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血脈を継ぐもの  作者: pico
1 時の魔女
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時の森

ちょっとだけ物語はすすみます。でもやっぱり少し説明が入りました。

森の奥には、時の魔女が人から隠れてひっそりと暮らしている。

時を操り、過去も未来も見通し、はるか昔から生きている、不老不死の時の魔女。

求められれば予言を与える、予言の魔女。

出会ったものの運命を告げる、運命の託宣を与える者。

そんな逸話だけが一人歩きし、どこまでが真実かわからない。

世間ではおとぎ話のように思われて、時の魔女が本当にいることを知る者は少ない。


実際の彼女は、森の奥の庵で過ごしてばかりいるのではなく、森の傍の集落にも家を持っている。

「魔女」などと呼ばれることは好まないし、予言や託宣のようなものをすることもほとんどない。

近くにいる者からは、深く広い知識からほんの少し助言をしてくれることもある、そんな存在として尊重されている。

集落は、逸話に釣られた余所者が彼女をわずらわせることのないよう、彼女を守ってもいるのだった。


その森の傍の集落に、影の一行は到着した。

影の一族は、その集落と交流がある。一行の到着を出迎えた集落のまとめ役は、ウケイの顔を見ると、自らの家に招き入れた。

まとめ役は、用向きを聞くと、困ったように首を振った。

時の魔女は森の奥の庵にこもっているという。

時折、彼女は森の奥の庵にひきこもってしまう。招かれざる客が来ることを事前に知っているかのように、

歓迎されるとは思っていないとイオンはいい、用意した贈り物を集落に預けて、随伴の者たちも集落に待機するよう指示を下すと、ウケイとセイエイだけを伴って森に踏み込んだ。


小半刻ほど歩いて、ある木のところで、ウケイが立ち止まってため息をついた。

「兄者。やっぱり戻ってる。時の方は会ってくださらないつもりらしいな。どうする?」

「お前がいれば、話だけでも聞いていただけるか、少なくともたどり着けると考えていたんだがな」

「無茶言わないでくれ。あの方と親しくさせていただいていたのはツキヒで、俺じゃないし、俺の風があの方にかなうわけないだろ」

「それが一族屈指の風使いの言うことか?・・・・・とにかく少し休憩にしよう」


影の長は寡黙で厳格な人柄で知られているが、ウケイと話すイオンは口数も増え、親しげであった。

黙って従っていたセイエイは、その様子に背を押されたように、口を開いた。

「我々の何が、時の方のお気に召さないのでしょうか」

その質問に、イオンは奇妙なものを見るようにセイエイをみる。

「予言内容だけじゃなく、その辺の事情も聞かせてなかったかもな」

ウケイのあっけらかんとした言葉に、イオンは嘆息した。

「いい機会だ、少し話そう。ウケイには周囲の警戒を任せる」


話をざっくりまとめるとこんなものだ。

獅子王が正妃との婚約にこぎつけた頃の話だ。

獅子王の一行が魔物に遭遇し、討ち漏らした何体かが森に逃げ込んだ。

獅子王は森に火を放ち、炙り出された魔物を仕留めたものの、火は燃え広がり、時の方が愛でる場所にまで被害は及んだ。

その夜、時の方が野営地に現れて獅子王を弾劾したが、獅子王も折れず、討伐してやったのを感謝しろと嘲笑う。その態度に激怒した時の方は、不吉な予言を告げた。

その場には、イオンもいた。

当時の一行が少数で、急ぎ帰国する途上だったことなど、乱暴な手段をとった理由はある。

だが何としても止めるべきだったと、今ではイオンも後悔している。

影の一族は、後になってから、かなり労力を割いて森の回復に努め、時の方へ謝罪したが、時の方は影の里との少しの交流のほかは、関係を絶ってしまった。

特に、一行に同行していたイオンには顔も見せない。


お怒りは未だ深いらしい、とイオンは何度目かのため息をついた。

イオンが同行していれば避けられる可能性は予想していた。

だが、イオンは影の一族の意思を決める長だ。

王の血脈を守るために、何を為し何を切り捨てるか、自らの目と耳で見極めるつもりだ。

「その予言の内容については教えていただけないのですか」

セイエイは尋ねる。そのまっすぐな視線を受け止めながら、イオンはかぶりを振った。

「時の方がお前に告げるのは止められぬ。だが、できれば何も知らないままのお前の行く末を知りたいのだ」

イオンは予言を知る面々を思い浮かべた。

その時の一行は少数で、時間も夜半のこと。獅子王の側で予言を聞いたものは少ない。

内容を伝える相手も、国の中枢を担う宰相や、獅子王に万が一があった時に王位継承の可能性がある王弟など、最低限に留めた。

国を揺るがしかねない事件を予言した内容に、この甥がどう関わるのか。

と、先ほどまでこちらをじっと見つめていたセイエイが、別の方向へ視線を向けているのにイオンは気づく。

「どうした?」

「視線を感じます」

その返事に、イオンは表情を険しくし、ウケイも得物に手をかけ視線の先を睨みつけた。

「ウケイ?」

「わからん」

視線を外さぬまま、低くウケイは答える。今も何かがいるようには見えない。

「・・・あ」

思わずといった声をあげたセイエイが、ぐるりと周囲を見まわし、また違う方向に手を差し伸べ、ささやくように告げる。

「姿を見せて」

声に応えるように姿を見せたのは、森でよくみかける灰色のリスだった。




次話は近いうちにアップできるように努力します。

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