俺と僕
昨日とは違う喫茶店。
レトロな感じで店内が少し薄暗い。
「私はクリームソーダ。あんたは?」
「?!じゃあ、僕もクリームソーダで」
「同じの頼むなよなー。まぁ、いいか」
彼女の名前は羽丘有紗。僕と一緒の22歳。
短大を卒業してアパレル店で働いているらしい。
「ふ~ん。桜井慊人って言うんだ。いい名前だね!慊人って呼んでいい?」
「なんだか恥ずかしいな…」
「そうかな?じゃあ、私は有紗って呼んでいいよ!」
「呼んでいいよって。あはは。」
「なんで?変かな?」
最近、僕は自分をすごく感じる。
人と関わってこなかったからだろうか、誰かと話すという行動にすごく意味が込められている気がしてきた。
変に気を使わない。
いつもの僕なら、クリームソーダを頼んだり、人を笑うことをしなかったのに。
この2日間で僕は温かい人間になれているような気がした。
そして僕は、ずっと疑問に感じていたことを確かめようと決めた。
「あ、そうだ。なんで僕に寂しがり屋だろって言ったの?」
「あぁ、いつもあの本屋にいただろう?私が行った時にいつもいるなぁって思ってて。私も本屋が好きだし、話したらきっと気が合うだろうなぁって…で、きっかけが欲しかったんだ。嫌な思いをさせてたら、ごめん。」
「全然!まぁ、俺もきっと寂しがり屋だし」
「お前、自分のこと、俺って言うんだな」
「うん?俺って言った?」
「言ったよ」
「あ、あれ?」
自分のことを僕と話すのは、親の教育のせいでもあった。
俺という言葉は下品と教えられて、自分ではいうことは今までなかったのに。
「まぁ、いいじゃん。人生、短いんだから。それぽっちのことで悩んでたら、もったいないよ」
「そうだよな」
有紗の言葉は堂々としていて、かっこよく思えた。
親の元から離れたんだから、もう全部自分の好きに生きれるのに
まだ僕は誰かの常識から逃げられなかった。