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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
8/32

No.7 妹(ペット)化計画

『あ、間違えたわ。妹にしちゃえば良いんじゃない?』

「どんな間違え方だよ!?」


 俺はいきなりの馬鹿発言に、腰から村正を引き抜いて怒鳴りつける。


「何だよペットって!? 何でペットなんだよ!? あんな可愛い女の子ペットに出来るか! 俺が銃剣警法違反で殺されるだろうがっ! あとどうやったらペットと妹を間違えるんだよ!? 字数もニュアンスも全然違うじゃねえかぁぁぁっ!」

『正刀、息継ぎ無しのお説教ご苦労様』


 誰のせいだよまったく。


「それで村正ちゃん、妹にするってどういう事なの?」


 俺の怒鳴り声に苦笑していた姉さんは村正に尋ねる。


『正刀、家族が欲しいって昨日言ってたじゃない。これも何かの縁だし、美雨を引き取って妹にしたら? 銃剣警なら原則誰でも監視役の任務に就けるし。美雨は正刀に懐いてるみたいだから、これ以上にない案だと思うわ』

「成程」

「いや姉さん、成程じゃないですよ」


 それって要するに、美雨の兄になるって名目で監視しろって事じゃないか。確かに美雨は俺に気を許しているみたいだからそこら辺は問題ないと思うが、村正にしては妙な案を出すな。それじゃあ最初に言ったペットって何だペットって。


『それに美雨を家族にするのが難しい訳でもないでしょ? 銃剣警の特権を使えば一挙に解決じゃない』

「……村正、それってもしかして、銃剣警法第八章の第六条の事を言ってるのか?」

『ええ。勿論』


 村正よ、何故お前はそういう事に悪知恵が働くんだ。

 銃剣警法第八章の第六条、銃剣警は双方の合意を得た場合にのみ限り、血縁関係に無い者を義理家族とする事が出来る。

 この決まりは要するに、互いの合意さえあれば、血の繋がりの無い無関係な人間を合法的に家族に出来る、養子縁組とは違う決まりだ。

 これを使えば美雨を家族にする事は可能だ。美雨が拒否すればそれは出来ないが。というかしようとしたら絶対梓に反対される。

 そもそもな話、この決まりを利用する銃剣警はそんなにいない。姉さんだって文ちゃんと凜ちゃんを引き取りはしたけど義理家族にも養子にもしていない。理由は姉さん曰く、そんな事をしても二人に突き刺さっている心の傷が癒える訳ではないらしいし、最初に提案した時に二人共拒否した。まあ、気持ちは分からなくもない。

 けど気になるのは、何故村正がそれを言ったかという事だ。普段の村正は俺を銃剣警法違反にさせる方向に持っていかせるのに今回はそれが無い。


「……村正、珍しいな。お前がそんな事言うなんて」

『あら、私は家族が欲しいっていう正刀の願いを叶える手助けをしているのよ? 少しは感謝しなさい』

「最初にペットって言い間違えた奴に感謝する道理は何処にもねえよ」

「ふーん、正刀君、家族が欲しいの~」


 姉さんはニッコリ笑いながら俺に近寄ってくる。なんだか嫌な予感が……


「えいっ!(ガシッ)」

「おわっ!」


 ――ムニィィィィィ


 突然姉さんが俺の顔を爆乳に埋めてきた。ヤバい。色んな意味で凄くて色々ヤバい。


「まったくもう正刀君たら~。家族が欲しいならお姉さんに言ってくれたら良いのに~」

「ちょっ、姉さん!」

「正刀君が弟君になってくれたら、お姉さん、毎日おっぱいで御奉仕してあげるのになぁ~♪ 勿論文ちゃんに凜ちゃんも一緒で」

「ご……ッ!?」


 何言ってんだよこの人は!? 内心じゃあ嬉しいけど、もしそんな事になったら殺されるって! 殺されますって! たとえ合意の上だとしても、文ちゃんと凜ちゃんはまだ中学生ですよ! 勿体無いけどさすがにそれはヤバいですって!

 俺の窮地(?)を救ってくれたのは、意外にも村正だった。


『……露莉、私、結構真面目な話をしたつもりなんだけど?』


 その声は確かに真面目な時に出る声だった。それを聞いた姉さんはすぐに俺を放してくれた。


「ごめんごめん村正ちゃん。けど、お姉さんも真面目だったのよ?」

『そう。気持ちだけありがたく受け取っておくわ』


 何だ、村正と姉さんの間に何か火花の様なものが見える気がするな。これ以上空気が変になるのも嫌だし、本題に戻さないと。


「……それで村正、美雨を俺の妹にするっていうのは、昨日お前が言ってた、“気”って奴と何か関係があるのか?」

『あら、さすがは正刀。勘が良いわね。本音を言えばそうなのよ。昨日正刀に抱きつきながら寝てた美雨なんだけど、やっぱり“気”みたいなのが出てたのよねえ。それも最初に感じた時よりも濃かったの。その時点で美雨には何か異能があるってのは分かったんだけど、今日になってその“気”みたいなのが結構具現化してきたって言うか、なんとなく形になってきたって言うか、それでもやっぱり何なのかは分からないって言うか』

「村正、ハッキリと説明してくれないか?」

『まあ詰る所、ハッキリとした異能はまだ判別出来ない状態って感じね。まだ時間が掛かるみたいだから、しばらくは正刀が預かってあげなさい』


 そうか。確かに妖刀である村正はそういうのを感じ取るのに敏感だ。ここで村正の助言を無視すれば後々面倒な事になる可能性もある。というか、そういうのが分かっているならもう少し早めに言えよな。


「それじゃあ、美雨ちゃんは正刀君が預かるのね? それだったら銃剣警局への報告は正刀君にお願いしても良いかしら? その方がなにかと都合も良いでしょうし」

「了解しました。今日は色々ありがとうございました姉さん。また世話になります」

「良いのよ別に。正刀君の為ならお姉さんは何だってするわよ。試しに今からお姉さんのおっぱい揉み揉みする?」

「止めて下さい。そんな事したら銃剣警法違反で殺されます」


 あーもう、この人優しいのに、体もエロいし脳内もエロい。体のエロい女は頭の中までエロいのか。いや、それだったら梓とか文ちゃんとか凜ちゃんとかは違ってくるよな。単に姉さんだけなのか。


「そろそろ戻りましょっか。皆待たせてるし」

「そうですね。美雨が寂しがってるでしょうしね」


 梓達には美雨の異能については秘匿する事にし、事務室の方へと戻る事にする。


『正刀、良かったわね。念願の家族が出来て』

「おいおい村正。まだ美雨を妹にするって決めた訳じゃあ……」

『良いじゃないのよ。預かってる間はペット同然なんだから』

「だからペットじゃねえだろ!」


 コイツ、本当に真面目に話してのかどうか怪しくなってきたな。もしふざけてたらヘシ折ってやる。どうせ無理だけど。



「という訳で美雨。君は俺の妹になるぞ」

(ゴンッ!)


 開口一番に俺が言うと、梓は用具入れに入っていた箒で俺の頭をブン殴った。


「……何するんだよ梓」

「うるさーーーーーい!」


 梓が顔を真っ赤にして怒り出した。


「一体全体どういう訳で妹になったの!? 何で美雨が正刀の妹になるの!? ちゃんと説明してよ!」


 まあ、無理も無いな。いきなり俺がそんな事を言い出して梓が怒らない訳がない。今のはどう考えても銃剣警局に訴えれる発言だからな。


「梓、美雨が妹になるというのは村正の提案なんだぞ? だよな村正」

『ええそうよ。正刀ったらね、ずっと家族が欲しがってたから、これを機会に美雨を妹にしちゃえばって言ったのよ』

「むむむ、村正!?」


 美雨・妹化計画を提案したのが俺ではなく村正だという事にかなり驚いて、梓は頭に血が上り過ぎて倒れそうになる。文ちゃんと凜ちゃんが慌てて支えて大事にはならなかったが。


「な、な、何考えてるのよ村正!? どうして、どうしてよりにもよってそんな事思いつくの!? とうとう正刀のエッチな性格がうつっちゃったの!?」

『違うわよ。さっきも言ったじゃない。家族の欲しい正刀への気遣いよ』

「う……そ、それを言われると……」


 梓は反論したくても反論出来ない。

 それもその筈。梓だって分かっているのだ。俺が独りぼっちで寂しい事に。

 母親と死別し、父さんに育てられ、その父さんさえも殉職してしまった俺の中には、いつしか孤独と言う名の虚ろな気持ちが生まれていた。その孤独を埋めるかのように、梓も姉さんも俺に気に掛けてくれている。それについては心から感謝している。けど、僅か三年だけだけど、独りぼっちでいる俺にもいい加減我が儘を言いたくなる時が来た。今が正にそれだ。だから俺は美雨を家族にしたいとという結論に至った。


「で、でも正刀。もし、美雨の家族とかが現れるような事になったらどうするの? 美雨は別に元から独りって訳でもないんでしょ?」


 梓の疑問は尤もだ。俺が美雨を妹にするという案は、あくまでも美雨の家族がいないと分かった時だ。その時には心置きなく美雨を妹に出来る。けどもし家族がいると分かれば、美雨はその家族と一緒に暮らす事になる。それ以上は俺の範囲外になってしまう。


「それは当然だ。だからしっかりと調べた上で、美雨を家族に出来る態勢になったら、本当に美雨を家族にする。もし美雨に家族がいるなら、素直に手を引くさ」

「……そう」


 梓は何か言いたそうだったが、それを言わずに呑み込む。美雨は俺達の話について行けていないのか、キョトンとした顔で首を傾げている。

 美雨が俺の服の袖をチョンチョンと突く。


「……ま、さ、と」

「何だ、美雨」

「かぞく、って、なに?」


 まさかの家族が何か分からないとは。


「……うーん、返答が難しいなぁ。まあ、一言で言うなら、温かいもの、だな」

「あたたか、い?」

「そう。温かい」


 美雨には理解が難しいらしく、首を傾げている。この仕草だけでも美雨は充分可愛い。

 すると今度は姉さんが話しかけてくる。


「ねえねえ正刀君。どうせならもうちょっといない? どうせ今日は休診日だし」

「え……いや、そんな、そこまで世話になる訳にも……」

「んもう正刀君ったら~。別にお姉さんは全然気にしないわよ。えいっ(ガシッ)」


 ムニュュュン。突然姉さんが顔を爆乳に埋めさせてきた。慣れたけど、慣れない。


「ちょっ、姉さん!?」

「ほらほら正刀君、お姉さんのおっぱい気持ち良いでしょう?」


 勿論です。最高です。

 なんという柔らかさ。超巨大マシュマロに挟まれたかの様な気持ち良い弾力性、姉さんの体から漂わせる優しくて良い香り、いつまでもこうしていたい。窒息死してもこうしていたい。けど駄目だ。さっきから横で梓の冷たい視線を感じる。


「お姉様! 正刀にそういう事をしないで下さい! 調子に乗ったらどうするつもりなんですか!?」

「あらあら梓ちゃん。羨ましいなら梓ちゃんにもやってあげようかしら~?」

「え、本当ですか……じゃなくて! 正刀の事なんですから私にまで火の粉が掛かるんですよ!」

「それは仕方ないわよ。正刀君がエッチなのは今更でしょ? あ、もしかして梓ちゃんがやりたかったとか?」

「いい加減にして下さい! 銃剣警法違反で正刀共々訴えますよ!」

「どうかご勘弁下さいませ梓様ぁぁぁっ!」


 顔を真っ赤にしながら怒る梓に俺はすぐさま姉さんから離れて懇親の土下座をする。天国にいた筈の俺がすぐに地獄に行くだなんて冗談じゃない。


「本当にごめんなさい。本当にごめんなさい。私のお体をお好きにして頂いて構いませんのでどうか許して下さい。本当にごめんなさい」


 姉さんも銃剣医と言えど銃剣警法には逆らえず、俺同様必死に土下座している。この人でもあの法律は怖い。怖いったら怖いのだ。


「あ、あの梓さん、それくらいで許しても良いんじゃないですか? 先生も悪気があってやった訳じゃないですし……」

「そ、そうですよ。先生がこういう事するの自体が今更じゃないですか。だから訴えるのは止めて上げてくれませんか?」


 外野で見ていた文ちゃんと凜ちゃんが救いの手を差し伸ばしてくれた。引いている二人が恐る恐る説得する。


「……分かったわよ」


 鋭い視線を向けていた梓はムスッとして残念そうな顔になる。どうやら許してくれたみたいだ。


「文様、凜様、真にありがとうございます! この妖村正刀、感謝感激雨霰で御座います! はい!」

「ありがとー! 文ちゃん凜ちゃん大好きー!」


 俺と姉さんの窮地を救ってくれた文ちゃんと凜ちゃんは正しく救いの女神。そんな二人に俺は五体投地し、姉さんは抱きつく。


「一体どれだけ怖いんですか。銃剣警法違反って……」


 文ちゃんと凜ちゃんも俺達の行動に引いているのだろう、文ちゃんがそんな言葉を口にした。

 ふふっ、どれだけ怖いかって? 一回でも違反になれば嫌でも分かるさ。

 それより、悪気が無いとはいえさっきので梓はご機嫌斜めになっている筈。ここはケーキ辺りで埋め合わせでもするか。何て思っていたら、梓がジト目で俺を見て聞いてくる。


「それで正刀、もうちょっとここにいるつもり?」

「ん? ああ、まあ、それでも良いけど、梓もいるんだろ?」

「当然よ。お姉様になら兎も角、正刀が文ちゃんと凜ちゃんにエッチな事しないかどうか見張らないといけないもの」


 やっぱりまだ怒ってる。あと思われて当然だけどあらぬ誤解を立てられてる。


「あのな梓、いくら俺でも中学生に手を出したりしないぞ。そりゃあ文ちゃんと凜ちゃんは巨乳で太股ムチムチで、中学生なのにけしからん身体してるけどさ」

「嘘よ。昔、私に散々エッチな事ばかり言ってた癖に」


 否定出来ない。だって中学生の時の梓も可愛かったんだもん。お胸だって成長途上にあったからついつい言ったちゃったんだんだもん。


「あら~、正刀君ったら文ちゃんと凜ちゃんには手出ししないの~? 可哀想ね二人共」


 まだ二人に抱きついていた姉さんは二人の頭を優しくヨシヨシと撫でる。姉さんの言葉を聞いた二人は顔が赤くなる。


「せ、先生!? な、何言ってるんですか!? な、何で可哀想なんですか!?」

「そ、そうですよ!」

「え~? だって文ちゃんと凜ちゃん、正刀君におっぱい触ってもらえないのよ~? 本当は二人共、正刀君におっぱい揉み揉みされたいんでしょ~?」

「え、ええっ!」


 文ちゃんと凜ちゃんの顔が赤くなる。さっきセクハラ発言で死に掛けたのに何で姉さんはその直後にセクハラ発言が言えるんだ?

 梓がまた怒ろうと口を開いた時、先に喋ったのは文ちゃんだった。


「ななな、何言ってるんですか先生は!? そ、そんな訳ないじゃなですか!」

「そ、そうです! 文ちゃんの言うとおりです!」

「え~? そうなの~? でも文ちゃんと凜ちゃん、この前の夜にお部屋でお喋りしてた時に、『一度で良いから正刀さんに胸を揉んでもらいたいなぁ』って……」

「「いやああああああああああっ!」」


 文ちゃんと凜ちゃんが姉さんの拘束を振り解き、トマトの様に顔を真っ赤にして姉さんをポカポカと叩く。


「な、何で先生がその事知ってるんですか!? ひょっとして聞いてたんですか!?」

「うん。お姉さんがシャワー浴びて寝ようかなぁって思って部屋に戻ろうとしたら、随分と仲良くお喋りしてたのが耳に入って、興味本位で聞いてたのよ~」

「ひゃ、ひゃああああああああああっ!」

「いやああああああああああっ!」


 文ちゃんと凜ちゃんは悲鳴を上げて湯気を出すぐらいに顔が赤くなり、胸元を両腕で隠しながらその場に蹲る。


「ふ、文ちゃん、凜ちゃん……」


 俺が話しかけると、二人共同時に顔を上げて首をブンブン振る。


「ち、違うんです! 違うんです! 本当に違うんです!」

「文ちゃん、何が違うの?」

「えっと、あの、その、先生がいつも正刀さんを、胸に埋めてるから、それで……」

「ま、正刀さんって、女の子の大きい胸が好きですし、私も文ちゃんも先生よりかは小さいけど充分大きいから、触らせ上げたら、喜ぶかなって……で、でも本当に違うんです!」


 ……あぁ、何故だろう。こういう事を昔姉さんにも言われたような気がする。


「……文ちゃん、凜ちゃん。確かに俺は巨乳好きだし、揉ませてくれるなら大歓迎だし凄い喜ぶけど、さっきも言ったとおり、高校生にもなって中学生の女の子に手を出す趣味は無いんだ。たとえ相手がどれだけ巨乳だろうと爆乳だろうと」

「そ、そんなぁ……」

「うう、凄い恥ずかしいです……」


 文ちゃんと凜ちゃんが恥ずかしそうにがっくしと落ち込んでしまう。何故そこまで残念そうなのかが俺にはまったく理解出来ない。


「でも安心しなよ。二人が高校生になったら遠慮なく揉ませてもらうから」

(ゴンッ!)


 突然、俺の顔面に衝撃が加わった。梓が金鎚でブン殴ってきたのだ。これが物凄く痛い。


「……梓お前、何処から金鎚持ってきたんだ? あとよく振れるな」

「お姉様が貸してくれたのよ。村正で殴っちゃ駄目だって」


 それは当然だ。村正の適合者でもない梓が怒り狂って村正で殴ったら最悪魂を持っていかれる。別に村正以外で殴るんだったら金鎚でも釘バットだろうと何でも良いんだけどな。その代わり痛いけど。

 痛いには痛いが、このぐらいなら師匠の一千万分の一ぐらいしかない。俺を殴ったって意味が無いという事は梓にも分かっている。けど梓が顔を赤くして怒っている。


「何で正刀は中学生の女の子にそういう事が言えるの!? 非常識よ!」

「梓よ、銃剣警には常識という概念は通じないんだぞ。それに俺は巨乳好きだしな。それはお前がよく知っている事だ」

「正刀のエッチ! スケベ! ヘンタイ! 文ちゃん、凜ちゃん、こんな変態に胸どころか身体を触らせたら駄目! 絶対に駄目ぇぇぇぇぇっ!」


 梓は怒りながら金鎚を振り回して文ちゃんと凜ちゃんに強く言い聞かす。ていうか言い聞かすなら金鎚振り回すな。二人に当たったらどうするんだ。

 だが、当の二人は納得のいかないご様子だ。


「……な、何でですか?」

「え?」

「何で、駄目なんですか? 正刀さん、凄い信用出来るのに」


 文ちゃんと凜ちゃんは真面目な顔になって梓に尋ねる。いや待てお二人さん。何故にそこで真面目な顔になる。


「わ、私、正直に白状しちゃいますけど、正刀さんにだったら、別に胸でもお尻でも触られて良いって思ってますよ。ね、凜ちゃん」

「う、うん。私もですよ。ですから、高校に入るまで我慢しようかなって。ね、文ちゃん」

「う、うん」

「え…………」


 ――ゴォンッ!

 梓の手から金鎚が落ちた。事務室内に金属音が響き渡る。その直後、


「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」


 事務室内に梓の甲高い声が響き渡った。ボケーっと立っている美雨以外の全員が両手で耳を塞ぐ。


「な、ななな!?」

「正刀さん」


 梓が喋る前に文ちゃんが先に俺に話しかける。


「何?」

「本当に、高校に入ったら揉んでくれるんですか?」

「ああ勿論。文ちゃんと凜ちゃん両方共。平等に。同じぐらいに」


 俺が即答してあげると、二人はカァァッ、と顔を赤くしつつも、嬉しそうに顔が綻び、


「……は、はい」

「分かりました」


 そう会釈した。

 しかし、姉さんと一緒にいるからなのか、或いは元からなのか、この二人はどうやらマゾみたいだな。この先絶対面倒な事になる。大変だなこりゃ。

 一方の梓はと言うと、二人のマゾ発言を聞いて思考停止に陥っていた。無理も無い。さっきまでボルテージMAXで怒っていた初心な梓だ。しばらく休ませないと。


「え、えーっと姉さん、俺ちょっと夜千瑠に電話してくるんで、梓と美雨お願いしますね」

「はいは~い。お姉さんにお任せあれ~♪」


 姉さんがウインクしたのを確認して事務室を出ようとした。

 が、袖が後ろから小さな力に引っ張られる。振り返ってみると、美雨が俺の袖を掴んで困り顔でこっちを見ている。また俺が側から消えるとでも思っているのだろう、俺から離れるのがそんなに嫌みたいだ。

 やれやれと思い、美雨の頭にポンッと手を置く。


「美雨、俺は美雨の目の前から消えたりしないからな?」

「……ほん、とう?」

「ああ。本当だ」


 俺がニッコリと言うと、美雨はそっと手を放した。

 急いで夜千瑠に連絡すべく、すぐさま病院の外を目指した。

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