No.4 AEB
「ま、まままままままままま、正刀!?」
いきなりの出来事に梓がテンパりにテンパっている。無理もない。俺も内心ではテンパっている。自制出来てるのが不思議なくらいに。
「ど、ど、どうしよう!? どうしようどうしようどうしよう!?」
「あ、梓、落ち着け。とりあえず落ち着け」
俺は自分の冷静さに感謝と驚きを持ちつつ、梓の肩をポンポン叩いて梓を落ち着かせる。いくらなんでも仕方ないとは思ってるさ。いきなり脱走した強盗殺人犯に出くわして、投げ付けてきたスーツケースの中に全裸の拘束巨乳美少女が入っていたら誰でも驚くし騒ぐしテンパるさ。
「梓! 梓!」
「(ビクッ!)」
俺が大声を出して、テンパってた梓がビクッと止まり、ようやく梓は落ち着く。ていうか、梓がビクッとした時に梓の胸がフヨンと揺れたぞ。フヨンって。
「落ち着いたか?」
「……う、うん。ありがとう正刀」
なんのなんの。梓の胸が揺れた所を目撃出来たから安いモンさ。なんて事を言うとまた銃剣警法違反になりかねないし、状況が状況なので発言は呑み込んでおく。
「えっと正刀。それでその子、どうするの?」
梓は落ち着いたものの、冷静さを完全に取り戻した訳ではない。まだ残っている恐怖に体が震え、眠っている少女を指差して俺に訊く。
「どうするも何も、とりあえず調べないと」
俺はまず、大きめのバスタオルを急いで持ってきて、少女の体に被せる。その後少女の顔を優しく持ち上げ、口を塞いでいるガムテープを剥がす。ガムテープは何重にも巻かれており、剥がすのに時間が掛かる。
「えーっと……」
ガムテープを剥がし終えた後は、少女の手足を拘束している黒い拘束具を調べる。少女の腕を拘束するそれは黒い金属製の手枷だった。形状は太めの黒い輪が二つ繋がり、鍵穴が真ん中に一つ付いていた。
黒い拘束具は二つ。両腕と両足を拘束しており、美少女には似合わないアクセサリーだった。そして俺は、この拘束具には見覚えがある。
「……これ、AEBじゃねえか」
AEB。それは犯罪者や一部の銃剣警が使用する、対超能力者用拘束具(Anti Esper Bind)の略称。大抵は手錠や枷、鎖などの形をしており、これに拘束された超能力に類する力を持つ者は力を使う事が出来なくなる。また、物理攻撃による破壊はやろうと思えば可能だが、超能力などの特殊な力での破壊は絶対不可能な拘束具。
起源は遥か昔、特別な祈りを捧げた銀で作られた枷を魔女に嵌めてみた所、魔女は魔術が使えなくなったらしく、以後超能力者には特別な祈りを捧げたり、何百年も熟成された銀で作られた拘束具で拘束するのが基本となった。
超能力。魔術。今までアニメや漫画といった架空の世界にしか存在しないと言われ続けてきた、未知の力。
空想の産物とされていたそれらの力は、現に実在する。その証拠の一つが村正だ。
村正も言ってみれば、日本古来の魔力を帯びた刀。西洋風に言えば魔剣みたいなものだ。
超能力以外にも、魔術、妖術、陰陽道、人外など、この世のものとは思えない力が世界中には存在する。一般人にはあまり知られてはおらず、秘密裏にそういう類の力を持つ集団が動いていたりする。というか、一般人に知られたら世界中大混乱になるしな。特にこのご時世は。
AEBで拘束されている時点で分かった。この少女は超能力者、或いはそれに類するのだろう。
「えっと正刀、その子、超能力者なの?」
俺が長ったらしい説明を言い終えると、梓が恐る恐る尋ねる。
「まあ、AEBで拘束されてるって事は、ほぼ確定だろうな。けど、何で新藤達はこんな巨乳で可愛くてエロそうな体を持ってておまけに巨乳な女の子なんか運んでたんだろうな。しかも全裸でスーツケースの中に」
「正刀、巨乳って二回言ってるけど……」
梓がジト目で見てくるのは気のせいと心の中で念じ、俺はAEBを改めて調べる。この手の拘束具の鍵は精巧に作られていて、ピッキングで開けるには専門の技術を学んだ者しか解錠出来ない。そして俺はその手の技術を学んだ事は無い。精々普通の手錠の鍵を五分で開けられるぐらいだ。
「うーん、俺にはこれを外すのは無理だし、村正で破壊するのが手っ取り早いんだろうけど、こんな綺麗な肌に村正の刃が当たらないとも限らないし、それにこの子の胸は中々どうしてエロいし、困ったなぁ」
「正刀! 最後は関係ないでしょ!」
梓よ、仕方ないではないか。この少女の胸はお前の胸みたいに大きいのだから。タオルを被せているにも関わらず、胸の形がタオル越しにくっきりと見える。凄い柔らかそうだなぁ、触ってみたいなぁ、何カップだろうなぁ、とまで考えていると、梓の鋭い視線が俺を見つめる。
いかんいかん。これ以上銃剣警法違反になりかけたら殺される。思考を切り替え、ポケットからスマホを取り出す。この拘束具を外せるであろう知り合いの元へと電話を掛ける為だ。
『……こちら、風魔夜千瑠で御座る』
「夜千瑠、俺だ。妖村正刀だ」
相手は後輩の夜千瑠である。
夜千瑠は風魔一族の末裔。故にこの手の難しいピッキングなどは夜千瑠の得意分野であり、俺なんかよりもよっぽど技術力がある。俺と初めて会った時には、自分の腕や足を何重にも手錠掛けし、それを一人で全部外したという一発芸を見せ、俺やもう一人の同僚を驚かせた事がある。今頼るのならコイツだろう。
「夜千瑠、お前今何処にいる?」
『拙者は現在、師匠の家の前にある電柱の上にいるで御座る』
「なら丁度良かった。すぐウチに来てくれ。お前の力を借りた……は?」
俺は一瞬、今の会話に耳を疑った。今のは聞き間違いか?
「夜千瑠、お前さっき何て言った?」
『拙者は現在、師匠の家の前にある電柱の上にいるで御座る、と申したで御座る』
「な、何で俺の家の前にいるんだよ。てか、いつからいるんだよ」
『拙者が八徹と雑談をしていた所、師匠が新藤恭太郎とその仲間と思しき男達を目撃し、新藤達が残したスーツケースを持ち帰って調べるという情報が拙者の携帯に入り、その後拙者はすぐに師匠の家へと向かい、師匠と梓殿が家の中に入るのを確認後、影ながら師匠の家を警護していたで御座る。ちなみに周囲に怪しい者の気配は無しで御座る』
お前いつの間に。しかも情報が入って俺の家まで向かって、俺と梓が家に入ったのを確認したって事は、家を出たのは大体十分前ぐらいじゃねえか。お前の家からここまで走っても二十分以上は掛かるだろ。大方屋根の上を伝って走ってったんだろうけど。ちなみに夜千瑠の話に出てきた八徹とは夜千瑠の傍付き忍の事である。
まあ、そんな事は兎も角置いといて。夜千瑠が側にいたのは幸運だ。
「じゃあ夜千瑠、お前にピッキングしてもらいたいのがあるんだ。お前の鍵開け技術ならすら絶対大丈夫だと思うんだが」
「御意。師匠のお頼みとあらば、例え不純異性交遊も致すで御座る」
「それをやったら俺が死ぬだろうが。あと師匠はやめろって」
そんな訳で、会話の間に俺は家の玄関を開け、電柱から降りてきた夜千瑠を家に入れる。
上は女物の黒い着物に鎖帷子、腰には大きな黒い帯、下は黒いスカートにストッキング、口元は黒い覆面で隠し、両手には黒い手袋に篭手、首には長い黒のマフラー、足も黒い足袋に黒い靴。
全身黒一色の格好こそが、夜千瑠の普段の服装。そして基本的には姿をあまり見せない。こっちから呼ばないと何処にいるのかさえも分からないぐらいに夜千瑠は何処にでも忍んでいる。忍だけに。
俺と夜千瑠は急いでリビングへと向かった。梓が少女を見つめたまま呆然としている。
「あっ、夜千瑠」
「梓殿、お久しぶりで御座……」
夜千瑠の言葉が、途中で止まった。正確には、タオルを被せてある全裸の拘束巨乳美少女を見た辺りからである。
「どうした夜千瑠?」
「……し、師匠、拙者、銃剣警局へ報告したい事が……」
「待て! 待て夜千瑠!」
俺は慌てて夜千瑠を羽交い絞めにする。冗談じゃない。こんな所で少女誘拐だなんて濡れ衣を着せられたら、銃剣警法違反で殺される!
「この女の子は! 新藤が投げたスーツケースの中から! この状態で入ってたんだよ! お前は俺が新藤達と結託して! こんなにも可愛い女の子を誘拐すると! 本気で思ってるのか!?」
「否。師匠であれば、第一に梓殿を攫うで御座る。無論裸体に剥いてで御座る」
「ほ、ほら正刀。夜千瑠はこんなにも正刀の事信頼してるじゃない。だから落ち着きなさいよ」
くっそぉ、何だよこの、試合に勝って勝負に負けた感は。自業自得なのは分かってるけど。
後で夜千瑠は絞めておくとして、今はコイツがいないと何も始まらない。
「という訳だ夜千瑠。お前ならAEBを外せるだろ」
「然り。暫しお待ちを」
夜千瑠は腰帯を外すと――何でも金具が付いてて、自由に取り外しが出来るらしい――、その中に仕舞いこんでいるピッキングツールを一本取り出し、慣れた手付きでカチャカチャと鍵穴の中を弄る。そしてものの数十秒でカチン、という音が鳴った。
「……師匠、一つ開け終わったで御座る」
「え? もう開けたのか?」
「然り。拙者に掛かれば、AEB程度ならば数十秒あれば充分で御座る」
マ、マジかよ。俺と梓は揃って驚く。
AEBの鍵穴は相当精巧かつ相当複雑に作られているから、俺なんか二時間掛かっても開けられなかった代物を夜千瑠は即行で開けやがった。さすがは夜千瑠だ。ピッキングから爆弾の解体、暗証番号の特定までお手の物かよ。
なんて驚いている間に夜千瑠は足に掛けられていたAEBも外し終えた。
「師匠、完了で御座る」
夜千瑠は平然とした無表情で俺に報告する。やっぱり得意分野が違うと次元が違うな。
「サンキュ夜千瑠。助かった」
「否。この程度、師匠との生業を共にするに当たって当然の事で御座る。それよりも、師匠はこの者は如何するつもりで御座る?」
夜千瑠の質問に、俺はまだ答えが出ない。
この少女どうするか? そりゃ身元を調べて、出来れば新藤達の居所も見つかる手掛かりになれば良いんだが、まずはこの子をスーツケースから出さないといけない。
「よっと」
俺は慎重に少女を抱きかかえ、ゆっくりとソファの上に乗せる。
少女は寝息一つ立てずに眠ったままだ。起きる気配が無い。
「……なあ、俺さ、さっき結構大声出した筈なのに、何でこの子まだ眠ってるんだろう」
さっき俺が大声で夜千瑠の誤解を解いた時も、開けた時に俺と梓が騒いだ時も、結構大声だった。なのに、この少女は起きない。死んでいる訳ではない。呼吸はしているし、脈も安定している。
夜千瑠が少女に近づき、容態を調べる。
「……恐らく、薬で眠っているのかと。それも相当強力な睡眠薬か麻酔薬によって」
「え、夜千瑠分かるの?」
「然り。その手の薬品の臭いが口元からするで御座る。注射されただけでなく、口から大量に摂取させられた可能性もあると考えて間違いないかと」
「……夜千瑠、そうした場合、どれくらい目を覚まさない?」
「強さにもよるで御座るが、数日は目を覚まさないかと」
「……そうか」
一体、新藤達は何でこんな事をしたんだ? 年頃の女の子を裸に剥いて、しかも大量に薬漬けにしてまで眠らせて何処に運ぶつもりだったんだ。本当にクズのやるような事だな。ムカついてくる。けど、この少女が超能力の類を持っているなら話は別だ。大方何かに利用する為にこんな事したんだろうな。
ヤバい。余計にムカついてきた。けどここは梓もいる事だし、怒りを自制して、俺は少女の顔を覗き見る。
少女の寝顔は、可愛い。可愛過ぎる。もし俺が銃剣警じゃなかったら、多分理性を無くして襲ってたかもしれない。いや、その前に梓を襲うか。
「……まあ、数日目覚めないなら、他の事調べようぜ」
「他の事って?」
梓の質問に答える前に、俺は少女の胸の部分を凝視する。ここまで豊かな膨らみにするとは中々良い発達具合だな。
「……ふむ。成程。一つ分かった」
「え、何々?」
「まず、この子の胸のバストサイズは梓と同じ、Fカップだ」
(ゴンッ!)
突如、頭に強い衝撃が掛かる。腕力が俺よりもずっとか劣る梓が村正で俺の頭をブッ叩いたのだ。
「何すんだよ梓。あと村正、梓が持って平気なのか?」
『別にこの程度だったら梓が持っても大丈夫よ。ていうか今のは完全に正刀が悪いし』
「そ、そうよ! お、女の子の胸を見て何言ってるのよ!? ていうか何で正刀が私の胸の大きさ知ってるのよ!?」
「そりゃ当然だろ。毎日会ってるんだし、お前の胸の大きさぐらいちょっと見ればすぐに分かる」
「正刀のエッチ! スケベ! セクハラ!」
梓さん、何を今更嘆いているのですか。俺がこういう性格なのはお前がよく知っている事だろ。
「まあ、冗談はさておき、真面目な話になるけど、この子が起きるまでの間に、この子が入っていたスーツケース、そして拘束していたAEB、これぐらいだったら調べられるだろ」
俺は手袋を(スーツケースを開ける時から)嵌めたままの手でスーツケースの中にAEBを入れて閉じ、夜千瑠に渡す。
「夜千瑠、これを詳しく調べてくれ。出来れば細かく頼む」
「御意」
夜千瑠はスーツケースを受け取り、リビングを出ようとしたその時、
「…………ん」
不意に、聞き慣れない少女の声が微かに聞こえた。俺達三人が、一斉に声の聞こえた方を向く。
「…………ん」
俺達が声のした方へと駆け寄る。その方向はまごうことなき、数日は起きないと夜千瑠が判断した少女の方だった。
「お、おい。おい」
俺は肩をポンポン叩き、少女を起こすのを試みる。すると少女は徐々に瞼を開けようとしていた。
「……ん、んん……」
ゆっくりと瞼が開いた。ずっと眠っていた少女の瞳は、アメジストの様に綺麗な紫色をしていた。何の汚れのない、見つけた原石を研磨し、丁寧に手入れされたかの様な。
青髪紫眼。その髪と目が揃った事で、少女の可愛さがよりはっきりとした。
少女は目を開けると、ゆっくりと上半身を起こす。それにより、とんでもない珍事が起こった。いや、珍事とは言えないか。少女の体を覆っていたタオルが重力に馬鹿正直に従ってズルッと落ち、少女の真ん丸い胸が丸見えになった。
「なっ!?」
「ひゃっ!?」
「!?」
幸いにも大事な所は、少女が両手を股に挟んでおり、それによって腕が丁度大事な所を隠していた。
悔しさと安心感を同時に得て、俺は少女に話しかける。
「……えーっと、とりあえず、大丈夫か?」
「…………?」
少女は少し眠たそうな顔をしながら首を少し斜めに傾ける。どうやら俺の質問が理解出来ていないみたいだ。
「えーっとじゃあ、とりあえず、俺の言ってる言葉が分かるか?」
「……(コクリ)」
おっ、小さく頷いた。良かった。言葉はちゃんと通じる。そこが駄目だったら本末転倒だからな。
「よーし、言葉が通じるなら最初に言いたい事がある。前」
「…………?」
「ご自分の体をよく見て下さい」
俺に言われるがままに少女は自分の体を見て、あ、と小さく声を漏らした。やっと気付いてくれた。自分が全裸で、上半身丸出しな事に。
少女は自分の体を数秒見つめ、その後俺の方を数秒見つめる。そして顔をほんのり赤くし、胸を両腕で隠す。
「……やん」
たったそれだけの一言だった。恥ずかしがって体を隠す仕草だった。小さくて可愛らしい声だった。それだけで、
(ズキューンッ!!!)
俺の心臓を何かが撃ち抜いた。
「ま、正刀!?」
「師匠! 如何致したで御座る!?」
梓と夜千瑠が倒れた俺に慌てて駆け寄る。いや、俺は別にどうでも良いよお二人さん。この子が先だろ。
「……あ、梓、その子に、ふ、服を……、下着は、和室の桐箱の中に、お前のが入ってる……」
「え? あ、わ、分かったわ!」
俺は力を振り絞り、少女を指差しながら梓に少女を任せて二人が和室へと向かうのを見送る。
「師匠! しっかりして下され! 一体何があったで御座るか!?」
夜千瑠が懸命に俺に呼びかけながら体を揺する。俺はまだ残された力をフルに使って喋る。
「……よ、よく分からんが、急に心臓に、撃ち抜かれた衝撃が加わって……。しかもこれは、前に梓が、とびっきりの可愛い笑顔を俺に見せた時に起こったのと、同じ現象、だ……」
『要するにキュンって来たって事? あの子の仕草に』
「……まあ、そんな所、かな」
なんという殺傷能力。これは村正の斬撃や、俺が使う体術と同等レベルだ。さすがはAEBで拘束されていただけの事はある。やはり美少女は侮れない! やっぱ可愛いは正義か!? なんて思っていたら、和室の襖が乱暴に開く。
梓だった。無言でドスドスと女の子らしくない乱暴な歩き方で、テーブルに置いてある村正の柄を掴み、
(ゴォンッ!)
俺の顔面を村正の鞘で殴ってきやがった。それが痛いのなんの。特に顔面だったら尚更。
「梓テメェ何すんだコノヤロー!?」
「うるさい正刀! 何で正刀が私の下着なんか持ってるの!? 何で桐箱に入ってるの!? 銃剣警法違反で訴えるわよ!」
突っ込むのが遅いぞ梓。あと村正で俺を殴るな。てか訴えないで下さい梓様!
『梓、落ち着きなさい』
突然村正がズドン、という音を立てて興奮する梓の手から離れ、床に落ちた。村正が俺以外の人が使用する権利を一時的にロックしたのだ。こうなると村正は俺しか持てなくなり、使えなくなる。
『何で正刀が梓の下着を持っているかと言うと、半月ぐらい前に梓がウチにきてシャワー浴びたでしょ。その時に梓ったら脱いだ下着をそのままにして着替えて、正刀と遊んで帰ったじゃない。正刀は親切にも嗅いで梓のイケナイ姿を妄想したりとか一切せずにキチンと洗濯して返す時まで桐箱に仕舞っておいたのよ』
「そうなんだよ。返そうと思ってたけど、お前に直接渡したら今みたいに逆ギレされるだろうし、嘆さん経由でこっそり渡した方が良いと思ったけど、嘆さん全然ウチに来ないしで困ってたんだよ。あと村正、あらぬ誤解を言うな」
「へ? ……あ」
やっと思い出してれたみたいだな。凄い大変だったんだぞ。幼馴染とはいえど、年頃の女の子、しかも一介のお嬢様、更に言えばあのデカイ乳を支える純白のブラと、いかにも高級そうな純白のパンツを洗濯した、十六歳男子高校生兼銃剣警(童貞)の大変さぐらい分かれってんだコノヤロー! ちなみにこの場合、俺が梓の下着を盗んだ訳ではなく、梓自身が下着を忘れていった為、俺は銃剣警法違反にはならない。どちらかと言えば被害者は俺だからな。
梓は興奮が冷めると、アワワ、とパニくり出し、頭を下げる。
「ごごごごご、ごめん正刀! 正刀ったらいつもエッチな事ばっかり言うし、エッチな事ばっかりしてくるからつい誤解しちゃった! 本当にごめん!」
「いや、気にするな梓。半分は自業自得だってのは分かってるから。それよりも一つ訊きたいんだが」
俺は半分反省、半分落ち込みつつ、和室から出て来た少女を指差しながら梓に訊く。
「……何だあの格好は」
少女はちゃんとした服を着てはおらず、俺のワイシャツを一枚着ただけの姿である。一応梓秘蔵の純白な下着を付けてはいるのが、シャツの隙間からチラチラ覗く白い布で分かる。見えるからこそ、余計にエロいな。胸はシャツ越しでもその大きさを表し、特にシャツからはみ出ている太股は、梓に決して劣らないムチムチ加減である。この調子で来れば尻もエロいと見た。後ろは見えないから分からないけど。
「だ、だって、マトモなのがそれしか無かったから……」
「そうだな。確かにそうだな。俺が何の理由も無しに女の子の服を持っていたら銃剣警法違反で殺されるな」
まったく梓は。別にジャージでも良かったのに。俺が心の中で文句を言っていると、
「……あの、御二方。お取り込み中申し訳ないで御座るが」
ずっと蚊帳の外にいた夜千瑠が割り込んできた。そういえばコイツを忘れていた。帰る直前でこのワイシャツ一丁の子が起きたからな。
「そろそろ話を本題に戻しても良いで御座るか?」
「あ、ああ。悪い悪い。まあ、立ち話もあれだし、座るか。飲み物入れるから」