第0話 転生前夜――だから俺は神様に目を付けられた
中安です。今回新しく書いてみました。上手く書けてる自身はあまりないですが、どうかよろしくお願いします!
感想は常に募集中です。
「おーい、今日この後一杯行かねえか?」
「悪い、用事があるんで。お疲れさまでーす!」
俺は急ぐように職場を出て帰路についた。
ここ二ヶ月ほど同僚との付き合いがないが、そんなことに時間をかける余裕はない。
俺は駆け足で駅に駆け込み、閉まりかけの電車に飛び乗り、自宅最寄り駅に着くのを今か今かと待ち、ドアが開くと同時に走り出し、家まで疾走した。
そして家である、人の気配が一切しないボロアパートに着き、鍵を差し込み、靴を脱ぎ散らかして部屋に上がる。
そこには家具等がほとんどなく、折り畳み式のテーブルが壁に立て掛けられ、小道具や折られた紙が何十枚と散乱しているだけだ。窓はガムテープで塞がれている始末。
俺は鞄を放り投げ、着替えもせず手洗い等もせずに床の畳に座り込む。そして床に散らばった紙を取っては開き取っては開き。
紙には、なにやら大きな図形と小さな文字があちらこちらに描かれている。
俺はその中に目的のものを見つけ、テーブルを設置しその上に広げた。
「さて――魔法開発の続き、始めますか!」
そう言った俺の手の上には、大きな水滴がいくつも浮いていた。
俺は幼稚園の時からアニメが好きだった。
不思議な道具で助けてくれるロボット、不思議な生き物を育てて旅をする少年。
はたまた、俺は特撮も好きだった。
怪獣を倒す光の巨人、悪の組織と戦う五人組やバイク乗り。
非現実的なものは、それだけにワクワクするものだった。
俺はゲームも好きだった。
まるでアニメの中に入ったかのように、その世界で自由に遊んでいく。とにかく夢中になった。
小学校にいるとき、俺はラノベを知り、好きになった。
そこには今までとは違う新しい世界が広がっていた。どれもこれもが面白く、気付けば本棚が一杯なのでケータイに落としていくほどだ。
中学高校でマンガにはまった。
それまでは知ってはいたものの、他が楽しくて後回しにしていたのだ。
しかし無情な大学受験のせいで、一時的にそれらから遠退いてしまう。読みたい見たいの気持ちを抑えて、何とか大学には入れた。ただ日本のサブカルは受験勉強でも活躍し、前々から、作中の設定は徹底的に吟味する習慣のお陰で、幾分楽だった。
そして大学に入ったことで、再び熱が再燃した。寝る間も惜しんで趣味に没頭した。
この頃は、冗談で、何で魔法がこの世にないんだろうと考えたこともあった。
大学を卒業し、俺はパソコンのゲームをメインで作る会社に入社。
ゲーム制作も楽しいものだった。自分で考えた魔法がゲーム内で動くのだ。キャラクターが動くのだ。
だがアニメやラノベを忘れたりはしない。給料のほとんどを趣味に費やし、本人はとてもとても貧しい生活。
そんな日常を続けて十年ほどが経ったある日のことだった。
その日、俺はゲームの魔法の魔方陣のデザインを考えていた。
その魔方陣は石板に刻まれて、その欠片を集めると新しい魔法が習得できるとかいう設定だったはずだ。
この時は、会社の設立五十周年とかいうやつで、前代未聞の規模でゲームを作るとかいうことだった。
俺は何度も紙に描いては消して、何度も紙に書いては丸めてを繰り返していた。一応、捨てる前に、同僚に意見を聞くために写真には撮っていた。
どうにもしっくり来なかったのだ。
「参ったな、明日提出なのに……何か違うんだよな……」
そうして俺はまた描いて、色々グチャグチャになってしまった。
「うーん……これはまだましだけど……見づらいしダメだな」
俺はそれの写真を撮って、丸めて捨てようとその紙を手に取った、その時だったのだ。
紙が独りでに燃え上がったのだ。
「おわ!」
俺は慌ててそれを床に放ってしまい、すぐにしまったと思ったことを覚えている。
しかし火は俺が手を放すと消えてしまった。後には真っ黒になった紙が。
「な、なん、何だ?」
声が上擦っていたと思う。それぐらいビックリしたのだ。
俺は試しに、写真を見ながらもう一度書いてみた。
手を恐る恐る触れると、火がまた出た。手を離すとまた消えた。
触れる。燃える。離す。消える。
また触れる。また燃える。また離す。また消える。
「こ、こ、こ、こ、こ――」
そうして俺は叫んだ。
「これ、魔法だ!!」
てなことがあって二ヶ月。俺は毎日早く帰宅して研究をしていた。家にいる時間のほとんどはずっとこれだ(ちなみに会社に提出したものはボツにした数枚だ。さすがに本物は渡せない)
あれ以降、色々書き直して手の上に火が出るように改良した。その過程で、水が出てきたので、今はそれの研究中なのだ。
ゆくゆくは、自由に使えるようになって、世間に広めたい。
興奮気味にそう考えて今日も試行錯誤を繰り返す。
気が付くと、もう十二時を回っていた。
「あ……腹減ったな……コンビニ」
渋々作業を中断して、靴もちゃんと履かないで部屋を出る。
適当に、売れ残ってたおにぎりを二個買い、早歩きで帰る。
靴を履いているのも忘れて畳に上がり、思い出して脱ぎ散らして、片手におにぎりを持って作業を再開する。
気付けばもう三時だ。
会社は九時からなので、そろそろ寝なければ。
畳に転がっている靴を紙で包んで枕にし、服も結局着替えないで寝た。
「――、――、――」
「ん……ん?」
何かに呼ばれている気がして目を開けると、そこは雲の上だった。
あ、夢か、と思ってそのまま目を閉じようとする。
「ちょっとぉ!やっと起きたと思ったらもう寝るの!?」
真隣から悲鳴じみた声が聞こえたので目を開ける。
やはり雲の上、そこに二人の着物を着た女性の姿があった。どちらも美人さんで、姉妹なのだろうか、顔が似ていて足元まである黒髪が目立つ。
何故か、二人の内頭一つ背が低い女性――多分妹が俺を睨んでいた。
「就寝中すいません。えっと、■■■ ■さんでよろしいですか?」
姉の方は妹の方とは対称的に落ち着いている。
「はい。■■■ ■は私ですが、あなたは?」
「あ、はい私は――そうですね、一応『イザナミ』と呼ばれている者です。本名は長いので割愛させてください」
「『イザナミ』……さん?」
ん?イザナミ?
「それって神様の名前のような……」
「あ、はい、一応日本の守護神をしています」
「――ああ、夢か」
俺は全てを理解するのを放棄した。
何を言っているのかさっぱりだが、これはきっと俺の深層意識が作り出した光景、理解しなくてもいいだろう。
「それで、イザナミさんと、えーと――」
「ほらシャロア、挨拶して」
イザナミさんが妹を促す。すると妹は睨むのを止めた。
「う――私はダナス神界序列第800位シャロアよ。今回は私からお願いがあって来たの」
「ちなみに君はイザナミさんの妹さん?」
「違うわ、イザナミは私の叔母さん――ってそうじゃなくて、お願いがあるの」
「神界ってことは、二人は神様っていう設定?」
「設定じゃなくて私たちは歴とした神――ってそうじゃなくて!お願いがあるのって言ってるじゃない!聞いてよぉ!」
シャロアさんがまた睨む目になった。目元が少し光っているのが何とも。
「すいません。でもお願いというなら、こっちも色々聞かなきゃいけないんで、説明はしてくれますよね?」
美人さんだから、夢だからって何でもOKにするわけにはいかない。
「もちろんよ。聞いてくれる?」
「どうぞ」
シャロアさんは目を擦ってから口を開いた。
「単刀直入に言うと、私の世界に来てくれないかしら、私の信者として」
「……はい?」
俺には何を言っているのかわからなかった。
「――何よ」
俺が黙っていたのが不満だったのか、シャロアの眉間に皺が寄る。
「いや、詳しく説明を」
「そうね……今あんたが生きているのが叔母さんの世界なのね。それであんたには私の世界に来てほしいの。要は転生ね」
「ちょっと待って」
俺は今聞いた話を整理する。
「えっと、まずこの世には異世界が存在してシャロアさんはその世界の神であると」
「そうよ」
「それで、来てほしいということは、俺は日本を出てシャロアさんの世界に住めばいいと」
「そういうこと!話が早いわね!それで?」
シャロアさんの表情がパーと明るくなった。
しかし、俺の返答は
「ぶっちゃけ嫌です」
「な、何でよぉ!」
シャロアさんの目が再び涙目に。
「神様なら俺が最近魔法を発見したこと知ってるのでは?俺はそれを最後までやりきりたいんですよ、日本で、一人で」
「それはこっちでもできるじゃない!言っとくけどダナスにも魔法があるからきっと深くできるわよ?」
「でもそれって真新しさがないっていうか」
「どーでもいーでしょそんなこと!できる限り不自由にはしないから!お願い!」
シャロアさんが拝み倒してくる。いいのか、神様なんだろ?
「今のあなたにできることなんてそんなにないでしょうに」
イザナミさんがため息をついた。
「私からもお願いするわ。正直あなたの存在は日本や地球にとって火種でしかないの」
「はい?と言いますと?」
「魔法よ」
「魔法?」
それがどうしたというのだろうか。
「元々この世界は争いがないように、少なくとも最小限になるようにするために魔法の痕跡は一切消したの。なのに世界規模の戦争が二回も起きて、核兵器なんてのもあるじゃない。それにそろそろ三回目が起きそうだし。そこに魔法なんて未知の魅惑的なものが現れてみなさい、即戦争よ?今まで以上の規模でね。あなたも楽な人生は送れないわよ?」
「うっ」
俺としては、魔法を発見したことで大金をもらって、老後をゆっくり過ごすことを考えていたのだが、今イザナミさんが言ったことが凄く起こりそうで恐い。
「その点、シャロアの世界ダナスは魔法も少しは発達していて、研究のやり甲斐があるんじゃない?」
「うーん……」
俺は腕を組んで首を捻った。
「考える時間がもらえますか?」
「残念だけど、それはできないわ」
「え?」
まさかの拒否。
「特別な状況だから教えてあげるけど、あなた明日死ぬわよ」
「――はい?死ぬ?」
ハハハ、そんな馬鹿な。
「理由は何ですか?」
「地震よ」
地震?それって最近話題の、首都直下型やら南海トラフやらのことか?
「――神様も冗談言うんですか?」
「人によるけど、私は言わないわよ」
「……マジでございすか?」
「マジ、でございます」
俺は周囲が暗くなったように感じた。
「そっかぁ……死ぬんか……シャロアさん、転生って、記憶は残るんですか?」
「え?勿論よ!」
「何か持っていくことは出来ますか?物質的なもので」
「それは無理。転移ならともかく転生は」
「その転移は使えないんですか?」
「ごめん、私には無理。せめて序列が第300位くらいならできるかも」
「はあ……」
俺は心を決めた。
「わかりました。その話受けましょう」
「本当!?ありがとう!」
シャロアさんが俺の手を上下にブンブン振る。喜色満面だ。
「私は他の神様みたく宗教とか開いてないから普通通りに生活してればいいわよ!面倒な説教とか巡礼とかは必要ないから!」
「あ、はい、わかりました」
コクコクと首肯する。
「じゃあダナスの説明を――」
「あ、それは大丈夫です。行ってからのお楽しみってことで」
「そう?もう楽しみにしてくれるのね!」
見てる俺がホッコリしてくるシャロアさんの喜びようだ。
「ところで神界序列って何ですか?」
「え?ああ、どこの世界でも神様には、信者の数によって順位がつけられるのよ。私の世界にはちょうど八百の神がいて、私は最下位なのよ」
「――へ?」
俺は固まった。
「驚くわよね。シャロアは今信者数1なのよ」
「違うもん!今日ようやく2になったもん!」
「それでも最下位のままでしょうに」
「叔母さんのバカ!それはこれから増やすのよ!見ててよ!すぐに叔母さんみたいになるんだから!」
「ええ、待ってるわよ。一万年くらい」
「絶対そんなにかけないから!」
そこで俺はようやく再起動する。
「は、はあ。それは一体」
するとイザナミさんがシャロアさんを宥めながら教えてくれた。
「この子、産まれたのはかなり早くて、しかも神格もかなり上なのに、ずーっと寝てたのよ。それで完全に出遅れてね。お陰で今はこんな使いっ走りみたいなことをやってるし」
何という兎と亀。残念女神、いや駄女神か。
「か、関係ないもん!すぐやってやるんだから!」
「はいはい。■■■さんも、明日は少々乱暴な一日となりますし、もうそろそろ目覚める時間ですから、私たちはこれで」
「あ、はいわかりました」
と言っても、どうすればいいかわからない。何となくボーっとしていた時だった。
「そうだシャロア、器は二十万前後でいいのよね?」
「うん。父様が多めにって。減るのが早すぎて間に合わないみたい」
「わかったわ。それじゃあ明日ね」
目を開けると、そこは自宅だった。
何故か昨晩の夢の内容は鮮明に残っている。
「までも、所詮は夢だしな……仕事仕事」
俺は靴を履いて最寄り駅まで歩いた。
ホームで電車を待っている間、俺はスマホ内の魔方陣の写真を見る。
電車にいる間はずっとこうだ。拡大したり横に並べて比べてみたりと、傍から見たら危ないやつに見えるかもしれないがこれが日常だ。
「火ができるから氷もできるはずなんだよな……」
これも他人が聞いたら変人と思われること間違いなしだが俺はいたって真面目である。
電車が来て、乗って揺られて会社に着いたら流石に仕事モードだ。
といっても俺はデザインとかアイデアとかの担当であるため、暇が多い。
そんな時俺がやるのはもちろん魔法研究だ。
写真をパソコンに取り込んで加工する。職員から見れば、仕事熱心な社員にしか見えないのだ。(なお、俺の家にパソコンなどという高価なものは無い)
「ここと、ここと、ここもかな?ちょこっと変更してあげればいいのかな……外側のこの曲線がこうだから、真ん中のこれは――うーん……」
それっぽいのができたら手書きで紙に書いて鞄にしまう。
ふと時計を見ると、お昼時だった。
「あー……コンビニで、そうだな、今日はサンドイッチにするか」
俺は会社を出て、架道橋沿いの道を歩いてコンビニへ向かう。
これが俺の一日だ。
友達も家族もいない、一人で常に行動をしている俺は孤高の存在(自虐)。
冗談はさておき、これが俺の日常だったのだ。
しかしこの日は違った。
ドン、と足元から凄い衝撃が伝わり、地面が激しく揺れだして、俺はその場に立っていられなくなった。瞬間俺の脳裏に、夢の中の会話であるはずの言葉がよぎった。
『特別な状況だから教えてあげるけど、あなた明日死ぬわよ』
『理由は何ですか?』
『地震よ』
「まさか、本当だって言うのか?」
途端近くの店の看板が道路に落下して大きな破砕音を上げた。
ガラスが割れて歩道に降りかかっていた。
そして――真隣の架道橋から電車が飛び出して俺に向かって落ちてきた。
俺は地震の揺れで動けない。
その時浮かんできたのが走馬灯なのだろうか、夢のはずの会話、光景が浮かんだ。
「――シャロアさん、これからお世話になります」
そう言った直後、落下してきた電車が俺を押しつぶした。
俺は知らない。この地震で出た死者、行方不明者の数は二十万人前後であることを。
新出キャラ説明
■■■ ■
主人公。都内のパソコンゲームメーカーで働く、日本のサブカルチャーをこよなく愛する三十代の男性。生まれた時から友達も、まして恋人もおらず、親子関係もギクシャクしていた。偶然に魔法を発見しその研究に没頭している。実は猫アレルギー。
イザナミ
二ホン神界序列第2位の神様。イザナギと共に日本を創り、守護神として君臨する。優しい性格で、ほとんどのことは笑って許してくれるのだが、一度イザナギが浮気をしたときはイザナギと浮気相手を半殺しにした。
シャロア
ダナス神界序列第800位の職業の神様。イザナギとは叔母と姪の関係で、実はダナス神界の中では創成神らに次いで神格が高い。真面目だが自分の思い通りにならないと泣いてしまう。以前は怠け癖があったが今回の失敗を機に改めようと決意。ちなみに存在自体をほとんどのダナスの神々から忘れられている。