優しさ
今日も僕は、導かれるように本屋へ行く。
実は、いつか小さな古本屋を経営したいと思ってる。
でも、それは儚い夢。
今日も本屋をうろうろしてると
「お前、寂しがり屋だろ」と身に覚えがある声が、
「お前も寂しがり屋だろ」と振り返ると、そこにいたのは有紗ではなかった。
「お前って、私のこと?」
「いや、ごめん。違うんだ。木下さんの事じゃなくて…あれ???」
僕はてっきり有紗が言ったと思って振り返ったのに。
「なんか変なの。誰か探してたの?」
「違うよ、今日も一人で本屋をぶらぶらしていた」
今の声は…幻聴?
「ねぇ、桜井君!これからどこか行かない?」
「ん?…どこか?」
「うん!どこか。どこがいい?」
「んー…行くところがないなら、今日は無理に行かなくてもいいんじゃない」
僕は計画してどこかへ出かけることは好きだけど、無計画で突発的な行動をすることに抵抗があった。
「どこか行きたいの…ダメ?」
目をきらきらさせながら、木下さんは上目づかいで見つめてくる。
「ダメじゃないけどさ…」
少し節目がちに下を向いてから、勢いよく顔が上がった。
「じゃあ、海に行きたい!」
「海?!」
「そう、海!ダメ?」
「ダメじゃないけど…海、見に行くの?」
「うん。海が見たいの」
そうして木下さんと海を見に行くことになった。
本当は海なんて興味もなく、今から見たいと思わないのに嫌だと言えなかった。
これが優しさなのか。