表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/13

金言。

(13)金言。



 簀巻きにされたエンジュは担架の上から床の上に投げ出された。固い板に身体が叩きつけられ、遠慮のない音と苦痛を感じる。


「痛てーなァ」


 ムシロと荒縄を使用した古典的な拘束に、エンジュは途方も無く惨めだった。


― 罪人感が半端ない。


 両手も後手に縛られており、動かす事は当然不可能。しかも、床の硬さと冷たさを、ムシロは正直に伝えてくれる。


― 牢獄感も半端ないなァ。


 簀巻きにされて、独り冷たい牢獄の中である。この状況は万人に耐えがたい現状である。


「全く、今日は、なんて日だ! 」


エンジュを拉致した集団は既にいなくなっていたので、言葉は虚しすぎる独り言としてエンジュ自身に戻って来る。


「イテテテ。真面目にお腹が痛くなってきたよ」


 己で冷やしてしまった空間の空気が、エンジュの露出された腹部を蝕んでいく。


ぐるぐるぐるぎゅーる。


腹部に不安が忍び寄る。


― やべー。早く何とかせんと! 汚名はともかく汚物はイカン!


エンジュに忍び寄る不安。さらに足音が忍び寄る。エンジュはその正体を知ろうとするが、拘束がきつく、体を動かす事が出来なかった。


「嫌な予感だ」


 繊維の隙間から見える世界は狭い。だが、不穏な未来を予測するには十分に情報を提供してくれる。エンジュは呟き、顔を顰めた。


「エンジュ・バルボッサ。おこんばんは」


「あー。メゴか。やっぱりゴブリンズの仕業か」


「そやで。Zの命令や」


 雌ゴブリン・Yはゴブリンズの一員だ。


「エンジュはん。なんで拉致されたかわかるかぁ? 」


 雌ゴブリン・Yは感情の富んだ性格だった。


「今朝の女の件なら謝る。ありゃ、事故だよ。暗黒が惚れた女を病院送りにしたのは事故だ。それに、消化未遂で済んだだろ」


「偶然だったのは本当やろなぁ。けんど、完全消化ならZ兄いも諦めが付いたろうに、未遂やからなぁ。むしろ兄いは怒り心頭や」


 彼女は肩に掛けたモーニングスターを下ろす。重い振動と鎖が発する『チャラリ』とした音がエンジュに届いた。

 鉄球に腰掛け、雌ゴブリンがエンジュの顔を覗き込む。


「ヒトの恋路を邪魔した報いは受けなきゃあかん」


「『恋路の報い』か、それは八つ当たりでも胸に突き刺さる言葉だな」


 随分と嬉しそうだ、とエンジュは思った。そして、顔のパーツを震わせて、藁の隙間を広げる。その結果、エンジュは雌ゴブリン・Yの褐色の肌を見る事が出来た。筋肉隆々の立派な筋肉娘である。


「おい、雌マッチョ。俺はこれからどうなる?」


「予想通りや。覚悟しときな、メチャ酷い事されるわな」


 拉致ではじまり、途中経過を経て、結末へ至る訳だが、その結末は大抵の場合、決まっている


「そりゃ、嫌だ。勘弁してくれ」


 エンジュは奉行所で裁かれる罪人の気持ちで頼んでみた。


「ダメや。一つでも前例があると信用が揺らいでしまう」


「信用? ああ、メゴ。お前、暗黒Zに信用されていないんだな」


「阿保言うな。ゴブリンズの結束は絶対やで。アタシ等の事じゃ無い」


「あ? 」


 エンジュは雌ゴブリンの言葉に第三者の存在を感じた。


「メゴ。俺は暗黒Zの無駄な恋路を邪魔して捕まったんだよな」


「そやで」


「なら、もう一人の悪党は何処だ」


「悪党? 誰の事や? 」


「イーサーだよ。さっきまで俺と一緒にいただろ」


 エンジュとイーサーの隙をつき、ゴブリンズが跳びかかって来たのは先程の事だ。あっという間に、エンジュは縛られ、イーサーは袋に詰められた。


「ヨシア・フォン・イーサーは『強』が相手しとるわ」


「何処だ? 」


「教える訳、無いやろ」


「無事か? 」


「知らん。『強』が相手をしている筈や」


― 強ゴブリン・Rか。奴はフェミニストだから乱暴はしないな。

 エンジュは強ゴブリン・Rを思い浮かべる。イケメンゴブリンのトンファー使いだ。


― 俺が向こうだったら良かったぜ。


 仏様は言った。(ような気がする)『自分に正直でありなさい』

ある哲学者は言った。(これは間違いが無い)『いかなる時代も異性に求めるのは、まず容姿である』

 ともに金言だ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ