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血脈を継ぐもの  作者: pico
1 時の魔女
8/22

トゥリア


「わたしとリスの話を、ツキヒから聞いてないっていうの?」

思いもかけないことを言われて、セイエイも戸惑う。

「・・・先ほどのリスのことですか?」

「そうよ。何も知らずに、リスが私のものだと気づいたっていうの?」

「この森の中で、野生とは思えない動きをする獣が、貴方様と無関係とは思えず・・・・術の気配も、ございましたし・・・」

セイエイの答えを聞くうちに、時の方の顔が驚愕の色を濃くするのに気づき、セイエイも困惑を深くした。




「・・・驚いた」

しばらくセイエイを黙って見つめていた時の方が、ぽつりとつぶやく。

その直後、興奮したように言葉がこぼれ出した。

「あのリスに気づいたのはあなたが初めてよ。驚いたわ。術だなんてそんなたいそうなこと、何もしてないもの。あの忌々しい二人だって気づいてなかったでしょ。あなた、適性は何? ツキヒと同じ闇なの? それで気づいたの?」

その勢いに、セイエイは気圧されながら、答える。

「・・・適性は、雷、です」

「まあ! ちょと何かやってみせてよ。みたいわ!いいでしょ?」



最初の落ち着いた雰囲気も、激怒した凍てつく気配も、今は微塵も無い。時の方は少女のように無邪気な表情で迫ってくる。

その様子は、シャルナを思い起こさせ、セイエイは知らず小さく笑みを浮かべた。

そして、セイエイは考える。

落雷を見せても喜びはしないだろう。そもそも森を傷めるものはだめだ。里で教わった術は実用的なものばかりで、見て楽しむものではない。

そう、この方に見せるのは、何か美しいものがいい。

ふとシャルナの滝で見た、水しぶきに浮かぶ虹が思い浮かんだ。

少しの水を風で散らして水しぶきを作り出せば、この日差しの中なら虹が見えるはず。さらに火花を散らせば綺麗だろう。

「少し離れていただけますか?」

期待に満ちた様子で、時の方が距離をとった。

水筒を取り出して、水を宙に撒くと同時に、つむじ風を起こして細かい飛沫にしながら、火花を散らす。

ほんの数秒のことだが、期待通りに虹色の光が踊り、キラキラと火花はきらめいた。

「あっ!」

時の方が思わずといった様子で声をあげた。

「・・とても、きれい」

満面の笑みを向けられ、セイエイは安堵した。

「時の方にお気に召していただけたなら、よかったです」

「ええ!気に入ったわ。・・・私はトゥリアよ。そう呼んで」

「・・トゥリア様」

「様はいらないわ。友達になりましょ」

セイエイは目を瞬いた。驚いている間にも、時の方・・トゥリアは思案し、尋ねた。

「お礼に私も何か・・・・。セイエイ、あなた何かして欲しいことはあるの?」

セイエイはしばらく黙り込んだ。



あの凍てつくほどの怒り。イオンの望んだようにそれを解いてもらうのは、今頼んだところで難しいだろう。

イオンは、予言の件を尋ねるようには言わなかった。

だが、自分のこれからに関係することならば知っておきたかった。

「ご気分を害することにならなければいいのですが・・・」

セイエイは思い切って口にする。今尋ねなければ、きっともう機会は訪れない。

イオンからの言いつけも思い出し、言葉を選ぶ。

「以前、獅子王に予言をなさったと聞いています。私はその内容は存じません。ですが、それは私にどう関係するか教えていただくことはできますか」

今度は、トゥリアが目を瞬かせた。

無邪気な少女の顔が、年月を重ねた思慮深い表情に塗り替わる。

「・・・・あぁそうだったわね、あなたはあの王の息子でもあるのよね。・・・・いいわ、貴方の未来を見てあげる。でも、見えたものを伝えるかは約束できないわ」




まっすぐに立ったトゥリアが、凛とした顔で宙をじっと見つめる。

森の音が消え、空間が切り離されたように静まり返った。

そうして、何かを見たトゥリアが、そんな・・と呟き、よろめく。

セイエイは、その身を支えようと思わず手を伸ばす。

トゥリアの体にセイエイの指先が触れたとたん、トゥリアが見ているものが、セイエイにも見えた。

それは、血の赤に染まった自分だった。




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