第三話 綾香の話
じゃあ、自分からも、この街の不気味な話をひとつ。
ある、幸せな男女の話……と言うよりは彼女の話か。
彼女の名前は華と言って、彼氏を、ほかのものと比べ物にならないぐらい、溺愛していた。彼のペットに嫉妬するぐらいにね。
華の口癖は、『貴方が死んだら、私も後を追う。貴方が殺されたら、犯人をこの手で殺してやるわ』だった。ヤンデレ、ってやつだな。
だから、彼が死んだとき……いや、殺されたとき、が正しいかな。それを実行したんだ。
彼が死んだとき、すぐそばに猫が座っていた。華は直感的に、いや、ある意味、すがりつくようにそいつの飼い主が犯人だと、そう確信したんだ。
そして、その猫についていたタグから、飼い主を断定し……形が分からないぐらいにぐちゃぐちゃに、惨殺した。
ついでに猫も、泥のようにぐちゃぐちゃに殺した。
なぜか、猫の飼い主は嬉しそうな笑みを浮かべながら死んでいったらしい。右手に白い薔薇を握って。
彼女は満足して、げらげらと品の悪い笑いを何分も発していたよ。
病院の霊安室では、正反対に、ボロボロボロボロ、脱水症状になるんじゃないかと言うぐらい涙を零していたけどね。
__そういえば、柚子の話で思い出した。華は病院の帰りに、ガラスの一輪挿しに入った赤黒い薔薇が無人の病室に飾ってあるのが見えた、って聞いたな。
もしかしたら、美代子のあの血塗れの薔薇を見たのかもしれないね。