名前
「私さ、本屋に来る人は寂しがり屋が多いと思うんだ」
彼女は僕と同世代には思えなかった。
僕自身が幼稚なのかもしれないが、しっかりと自分の意見を持っていて、少し尊敬というか憧れがあった。
そんな彼女がまぶしかった。
「かっこいいな」
「何、突然?そんなことないよ」
有紗はきっぱりと言った。
「私は不器用なんだ」
「そうは思わないけど」
「すごく不器用なんだよ!」
「そんなに主張しなくてもいいのに」
「あ、ご、ごめん」
「かわいいね」
「はっ??なに、なんだよ!!」
からかって、照れる有紗が面白い。
照れながら有紗がふと
「お前は、お前でいいからな!」
「お前って言うなよ」
「あ、…慊人」
「あはははは」
「なんだよ!笑うなよ!!」
「おま、慊人も私の名前行ってみろよ!」
「なんでだよ!嫌だよ!」
「そうか、嫌なのか」
急に笑っていた有紗が涙目になった。
「なぁっ!!あ、り…さ!」
「もう一回!」
「あ、有紗!」
「言えたじゃん!」
思い返すと、なんて恥ずかしいことをしたんだろうと赤面する。
名前を言い合うとか、青春かよ!って自分でツッコミを入れてしまう。
でも、きっと普通の人は、こういった青春っぽいことをしてきたんだぁ~と思うと貴重な体験が出来て、すごく嬉しかった。
何よりも有紗と話すだけで、そのままの飾らない自分を出すことが出来た。
自分を受け入れられてるようで、すごく嬉しかった。
「名前くらい言えるよ」
ちょっと照れながら僕は伝えた。
すると有紗は、ふと何かを思い出したかのように
「でもさ、何にせよ。最初が一番大事だと思うんだよね。ただの名前だけどさ、それすら呼んでくれない人もいるじゃん。恥ずかしいとか言って次に持ち越すとかさ…私はもったいないと思う。その時って”今”しかないのに次っていつ?みたいな。まぁ、結局は人の価値観とか性格の違いになっちゃうんだけどさ、って、一方的にごめん」
「いや、有紗ってすごいね。僕は、そんなこと考えたことなかったけど”今”を感じるとその瞬間瞬間って本当に大切なんだなぁって感じたよ。僕は、実は、その、大学を卒業するんだけど…友達いなくてさ。
いないというか、人付き合いが苦手で…だから、その有紗に出会えてよかったと思う」
「ありがとう。慊人は人付き合い苦手じゃないと思うよ。ただ苦手って思いこんじゃってるだけだと思う。だって私とも、こうやって話せてるし、私は嫌じゃない。」
「ありがとう」
有紗との時間は、自分を見つめられる時間だと思う。
いい人だとか、人付き合いが苦手だとか、ずっと今まで逃げていた。
自分が何気なく話す言葉で相手を傷つけたくないという気持ちと、自分の心を傷つけたくないから、ありふれた言葉しか言わないし、意見も言わずに流れてた。
どんな気持ちも押し殺して、いいよ。と言っていた自分を今、発見した。
「これからも色々話そうよ!私、慊人のこと、人として好きだよ!」