下水道の巨大ワニ
初投稿になります。全体的に拙い文章ですが、よろしくお願いします。
評価、感想、アドバイスや誤字脱字の指摘など頂けると嬉しいです。
ふと、今日の自分の行いを振り返ってみた。
例えば今朝。駅の階段で、重そうな荷物を抱えた老婆に手を差し伸べていたら。
例えば昼休み。財布を忘れた級友に、パンの一つでも恵んでいたら。
例えば放課後。貧血で早退した日直の代りに、教室の掃除を引き受けていたら。
きっと神様は自分を、今時珍しい感心な若者だと思ってくれちゃったりして。
悪臭立ち込める下水道で巨大なワニと対面することもなかったかもしれない──と、三島源太はそんな埒もないことを考えていた。
完全に現実逃避です本当にありがとうございました。
目の前の絶望的光景から必死に目を反らそうとする源太に、しかし巨大ワニは容赦がなかった。
巨大ワニはその、アフリカゾウもひと呑みだと言わんばかりの巨体を震わせ、源太に襲いかかって来た!
「ひぃっ」
源太はカエルの潰れた様な悲鳴を上げ、恥も外聞も無く横っ飛びに地面を転がり逃げる。
汚水を全身に浴びる不快さを感じる間もなく立ち上がると、源太は手に持った金属バットを振りかぶり、巨大爬虫類の横っ面を打ち据えた。
「~~っう!」
硬い皮膚を金属の塊で殴り、痺れる様な痛みが身体に走る。しかしその程度のことで怯んでいる暇はない。
源太は油断なく巨大ワニを睨み付けた。
巨大ワニは「グルル」と、不快そうに喉を鳴らしている。
──よし!
取り敢えずこちらの攻撃は、僅かながらも確実にダメージになっている。ならばコツコツと攻撃を積み重ね、時間を稼ぐ。
源太は小回りの効く自分に分があると考えたが、即座に己の浅はかさを悟ることとなる。
巨大ワニが巨木の幹ほどもある右前脚を持ち上げると、地面に向けて叩きつけた。
右前脚はコンクリートを砕くだけに留まらず、地面を激しく揺らした。その揺れの激しさに、源太はとても立っている状態を維持できず、地面に手をついてしまう。
手をついてから、また立ち上がるのに必要な時間はほんの数秒。しかし、その数秒が命取りとなった。
源太が体勢を立て直そうとした時には、すでに巨大ワニの左前脚が頭上に迫っていた。
──あ、死んだ。
あまりにも呆気なく訪れた死に、源太は最早恐怖することすらできない。巨大ワニはそのまま、己に歯向かった憐れでちっぽけな存在を押し潰──せなかった。
巨大ワニの左前脚は、源太に触れる直前に消し飛んでいたのだ。
呆気にとられる源太と、苦痛に呻く巨大ワニとの間に、一人の少女が飛び込んできた。
その少女は純白の小袖に緋袴を身に付けた、いわゆる巫女の装束を纏っている。
巫女の少女は痛みに悶えている巨大ワニに手をかざして、「──破ッ」と短く叫んだ。
すると見えない力に貫かれたかの様に、巨大ワニの身体が顎から尻尾の先まで大きく波打った。
次の瞬間、パァンという破裂音と共に、ワニの巨体が四方に炸裂した。飛び散ったワニの肉片は、まるで砂で作った山が風に吹かれた様に崩れ去る。それだけで、その巨大ワニがこの世の理から外れたモノだと分かる。
あれだけ源太を苦しめた理不尽の塊とも言うべき存在は、あっさりと消滅していった。
巫女の少女は、未だに呆けている源太に振り向き、微笑んで見せた。
「大丈夫でしたか、三島さん?」
「あ、お」
源太は、脱力しきった身体に鞭を打ち、なんとか立ち上がり、言った。
「お前おっせーんだよ! もうちょとで死ぬところだったろーがっ!」
「命を救って貰っておいて真っ先に出るのが罵声ですか」
助け甲斐のない人ですと、少女は肩を竦めた。
しかし源太は「そもそも、何で俺が一人で下水道の探索しなきゃなんねーんだよ」と、感謝の言葉を口にする気配がない。
「あの程度の怪異も満足に祓えない未熟者のクセに、文句だけは一人前ですね。これも修行なのですから、文句を言う前にさっさと慣れて下さい」
少女は一度言葉を切り、何故ならと続けた。
「──あなたは、私の弟子なのですから」
そう言うと少女──吉川歌は、目の前で苦虫を噛み潰す弟子に向かって、可憐に笑って見せた。
ふと、自分の今までの行いを振り返ってみた。
とても神様には微笑んでもらえないなと、源太はまた現実からの逃避に勤しむことにした。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
こんな感じで都市伝説を描いていこうと思っています。………取り敢えずは有名なやつから使っていこう。