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血脈を継ぐもの  作者: pico
1 時の魔女
7/22

時の方

お久しぶりです。

セイエイはじっと待っていたリスの方へ進む。

ウケイが茂みがあると手を伸ばしていたあたりを通った時、違和感があり、イオンとウケイの気配が消えた。

振り返って見ると、どういう術なのか、森の別の場所に移動したようだった。

戻るな!というように、キィっとリスが警戒の声を発し、セイエイは向き直る。

「不思議に思っただけです。行きましょう」

俊敏なリスの動きに、半ば小走りで着いて行けば、間もなく開けた場所に出た。



森の中にぽっかりとひらけたその場所には、明るい日差しがキラキラと降り注いでいた。

可憐な花の咲く草むらに座り込んだ女性の周りで、小鳥やリスが戯れている。

セイエイを先導していたリスが、さっと女性の元に駆け寄り、膝に前足を乗せた。

「お疲れさま」

落ち着いたメゾソプラノの声が答える。差し出された木の実をくわえると、リスはあっという間に仲間の元へ混じった。

不用意に近づけば、リスや小鳥を脅かしてしまいそうで、セイエイはその場に止まる。

女性がこちらを振り向いて首をかしげると、豊かな栗色の髪が柔らかく流れた。

「もっとこっちにきたら?」

こちらを見つめる瞳は、まるで森の色を閉じ込めたような神秘的なアースアイ。

それが今は、子どものような好奇心できらめいている。

セイエイはその場に膝をついて、頭を垂れた。許可を得たと感じ、口上を述べる。

「影一族、ツキヒが子、セイエイと申します」

「顔を見せて」

促されるまま顔をあげると、女性・・・時の方はどこか懐かしむような表情を浮かべていた。

この表情を知っている。

ツキヒと親しかった者は、セイエイを見ると、揃ってこの表情を浮かべる。その度に、セイエイはいかに自分の容姿が母に似ているかを再確認する。

ツキヒはセイエイに、自身のことをほとんど語らなかったし、感情もほとんど見せなかった。

「正妃の御子にお仕えする」ために。そのための心構え、学ぶこと、身を律すること、そういったことしか聞いたことがないような気さえする。セイエイにとって、ツキヒは母である以前に、師だとか先達といった印象がある。

だから、ツキヒを一人の女性として知っている者の、こういう表情に出会うと、ひどく居心地が悪かった。

時の方は、セイエイの戸惑いを察したように、苦笑した。

「それで、どうしてこの森へ?」

用件を確認する問いに、セイエイは先ほどよりも、もっと低く頭を下げる。

「影一族が長イオンより伝言を預かっております。イオンは森に対する行いを悔いています、どうか我が一族の過ちをご寛恕かんじょください、と願っておりました」

温かなひだまりが突然吹雪の夜になったように、急激に気配が変わった。

黙って頭を下げ続けるセイエイに、硬い声が問う。

「それは、“キミ”の用件じゃないよね?」

「いいえ、それだけしかいいつかっておりません」

強い視線を感じたが、セイエイは頭を下げ続けた。

やがて、小さなため息がきこえ、頭を上げるよううながされる。

刺すような感情は消えていたが、冷ややかな気配で、時の方はセイエイを見つめていた。

「ツキヒは元気?」

「・・・息災だと思います」

すぐに返答できなかったのは仕方のないことだった。

「・・・思う? どういうこと?」

咎めるような声音に、言葉を選びながら答える。

「母とは7年前に王都で別れて以来会っておりません。叔父からは何も聞いておりませんので、息災だと思います」

時の方は眉根を寄せた。

「わからないわ。会ってなくても、手紙のやり取りぐらいするでしょう?」

「いえ、母と手紙を交わしたことはございません」

一緒に暮らしていた時でさえ、”御子にお仕えする”ための指導のようなやり取りしかなかったのだ。ウケイの管理下で修行中の自分に、連絡などくるはずもない。

セイエイ自身が修行の様子を報告するよう求められたことはなく、必要ならウケイがしているのだろう。

そのことになんの思い入れもなかったのだが。

「手紙も禁じるなんて!」

時の方が憤慨するのを見て、誤解されたことに気づく。

一族を許してもらうために来たのに、ほかのことで怒らせていてはいけない。

「いえ、禁じられてはおりません」

セイエイは目を伏せた。ツキヒと親しかった者ほど、ツキヒによく似た容姿の自分が、ツキヒのことをほとんど知らないことに驚くのを忘れていた。あの懐かしむ表情、時の方はツキヒの近況が聞きたくて自分を呼んだのだと思い至る。

「ただ、母と私は交流がないだけなのです。・・・ですから母のことでお話できることはございません」

「そんなはずないわ。だって、リスのこと知っていたわ。・・・ツキヒから聞いたんでしょう?」

思いもかけないことを言われて、セイエイも戸惑う。

「リス?・・先ほどのリスですか? この森の中で、野生とは思えない動きをする獣が、貴方様と無関係とは思えず・・・・術の気配も、ございましたし・・・」

セイエイの答えを聞くうちに、時の方の顔が驚愕の色を濃くするのに気づき、セイエイも困惑を深くした。









ありがとうございました。


続きは近いうちに。

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