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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
7/32

No.6 銃剣医


 翌日、土曜日の朝。俺達三人は朝食を済ませ、美雨の検査をするべく、目的の病院へ行く途中だった。


「――いやぁあああああああああああああああっ!」

「梓、喋ってると舌噛むぞ」


 ――屋根から屋根へと飛んで……いや、跳んで。


「ま、正刀! もうちょっと優しく出来ないの!?」

「これでも優しい方だぞ。あと三分で着くから我慢しろ。それと、ちゃんとスカート押さえとけよ。パンツ丸見えになっても知らねえからな」


 俺が村正(むらまさ)を腰に差し、梓と美雨を抱え、あやすじで脚力を強化していた。妖筋で強化された俺の筋力は常人離れしており、握力はリンゴどころかヤシの実を片手で潰し、腕力は数十トンの鉄骨も平気で受け止め、脚力は今俺がやっているような跳躍も可能になる程である。


 ――ズドォォォォォォォォォォンッッッ!!


「ふう、到着」

「あ、ひゃ、ひゃ……」

「…………」


 そうこうしている内に、俺達は病院に到着した。

 『たけさと医院』。

 俺がいつも世話になっている病院であり、近所からの評判も凄く良い。

 それもその筈。嶽郷医院は診察丁寧、休診日も場合によってはOK、夜間の往診も可、その上値段もお手ごろ価格であり、医師の信頼も厚く、多くの人達が嶽郷医院を利用している。但し、それだけ人が来るから結構ハードだとは聞いている。


「梓、大丈夫か」

「だ、大丈夫な訳ないでしょう……」


 腰がヘロヘロな梓と美雨を後に俺は医院の中へと入ろとした。が、扉には鍵が掛かっていて開かない。


「あれ?」


 可笑しいな。確かに今日は休診日だが、美雨の検査は昨夜遅くに電話を入れて予約した筈。なのに何でだ? 誰もいない訳が無い。まさかあの人、約束を破って……それもないよな。


「あ、正刀さん」


 考え込んでいると、後ろから女の子の声が聞こえた。

 振り返って確認すると、両手で買い物カバンを持った二人の女の子がいた。一人は白いカーディガンに緑のシャツ、青いミニスカート、黒髪の三つ編みで、服越しでも分かるまん丸な胸を持った女の子。二人目は黄色の上着に赤いシャツ、黒のホットパンツ、茶髪の二つ結びで、こちらも同じくまん丸なお胸を持った女の子。


「よぉ、ふみちゃん、りんちゃん」

「おはようございます。正刀さん、梓さん」


 二人は俺達にペコリとお辞儀をする。相変わらずの礼儀正しさ。こういう所が二人の持ち味の一つでもある。

 三つ編みの女の子はがわ文、二つ結びの女の子はよし凜。嶽郷医院に住んでいる十五歳と十四歳の女の子である。


「今日検査に来たんだけど、姉さんは?」

「先生でしたら中にいますよ。こっちからじゃなくて裏口から入って下さい。どうせ今日は休みですし」


 俺達は文ちゃんと凜ちゃんに案内され、裏口から嶽郷医院の中へと入る。

 さすがは嶽郷医院。大学病院みたいに大きい訳でもないのに、院内の医療設備はどれもこれもが最新式の真新しいものばかりである。よくこんなに金があるな、姉さん。


「先生ー、ただいま戻りましたー。あと正刀さん来ましたよー」

「あー、はいはい。ありがとうー」


 文ちゃんは俺達が来た事を知らせると、凜ちゃんと一緒に二階の方へと上がっていく。嶽郷医院は三階建ての医院併用住宅。一階が医院で、二階、三階が住居スペースとなっている。

 そうこうしている内に奥の部屋から、やって来た。


「まーさーとーくーん!(ガシッ)」


 ――ムニュゥゥゥ

 とんでもない爆乳が。いや正確には、爆乳を持ったお姉さんが


「ね、姉さん!? 会っていきなり抱きつかんで下さいって!」

「あらあら正刀君ったら、テレちゃって~♪」


 姉さんは俺の顔を爆乳の谷間へと埋めてくる。それが気持ち良い事この上ない。


「ちょっ、姉――」

「はあぁぁぁ、正刀君ったら本当に可愛いわねぇ。お姉さんついよしよししちゃうなぁ」


 姉さんは俺の顔をギュゥゥゥ、と胸に押し込める。マズい。こんなにも大きい胸に入ったら、窒息する。けど、このまま窒息して、姉さんに人工呼吸してもらえるなら……あ、でも、なんか梓の視線を感じるな。


「……お姉様、正刀が窒息するのでいい加減止めて下さい」

「ふふふ、ゴメンゴメン」


 姉さんは俺の頭をパッと放す。よ、良かった。まだ生きてる。けど梓の視線が痛いなー。

 俺が改めて前を向くと、目の前に立っていたのは、超超超、超美人で若いお姉さん。身長170ぐらい、白衣に白いブラウス、黒いタイトスカート、黒くて長い髪はとても艶やか、顔は絶世の美女と豪語出来る程に整った顔立ちで、スカートから覗く脚は程よいムチムチ感、色気以外にも美しさがそそられていた。だが何より凄いのは、胸だ。梓や美雨の比ではない圧倒的質量、巨乳を超えた爆乳が今正に目の前にある。この病院に来た多くの男性患者はこの胸に魅了され、落ちてしまうらしい。半分嘘だが。

 こんな超絶爆乳美女医の名前はたけさとつゆ。三十三歳独身。職業、じゅうけん

 銃剣医とは、銃器刀剣医療員の略称の事で、要は武装と殺害を許可された医者の事である。銃剣警と同じ点と違う点は色々あるが、その一部に、銃剣医も銃剣警法に従わなければいけないという事、ライセンス取得には恐ろしく難しい試験を受ける事、違う点の一部は、銃剣医は銃剣警と違って戦闘には参加せず、あくまでも怪我人の治療に専念するという事、常時武装の義務化がされていないという事、故意ではない、医療行為のミスによる殺人が起こった場合は銃剣警法違反にはならないという事などである。民事・刑事責任を負う事はあるが。

 俺と梓が露莉さんの事を「姉さん」、「お姉様」と呼んでいるのはそれが愛称だからである。

 姉さんの父親は世界的に有名な銃剣医で、俺達の親とも仲が良い。梓の親父さんがテロリストの襲撃で大怪我を負い、絶命だと思われていたのを覆す大手術をやってのけた人である。その縁あってか、俺と梓にとっては姉の様な人でもあり、小さい頃から面倒を見てもらっていた。

 父さんが死んでからずっと落ち込みっぱなしでいた俺を必死に励ましてくれし、今でも遊びに行ったらいつも歓迎してくれるし、戦闘で負傷した俺を何回も手術してくれた。女の人に対して警戒心の強い梓が心を開いている良きお姉さんだ。


「おはよう正刀君。今日もカッコイイわね」

「おはようございます姉さん。今日も相変わらずですね」

「あらあら~、お姉さんエッチな人だから、どうしても正刀の顔をおっぱいに沈めたかったのよね~♪」


 ただ、唯一の難点と言えるのは、姉さんの性格に少々問題がある。


「おはよう梓ちゃん。今日も可愛くて発育も宜しいわね。おっぱいも順調に育ってきてるし」

「お姉様! 会っていきなりそういう話は止めて下さいって言ってるじゃないですか!」


 それは、姉さんが凄くエロいのだ。脳内が。俺よりも遥かに。

 俺はよく梓にセクハラ発言をして死に掛ける事があるが、姉さんの場合はその上を行く。

 俺が怪我して運ばれた時はまだ良い。が、入院中には俺が着ている衣服を脱がし、平気で触診してきたりする。しかも寝る時なんかワイシャツ一丁でベッドに入ってきたり(怪我で入院してる時)、体を拭く時なんかも平気で下着を脱がしてくるし、そのお返しに全裸で現れ、「お姉さんの体、好きにして良いわよ♡」と言って俺の理性を殺しに来る始末。

 姉さんは銃剣医な為、男の裸も女の裸も見慣れておかないといけないと言っているが、姉さんが銃剣医のライセンス取ったのって、銃剣医学校――その名の通り、銃剣医を育成する学校。難関大学並みの学力必須――卒業してすぐ、二十歳の時だ。それから今に至るまで何が起こったかは知らないが、昔の優しい姉さんはエロエロの爆乳女医へと変貌してしまった。今でも優しいけど悲しいなぁ~

 けどその代わりに姉さんの医療技術は相当なものだ。幅広い医療知識を持ち、獣医スキルすら持っている。手術の腕も凄く、幾多の経験によって積み上げられたその技術に俺も何度救われた事か。

 当然海外の有名医療機関からの誘いも沢山来ていたのに、姉さんはそれを全て断った。

 理由はただ一つ。姉さんは、ただ一つの目的の為だけに銃剣医になったから。その目的が何なのかは俺にも教えてはくれなかった。けど、姉さんの事だから何か良い目的かもしれないとも思っていた。今でもこうして父親の後を継いで嶽郷医院の院長をやっているし。

 尚、文ちゃんと凜ちゃんは姉さんが引き取った子達である。

 二年前、文ちゃんは家族でドライブ中に起こった衝突事故に遭った。幸いにも自分は助かったが、両親は死んでしまった。

 その数ヵ月後に凜ちゃんも家族でドライブ中に落石事故で岩が車に激突。重傷で運ばれた凜ちゃんはなんとか一命を取りとめたが、残念ながら両親は死んでしまったらしい。二人の将来の夢は医者になる事だったらしく、当時二人の治療を行った姉さんが自ら申し出て二人を引き取った。それからは妹同然に可愛がって二人が医者になる夢を応援したり色々手助けしているらしい。毎日姉さんのエロ言動には困っているらしいが。

 閑話休題。姉さんは連れてきた美雨に目をやる。


「正刀君、この子が昨日言ってた囚われの眠り姫ちゃん?」

「ああ、そうですよ。名前は美雨。それ以外に分かってる事は何も無いです」


 姉さんは美雨を興味あり気にジロジロと見る。それに対して美雨は嫌がる素振りも見せず、俺の服の袖を掴んでこちらをジーッと見ている。

 姉さんがニッコリと笑って美雨の頭をナデナデする。


「ふーん、こんなにもおっぱいが大きくて可愛い女の子を正刀君が連れてくるって言うから、てっきり誘拐でもしたのかと思ってお姉さんドキドキしてたわ~」

「ヘタな冗談は止めて下さいよ姉さん」

「あらあら。ゴメンゴメン。でもお姉さん、正刀君にだったら誘拐されても良いんだけどなぁ」

「姉さん、それ本気で言ってます?(チャキ)」


 俺はついつい、村正の鯉口を切ってしまう。これを見た姉さんはニッコリと笑う。


「ううん、勿論冗談よ?」

「ですよねー。それを聞いてホッとしましたよー」


 俺と姉さんは可笑しくて笑い出してしまう。

 雑談もここら辺にしておき、本題に入る。


「それじゃあ姉さん、美雨の検査お願いします」

「はいはい。お姉さんに任せておいて。さあ美雨ちゃん、こっちおいで」


 姉さんが美雨に手を差し出す。美雨は首を横に振り、俺に体をくっ付ける。


「まさとと、いっしょ」


 やっぱり美雨は俺と引き離されると勘違いしているみたいだ。仕方ないのでもう一度誤解を解こうと思ったら、


「あらあら、それじゃあ正刀君には美雨ちゃんに付き添ってもらおうかしら。途中でスッポンポンにしちゃうけど、別に問題無いわよね正刀君?」


 いや待って下さいよ姉さん。問題あり過ぎですよ。銃剣警法違反で殺されますよ。美雨を全裸にするってどういう事ですか。どんな検査をするつもりですかあなたは。

 俺は自分の命が掛かった事だと分かり、美雨の頭をナデナデしながら説得する。


「美雨、昨日も言ったろ。俺は美雨の目の前からいなくならないって。ただ美雨の体の何処かが悪くないかどうかを調べてもらうだけだから。だから安心しろって」

「……ほんとう?」

「ああ。本当だ」


 俺がニッコリと言い、美雨はコクリ、と頷いて姉さんの方へと歩く。


「それじゃあ正刀君と梓ちゃんは事務室で待ってて。凜ちゃんにお茶を入れさせるから」

「分かりました。なんかすみませんね」

「良いのよ別に。あっ、それと凜ちゃんがいくらおっぱい大きくても凜ちゃんはまだ中学生だから、変に欲情したりしないでね?」

「しませんよ!」


 まったく、この人には本当に困るな。一体何をやったらこの人はこんなにエロくなるんだ。いつか見学と称して銃剣医学校に行ってみるか。



 事務室に案内された俺と梓は、凜ちゃんが入れた茶を啜りながら三人で雑談をしていた。ちなみに文ちゃんは姉さんの手伝いである。


「いやー、しかし何で姉さんはあんなにエロいんだろうな。言動とか、趣味とか。文ちゃんと凜ちゃんのそれだって完全に姉さんの趣味だろ」

「さ、さあ、どうでしょうね。アハハ……」


 俺が言っているそれとは、今凜ちゃんが着ているナース服の事である。

 別に普通のナース服を着ているならまだ良い。けど凜ちゃんと文ちゃんが着ているのは、何故か下は丈が短いミニスカートのナース服だからである。しかも全身をピッチリと包み込んだそのナース服は凜ちゃんの穿いている下着のラインをくっきりとさせているし、成長真っ只中の凜ちゃんの大きな胸やウエストを色っぽく強調しているし、スカートがミニのせいでそこそこ色気のある太股もはみ出ている。幸いにも凜ちゃんはパイプ椅子に座っているから中までは見えないが、角度によってはパンツ見えるな。中学生とはいえ、中々エロく見えるな。さすがは姉さん。エロい。

 けど駄目だ。高校生である俺が中学生の女の子に手を出したら完全な犯罪だ。自制自制。


「でも、正刀さんも凄いですよね。そんなにモテるだなんて」


 凜ちゃんは、俺が持ってきた手紙の山を見ながら言う。昨日は読む暇もなかったので美雨の検査の間に読んでいるのだが、結構多い。内容は全部似たり寄ったりで、今度の月曜の放課後に体育館裏に来てほしいというものばかりだった。昨日俺が入倉を倒した事が引き金となり、俺に告白しようとする女子が突然現れたのだ。しかもその殆どがファンクラブの会員の女子。俺の知らない所で何をやっているんだよ二条院先輩と郷田先輩は。


「いや、でも、俺自身でも驚いているさ。正直ドン引きしたくなるぐらいに」

「あらぁ、自分の事を想ってくれる女の子達の気持ちにドン引きしちゃうんだ正刀は。ひっどいわねぇ」


 その俺を隣からジト目で見つめる梓。どういう理由かは不明だが、俺がこの手の話をすると決まって不機嫌になる。このまま梓の機嫌を損ねる訳にもいかないので、キリの良い所で手紙を読み終えて凜ちゃんに話を振る。


「ところでさ、凜ちゃんは姉さんの下で働いててよく体を持つよな。特に精神面とか」

「あ、いえ、先生って普段はああですけど、私や文ちゃんが落ち込んでいる時とかはかなり優しく励ましてくれますよ。ヨシヨシしてくれたり、優しい言葉を掛けてくれたり」


 確かに姉さんは精神面が良くない人の励ましは相当効果があると聞く。実際にも姉さんは、地獄のどん底にまで精神をやられた人――詳しい事は俺も知らないが、他のカウンセラーなどがやっても駄目だったらしい――を僅か五時間で精神状態を安定させたという伝説を持っている。ただの精神科の医師というレベルではない。だからこそ海外からのオファーも来てたし、近所でも子供から大人、お年寄りという幅広い層で人気者である。エロさを除けばの話だが。


「それに、先生には正直感謝してます。両親を失った時の私は、正直自分も死んでやろうかと思ってました。けど、先生はそんな私を励ましてくれました。こうして面倒も見てくれて、将来お医者さんになるって夢も応援してくれますし、本当に返し切れないくらいのご恩を受けました」

「そうだな。俺も同じだよ。まだ銃剣警になりたての頃、戦闘中に何回も死の淵を彷徨って、その都度姉さんに何度も助けられて、今でも俺を弟の様に可愛がってくれるし、姉さん万々歳だな」

「うんうん。お姉様は私がストーカーとかに怯えてたりした時も付きっ切りで宥めてくれたし、私も妹同然の様に可愛がってくれるし、お姉様には逆らえないわね」

「まあ、エロさが無ければ完璧なんだがなー」


 俺達三人は揃って頷いた。そんなこんなで時間が過ぎていき、一時間後。


「はーい。正刀君、検査終わったわよぉ」


 姉さんと文ちゃんが美雨を連れて戻って来た。


「どうもありがとうございます姉さん。それで、結果は?」

「特に異常な点は無かったわ。健康状態も良好。社会復帰とかも大丈夫そうね。ただ……」

「ただ?」

「……正刀君、ちょっと来てくれない?」


 姉さんが真面目な顔で手招きしてくれるので、美雨を梓達に任せ、事務室から出て姉さんと一緒に診察室に来た。


「正刀君、これ見てほしいの」


 姉さんが俺に渡してきたのは、美雨の検査結果が書かれた書類だった。

 疑問に思いつつ、キチンと読んでみる。

 美雨。苗字不明。年は十五。誕生日は十一月二十七日。という事は今年で十六歳か。血液型はA型。スリーサイズは……ここは良いとして、検査結果の下の欄にある二つの項目が目に入った。


「……姉さん、これ」

「うん。何で美雨ちゃんに大量の麻酔が投与されてたのかがこれで分かったでしょ。あと、何で美雨ちゃんがAEBで拘束されてたのかも」


 ――薬物免疫メディスン・レジスタンス

 ――異能判定エスパー・ジャッジメント

 薬物免疫とは、要するに特定の薬品が体に投与された場合、それらの効力が殆ど効かない一種の特異体質の事である。毒に耐性があるとかそんな感じの。

 よく聞く話では化学薬品が効き難い、睡眠薬が効き難いなどとあるが、美雨もその体質を持っていたのか。


「美雨ちゃんの場合は河豚や鳥兜とかの毒物、麻薬や覚醒剤類が100%、麻酔薬が80%、化学薬品が50%ぐらいあるわね。麻酔を大量に投与されていたのはそこまでやらないと眠らないから。それでも尚起きたのは正直凄いわね。お姉さん驚いちゃった」

「そんなに凄い事なんですか? 80%って」

「勿論よ。何しろ80%なんて数字は普通の薬物免疫ホルダーの中にはいないもの。高くて精々50%ぐらいだし。毒を盛られても一切効かない人なんてちゃんみたいな忍者の末裔ぐらいだもの。しかもそれに覚醒剤とかも含まれてるなら尚更。銃剣医の常識が大きく覆されちゃったわね」


 ふむ。美雨は何処かに監禁されている時に人体実験か何かをされたという事か? けど異常が無いという事は人体実験ではないか、もしそうでも実験の時に投与された薬は全て無毒化された、といった感じか。

 美雨が監禁された理由に、人体実験というのが出てきたけど、こっちの異能判定でそれに確実性か湧いてきた。

 異能判定とは、簡単に言えばその人に魔術や超能力などといった、所謂異能があるかどうかを検査する事。もし異能があるならば陽性イグジスト、無いならば陰性ノットという判定結果が出るのだが、書かれていた結果は、陽性。つまり美雨には異能があるのだ。何かはまでは分からないが。


「……正刀君、どうしよっか。お姉さんは気が引けないんだけどねぇ」

「俺もですよ。あんないたいけな女の子に監視役がついたら一溜まりも無いですって」


 通常こういう異能判定で陽性が出た場合、検査者は銃剣警局へと報告し、即座に要注意対象になる。こういう異能持ちは大半が犯罪に奔る傾向が多い為だ。その為何か問題が起きれば対象者は即拘束、厳重な処罰が科せられる。

 対象外から逃れる方法は一つ。銃剣警になる事だ。そうすればそれなりの待遇が与えられ、銃剣警法によって安全は保証されるし、仕事にも困らなくなる。異能持ちであればイレギュラーという形でなる事が出来る為、恐ろしく難解な試験を受ける必要はない。


「正刀君、報告は少しだけなら遅らせる事も出来るけど、本当の所どうするの?」


 姉さんの質問は簡単に答える事が出来ない。もしこのまま美雨の事が銃剣警局に知られたら、最低でも監視役付きで軟禁状態、最悪無理矢理銃剣警にされるかもしれない。でも銃剣警になったら安全はほぼ保証される。けど、どんな異能かも分からない女の子をいつ死んでも可笑しくない職種に無理矢理就かせるのも嫌だし、放っておけばまた新藤達がやってくる事もありえる。そうなれば美雨だけじゃなく、あの場にいた梓にだって火の粉が掛かる。


「一体どうしたら良いんだよ……」


 美雨を銃剣警にはしたくない、けど放っておきたくない。

 俺がジレンマに陥っていると、腰の村正が不意に喋った。


『……ペットにしちゃえば良いんじゃない?』

「は?」

「え?」


 突然の村正の発言に、俺と姉さんはポカンと口を開いた。

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