ティングミア様」


「はい」


天使に名前を呼ばれた姉は、真っ青な顔色で返事をした。


「貴女が軽率に起こした奇跡により、世界ティングミアは多量の毒を垂れ流し始めました。これを神の国は罪と判断しました。よって、天使が神の代理として神の決定を伝えます」


「はい」


「この決定は、太陽神スペクトル、世界神マテリアル、月読カノコユリ、の三柱による多数決で決められました。結果。三柱全員が有罪であると判断しました。よって、以後の女神ティングミア様の発言は神としての効力を持ちません。宜しいですね?」


「はい」


「しかし、該当の奇跡は世界神マテリアルの『強く願った者の願いを叶える』と言う行動原理に則った物であるため、世界神マテリアルが減刑を望まれました。その望みを太陽神スペクトルと月読カノコユリが受け入れ、減刑されました。刑期の決定に時間が掛かったのは、このやりとりが発生したからです」


「減刑……。では、この世界が今すぐ消滅する事は無いのですね?」


青い顔を上げた女神ティングミアは、天使の表情を見上げた。

天使は無表情で口だけを動かす。


「ありません」


安堵の溜息を吐く女神ティングミア。


「女神ティングミア様に課せられる刑は、『毒気除去の刑』となります。貴女の世界が垂れ流す毒を、世界の外で、自らの手で浄化なさい。刑期は300年。勤めなさい」


「謹んでお請け申し上げます」


女神ティングミアは、膝を折ったまま深く頭を下げた。


「妹、女神オグビア様。貴女は姉の代わりに世界の調律を担当なさい。そして、世界ティングミアからの毒の流出を一刻も早く止めなさい」


姉の隣で膝を折っていた妹が顔を上げる。


「はい。この世界の為にも、神の国の為にも、必ず毒の流出を止めます」


「女神オグビア様が事前に申請されていたみっつの特例の内、『人間の前に顕現する』と『人間の潜在能力の開放』は認められました。しかし、『異世界の勇者を召喚』は認められませんでした。世界の内側のみで解決してください」


「畏まりました」


「毒の影響で世界に歪みが生じ、『異世界の勇者の召喚』が偶然起こった場合は、神の力で導き、元の世界に戻してください。その過程でなら異世界者の力を利用する事は許されますが、度が過ぎると罰が与えられます」


「はい」


「毒の流出が常態化してしまっている為、制限時間が設定されました。それは姉の刑期と同じく、300年となります。それ以上の毒は世界樹に重大な影響を与えますので、300年を超えても解決しなかった場合、この世界は消滅となります」


天使は書類を読み上げる様に淡々と続ける。


「また、毒の除去が300年より早く終わった場合、女神ティングミア様は他の世界から出る毒の除去行為が許可されます。その場合は恩赦により刑期が短縮されます。励みなさい」


「寛大な処置に感謝します」


二人の女神が深く首を垂れる。


「以上です。女神ティングミア様、立ちなさい」


「はい」


立ち上がった姉に近寄った天使は、その細い首にアクセサリーにも見える首輪を付けた。


「300年で外れる罪人の首輪です。勿論、恩赦による減刑に対応しています。では、世界の外に参りましょう」


「はい。――オグビア、後を頼みましたよ」


「はい、お姉様」


姉と天使は、二人同時に霞となって消えた。

一人残った女神オグビアは、ゆっくりと立ち上がった。


「『人間の前に顕現する』のは一瞬で済ませるから問題無いけど、『人間の潜在能力の開放』は良く考えないと争いの火種になるわね。でも、早くお姉様に帰って来て頂きたいから強力にしないと意味が無い。さて、どうしようかしら」


ゆったりとしたローブの様な物を着ている妹女神は、直立不動での長考に入った。

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