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ますたー・おぶ・どりーむず+C~りとる・りりー~

作者: 猫流師範

この物語は、別サイトにて『M・O・D+C ~リトル・リリー~』として掲載された作品を修正したモノです。

・・・『愛、在りますか?』

「はい。『お姉サマ』に対するゆるぎ無い愛で一杯です!」


・・・『夢、抱いていますか?』

「はい。『お姉サマ』の心を私のモノにする事です!」


・・・『冒険、好きですか?』

「はい。何時いつか、大好きな『お姉サマ』達(叶う事なら、『お姉サマ』と二人っきりで)と共に、色々な所を巡る冒険の旅をしてみたいです!」



 言うまでも無い事ですが、『私』の性別は『♀(オンナ)』です。

 そして、『私』の大好きな『お姉サマ』の性別も、それと同じです。



 私の名前は、ファーナ。

 『全ての自由を許す』この『世界』の『ことわり』に、『自らの想いに素直で在り続ける事』を『夢』として定めた者である。

 今はまだ、その『想い』は空回りしてばかりだけど、何時かはちゃんと『お姉サマ』の心に届くと良いな。

 その為にも、もっともっと強くならなくっちゃね。

 そう、愛しのシルクお姉サマ(達)と一緒に冒険できるくらいに。

 『ファイトー、ファーナ! お姉サマの心をゲットするその日まで! オォー!』



 その出会いは、一つのハプニングから生まれた。

 正確に言うならば、何時ものドジに過ぎないのだけれど。


「ああ、お姉サマや皆さんは、今頃、楽しく冒険中なんだろうな…」

 私は、そう呟きながら、置いてきぼりをされた気分で、独り淋しく街の中をぶらぶらと歩いていた。


・・・ドカっ!


「きゃっ!」

 私は、地面に転がる小石につまずいた勢いのまま『それ』に体当たりし、悲鳴をらしていた。

 視界に在るのは、一面の黄色。

 そして、身体に感じる感触は、柔らかく生温かかった。

『クぇー! 小娘、何処どこて歩いてるんだ!』

 『それ』は、おおかぶさっていた私の身体を押し退けながら、威勢よくえる。

 私の瞳に映る『それ』の姿を一言で言い表すと、『トリ(?)』だった。

 否、『ヒヨコ(?)』と言うべきだろうか。

 そう、『それ』は、異様なまでに大きな『ヒヨコ(?)』だった。


「…」

 驚きの余り言葉を失っていた私に、その不思議生物が新たないきどおりの言葉を咆える。

『おいおい、コラっ! 先刻さっきから何、無視してくれている。放置か! 放置なのか!』

「あっ…、ごっ、ごめんなさい!」

 私は、何とか正気を取り戻すと、慌てておびの言葉を口にした。

『フンっ! 「ゴメン」で済んだら、《使徒》も《天罰》もらんわ! ボケっ!』

「そんなぁ…。ぐすんっ」

 私は、相手のかたくなな怒りの態度に、途方に暮れる思いを抱く。

「本当に、ごめんなさい」

 私は、如何どうして良いか分からず、再びお詫びの言葉を口にして、頭を下げた。

『まあ、本当に悪いと思っているなら、ソレ相応の慰謝料を貰おうか。そうだな、20マクシアート金貨で許してやろう』

「えっ、『20MG』って! そんな大金持っていません!」

 『20MG』といえば、人間一人が普通に2周期年は暮らせる分をまかなえる大金である。

 私は、相手が要求する金額の大きさに思わず叫んでいた。

『じゃあ、しょうがない。身体で払って貰おうか。クぇーケッケッケッ!』

 私の返答に、不思議生物は、邪悪な笑みを浮かべて言い放った。

「そんな、嫌です! (私の初めてのヒトは、お姉サマだと決めているのに!)」

『悪いのはそっちだぞ。ジタバタするな!』

 嫌がる私を捕まえ、無理やり何処かに連れて行こうとする不思議生物。

・・・助けて、シルクお姉サマ!

 絶体絶命の窮地に、私の瞳に涙が浮かぶ。

 その時だった。


・・・ボコっ!


『グェっ!』

 勢い良く脇へと弾き飛ばされる不思議生物。

 そして、私の瞳に大小二つの影が映る。

「大丈夫ですか?」

 大きな影のぬしである女性が、私の事を気遣きづかい声を掛けてくれた。

「…はっ、はい! 助けてくれて、ありがとうございます」

 私は、彼女の出現と、何よりもそのちに気を取られて、一瞬返事を遅らせてしまった。

「いえいえ。こちらこそ、あの愚昧ぐまいな鳥モドキが大変なご迷惑をお掛けいたしました。アレには、後で存分なしつけをしておきますので、如何かご安心を」

 『メイド服』というその装いに相余るうやうやしい言葉遣いで語る彼女の言葉からは、くだんの不思議生物に対する憤怒ふんぬが感じられた。

勿論もちろん、ご希望でしたら、この場でアレにはお仕置きいたしますけれど」

 そう付け加える彼女の拳に、淡い光となってオーラが宿る。

「《神聖なる御手》!」

 私は、彼女が示した力の正体に気が付き、驚きの声を上げた。

それは、戦士に属する冒険者が至る最高位職位の一つである《聖騎士》の中でも、《神》の加護を受けるにあたいする信仰心を持つ者だけに許される栄光の証であった。

「シェンナさん。余り乱暴な事をしたら、カポちゃんが可哀かわいそうだよ…」

 メイドさんの隣にいた少女が、状況の雰囲気に怯えているのか、少しオドオドした口調でたしなめた。

「いいえ、プリナお嬢様。お嬢様に対するこれまでの無礼の数々を反省させる為にも、あの鳥モドキには一度、徹底的に物事の道理を分からせるべきです」

 メイドさん、もとい、シェンナさんは、少女の言葉に対し、穏やかな眼差まなざしを返すが、その決定を変える気は無い事を告げた。

「でも、やっぱり可哀そうだよ」

『うんうん。そうだ! そうだ! シェンナ、プリナの言うとおり、もっとオレに優しくしろ! もっとオレを愛せ! 慈しめ!』

 何時の間にか復活していた不思議生物が、プリナと呼ばれた少女の背後でシェンナさんに調子付いていた。

「ちょっと、カポちゃん。そもそも悪いのはカポちゃんだよ」

『は!? 何だと! 俺は被害者だ! 悪いのは、ぶつかって来たこの小娘の方だ!』

「…」

 少女の言葉に再びいきり立つ不思議生物に羽先で指された私は、それが事実である事を無言で認めるしかなかった。

「でも、だからと言って、その娘に乱暴な事をしちゃ駄目だよ」

『くぇ、黙れよ! じゃ、お前がこの小娘の代わりに、慰謝料としてオレに25MGを払ってくれるのかよ!?』

「『25MG』って、そんなお金持ってないよ!」

「さっ、先刻より増えてます!」

 不思議生物の要求に、私と少女は別の意味で悲鳴を上げた。

『は!? 当然じゃん! オレは悪くも無いのに、シェンナに殴られたんだぜ。その分の慰謝料を、ヤツの主であるプリナが払うのは当たり前じゃねえ? 分かったら、直ぐ払え!』

・・・外道か鬼畜です!

 り返って息巻く不思議生物に、私は心の中で非難の言葉を突っ込んだ。

「そんな、無理だよ。それってプリナのお小遣い2周期年分以上なんだよ」

・・・うわぁっ、お金持ち! マジ、お嬢様!

 私は、少女の口から語られた言葉に、その裕福な家庭環境を知らされる。

「お嬢様、この鳥頭には、何を言っても無駄です。拾われてお屋敷に居座っている分際で調子に乗って! お望みどおり、今直ぐに成敗してあげるわ!」

 怒り心頭に達したシェンナさんの瞳に、闘志の炎が宿る。

『うわっ、メイドが真剣マジギレだ! 助けろ、プリナ!』

「自業自得だよ、カポちゃん。それに、私にはカポちゃんを庇う理由が無いよ」

 応えてご愁傷様しゅうしょうさまと呟く少女。

『クェー、薄情者! ペットの粗相そそうは、飼い主の責任だって知らないのか! いさぎよく責任とれ! 助けろ! オレの盾になれ!』

「潔くするのはアナタの方よ! 大人しく、天にされなさい!」

 バタバタと逃げ回る不思議生物の動きに先回りして、シェンナさんが《神聖なる御手》をした。

『クェッ!』

 自らの突進の勢いに押されて、不思議生物の身体がシェンナさんの拳に吸い寄せられる。

もらたった!」

 快心の笑みで勝利を宣誓するシェンナさん。

 しかし、それは空しく裏切られる。

『《神聖なる護盾》!』

 自らの身体に宿した神聖オーラの力で、敵の攻撃を受け防ぐ《魔導戦技》。

 それを用いた闖入者ちんにゅうしゃによって、シェンナさんの攻撃は阻止そしされてしまった。

「何者!」

 シェンナさんは、たかぶる心によってえる言葉を発し、目の前に現れた存在にその正体を尋ねた。

「否、済まない。事情は分からないが、状況が状況なだけに、強引なやり方を承知で止めさせて貰った」

 闖入者である男は、多少悪びれた感じを示しながらも、真直ぐな視線をシェンナさんへと返す。

「そう。それならば、貴方には全く関係の無い事だから、引っ込んでいなさい」

『兄貴ぃ、助けてくれー。そのトチ狂ったメイドが、オレを苛めるんだ!』

・・・うわっ、狡猾キタナイ

 不思議生物が示した変わり身の早さに、私は、在る意味感心しながら突っ込む。

「と言っているが、如何なんだ?」

 背中に庇う形になった不思議生物の態度に苦笑を浮かべる男。

しかし、その眼差しに宿っているのは、返答の如何によっては戦う事もさないと語る強烈な意志の輝きであった。

「先刻も言ったけれど、これは私達の間の問題で、貴方には関係の無い事よ。余計な手出しも口出しもめて頂きたいわ」

「ほう、《バジリスク》の幼獣相手に、《聖騎士》が全力で戦うなんて、確かに『虐め』そのモノだな。となれば、ここは、この珍獣に味方するのが俺らしいかな」

 シェンナさんに軽口のような言葉を返した男の瞳に、他者を圧倒する危険な色が浮かぶ。

「面白いわ。相手をしてさしあげましょう」

 シェンナさんは、不敵に微笑み、戦いの構えをとった。

「武器を抜かないのか?」

 素手のままで構えるシェンナさんに、男は少し呆れるように尋ねた。

「あら、貴方の目は節穴ふしあなかしら。私が武器を持っているように見えまして?」

 挑発するように半眼で見詰めて、シェンナさんは、自分が武器を使わない事を、否、使う必要が無い事を誇示こじする。

「ああ、そうか。ならば、こちらも最低限の礼儀くらいは示しておくとしよう」

 男は、シェンナさんの態度に笑って応えると、自らの腰に下げた双剣を外して、背後に投げ置いた。

 男の武器が大地を打って響かせた重い音は、かなり離れた私達の所にまで及ぶ。

・・・?

 私がそれに違和感を覚える中、相対する二人の戦いはすでに始まっていた。

 最初に仕掛けたのは、シェンナさん。

 《神聖なる御手》によって攻撃力を高めた拳を振るい、男へと挑みかかる。

 男は、それを素早い身のこなしで回避した。

「甘い!」

 短く言い放ったその言葉を気合いに代えて、シェンナさんは、背後に在った男へと回し蹴りを繰り出した。

「…」

 男は、迫り来る蹴撃を無言のまま一瞥いちべつした後、上半身の動きだけで再び回避する。

 そして、間合いを取るべく背後へと跳躍ちょうやくした。

「少しは、やるようね」

「ああ、『少しだけ』だがな」

 不敵に笑いにらみ合う二人。

「ところで、全くの無関係ではなくなった事だし、『手出し』というか、本気を出しても良いか?」

「? 一体、何を言っているのかしら、手加減なんて不要よ。まあ、全力で来ても結果は同じだと思うけれど」

 シェンナさんは、男が口にした言葉の意味を図りかねて一瞬困惑する。

しかし、直ぐにそれを自分に対する挑発の類いだと理解して挑発で応えた。

「では、遠慮なく」

 男は、満足そうに笑うと、身に着けていた腕輪を外して足元へと落す。

「?」

・・・?

 男がしたその行為の意味を、彼以外の誰一人として理解していなかった。

 しかし、本能的にその場の空気が大きく変わった事だけは感じ取る。

「本来、人間相手に使う力では無いが、貴女の目を覚まさせる為の荒療治だ。恨まないでくれ」

 その情けを示す言葉とは裏腹に、男の瞳には、一切の迷いが存在していなかった。

『《神聖なる御神楽舞》!』

 言い放たれた《力奮う真名》に応えて、男の全身に強烈な波動の神聖オーラが宿る。

『…』

 その場にいた全員が、彼が示した力に畏怖いふの身震いを覚えていた。

 そして、次の瞬間、その超絶なる力を宿した連続攻撃が、敵対するシェンナさんへと叩き込まれた。

「っ!」

 悲鳴を洩らす事すら許されず、シェンナさんは、一瞬で気絶する。

「おっと!」

 男は、シェンナさんの身体が地面へと叩きつけられる前に、素早く巡らせた腕で彼女の背中を支える。

 そして、片手でふところから回復薬の小瓶を取り出すと、そのせんを歯で抜いて、中身を彼女へと振り掛けた。

「…うーん」

「流石に遣り過ぎたか…。しかし、貴女があの《バジリスク》の幼獣相手にしようとした事は、俺が貴女に対し、本気の力をぶつけたコレと同じ事だ」

 目を覚ましたシェンナさんに苦笑を示し、男は、説教の言葉を口にした。

「あの鳥モドキは、洒落シャレにならない悪戯イタズラばかりするのよ! それにお仕置きするのは当たり前でしょう!」

 シェンナさんは、だ自由にならない身体を震わせて、男へと反論の言葉をぶつけた。

「幼獣とはいえ《バジリスク》が、人間に特別な危害を与えない程度になつくのは、極めて珍しい事だ。『悪戯』という事は、別に人間を襲って喰ったりする訳ではないのだろう? 多少の事ならば大目に見て、仕置きに手加減も必要なんじゃないかな」

『そうだ! そうだ! 兄貴ぃの言うとおりだぞ。皆、オレに優しくしろ! もっとオレを甘やかせ!』

・・・嗚呼、不思議生物が調子に乗っています。

「おいおい、余り調子に乗るな、珍獣。別に俺はお前の完全な味方という訳ではない。というか、お前が『悪戯』に過ぎて、他者へと危害を加える存在であるならば、俺は容赦なくお前を狩るぞ。《守護者ガーディアンブレード》を持つ者の誇りに懸けてな」

 男の言葉と何よりもその鋭い眼差しに射竦いすすくめられて、不思議生物の表情に動揺が浮かぶ。

『クェー! な、何を言ってるんだよ、兄貴ぃ! オレは良いコだぜ。そう、あの空に浮かぶ雲よりも潔白だぜ!』

・・・大嘘つき!

 私は、思わず心の中で突っ込んでいた。

 そして、それは他の面々も同じ思いである事が、そのあきれ返った表情からうかがわれた。

「まあ、それなら良いが…。取敢えず俺を『兄貴』と呼ばないように、俺の《ばじりすく》の異名いみょうを持つ義妹が、妖獣である《バジリスク》のお前と混合されて益々迷惑するからな。それと主であるそのにも余り迷惑を掛けるなよ。正直、お前みたいな先入観で嫌遠けんえんされる種族を、気に懸け案じてくれる存在なんて、稀有けうに近い。彼女の優しさに対し、もう少し感謝しておけ。まあ、生命の恩人として、他にも言っておきたい事は多々あるが、実際、俺も暇では無いからな、これ位で勘弁しておこう」

 付け加えるように『丁度ちょうど、迎えが来たみたいだしな』という言葉を口にして彼は、視線を私達の後ろへと向ける。

そこにひょっこりと現れたのは、不思議生物と同じ《》とは思えない程に、可愛らしい存在であった。

『マスター、急にいなくならないで下さいデス。心配したデス』

「ああ、済まなかったな、スィーナ。このお嬢さんと少したわむれていただけだ。それに、ここで寄り道した御陰で、ルティナのいわれの無い悪評の原因も分かったし、その解決もできた」

 セティと呼ばれた男は、迎えに来た相手に応えて、優しさが込められた爽やかな笑みを浮かべる。

『マスター、不誠実はご自分のクビを絞める事になりますよ。そのお姿をアルディナ様に見られたら、「誤解だ」という言い訳もしようが無いデス』

 そう呆れ半分に言うスィーナちゃんは、残りの半分で主が身を置く状況を面白がっていた。

「ばっ、莫迦バカを言うな。それこそ『誤解』だ!」

 自分がシェンナさんの身体を抱きかかえている構図を指摘され、セティさんは、慌てた様子で腕を引き抜いた。

「えぇーっ、ちょっと、いきなり放り出さないでください!」

 両足を踏ん張って転倒をまぬがれたシェンナさんは、抗議の言葉と眼差しでセティさんを射る。

「ああ、済まない。ちょっと、乱暴にし過ぎたかな」

 その言葉には、余り悪びれた感が無かった。

『マスター、反応が面白いデス』

『クェー! ケッケッケェーっ!』

 大きく丸い瞳を細めて笑うスィーナちゃんと、それに乗じて大笑いする不思議生物。

「奇声を上げて笑うな、珍獣!」

 笑っているのは同じなのに、不思議生物にのみ一喝いっかつするセティさん。

 それに対し、一喝された不思議生物は、声を出さずに無言で笑い続けていた。



「さてと、事も一応は納まったみたいだし、俺達は本来の目的に戻るとするよ」

 そう私たちに告げて、セティさんは、崩れた威厳を取り戻すように表情を引き締めた。

「はい。色々とご迷惑をお掛けしました」

いや、自分から首を突っ込んだ事だ。礼には及ばないさ」

 感謝する私にそう返すセティさんの言葉からは、貫禄というモノが感じられた。

 しかし、それにしてもこの人は、一体何者なのだろうか。

「ちょっと、格好カッコつけているのは結構ですが、忘れ物でしてよ」

 それまでの経緯いきさつが影響した何処どこか含みのある言葉を掛け、シェンナさんは、セティさんが外し置いていた双剣に手を伸ばす。

「危ない!」

『?』

 慌ててそれを制止するセティさん。

その言葉の意味を理解できず疑問符を浮かべる私達。

「きゃっ!」

 シェンナさんは、つかんだ双剣を持ち上げようとして、洩らした悲鳴と共に前のめりとなって豪快に転んだ。

「遅かったか…」

 その展開を予測していたかの如く、セティさんが悔恨かいこんの言葉を口にした。

「ちょっとぉー、何なのですか、コレ!」

「本当に済まない」

 セティさんは、シェンナさんの抗議に対し、今度は先刻と違った真剣な反省の言葉を口にする。

 そして、自らの武器であるそれを拾い上げて、腰の剣帯に戻した。

「この剣は特殊なモノでな。主である者以外には、比重に《制約》が課せられるんだ。まあ、要するに、異常に重くて持てないだけなんだがな。一瞬だけとはいえ、良く持ち上げられたモノだ。流石は《神聖なる御手》の使い手、『聖信の値』がかなり高いのか」

 この世界に於いて、《神》と呼ばれる特異の存在が認める善行に対しはかられる値。

それが『聖信の値』である。

 妙に感心するセティさんに対し、シェンナさんが胸を張る。

「そうね、自慢じゃないけれど、ざっと百二十はあるかしら。ふっ…、私のお嬢様に対する愛情の深さに比例していますのよ」

「そうか、それなら俺のスィーナに対する親愛の深さは、その三倍以上は在るという事になるな」

・・・えっ!?

 事無げに言う口調に聞き逃す所だったが、彼の『聖信の値』は三百六十以上在るという事になる。

 普通、百五十を越えた時点で『聖者』と呼ばれる位のレベルだった。

 それを二倍以上でぶっちぎっているセティさんって…。

・・・アレ? セティ…?

・・・えぇー!!

「も、若しかして、セティさんって、あのセティさん!? 《マスター・オブ・ヒーロー》! 《英雄皇》ですか!」

「ああ、まあ、多分、そのセティだよ」

 私のはしゃぎよう気圧けおされたのか、セティさんの表情には、怯えにも似たモノが浮かんでいた。

『マスターは、こう見えても、結構、繊細な所が多いので余り刺激しないであげてくださいデス』

「…放っておいてくれ」

 何か照れ隠しのように憮然ぶぜんとするセティさんの反応に対し、私は、苦笑を浮かべて誤魔化した。

「…あの、私強くなりたいんです!」

 かつてこの世界に巻き起こった《光と闇の争乱》を鎮め、甦った《邪神》を討った『栄光の八英士』の一人である存在を前にして、私は、興奮のままにそう口にしていた。

 それに対するセティさんの反応は穏やかであったが、何処か淋しそうな色をその表情に浮かべていた。

「ああ、そうか。そうだな。冒険者である以上はそう望むのも当たり前だな」

 曖昧あいまいというよりは、困惑に近い口調で答える彼の姿に、私は、自分の失態に気が付く。

「あの、違うんです! いえ、違わないのですけれど、やっぱり違うんです! えっと、そういう意味じゃなくて…」

 私は、誤解と失敗を何とかしようとしどろもどろになって訴えた。

「ああ、分かったから、取敢えず落ち着いてくれ」

 私の態度から、何かを察してくれたのか、セティさんの表情には、優しい笑みが浮かんでいた。

「はい、済みません。あの私、貴方に甘えようとか、そういうんじゃなくて、良かったら教えて欲しいんです。如何したら、貴方の様に強くなれるのかを」

 決してそれは上手な伝え方ではなかったと思う。

 それでも、セティさんは、納得するように頷いてくれていた。

「成る程、キミの気持ちは分かった。しかし、それは俺が如何こう出来る事では無いな」

「ちょっと、それは少し冷たいのではありませんか」

『そうデス。冷た過ぎます、マスター』

 セティさんの返答に、シェンナさんとスィーナちゃんが抗議の声を上げてくれた。

「二人共、他者の話は最後まで聴くように」

 話の腰を折られた事を指摘して、セティさんは、言葉を続ける。

「俺が言いたいのは、キミに俺と同じ強さを求めてられても、それを与えるすべを俺が持っていなという事だ。まあ、正確に言えば、俺の力は俺のみの固有ともいえるモノだから、他の誰にも同じようにはなれないという事だな。それに関しては、スィーナ、お前の方が良く知っているだろう」

『はい。身体的能力や天性の特性という点で、貴女がマスターと同じ経験を積んだとしても、成長の程度に大きな差が生じるのデス。マスターと同じ稀有な特性を持つ者である雷聖様ならいざ知れず、というのがワタシの見解デス』

 スィーナちゃんの解説を受けて、セティさんがハッとした表情を浮かべた。

「そうか! 彼なら、キミの要望に応えられるかもしれない…って、あのヒトを捕まえる事の面倒を考えれば、時間の無駄遣いに過ぎないか…」

 セティさんは、自ら導き完結させた『答え』に落胆らくたんする。

「それ以前に、大切な事をき忘れていた。如何して、キミは、強くなりたいんだ?」

「あの私、凄いドジで、何時も皆に迷惑ばかり掛けていて、その中に大好きなヒトがいて、それで少しでも強くなって、そのヒトの役に立ちたいんです!」

 セティさんの尋ねに対し、私は、その答えでもある『想い』を一気に口にした。

 少しくし立てて喋り過ぎたと反省する私の瞳に、微妙な反応を浮かべるセティさんの表情が映った。

「済みません。ちょっと取り乱してしまいました」

「否、そうじゃなくて、懐かしい台詞を聴いて少し驚いただけだから」

『はい、本当に驚きです。マスターには、「彼女」達みたいな方を引き寄せる因果が在るのでしょうか』

 私の『台詞』というモノにしみじみとするセティさん達の姿に、私は、困惑の表情を浮かべる。

「いやいや、そうか。それならば、話は早い。これはくまで俺からの助言に過ぎないが、キミの場合、強さを求めてそう焦るべきでは無いな。焦れば焦るほど物事が上手く行かなくて、それが更なる悪循環を生じさせる。そう思うのだが」

「焦り過ぎての悪循環、ですか?」

 私は、セティさんが聴かせてくれた助言を一言にまとめて尋ねるように口にした。

「そう。我が身を振り返れば他者の事は余り言えないが、無理をし過ぎればそれがたたって良くない結果を招くという事だ。大切なのは、自分に何が出来て何が出来ないのかを見極め、そこから、何をするべきかを知る事だな。修練と言っても、長所を伸ばすのか短所を補うのかでその方法もかなり違ってくるモノだ」

『そうデス。焦ると大切なモノを見失いのデス。先ずは、落ち着いて冷静に物事を見極める事デス。冒険者といえども、唯、危険を冒せば良い結果が得られるとは限りませんデス』

 セティさん達の助言に、私は、納得し頷いていた。

「そもそも、少し位の失敗で迷惑だなんて考えず、思い切ってってしまえば良いんじゃないか。そこから絆をつちかえるからこその『仲間』だと俺は思うけどな。キミの想い人はその程度で、キミを見捨てる存在なのか?」

「お姉サマは、そんな人間ではありません!ちょっと、意地悪な所は在るけれど、本当にとても優しい人間です!」

 私の威勢のいい言葉にセティさんは一瞬だけ驚き、それから直ぐに笑顔を浮かべた。

「いや、失敬。知らない相手の事を無闇にはかるべきではなかったな。それに何よりも、キミの想い人である彼女に対する想いに対し失礼をした。本当に済まなかった」

 軽口に聞こえるその言葉の中には、全てを察し理解した上での真摯しんしな想いが込められていた。

「私の事を変だとか思わないのですか?」

「否、別に。人間、抱く愛情の形なんてそれぞれに違うモノ。キミの心に在るのが純粋な愛情であるのならば、それで充分だ。それに、キミのその想いを否定する事は、《神》に『全ての自由を許す』という『理』を認めさせた俺の盟友達に対する裏切りだからな。く言う俺も、他者に自分の想いを認めさせる為に戦い、《英雄皇》の名を頂くに至った身の上だ。俺と俺の盟友達がこの世界で《栄光ターく者》の称号をかんし続ける限り、キミが抱く『想い』も、そして、そこから生まれた『夢』も、他者に打ち砕かせる事はさせない。それが《英雄皇》である俺の『夢』の一つだ」

『マスター、カッコイイーデス! 素敵デス! そんな恥ずかしい台詞セリフを恥ずかしげも無く言えるマスターは最高デス!』

 スィーナちゃんの喝采かっさいの言葉に他のみんなが苦笑する中、私は、セティさんの強さの理由が、その意思にこそあるのだと理解していた。

「スィーナ、それは決してめてないから。というか、お前のお陰で何か色々な事に疲れた。俺は引きもる。だから、しばらくの間、俺を独りにしてくれ」

『済みません、マスター。調子に乗り過ぎましたー、お許しをぉー!』

 何か地雷を踏んでしまったと思い慌てるスィーナちゃん。

「駄目だ、許さない。反省の為、その娘の支援をしてやれ。《ばじりすく》を育て上げたルヴィナ嬢に負けない成果を期待しているぞ。では、皆、良い夢を! さらば!」

 伝えるべきを伝えたセティさんは、状況に唖然あぜんとする私達を放置して、一瞬で姿を消した。

『あの、あの、ワタシはどうすれば…? マスター、ひどいデス。ぐすん…』

 後に残されて呆然とするスィーナちゃんを前にして、私は、セティさんの好意を理解していた。

「あのスィーナちゃん、否、スィーナさん。お願いします、私の師匠になってください!」

 セティさんは、『支援』と言い表したが、私が求めるべきは『指導』である。

『うん、良いデスよ。ワタシ、頑張るデス。そして、マスターにもう一度、パートナーたる存在として認めてもらうデス。頑張れ、ワタシ! ふぁいとー! オー!』

 涙でウルウルの瞳で自分を励ますスィーナさんの姿に、私は思わずときめいてしまっていた。

「そうです! ファイトです! オーです! やりましょう、師匠!」

 私は、健気けなげなその姿に自分の姿を重ね合わせて、一緒になって励まし盛り上がった。


「えーと、カポちゃんさん。先刻は、本当にごめんなさいでした」

 私は、もう一度、不思議生物、もとい、カポちゃんに体当たりした事をびて頭を下げた。

「いえいえ、お気になさらないで下さい。この鳥モドキは、何時も大袈裟おおげさに振る舞いますから」

『オイ、メイド! 勝手に話をまとめるな!』

 調子づくかカポちゃんに、シェンナさんは辟易へきえきとした視線を返した。

『《魂震わせる沈黙の鐘》!』

『? …っ! !?!?!?』

 スィーナさんの《魔導》の力によって言葉を封じられたカポちゃんが、バタバタと暴れるのを黙殺ムシして、プリナちゃんが口を開く。

「こちらこそ、ウチのカポちゃんが迷惑を掛けてごめんなさい」

 プリナちゃんは、飼い主としての責任を感じて、代わりにお詫びの言葉を口にした。

「迷惑だなんて、私が悪かったのです」

『皆で反省して譲り合いデス。美しいデス。うんうんデス』

 スィーナさんは、私達の遣り取りに満足げの様子で何度も頷いた。

「では、私達はこれで失礼しますね。良い夢を!」

 私は、プリナちゃん達二人と一匹に、礼儀である挨拶を告げて、その場から去ろうとする。

「待って、貴女のお名前は?」

 その呼び止められた言葉に、私は、自分が自己紹介を忘れていた事実に気が付く。

「えーと、ファーナです」

「私はプリナ。それで、コッチがシェンナさんで、アッチがカポちゃんです。よろしくね」

 『こちらこそ、宜しくです』と返して、私は軽くお辞儀した。

「あのファーナちゃん。不躾ぶしつけですが、私とお友達になってください!」

 それは確かに突然の申し出ではあったが、私に依存がある訳が無かった。

「うん、喜んで! では、改めて宜しくです、プリナちゃん」

『仲良しは良い事デス。うんうんデス』

 スィーナさんの言葉に、私とプリナちゃんに加え、シェンナさんの表情も笑顔にほころんだ。


こうして、私に新しい友達と頼れる師匠という二つの掛け替えの無い存在が増えた。

 勿論もちろん、カポちゃんやシェンナさんもその中に含まれている。

 そして、セティさんの存在も又、それと同じであった。

 何時かは、私も、彼の様に本当の意味での強さを持つ存在となれるのだろうか。

 それを『夢』に見て良いのだろうか。

 多分、いえ、間違いなくそれで良いのだろう。

 だって、ここは『全ての自由が許された』『夢』に活きる為の世界なのだから。

 だから、先ずは、プリナちゃん達を連れて、シルクお姉サマ達を迎えに行く冒険に出よう。

 それは無理をしない冒険であり、自分が、否、自分達が何処まで行けるかを知る為の冒険である。

「ああ、早くシルクお姉サマの胸に飛び着きたいな」

 私は、そんな想いを口にして、何処までも蒼く澄んだ空を見上げた。


 この物語は、天逢元帥氏原作の『ちょいあ!(①~③発売中)』と『ラーメンの鳥 パコちゃん(①~③発売中)』を基にした二次作品にもならない程度のパロディです。(←ですよね、運営さん?)

(一部のキャラは天然派生である事は、あしからず)

 興味が湧いた方は、(是非にも)原典の方こそを一読ください。


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