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剣術

「さて、諸君ら候補生に、いや海軍士官に絶対に必要な知識の一端は、この数日の講義で頭に入ったことだと思う」


 数日にわたる講義と演習で候補生の殆どは、頭の使いすぎでグロッキー状態になっており、艦長の言葉に力なく頷いた。

 その様子を見たリドリー艦長は一旦言葉を切ると伝えた。


「しかし、頭ばかりで身体を動かさないのは宜しくない。そこで今日は、剣術の訓練を行う事とする」


 帆船の海戦は遠距離、と言ってもほんの数百メートル程度での大砲の撃ち合い後、接舷して斬り込むのがメインだ。

 銃はあるが、前装式のフリントロック銃の為、一発しか撃てない。

 そのため、剣や槍による接近戦で制圧する必要がある。

 特に刃渡りの短いカトラスやサーベルが重要になる。狭い船の中では、長い剣を振り回すと柱や壁、天井に当たってしまうので使える機会が少ない。

 なのでサーベルやカトラスで戦う事になる。


「いよいよね」


「楽しそうだね」


 嬉しがるレナにカイルは声をかける。


「だって、ずっと習ってきた剣の腕をようやく披露できるんだもの」


 自分の得意分野の訓練が受けられることにレナは喜んでいる。

 陸軍の将軍の娘なだけに剣術の訓練は受けているようだ。


「カイルはサーベルの方は?」


「父から少し習っただけ」


 そう言って、自分の得物を出す。


「変わった剣ね」


「父が東洋艦隊に居たとき、訪れた国で購入したんだって。業物だって」


「使えるの?」


「結構ね。何しろカミソリみたいに切れるのに鉈のように頑丈で」


「おい、あまり調子に乗るなよ」


 だがそんな二人にドスの効いた声を掛けてくる人物がいた。


「ミスタ・フォード」


 目を血走らせ、隈を作ったゴードンだった。

 この数日間両舷直を命じられて寝不足のようだ。

 眠れず疲労とストレスが溜まっているが、そのせいか闘志に溢れている。


「貴様ら、覚悟しておけ」


 捨て台詞を言うと、彼らとは反対側の方向へ歩いて行った。


「ねえ、ゴードンって剣が得意なの」


「彼から剣を取ったら何も残らないよ」


 フォード一族の同世代の間では粗暴者として有名で、その体格から繰り出される剣は非常に重い。

 そのため、彼に勝てる同世代はいなかった。


「まあ、いたぶるのが好きだったからね」


 自分より小さい同世代を巨躯を生かして、吹き飛ばすの事をよく行っていた。


「あんたは大丈夫だったの?」


「逃げ回っていたよ」


 カイルは正直に答えた。あんな戦車みたいな奴を相手にしたら、小さい自分では押し切られてしまう。


「任せなさい。あたしが、こてんぱんにのしてやる」


「いや、あまり張り切りすぎない方が」


 だがレナはカイルが止めるのも聞かず、張り切っていた。

 訓練は一対一の試合形式で行われる事になった。

 型稽古の前に、それぞれの癖を確認しておきたいようだ。


「では私が、彼らを試しましょう」


 そう言って、名乗り出たのはゴードンだった。

 カイルが周りを見ても、ゴードン以上の剣の腕前を持つ候補生はいないようだ。


「ミスタ・ゴードンでは体格の差がありすぎる」


 指導者に任命されたパーカー海尉は渋ったが、


「宜しくお願いします!」


 そう言って前に進み出たのは、レナだった。

 止めようとしたパーカーだったが、自ら進み出たレナを押しとどめることは出来ず、ゴードンとの試合を認めざるを得なかった。


「両者構え」


 ゴードンもレナも右手にサーベルを持ち、左手を後ろに回して半身になり、相手に対して面積を少なくする。


「はじめ!」


 パーカー海尉の号令と共に試合が始まった。


「うがあああああ」


 合図の瞬間転生前にゲームに出てきたオーガを思い起こさせる、掛け声を出してゴードンは飛び出した。

 対するレナは一瞬怯むも直ぐに前に出て正面から迎撃しようとする。

 だが


「きゃっ」


 前に出るのが一瞬遅れて出てきた為、体勢を整える事が出来ずゴードンに押し切られてしまった。


「そこまで!」


 勝負は決まった。

 レナははね飛ばされ、甲板に倒れ込んだ。


「そのような為体では戦闘など出来ないぞ」


 悪意のある言葉だったが、誰も否定は出来なかった。戦闘になれば、接近戦となり誰もが銃や剣を持って戦う。

 その時は完全に個人戦となり、それぞれが前にいる敵を倒す。その時強敵に出会った時、弱いからと言って手加減される訳ではない。

 戦って負ければ殺される。訓練の試合でなければレナは殺されていた。

 だが、相手が悪かったことも確かだ。性格に難があるのも確かだが、ゴードンは候補生の中では最先任で相応の剣の腕がある。

 また体格差からレナが押し負けるのは仕方ない。それに訓練は各自の能力強化を行う事に意義があり、今弱くても訓練を通じて強くなれば良い。

 そんな雰囲気が流れていたが、ゴードンはお構いなしに言い放つ。


「次はミスタ・クロフォード。入ったばかりで碌に訓練も受けていないだろう。教えてやるからかかってこい」


 皮肉下に言っている所から見ても、カイルをいたぶる事を目的にしているのは明らかだ。

 だが、カイルはあえて前に出て行った。

 パーカーは止めさせようと思ったが、カイルが前に出てきたのでは致し方ない。


「おい、なんだそのおかしな剣は?」


 布がついた柄と黒光りのする幅広の鞘を見てゴードンがからかう。


「東洋の剣で刀という片刃刀です」


 正確には剣は諸刃作りで刀は片刃なのだが、説明が面倒なのでカイルはそういった。


「世界の果てのそんなへんちくりんな物が役に立つのか?」


「やめたまえ、兎に角両者、位置に付け」


 そう言ってパーカーは両者を、規定の位置につかせる。


「ミスタ・クロフォード。剣を抜きたまえ」


「いえ、このままで」


 カイルは鞘に左手、柄を右手にかけたまま動かない。


「戦う気がないのか?」


「刀身を出していない相手にびびっているのか」


 ゴードンの軽口にカイルが返すと、ゴードンの口端が歪み、サーベルを構えた。


「その長い耳を短くしてやるよ」


「はじめ!」


 小声でゴードンが呟いた瞬間、パーカー海尉の声が響いた。同時にゴードンが大きく振りかぶりカイルの左耳に向かってサーベルを振り下ろした。

 その瞬間、カイルは刀を抜いてサーベルに向かって振り抜く。

 身長の低く、刀身を振り上げるカイルにゴードンが上から振り下ろす形となり、カイルは潰されると思われた。

 だが、実際は違った。

 振り下ろしというのは、下に力を入れるため相手にぶつかった瞬間、反動で身体が少し軽くなる。一方振り上げた側は、相手の力を一身に受けるがそれに耐えきったとき、足が地面を掴む力は大きくなる上、相手を浮かし体勢を崩しやすく出来る。

 カイルはそれを狙って刀を受けた。エルフの筋力は非力だが、身体の姿勢を正しい位置に正しく動かせば、一寸の力でも耐えられることが出来る。

 カイルは、それを利用してゴードンの体勢を崩すと共に右に勢いをずらした。


「うおっ」


 いきなり右に逸らされて、ゴードンは大きく体勢を崩して甲板に倒れた。


「……! 勝者ミスタ・クロフォード!」


 思いがけない結果に全員が唖然とした後、パーカー海尉が思い出したように勝敗を告げた。 

お知らせ。

誠に勝手ながら、「小説家になろう」のシリーズ機能を使ってみようと思い翌日朝夕二回の投稿の後、新作投稿を行わせていただきます。

この入隊編の直後のお話しになりますので、引き続き、お読みいただければ幸いです。

もし、何か不具合などございましたら、メールや活動報告にご一報をお願いいたします。

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