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M・J クラリスが現れた。


(9)M・J クラリスが現れた。



「お取込み中、すみません」


 突然耳に届いた女子の声が、飛びかけたバフォメットの意識に引っかかる。


― 誰かな?


 バフォメットの霞む視界にはチビゴブリンの姿は無く、歪んだ眼鏡を掛けた三つ編みの少女の姿が有った。制服の至る所が解れ、破けた個所から下着が見えていた。


「ここは何処ですか?」


 胸元の破れを抑えながら少女は尋ねる。


「迷ってしまって……。 」


押忍押忍、と女性に免疫のない後続ゴブリンたちは見苦しいほど慌てていた。


「押す? スイッチなんか、有りました? 」

 

首を傾げる少女は顔に掛かった三つ編みを指で弾いた。そのちょっとした動作でうなじが曝され、首元の白さがゴブリンズの目に残る。


 押忍ぅー、とバフォメットを押さえつけていた力が抜けた。その瞬間、バフォメットは前転し、臭いの元から脱出する。


「レディ・委員長。お困りですか?」


 バフォメットは少女の手を取り、膝を着く。ぐにゃ、とした違和感が足元にあったが、全然気にせず、しっかりと少女の瞳を捉える。


「オーマイゴー! なんという姿だ。さあ、委員長これを」

 

バフォメットは自分の上着を少女の肩に掛けた。バフォメットの上着はマントのように少女の身体を包んだ。そのジェントルマンな行為を受けた少女は、若干、顔を赤らめた。


「え、あの。ありがとうございます」


「良いのさ、シープ・レディ。途中でナニが有ったか僕は聞かないよ」


「あ、そうですね。助かります」


「でも、助けが必要なら遠慮せずに云ってくれ。ハンサム・レディ」


「じゃあ、私は羊じゃなく、牛です。牛系獣人です。それと委員長で無く、クラリスと呼んで下さい」


 クラリスは鼻の赤いチャームを示す。


「オーマイゴー! ミステイク! ソーリ―、済まない。ごめんよ、クラリス」


 バフォメットは大げさな身振りでクラリスに抱き着き、頬を擦り付ける。肌のすべすべ感触を味わうバフォメットは感激で脚を踏み鳴らす。


「すべすべだぁ」


「あの」


 クラリスがバフォメットを押しのけ、視線を下ろす。


「誰かを踏んでいますよ」


「んー? 」


 視線を下ろしたバフォメットは、自分の足元のチビゴブリンが居る事に気が付いた。チビゴブリンの大きすぎる目は見開き、宙を見つめていた。

その閉じる事を忘れた目に二人を映したまま、チビゴブリンは微動だにしない。


「どおりで、臭ーっ」


 バフォメットはチビゴブリンを蹴り飛ばす。身体は転がり、押忍軍団の中へ飛び込んだ。押忍押忍押忍、押忍な、と弾き飛ばされる他のゴブリンたち。


「悪臭は素から取らなきゃダアメエよ。で、迷子なのかーい? ハンサム・クラリス?」


「はい。私、方向音痴なので。スミマセン」


 クラリスは小さく謝り、バフォメットから視線を逸らした。バフォメットの直視の中、クラリスの頬は若干赤い。


「オー、それは、可哀想。で、何処に行きたいんだーい? 寄り道を兼ねて僕が案内するぜぃ」


「いえ。そこまでしていただく事は出来ません。道順を教えてくれれば結構です」


「謙虚なレディ・カウ。心配は無用さ。で、僕らの目的地を教えてくれよ?」


「すみません。じゃあ、一学年の苦無組までお願いします」


「OK! じゃあ、レッツ・ゴウ。二人の旅路に。休息が必要な時は遠慮なく言ってくれよぉ。僕はいつまでも待っている」


「ありがとうございます。でも、できるだけ急ぎたいです。むしろ急ぎで。私、急いでいるんです」


「オーケー、オーケー、オーケーオー」


 バフォメットはクラリスの腕を取る。


「えーと、お友達は?」


 クラリスは地面に倒れながらも押忍、と呟くゴブリンズに目をやる。


「僕の好みじゃ無いよう」


「えーと? 」


「彼ら、知らないヒトだしね」


「えーと、じゃあ皆さんで何をなさっていたんですか? 」


 歪んだ眼鏡のクラリスには仲睦まじい様子に見えた。


「僕は、バニーちゃんを探していただけなのに。あ、そうだ。バニーちゃんを探さなきゃ」


 バフォメットはあらら、忘れていた、と呟く。


「イケない。サタナキアが怒るなぁ」


 どしょーかな、とバフォメットは腕を組む。だが、それはポーズだけで頭の中では花が咲き、蝶が待っている。

バフォメットの脳ミソは思考機能がマヒして久しい。


「他にご用事が有るのでしたら、私は此処で良いですよ。道順だけ教えてくだされば今度は大丈夫だと思いますし」


 クラリスは正直不安である。だが、図々しくは出来ない。。


「オーウ、つれないなぁ。ばっと、そうしてもらったら良いかも」

 牝牛を吊り上げるチャンスを、間抜けなナンパ師は放棄した。


「ソーリー、クラリス。じゃあ、此処でサラバだ。ユーの目的地はこうして、ああして、こう行けばOK。直ぐに着くさ」


「分かりました。ご親切にありがとうございました」

 

クラリスは肩の上着をバフォメットに返そうとする。バフォメットは片手でその行為を制した。


「そんな恰好ではイケないよ。レディ・クラリス。そのまま掛けて行けばイーさ」


「じゃあ、お借りします。後でキチンとお返ししますね」


 クラリスは肩に掛かった制服に包まれるように身体を隠した。


「ほれじゃ、バイビー 」


 サクッ、と元気にバフォメットはクラリスと別れる。


「あ、そうだ。一寸待ってください」

 

「大丈夫。この別れは一時的さ、クラリス」


 がっちりとクラリスの手を握り、温もりだけ残すとバフォメットは再び背を向け歩き出した。


「未来だけをー、見つめあう―っ」


 歌いながら去るバフォメットを見送るクラリスの頬はほんのりと赤い。


「キング・バフォメット、さん」


 クラリスは胸に高揚を感じながらその名を呟いた。



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