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魔術

「カイル凄い!」


「ふぎゅっ」


 ゴードンとの試合が終わった後、レナがいきなり抱きついてきた。いきなりの事で、刀をレナに当てないように注意するのが精一杯だ。


「どうやったの?」


「東洋の武術だよ」


「行った事があるの?」


「父がね」


 東洋艦隊参謀長の時、東洋の島国瑞穂の武士という身分の人達に習ったそうだ。そして刀と共に帰国してカイルに教えた。


「その年で覚えるなんて凄いわね」


「ありがとう」


 転生前に時代劇や、劇画、明治の剣客を描いた漫画などを読んだりしてイメージが浮かびやすかったのもある。

 どうも、イメージが明確にあるとこのエルフの身体はその通りに動いてくれるようだ。

 もっとも非力で泣くことも多いが。


「あなたならドラゴンや魔術師も倒せそうね」


「いや無理だよ。魔術師は」


「なんで?」


「苦手なんだよ魔術師は」


「ふーん、まあ、魔術師に会うことは殆ど無いし」


 かつての大帝国時代は魔術全盛の時代となったが、暗黒時代と共にその多くは失われ戦争で魔術師の数も激減し、今では少数しか残っていない。

 多くは国や貴族に雇われているが、適性の有る者は少なく、出会うことは殆ど無い。

 そのため、科学が徐々に発展し銃や大砲が発明され使われている。

 滅多にいない魔術師を警戒する必要はないのだが、甲板に倒れたゴードンは耳ざとく、その言葉を聞いていた。




「本日は、魔術師に対抗する訓練を行う」


 翌日、リドリー艦長の紹介と共に、ゴードンが手配した魔術師がフォーミダブルの艦上に現れた。

 カイルの言葉を聞くと、直ぐに立ち上がり、陸のフォード家に連絡して配下の魔術師を送って貰うと共に、リドリー艦長を最先任候補生として対魔術士訓練が必要だと、熱心に訴え許可を得て乗艦させたのだ。

 この手の事には、手際よく行うゴードンだというのはカイルはよく知っていた。この手際を、海尉に必要な技能取得に役に立てれば良いのに、と思うのだが。


「では、ミスタ・クロフォード。最初に行け」


 ぞんざいな言葉でゴードンが声を掛けてきた。


「おい、ミスタ・クロフォード。行くんだ」


「! は、はい!」


 魔術師と言うことで、緊張しているカイルは一瞬対応が遅れて、殆ど生返事で答えた。


「いえ、私が」


 カイルの緊張と魔術師相手が苦手だと言うことを昨日聞いていたレナが代わりに立とうとするが。


「ダメだ。苦手は克服しなければならない。特に若い奴にはチャンスを与えないとな」


 だがゴードンは拒絶した。

 明らかにいたぶるのを喜んでいるように見える。


「……行くよ」


 カイルは決然と言った。


「大丈夫なの?」


 目に光が殆ど無いカイルにレナは尋ねた。


「仕方ないよ。これも必要な事だ」


 もう既に死を覚悟したような、悲壮な覚悟でカイルは対戦位置に出て行った。

 そして、昨日と同じように刀に手を掛けて抜刀の構えを取った。


「準備出来ました」


「よし。では、はじめ!」


 殆どだまし討ちのようにゴードンは、いきなり開始を伝えた。

 魔術師は魔方陣構築、詠唱魔術と無詠唱魔術、そして魔方陣構築により魔術を発動させる。予め作っておき魔力を入れて発動する魔方陣、詠唱により魔力を高める詠唱魔術の方が威力が大きい。無詠唱魔術だと威力が遅れるが、一、二秒で発動し撃つことが出来る。

 そのため、対魔術師戦では、魔術が発動する前に出て行く必要がある。

 その猶予をゴードンは与えなかった。

 レナが抗議しようと口を開いた瞬間、カイルは既に飛び出した。

 無詠唱魔術発動中の魔術師が気付いたときにはカイルは目の前に現れて、鞘に差したままの刀を魔術師の横面に叩き付けた。

 魔術師は、ロールプレイゲームの様に接近戦に弱い。カイルの打ち付けた刀の鞘をまともに食らって魔術師は、横に吹き飛んだ。


「へっ」


 あまりに素早いカイルの行動にレナは勿論、ゴードンや他の士官達も追いつけなかった。ようやくカイルが攻撃したことを認識したときには、吹き飛んだ魔術師の元に、カイルが鞘の先端を魔術師に叩き付け追い打ちをかけている所だった。


「……って待った!」


 やり過ぎな行為にレナが駆け寄ってカイルを後ろから羽交い締めにする。嵌められた被害者はカイルだが、仕返しにしてはやり過ぎだ。


「止めなさい! もう勝負はついているでしょう!」


「魔術師は早めに倒さないと」


「カイル!」


 何かに取り憑かれたように、打撃を続けるカイルにレナが怒鳴り、ようやくカイルは、打撃を止めた。


「あ、レナ」


「あ、レナじゃないわよ。どうしてこんなことをするの」


「いや、魔術師相手には先手必勝が」


「そうだけどやり過ぎでしょう」


 そう言って魔術師の方を指さすと、顔面をボコボコにされた魔術師が怒りに満ちた表情で魔法の詠唱を始めていた。


「え?」


 レナは魔法を使えないが、父の部下に魔術師がおり、魔法のレクチャーと対魔術士の基本を教わっている。

 そして詠唱魔術は魔力を込められる分、威力が高い。特に魔力を込めた言葉で空中に魔方陣を描くのは高威力であること。

 予め地面に魔方陣を書くよりは威力が落ちるが、戦場で使える魔法としては詠唱魔術が最高だと。

 そして今魔術師が生み出しているのは、常人なら死にかねない威力の魔法だった。


「カイル」


 叫んだときには、レナの力が抜けた隙を突いてカイルは脱出し、レナを突き飛ばした。

 そして、魔法の威力範囲外に出たのを確認してカイルが安堵したとき、魔法が発動、巨大な電撃が、魔方陣から伸びてカイルを直撃した。


「カイル!」


 直撃した威力で一瞬、煙が周りに立ちこめ視界を無くしカイルの姿は見えなくなった。

 海風が吹いて煙を払ったとき、そこに立っていたのは、無傷のカイルだった。


「え?」


「え?」


 先ほどの魔法は即死レベルのものだったことは誰が見ても明らかだった。

 一応、彼らも海軍士官として船や兵装と同じく戦争で使われる魔法について勉強していたし艦隊付の魔術師の実演を見て知っている。

 なのでカイルが平然としていることに全員が唖然とした。

 当のカイル自身がどうして無事なのか他の誰よりも解らず、そして全員の注目を浴びて戸惑っていた。

 数瞬の静寂のあと、先に動いたのはカイルだった。


「ぐわあああああっ、ぎゃああああっ」


 突然、痛がるような声を上げて背筋を後ろにそらせ両手で頭を抱えている。

 余りにもわざとらしさに、誰もが余計に口をきけず、本当は熱くないのに熱い振りをする芸人の動きがあからさまで白けている舞台状態となった。


「ううう、やはり魔術師は強い。重傷なので医務室に行きます」


 白々しい台詞を言ってカイルは、甲板を後にした。


「一寸カイル」


 後から追いかけてきたレナがカイルに話しかけた。


「あんた大丈夫なの?」


「あ、まあ、怪我した、かな?」


「何で疑問系なの」


 そう言ってカイルの様子を見るが、服の一部が焦げ付いただけで全く平気だった。


「どうして大丈夫なの?」


「まあ、あの程度だったらね」


 元々エルフは魔法への抵抗力が強い。そのためカイルは魔法に抵抗するが得意だった。


「ファイアーアロー五〇連発喰らうかと思って、必死に抵抗したんだ」


 エルフが強いとされる理由の一つに魔術に対する抵抗力がある。一節には人間の数倍から十倍の耐性があり、大概の魔法を弾き飛ばすと言われている。

 カイルはその血を次いでいるのか平気だった。


「けど、魔術師の人も手加減してくれたのかな。一発で済んで助かったよ」


 それでも魔法に恐怖を抱いていたカイルは、連続攻撃を警戒していたのだが、弱い魔法一発で済んで、ホッとしていた。


「いや、あれ、本人の渾身の一撃だったぞ。というか、ファイアーアロー五〇連発って神話の魔術師級よ」


「魔術師なら普通にファイアーアローの五〇や一〇〇は放てるんじゃ」


「そんな奴、ごろごろ居てたまるか」


 カイルの言葉にレナがツッコンだ。何十連発も放てる魔法使いなどいてたまるか。二連続でさえ珍しいのに何十発と放たれるなんて恐怖としか言いようが無い。

 それを普通だというカイルに何か一言言わなければと思いレナが口を開いた。


「なに」


 だがその時、甲板上が騒がしくなってきた。

 カイルとレナは、引き返して甲板に上がると、陸から伝令を載せたボートがやって来て、リドリー艦長に指令書を渡している所だった。


「何があったのかしら」


「し、今言う所だよ」


「乗員諸君を甲板に集合させたまえ」


「はっ。総員! 甲板に集合!」


 ラッパと共に海兵隊の鼓笛手がドラムを叩いて、艦内に集合を伝える。

 ものの数分で当直を除く全ての乗員が集合した。


「諸君、只今鎮守府の予備艦隊司令部より命令が届いた。昨今、マグリブ周辺に置いて海賊の活動が活発化し、各国商船に被害が出ている。帝国政府は諸外国と調整の上、マグレブ海賊の討伐に艦隊の派遣を決定した。そのため当ポート・インペリアル鎮守府予備艦隊より三等艦サンダラー、六等艦アキロンおよび六等艦ブレイクを現役復帰させる。当艦よりこの三艦へ必要な乗員を転属させるべし」


 指令書を読み上げた後に、リドリー艦長は命じた。


「諸君、いよいよ時が来たようだ。これより人選を行い、明日の朝には選出する。明後日には所属の艦へ移動せよ」 

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