No.19 美雨の過去
この回では19と美雨の過去のみお送りします。
どちらかというと19よりになっちゃいましたが。
◇
百魔死団第19番手。彼にはちゃんとした名前というものが無い。
これは19に限った事では無い。百魔死団の構成員は、全員1から100までの数字をコードネームとして呼び合っている。或いはそれぞれが持つ異名で呼ばれるぐらいだ。お互いの本名は知らないし知っても興味無い。
19の場合は無情の心操師。高度な洗脳術によってあらゆる生物を洗脳し、自身の駒として操ってきたからこの異名が付いた。
勿論これは周りが勝手に付けたもので、本人としてはやはり良い気分ではなかった。
「……何でこんな中二病みてぇな名前が付くんだよまったく……」
百魔死団という組織名の時点で、文句を言うだけ無駄だと分かってはいたが。
しかし異名を取るだけの実績はあった。
何気ない日常会話で洗脳した小国の大統領を自殺させ、毒を持った動物を操って街で騒ぎを起こし、心の無くなった者を人間爆弾にしたりと様々な事をやっていた。
19の日課は、自分が使うに値する手駒を捜す事だ。殺し屋から犯罪者や偽善者、政治家などジャンルは広い。その内の一人が竹平一作だった。竹平は薬学の知識があり、交際女性を人体実験に平気で使うような男だったので、19が少し話を持ち掛けるといとも簡単に手駒になってくれた。そのおまけとして知ったのが、当時竹平の部下だった天崎夫妻である。
この夫婦も竹平と同類だった。近所に住む子供を知らないうちに薬漬けにし、自分達の研究成果を上げる道具として利用していた。
19が天崎夫妻に接触した頃は、丁度彼等が起こした薬品散布事件の頃であり、匿う代わりに手駒になるよう話を持ちかけた。自分達の研究以外興味の無い天崎夫妻は馬鹿なぐらいホイホイ言いなりになってくれた。三人は19が希望した薬を好きなだけ作り、思うが侭に実験を続けた。
効果は特別強い訳ではなく、そこそこのものだが、手駒としては上出来だった。
何年かの月日が経ち、妻の夏音が妊娠した。それを聞いた夫の靖は、出産したらすぐに薬物実験に使いたいと言い出した。
彼等がやりたかったのは、赤ん坊の頃から薬漬けにした人間がどういう成長を遂げるのかを観察するというものだった。19にとってはどうでも良い事だし、夏音も賛同していたので、特に気にせず放置していた。
暫くして子供が産まれた。産まれたのは女の子だった。天崎夫妻は揃って喜んだ。けどそれは新しい家族が出来た事ではなく、新しい実験体が手に入ったという意味合いでだ。その姿はまるで、親に玩具を買ってもらった小さい子供みたいだったと、19は覚えている。
天崎夫妻は子供の出産届けも出さず、すぐに自分達の子供を薬漬けにしようと準備に取り掛かった。
だがそこで予期せぬ問題が起こった。
その子供には、天崎夫妻や竹平が作った薬が全く効かなかったのだ。
彼等は寝る間も惜しんで調合を変え、新薬を作っては何度も試した。効く薬もいくつかあったが、時間が少し経つと完全に無毒化されてしまった。
困った天崎達は詳しく調べてみる事にした。
結果分かった事は、子供には先天性の薬物免疫、それも強力なものを複数持っていた。
それは本当の本当に偶然だった。もっと調べてみると、毒物や麻薬類は完全無効、化学薬品も半分程度しか効かない強い耐性だった。
これではどんな新薬を投与しようが全く効かない。それを知った天崎達は19からしてみれば大笑いもので、酒の肴にでもしたいくらいだった。
天崎達はすぐさま子供を殺そうと決めた。薬が効かない人間に利用価値は無い。彼らの頭の中ではそうなっていた。折角宿った新たな命が云々なんてどうでもよかった。求めるのは自分達の実験への利用価値のみ。例えそれが、自分達の子供だとしても。
首を絞めればすぐにでも殺せるが、死体が見つかるのと厄介なので焼き殺そうと考えていた天崎達を19が止めに入った。
何故止めに入る。邪魔をするなと騒ぎ立てる天崎夫妻がウザかったので、19は夫婦の顔面を殴りつけ、悶絶している間に原形が留まらなくなるぐらい踏みつけた。
この時無事だった竹平も疑問に思った。19が何故子供を殺すのを止めたのか。竹平の知る限り、19は子供に対しても無情な男だ。天崎夫妻の実験で使い終えた子供達に爆弾を取り付けて自爆特攻させた事があるぐらいだ。相手が子供、まして赤ん坊だからとかそんな理由ではない筈だ。
では、19がそうさせたのは一体何だったのか。
彼は知っていた。複数の薬物免疫所持者には、とある奇怪な日本刀が宿るという事を。それが異刀の一本、妖刀『村雨』だった。
過去に一度だけ古い文献を読んだ記憶があり、印象には残ってた。踏みつけられても尚騒ぎ立てる天崎夫妻はもう用済みだ。
口封じと気分転換も兼ね、蹴り続け殴り続け、骨が潰れるぐらいグチャグチャにする。喉が嗄れるぐらい悲鳴を上げるから喉を潰した。妻の方は犯す気も無いから、再起不能になるまで夫婦平等に潰す。死体が二体出来上がった後は、竹平達が使っていた研究所ごと焼いて始末した。
竹平はまだ殺さなかった。利用価値があったし、新薬を作ってもらう必要がった。別に竹平でなくても、薬物に長けたエージェントは百魔死団の中にはちゃんといる。けどヘタに借りを作るのは嫌だったので残しておくことにした。
用済みの手駒を片付けた後は、子供の方だった。まだ赤ん坊で、すぐに妖刀『村雨』が開眼する訳ではない。そもそも本当に宿しているかどうか怪しい。偶然複数の薬物免疫持ちだった可能性も考えられる。
とりあえず19はある児童養護施設に預ける事にした。子供はそこで働く女性職員に名前をつけてもらった。妖刀『村雨』を宿している可能性に賭けて、美しい雨と書いて読む、美雨と。
美雨が引き取られた施設は、表向きには普通の施設だ。だが裏向きには百魔死団が管理している手駒を補充する為の箱庭になっている。そこで身寄りの無い、百魔死団の中で始末した人間が残した子供を管理、監視していた。
子供は従順だ。少し脅せば何でも言う事を聞くし逆らえば始末も容易い。何れは自爆テロの駒にしようと思い、毎日飲食物に薬を盛って逃げられないようにしていた。19はよく監視カメラ越しに子供達の様子を見ていた。その都度彼は腹を抱えて笑っていた。
「クックックッ、面白ぇなぁおい。薬漬けにされているとも知らず、和気藹々と楽しく生活しているのをよぉ。やっぱガキはガキだな。いつ見ても飽きねぇぜ」
と、アールグレイの紅茶を啜りながら茶菓子代わりに見ていた。
勿論美雨にも薬は盛られていた。が、他の子供達と違い、美雨だけは平然としていた。試しに百魔死団の毒使いに作らせた毒も盛ってみたが効果無し。薬漬けに出来ないから薬物免疫は厄介の種の一つであった。
五年程の月日が経ち、薬漬けにされている子供達を施設から連れ出した。勿論その施設は生活していた痕跡を全て消して建物は静かに解体して更地にした。
子供達は眠らせてその間にある島に運び込んだ。
彼らが連れてこられたのは、今まで自分達が暮らしていた施設とは懸け離れた金属の建物。城塞と表現した方が良いだろうか。そこは空石島とは別の島に建てられた建物だった。
いきなりの出来事に頭が混乱していた子供達は、そこにいる知らない男達に命じられ、検査の為だと裸になるよう言われた。
子供達は男達が怖くて言われるがままに裸になり、首には黒い金属の首輪を装着させられた。その後、何も無い広い部屋に案内された。
子供達は全員で三十人。男女それぞれ十五人ずつ。年は下が七歳、上は十歳と区々だった。この中には施設にいた子供だけでなく、新たに拉致した子供や孤児も混じっている。彼等は何が何だが訳が分からず、いきなりの羞恥で顔が熱していた。
19が部屋の中に入り、開口一番に、今日からお前達はここで暮らせと子供達に言った。
最初何を言われたのか理解できなかった子供達はキョトンとしていた。そこで19は、見せしめと称して、ある映像を見せた。
それは自分達が世話になっていた施設の若い女性職員。皆から姉の様に慕われている彼女が気持ち良さそうな顔で数人の巨漢達に強姦されている所だった。
突然の映像を見せられた子供達は悲鳴を上げたり顔を覆ったり騒ぎ立てる。
煩かった19はスマホをイジった。すると数人の子供の首から電流が流れ、それを受けた子供は声を上げてその場に倒れ込んだ。彼らに装着された首輪には、高圧電流を流す仕掛けが施されていたのだ。死ぬ程の威力は無いが、言う事を聞かなければこうなると意思表示も込めて子供達を黙らせた。
しかし、いきなりここで暮らせ言われても素直に応じる訳が無い。何人かの子供は反発した。何でなんだ、早く帰して、と色々文句を言う。
ガキが煩くて煩くて耳障りだ。ならば仕方ない。もっと見せしめが必要だ。
19はその子供の中から二人を選んで強めの電流を流した。電流を受けた子供は絶叫してすぐに気絶。19は他の子供達が怯えているのに目もくれず、その子供の顔面を容赦なく踏み潰した。
――グシャリ、グシャリ、グシャリ
果物でも潰すみたいに何度も何度も踏みつけた。決して楽しそうにではなく、目の前に転がっているゴミを潰すみたいに、汚物を見る様な冷たい顔でひたすら踏み続ける。
最終的には顔も潰れて原形も無くなり、今度は身体を徹底的に踏み潰した。幼い子供の身体は小さくて脆い。短時間でグチャグチャに潰せた。
その光景を見ていた他の子供達は恐怖で身体が震え、失禁したり嘔吐してまた叫び出す。
一頻り終えた所で、19は子供達に向かってこう言った。
「……さて、次はどいつが良い?」
少し不気味に笑いながら訊ねると、子供達はただ怯える事しか出来なかった。
死体を手下達に片付けさせた19は部屋を後にし、研究員に今後の方針を指示した。
子供達の毎日の食事には全て新薬を盛り、適当に実験しろ。逆らうなら電流を流せ。最悪何人か殺せ。退屈したら遊んで良いと。
研究員はその指示に淡々と従った。新薬の開発を続け、完成すればその都度食事に盛り、様子を観察して細かく記録する。
時には実験室に連れ出して人体実験を施した。嫌がる子供に電流を流して大人しくさせ、拘束台にくくりつける。その後何種類も薬を投与したり臓器を抜き出したりする。その作業を行う研究員の顔は、何処までも無表情で愛憎を持っていない、機械人形の様な顔だった。
それもその筈。この研究員達の大半は19が話術による人心掌握で洗脳したからだ。
全ては19の為。
全ては百魔死団の為。
それを信じて何も疑わない研究員は飼い犬の如く19の命令に従える。実験体になれと命じれば率先してなるし、死ねと命じられれば死ねる。
尤も、これは19自身にとって、日常生活の一コマに過ぎない些細な事だ。
当の子供達はというと、裸のまま黒い壁の部屋で監禁されていた。そこは窓もテレビも何も無い、トイレと照明以外ぐらいしかない。逃げ出したいが、方法は分からないし、自由に動けないように拘束具で手足の動きを制限されていた。
暇あれば部屋から実験室に連れて行かれて人体実験をされたり、黒尽くめの男達によって乱交しろと命じられたり、女の子達は男達の性欲を発散する道具としても使われた。
それこそ『人』としてではなく、何処かの如何わしい本出てくるような『家畜』としての扱いで。
中には逆らう者もいるので、激しい公開拷問の果てに処刑してみせた。
素手や凶器による暴行、刃物のメッタ刺し、遅効性の毒ガスでの甚振り、高温の炎の焼却、溶解液による部分欠損、思いつく限りの残虐な拷問の数々を19は心から楽しんでいた。紅茶の共にはうってつけだった。
気が付けば彼等の心は完全に崩壊した。どんな実験もどんな遊びも素直に応じる従順な実験動物に育ち上がり、人間らしさが無くなっていた。幼少の頃からそんな生活を続けていたら、そうなるのは必然的だから。
ちなみに美雨はこの島にはいない。彼女だけ住宅街にある隠れ家の地下室に監禁していた。裸のままAEBの拘束具で全身の身動きを取れなくし、食事と排泄以外は基本的に置物の様にジッとさせられていた。
薬物実験も何度か行った。続けて分かったのは、強力な麻酔薬なら一時間程度眠らせられる事ぐらいで、それ以外は全て無害となっていた。
19としてはそれが退屈で、やる事といえば紅茶を飲みながら実験体の少年少女達の乱交っぷりを見物するぐらいだった。
何年か経ったある年、世間と自分達を一変させる事件が起こった。
百魔死団殲滅大戦。
超凶悪犯罪組織、百魔死団と銃剣警との壮絶な大戦争。十万人を超える銃剣警勢に対し、百魔死団は僅か構成員百名。後は外部で雇った捨て駒。傍から見れば勝利は銃剣警勢だと誰もが思った。
だが相手は凶悪なテロリストの集まり。戦いは難航した。戦場に立った多くの超能力者や異刀剣使い、戦闘の猛者達が次々と蹂躙されていく。
結果的に、生き残った銃剣警勢は約千人。百魔死団は捨て駒は全滅、構成員百名は全て生きていた。一見すれば百魔死団の完全勝利に終わった。
但し、百魔死団には大きな爪痕が残った。19もその一人。右腕と左脚が潰され、義肢を装着する事となった。左腕も半分麻痺し、自衛は出来るが戦闘力が大幅に激減してしまった。
後遺症は自身の力にまで及んだ。今までは動物魚類人間性別関係無く洗脳出来た彼だが、今では女性や動物の雌類しか洗脳出来なくってしまった。しかも一度組み込んだ洗脳回路が断たれると二度と洗脳し直せなってしまう。
それでも19の洗脳術は脅威だった。能力を使わなければ男相手でも通用するし、試しに使えなくなった女の手下に洗脳術を掛けて操り、市内で通り魔殺人をさせてみた。結果、洗脳の強さ自体は損なわれていなかったようで安心した。
傷を癒すべく身を潜めていた19は、暇潰しに美雨の様子を見る事にした。百魔死団殲滅大戦をきっかけに、百魔死団が管理していた建物の殆どが無くなったが、美雨の監禁場所だけは健在だった。ついでに新しい手駒でも捜そうと色々調べてみる。
案の定、美雨は相変わらずだった。
AEBで拘束したまま放置されている。死なないよう管理はさせていたが、麻酔薬の投与のおかげで今は眠っている。
美雨が生まれてから十年以上経つが妖刀『村雨』が開眼する事は無かった。AEBを外して放置してみたが結果は同じ。このまま開眼しないなら、使えそうな臓器を抜き取って海外マフィアに売り飛ばそうかと考えていると、新たな手駒に慣れそうな者達の資料を見つけ、早速利用する事にした。
美雨が生まれて十六年が経った。そろそろ彼女を別の場所に移動させる事にした。いい加減消え去らないと銃剣警達に嗅ぎ付かれるからだ。
ついでに19は手下達に、最近新しい手駒になった新藤恭太郎を脱獄させるよう命じておいた。新藤は強盗殺人を繰り返し、張っていた銃剣警に逮捕されて拘置されている。あれは意外と役に立った。何度か殺人訓練をさせているが、中々筋が良かったので、奴も回収しておいて良いだろう。
が、その判断が19にとって痛恨のミスであり、今回の一件の引き金となった。
ある時、そろそろ美雨を運び終えた頃だろうと紅茶を啜っていた19の元に、手下の一人が大慌てで駆けつけてきた。
「た、大変で御座います19様っ!」
「どうしたんだよ、うるせぇなぁ。何かあったのか?」
「そ、それが、実験体が、実験体が銃剣警に奪われてしまいましたっ!」
「……はぁ?」
19は手下の言った事にポカンとした。
詳しい話を聞いてみると、脱獄をした新藤が手下達と共に、美雨を入れたスーツケースを運ぼうと準備していた。そこへ偶然にも近くを歩いていた銃剣警と遭遇。
しかし銃剣警と言っても、相手はまだ少年だった。見つかった手下も殺し慣れているので問題なく対処出来た筈だった。
その少年が腰に差している得物を見なければ。そこから得体の知れない殺気を感じ、応戦するか逃走するか迷ってしまった。
そこで思いも寄らない事が起こった。
なんと新藤が美雨を入れたスーツケースを奪い取り、銃剣警の少年目掛けて投げ飛ばしたのだ。何の意味も無く。
これに焦っていると、少年が銃剣警局に電話をしてしまい、止むを得ず逃走する事に。
銃剣警局へ連絡する際、少年は自分の名前をアヤムラマサトと名乗ったらしい。
この報告を聞いた19は耳を疑った。
「……おい。そのガキの名前、本当に“アヤラマサト”で間違いないんだな?」
「え? あ、はい。新藤達の聞き間違いでなければ間違いなく」
「そうか……」
19は思いがけない所で、思いがけない名前を聞けて半分喜んだ。
妖村刃。その名前を一度とて忘れた事は無い。
百魔死団殲滅大戦よりも以前に、百魔死団を何度もしつこいぐらいに苦しめた東京銃剣警局の最高戦力。超人越えの超人、どんな圧力にも屈さない化け物の様な元序列一位。大戦時にはどの銃剣警よりも大きな功績を残したが、その大戦時に部下を庇って殉職したと聞く。
その息子が、話を聞けば妖刀『村正』を所持し、銃剣警をやっている。
19はいつの間にか、ニヤリと不気味に笑っていた。
「……おい、新藤はどうしている?」
「はっ。新藤は現在待機させていますが……」
「拘束しておけ。それと、自分は拷問の腕に自信があるという奴等を最低十人集めろ。出来れば多めにな」
「は、はっ!」
手下は返事をしてすぐにその場を後にした。
「……チッ。新藤の野郎、余計な事しやがって」
大方、薬のやり過ぎで頭が狂ったか、或いは捕まりたくない恐怖で気が動転したか。どの道奴は用済みだな、と19は思った。
新藤恭太郎はこの後、19が手配させた手下達によって完膚なきまでに虐殺され、身体はバラバラに切断されて山林の中に遺棄された。
19は次に、昔自分達が雇った手下の中で美雨の監禁に特に関わっていた三人――柳田英二、関宗太、羽嶋孝輔の痕跡が銃剣警側に知られてないか調査した。
結果、内通者によって得た情報で、三人の指紋が美雨の口を塞いでいたガムテープに付いていた事が判明した。19は手下に命じ、内通者と一緒に三人を始末した。尚、一体どうやって付いたのかは不明だ。
後は妖刀『村雨』が開眼するのを待つだけ。試しに19は手下を何十人も使い、帰宅途中の妖村正刀達を襲わせた。
戦闘中、それは起こった。
美雨の身体から黒い瘴気が溢れ出した。遠くから見ていた19は既に美雨を操っていた。いつでも妖刀『村雨』を使えるように。
――そして、村雨が降り注いだ。
外見は普通の女の子。但し、異刀の一本、妖刀『村雨』を宿したそれは、19が操りし手駒。
期待通りの強さだった。たった一振りで用済みの手下達を皆殺しにし、更には妖村正刀にまで深手を負わす事が出来た。
「……ふむ。妖刀『村雨』。予想以上の素晴らしさだな」
ここまで確認したら、一旦美雨の洗脳を解除して適当に泳がす。次に美雨を攫う機会を狙って。
その機会はすぐに到来した。妖村正刀が不在の隙を狙い、またもや手下を襲わせた。
周りの邪魔者は中々の腕を持っていたが、所詮はガキばかり。連中の注意が美雨から逸れた一瞬の間に、19は奪われた殺戮兵器を稼動させた。
再び起こる、妖刀『村雨』の惨劇。邪魔者二人を片付け、美雨を洗脳して連れ戻し、オマケの人質も付いて一段落が着いた。
空石島に帰還してから程無くして、島内に侵入者が現れたと報告を受けた。
侵入者はたったの三人。その内の一人は、あの妖村正刀だった。彼等は島に置いた見張りを蹂躙し、難無く建物内に侵入。その後も始末しようとする手下達を蹂躙し続けた。
「……ほぉう」
19は、久々に退屈凌ぎが出来る気がして、ニヤリと笑う。
――奴等に血の村雨を降らしに行く。
管制室の部下にそう告げて、19は準備に取り掛かった。
そして今、目の前で自分の手駒を取り戻そうと奮闘している少年を、19はただただ面白可笑しく見ていた。




