転生コーディネーター
「ちーすっ!」
「んっ」
次に航平が目覚めたのは、軽薄なギャルっぽい声を掛けられた時だった。
目を開くと、瞳の大きい黄緑色の髪と濃紺のブレザーにスカートを履いた女子高生風の女性だった。
女子高生と思わなかったのは、背中に天使のような翼を生やしていたからだ。
「ここは?」
周りを見渡すと、真っ白だった。
霧か、雲の中みたいに白く輝いていた。
「死後の世界だよ」
「やっぱり」
彼女が答えると、航平は納得した。
殺されて目覚めたのが病院以外で非現実的な光景では死後の世界というのが妥当だ。
「で、天国に行く途中? それとも地獄? 痛いのは勘弁して欲しいんだけど」
とりあえず航平は彼女に尋ねたが、彼女は首を傾げつつ答えた。
「うーん、どちらでも無いな。転生するから」
「? どういうこと?」
訳が分からず航平は尋ねた。
「簡単に言うと生まれ変わるって事。今まで生きていた世界から別の世界へ生まれ変われるって事」
「何故、僕が?」
「いや、皆やっていることだし、記憶が無いだけでね。時折記憶を保持したまま生まれ変わることもあるけどね」
「じゃあ、君は案内人と言ったところ?」
「ニアピン。正解は転生コーディネーターのフェイトちゃん。次の転生を心地よいものにするため、お手伝いをするのです。転生する方に喜んで貰い、納得出来る転生を行うのが私の役目です」
ばしっと変身ヒロインの様な決めポーズを取ったフェイトだったが、同名キャラクターのファンからババア引っ込めと言われかねない出来だった。
「なるほど」
そんなことをおくびにも出さず航平は、適当な相づちを打った。
「じゃあ、早速行きましょう」
「希望とか聞いてくれないの? 次はどんな転生が良いとか?」
ふと思い浮かんだ疑問を航平が尋ねた瞬間、彼女の動きが止まった。
「……いや、いちいち聞いていたら時間ないし、それに決まりきった人生というのも」
「僕が満足できない転生だと君の評価が下がるんじゃ?」
更に航平が尋ねるとフェイトは、黙り込み冷や汗を垂らした後、吐き捨てるように呟いた。
「……勘のいい人は嫌いだよ」
明らかにふて腐れた表情で彼女は不満を吐き出した。
「ああ、面倒くさい。色々、オプション付け加えるなんて面倒なんだよね」
先ほどまでのキラッとした雰囲気は胡散霧消し、フェイトは気怠そうな女子高生のような雰囲気になった。
「じゃあ出来るんだ」
明らかにやる気は無さそうだったが、ようやく容姿と行動が一致し、航平は気安くフェイトに尋ねる事が出来るようになり、次々と話しかける。
「うん、流し目にしたり、髪の毛をふさふさにしたり、やせ形の体型にしたり」
「高貴な家の生まれで、船に乗れて、何かチートな能力があって出来れば美形になりたいんだけど」
「だああああっ、色々出自注文して来やがった」
両脚を広げ、両手で頭を掻きつつフェイトはのけぞる。
「出来ないの?」
とりあえず言ってみるだけ言ってみる。希望通りの人生が過ごせなかったのだから、次の人生は思い通りに生きてみたい。
なので航平はフェイトに尋ねた。
「まあ、ご依頼とあらば検討しますよ」
すぐさま取り乱した態度を改めてそう言うと、胸のポケットから何やら端末のような物を取り出して入力し始めた。
「一応言っておくけど、人には転生ポイントという物があって、その範囲でいろいろ次の転生で使える能力とか特徴とか選べるの。だけど、あなたが言った特徴、特に出自はポイント高くて直ぐにオーバーしちゃうよ。まあ殺されたという不遇もあってボーナス付いているけど、よほどのマイナスポイントの特徴や能力を入れないと、叶わないと思うよ」
「世知辛いな。でも物は試しでやってみて」
出来ないかもしれないが何もしないよりマシだと思い航平はフェイトに少し強く押していった。
「うーん、まあ、ダメ元で調整してやってみて、とうっ! え……」
入力し終わった彼女は絶句した。
「どうしたの?」
オーバーしたのだろうか。
「……通っちゃった」
航平が頼んだ特徴を全て入れて通ったことにフェイトは一瞬絶句したが直ぐに大声で笑い出す。
「あははははっ、流石フェイトちゃん、やれば出来る子。あんなチートマシマシ、リア充込み込みな願いを通しちゃうなんて、私ってば天才」
腰に手を当てて高笑いするフェイト。
「じゃあ、これでいいのね!」
「う、うん」
フェイトの勢いに航平は思わず、一緒になって頷いてしまった。
「では本人の意志も受け入れたので決定!」
ポチッとな、と言う声と共にフェイトは決定ボタンを押した。
「大丈夫なのかい?」
そんなフェイトが入力前にマイナスとか不吉なことを言っていたので、航平は不安になって聞いた。
「いーじゃん、いーじゃん。こんなに入れて通るなんて滅多に無いんだから。このまま行っちゃおうよ」
「え? でも」
「さあ、恐れずに前に進もう! 新しい人生はあなたの物だ!」
フェイトが叫んだ瞬間、当たりは一層強い光に包まれる。
「やっぱり取り消しで」
フェイトの言葉が怖くなって航平は取り消しを求めたが
「決定後の変更は認められておりません!」
「クーリングオフを」
「そんなのこの世界にありません。人間の都合なんて通用しません」
自分で決めて一旦は良しとしたんだから、ぐじぐじ言っていないで、進みなさい!
そんなフェイトの言葉を最後に聞いて航平の意識は消えていった。