後編〜刑罰執行のとき〜
「やっと目が覚めたようだな。ここがどこだかわかるか?地獄だよ」
ゆりかが目を覚ますと、そばにいた男がしゃべりだした。地獄なんて子供だまし…だと思っていたが、自分がなぜここにいるのかはわからない。おまけにここがどこかもわからない。
「たいていのやつらは信じないんだがな…。まぁいい。お前は無免許運転をした、そして幼い子供を車で引いた。これじゃあ地獄にならないかい?えっと…325のお嬢ちゃん。」
ゆりかは地獄に来たことを信じたのか、男と向き合って話し始める。
「で、だったら私をさっさと死刑にしなさいよ。」
「おや?、まだ若いのに死刑かよ。」
「現実世界なんてつまらなすぎて面白いことなんかありゃしない。だったら、さっさと死んだほうが100倍ましよ。どうせ地獄にまで来て罰金とか懲役数年なんてことはないでしょ、って言うかそんなのだったらあきれちゃうわね。」
悪魔に向かってゆりかは日ごろの愚痴を言う。
「まぁ、お嬢ちゃんの言う意味がそういうことならば、おしえてやろう。うれしいおしらせだぞ。ここではなぁ、死刑はもっとも軽い刑のうちの1つだ。もっとも、ここ数百年の間、そんなに罪の軽いやつらは地獄になんか来てねぇがな。つまり、死刑になる可能性はゼロだ。」
そういうと悪魔は歩き出す。
「地獄を案内してやるよ、ついてきな。」
そしてエレベーターのような乗り物に乗った。悪魔はゆりかに囚人が受けている罰を見せてくれるらしい。
A-5というフロアに着いた。そこではなぜか囚人たちが殴られ蹴られを繰り返されている。
「こんなのが地獄?どっからどう見ても死刑のほうが重罪じゃない。」
「まぁ、あせるな。こいつらは自分の妻、子供を虐待したり、レイプを繰り返してきたやつらだ。だからこそ相応しい罰を与えられ続ける。次のフロアに行くぞ。」
A-4フロアに来た。そこでは爆弾の処理が行われている。
「こいつらは生前に6つのビルを爆弾で壊した殺人魔達だ。動機は特になし。日ごろの鬱憤を晴らすため、大規模な無差別殺人を爆弾を利用して行っていた。だから相応しい罰を与えられ続ける。」
「地獄の罰ってもしかして自分の罪の重さを被害者として感じさせるってこと?」
「あぁ、それに近い」
「さっきから見てて思ったんだけど、殴られたり蹴られたりは我慢すればいいだけと思うし、爆弾処理ってその爆弾で死んじゃったら終わるんじゃない?」
「いい質問だな。虐待のほうはもう30年ぐらい続いているはずだし、100年間刑罰は続く。まぁ、体が衰弱してしまわないように体を回復させつつ行っているから毎日というわけではないがな。そして爆弾魔のほうはもちろん殺さない、しかし生きられる限界まで痛め続けられるような類の爆弾だ。まぁ、爆発を阻止すればいいんだが爆発の時間は毎日変わる。爆発したら変わらないが、爆発しなければそいつが爆弾を解体した時間の30〜60秒前ぐらいに合わせられる。お前にも想像ぐらいつくだろう、生きていながら死ぬような痛みを与えられる。しかし死ねない。そして回数を重ねるごとに爆弾解体が早くなる。そのたびに爆発までの時間も短くなるんだ。わざとゆっくりやれば次の日も同じ時間に爆発する。しかし痛みが伴う。早く解体してしまえば痛みは伴わないだろう。しかし時間はぎりぎりに設定されているからいつも恐怖と隣りあわせだ。これは見ものだぞ。」
そしてまたいくつかの罰を見学した。詐欺師もいた。大会社の社長さんもいた。大富豪だって。まあ受けている刑罰の内容を見ればどういうことをしたか大体わかった。そして、みんな狂っていた。そして私の番が来た。
「何か現世の者たちに伝え残したいことはあるか?あるならいってやる。」
悪魔から聞かれた。もちろん私は伝えてもらった。犯罪だけは犯すな、地獄に来るようなことだけはするな、と。どうせ意味はないだろう…。私は経験者だから。
1年後、悪魔が新たな犯罪者を地獄見学につれてきた。
B-5フロアにて、
「こいつは、日ごろの鬱憤を晴らすために無免許運転をして、あげくの果てに幼い子供を車で殺した。そして刑罰として、こいつが車で殺した幼い子供と同じ名前の子供を育てているんだ。強制的に子供作らせるんだよ。おなかが膨らんでいってな、十ヵ月後に自らのおなかを痛めて生むんだ。そして5年間育て続けてちょうど五年後に目の前で殺されるんだ。最初はどうせ捨てる子供だと思えても、育てるうちに愛着がわいてくる。お前も女ならわかるだろう。もちろん地獄では刑罰終了まで年は取らない。普通の刑罰は刑期100年だがこいつの場合は1人につき5年…いや、おなかにいるときからだから6年かかる。だから、100人子供を育て続けるんだよ、そして100人の子供を愛する、そして100人の子供は死ぬ。」