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血脈を継ぐもの  作者: pico
1 時の魔女
3/22

出立

遅くなりました。ほとんど説明回になります。

身支度を整え、館の前庭に行く。館の者たちが忙しなげに立ち働く合間を抜け、ウケイに近づく。

「伯父上」

セイエイが声をかけると、ウケイは破顔した。

「きたか、セイ! 昨日はちゃんと休んだか?」

聞きながらもグリグリとセイエイの頭を撫で回すので、セイエイは一歩後ずさった。

「ちゃんと休みました。・・・・やめてください」

名残惜しげに手を離し、ウケイは、周囲を珍しげに見ているセイエイに告げた。

「イオン兄者が一緒に行くから、な。同行の伴も荷物もちょっと増えた。ああ、あの辺りは時の方への贈り物だな」

馬に梱包された荷が乗せられるのを見ながら、続ける。

「とはいえ、馬は表までしか入れん。時の方は森を大事になさるからな、森を痛めるようなことはできん。ほとんどは表で待機させて、あとは自分の足が頼りさ。兄者はお前の仕上がりも見たがるかもしれないから、すぐに動けるようにしておけよ?」

「はい。出るのは魔物ですか、それとも盗賊?」j

「この地域で、影の一行を狙う盗賊はいない、誰でも命は惜しいからな!」

日頃は人懐っこいウケイが、影の一族らしい獰猛な笑みを浮かべ、笑った。


すぐ動けるように、とは言われたものの、道中にセイエイの出番はなかった。

影一族の長イオンと、長の弟で里をまとめるウケイを中心に、随伴するものたちが周囲を警戒するように一行は進む。

随伴する者は、一族の中でも手練ればかりだった。

セイエイが魔物の気配を感じて視線をやり、どうするか思案したときには、近くを並走する随伴のひとりが隊列を離れていった。そして、魔物の気配が消えたと思うと、速度を緩めず進んでいた隊列に戻ってくる。

反対側でまた魔物を気配を感じて視線を投げると、もうそちら側に近い一人が隊列を離れるところで、同じようにすぐに合流した。


そうして、一行は足を止めることなく、その日の行程を消化した。

影の里と、時の方の森の間に、人里はほとんどない。手頃な場所に野営地を定めた。

見張りの順番も免除され、早く休むよう言われ、セイエイは素直にあてがわれた場所に横になる。


長のためだけに張られた天幕にウケイも入ってしまうと、ほかにセイエイに親しく言葉をかける者はいない。

それは、長とウケイの妹であるツキヒの子どもという血筋のせいでもあるが、何よりもセイエイがいずれ正妃の御子と"絆"を結ぶべき"贄"になる身であるためだ。


影の一族は、牙の長の血筋を守るための一族。牙が国となるより前、牙の一族と呼ばれていた頃から、影の者として牙の長に付き従い、その血脈を守るためだけに存在した。

牙の一族が牙の国となり、長は国王と名を変え、民が増え、新しく貴族が増えても、影の者は影の一族と名を変えただけで牙の国王の血脈を守り続けている。

そして、”贄の絆”は王を守るために、影の一族が有する究極の秘術。

”贄”と呼ばれる者は、王と”絆”を結び、王が受ける傷や毒をそっくり肩代わりする。

一度絆を結べば、”贄”は死ぬまで、王の身代わりとなる。

”贄”になる者は、影の一族にとって、王にその身を捧げる特別な存在となる。

影の長の血筋が特別なのは、王家に匹敵する精霊適性をもつからだけでなく、"贄"になれるのが影の長の血筋の者だけだからなのだ。


牙が国となってから、影の一族は国の暗部をも司るようになり、一族に連なる者は多い。しかし、その結束力は固く、一族に加わればその出自の一切を断ち切り、一族に、影の長に絶対の忠誠を誓う。

その中にあって、”贄の絆”を結んだ”贄”だけは、絆を結んだ相手個人を最上に据える。

影の一族は国王の血脈を守る者であるがために、暗愚な王がその血脈を途絶えさせようとすれば排除も辞さないが、贄はそれでもその王を守ろうとする。

ゆえに、贄は、影の一族にあって、特別の存在でありながら、異質な存在となる。


それゆえ、セイエイは、影の里にあって、遠巻きにされる存在であった。


セイエイは、それに慣れていた。

そもそも、生まれてから、母であるツキヒ以外は、侍女が身の回りの世話をするぐらいで、人との関わりは薄い。

5歳のときに、ウケイに連れられて影の里に来て以来、親しく声をかけてくるのは伯父であるウケイのみ。

”贄”になるべくして生まれ、物心つく前から「正妃の御子にお仕えする」と言い聞かされて育ち、セイエイはそれ以外の生き方を知らない。

それでいて、セイエイは、まだ”絆”の相手であるべき正妃の御子と対面を果たしていなかった。

2年前、正妃に待望の御子が誕生し、本来なら”絆”のためにもすぐに対面すべきところ、獅子王にもたらされた息子に言及する予言のせいで、正妃の御子は秘され、セイエイは王都への帰還が敬遠された。

中途半端な今の立場をセイエイが気にしていないわけではない。

それでも。

いまこのとき。

セイエイは、立場など関係なく自分だけを見つめるシャルナの笑顔を思い浮かべて眠りについた。






説明回は難産でした。すみません。

同じ世界で設定の、牙が一族だった頃の話「独立の日」とか、R18の時系列先の話に書いてしまっていることを読んでない人にもにもわかるように書くのって、難しいですね。

次話はあまり間を開けずにアップしたいと思います。

よろしくお願いします。

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