スカーレット・パレード
あたしン家の前に、いつの間にか遊園地が出来てたんだけど。
「メイ、出かけるぞ! いいかげん、こんな所で寝てたらいかん!」
暗いお部屋でいつまでもウトウトしている私を見かねたのか、パパが急にそんな事を言いだした。
「出かけるって、どこに?」
目を擦りながら不機嫌にそう訊く私に、
「遊園地さ! お前が小さい頃、よく一緒に行ったじゃないか」
上機嫌でパパが答える。
パパと遊園地? いやよ今さら。でも……
いつまでも此処で眠っていたかったけど、何かが心に引っかかる。
しゃーないか。私は渋々布団から起き上がると、他所行きに着替えてパパと一緒に家を出た。
遊園地は家から歩いてすぐの場所にあった。こんな所に、何時の間に? でも……
メリーゴーラウンド、スプラッシュコースター、お化けの飛び出す3Dライド……来てみれば、何だかテンションが上がってくるものだ。
遊園地でこんな気分、小さい頃に浦安ネズミーランドに連れて行ってもらった時以来だ。
「やー楽しいな。お前とこんな所に来るなんて、何年ぶりかな?」
青空の下のカフェテラスで、パパがサンドイッチを頬張りながら笑う。
私もクレープを食べながら黙って頷く。
パパには、何か言いたい事が沢山あった気がするけど、今はなぜだかどうでもよくなってきた。
やがて、二人で園内を駆け回ってる内に日が暮れて、星空の遊園地の大通りを行進する虹色のパレード、緑や青の光彩に煌く、お城や馬車たち。
「さてと、メイ……お前はそろそろ帰らないとな……」
パレードのイルミネーションを見つめながらふと、名残惜しげにパパがそう言った。
お前は? どういうことだろう。私は首を傾げる。
……その時だった。
「帰る場所なんてないぞ!」
地鳴りのような恐ろしい声が遊園地に轟いた。
突然、お城や馬車たちが真っ赤な炎を噴き上げた。
熱い風が私の顔を叩く。瞬く間に炎が広がり大通りを舐める。
悲鳴を上げながら真っ黒に燃え尽きていくお客さん達。
「いや!」
必死に炎から顔を背ける私。
「メイ! 見ちゃいかん!」
パパがそう言って、私を自分の胸に抱き寄せる。そして……
ごおお。私を抱いたパパの体が、風になった。
うそ? 私は混乱する。風が炎を吹き散らす。
冷たい風に巻き上げられた私の体が、燃える大通りからふわりと宙に浮いて、そのまま満天の星空に舞い上がって行く。
「メイ、久しぶりにお前に会えて、嬉しかったよ……」
私の傍らからパパの声。
「だが今はまだ、お前が来るべき時じゃない。さあ、自分の世界にお戻り!」
風になったパパが、私の耳元で寂しげ。
私は思い出した。もう何年も胸にしまっていた、パパに言いたかった沢山の事を。でも……
「パパ!」
口を突いたのは一言だけ。
パパを呼ぶ私の目からも、涙が一粒。
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「心肺機能回復! 意識を取り戻したぞ! 奇跡だ! あれだけ長い間、煙にまかれていたのに……」
目の前がはっきりしてきた。白衣を着た、お医者さんらしい人が私を見下ろしてそう叫ぶ。
でも私は知ってる。奇跡じゃないのだ。