隠れ家的カフェ
夏目漱石の
こんな夢を見た、的な気分で
僕は駅通りを歩いている。駅通りはそこそこにおしゃれな服屋とか飯屋とか、そういうものが適度に配置されている。人通りもそこそこで、特に大学生とか高校生とか若者が多い印象だ。カップルも程よく目に飛び込んでくる。眺めていても不快にならない程度の節度でもって、仲睦まじさを漂わせている。たまにはお一人様と思しき男女も歩いているが、金輪際お前なんかとかかわりを持つことは無いというオーラをぷんぷんと漂わせて、どうにも近寄り難い。
僕が駅通りを歩いているその訳は、昼食を取る場所を物色するためである。昼食というには微妙に遅い時間だけど、おかげで他の昼食所望の人々とかち合うことが少ないのである。
早い話が二限目の講義を終えて、なおかつ自転車でここまでやってきたので、遅くなっちゃったのだ。
自転車は駅の駐輪場に置いて、僕は一人ぶらぶらと駅通りを散策しているというわけである。
そんな僕の後ろを、一人歩いている少女がいる。少女と言っても僕の同級生なので大学生だ。
僕は後頭部に目があるというのではない。ただ、どこと無くなんとなく懐かしいオーラを背中に感じて、店のウインドウの反射から横目に伺ったところでそれと知ったのである。
僕はそれっきり彼女の存在は放っておいて、再び昼食を探す散策を開始した。
ふと、気になって後ろを振り返ると彼女の姿が無い。おやっと思って引き返すと、とあるカフェの奥の席に彼女が居るのを見つけた。そのカフェは、覗き込むまではカフェだとはとても思えないほどささやかで、地味なたたずまいだった。ストイックと言ってもいいくらいで、とにかく看板が出ていないので、商売気すらも感じない程だ。
僕はその店の扉を押した。カランカランとベルが鳴る。彼女はさっと顔を上げ、僕の方を見た。そしてまたすぐに視線を落として、どうやら何か雑誌的な物を見ている様だ。
僕は彼女の横の席に腰をかけた。メニューは無い。見当たらない。というか、普通の喫茶店にあるべき物がテーブルの上に見当たらない。何ものっていないのである。更には店員さえ出てこない。
僕は更に三分、黙って座っていた。
見渡せば数人の客が居るのだが、皆それぞれに食事を取っている様だ。そして、彼女も。僕は又呆然と座っていた。
「あすこのボールに取ってくるのよ」
彼女が言った。確かに、店の中央に置かれたテーブルの上にはボールが裏返しに置かれている。ボールのほかにもカップやらスプーンやらもある。僕は立ち上がってボールを取りにいった。
ボールを手に僕はカウンターへと歩いた。そこにはなんだかおかゆの様な、オートミールの様な、どろっとした食べ物が入った寸胴が置かれている。僕は横に置かれていたお玉を手に取り、そのおかゆをボールに掬い取った。おかゆだけでは足りないな、と思い、カップも手にとって、やはりカウンターに置かれていたコーヒーサーバーからコーヒーをそこに注いだ。
僕はスプーンを手に取り、席へと付いた。見ると彼女もそのおかゆを頬張っているようだった。僕はそれを見て、やはりおかゆを口へと運んだ。それはなんだか甘ったるくて、味気なかった。
連投おつかれした。