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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
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No.1 銃剣警

 じゅうけんけい。正式名称『銃器刀剣警備員』。

 誤解されるかもしれないが、別に銃器や刀剣類を警備する人の事ではない。

 銃剣警とは、一向に増え続ける凶悪犯罪に対抗すべく、日本政府が最初に作りだした制度。銃器と刀剣などの武装が許可され、逮捕権と殺害権を有し、世の中に蔓延る犯罪を取り締まる者達を指す。

 銃剣警は銃剣警法と呼ばれる、銃剣警が守らねばならない法律の許す範囲内においてならばどんな事だろうと出来る。銃剣警を統括する銃剣警局からの任務の内容は様々で、簡単な人捜しから要人警護、犯罪捜査の協力、犯罪者や指名手配犯の逮捕、特定人物の殺害。

 銃剣警は何歳からなれるのか、という質問が多いが、実はなる事自体に年齢制限が無い。何歳からでも銃剣警になる資格を得る事が出来る。但し、適正試験を突破するか、イレギュラーでなくてはならない。

 試験の方だが、学力は勿論、体力、精神力、戦闘力、情報力などの技能、仲間とのコミュニケーション能力など様々な事柄が試され、恐ろしく難関と言われている。

 イレギュラーとは、簡単に言えば政府からの推薦状があった場合は試験無しで銃剣警になれる。

 推薦状を貰える条件はただ一つ。政府が要注意人物と断定した人物のみである。例えば、俺みたいな奴とか。



 いつもの朝だった。七時にセットした目覚まし時計が鳴る。まだ眠たい俺はウルサく鳴る目覚ましを止め、むくりと起きる。カーテンを開け、眩しい日差しが部屋を照らす。


『おはよう、まさ


 若い女の声が聞こえた。俺は目を擦り、ふぁ~っと欠伸をする。


「おはようむらまさ


 俺は声の主――机の上に置いてあるに喋る。


『今日も私が起こさずに自力で起きられたわね。正刀はえらいえらい』

「子供扱いするなよ。俺がお前に起こされてたのは去年までだぜ?」

『私にとってはまだまだ正刀は子供よ。寝顔なんてそりゃあもう子供みたいに可愛くて可愛くて』

「はいはい」


 呆れながらベッドから立ち上がって伸びをする。


「おはよう、父さん」


 刀の隣に立てかけてある写真立て――笑顔で幼かった頃の俺を抱っこしている父親に向けて朝の挨拶をした。


「……さてと」


 感傷に浸る間も無く、柔軟体操をして体の骨と筋肉を起こす。制服に着替えた後は朝飯を作るべく、刀を持って下に降りる。

 リビングに入り、刀をテーブルに置いて台所に行こうとした時、インターホンが鳴った。この時間に俺を訪ねてくるのはアイツしかいないと分かってた俺は刀を持って玄関へ行き、ドアスコープで確認せずにドアを開ける。


「おっはよう正刀!」


 玄関の前には、手を振って朝の挨拶をする可愛い美少女が立っていた。まだ纏めていない茶髪の長髪を靡かせて、宝石の様に輝く緑眼が優しい眼差しでコチラを見ている。白い清楚なブレザーに下は赤いスカートで身を包み、俺よりも10センチ前後背が低い。

 しかし、見所はなんと言っても胸である。相変わらず大きくて順調育っているようだ。


「おはようあずさ。今日も相変わらずデカイ胸だな」

「朝会って早々何言ってんのよ正刀は!? 相変わらずエッチなんだから!」


 梓は顔を赤くして自分の両胸を慌てて両手で隠す。


「別に良いじゃねえか減るモンでも無いんだし。今度触らせてくれ」

「嫌よ! 清らかなほうづきがくいんのお嬢様はそんなエッチな事しないものなの!」

「その宝月学院のお嬢様は小学生の頃に自分からスカートを捲り上げてクラスの男子全員にパンツを見せたりはしないんじゃないのか?」

「はうっ!」


 俺が小学校時代の恥ずかしい話を言うと、梓の顔がボンッと赤くなる。


「ちょっ、ちょっと止めてよ正刀! その話はしないって約束したじゃない!」

「そうは言ってもなぁ。思い出すぜあの頃の事。あの時梓が穿いていたパンツの色は……」

「ダメェェェェェ! それ以上言ったらダメェェェェェ!」


 梓はトマトの様に顔を真っ赤に染め上げ、両手で顔を覆う。コイツはからかい甲斐があって本当に面白い。いつ見ても飽きないなぁ。


『正刀、からかい過ぎよ。そういうあんただって小学生の頃、ニュースでも話題になってた殺人鬼に会いたくて、夜な夜な出歩いたら本当に遭遇して冗談抜きで殺されかけて……』

「待て待て待て待てえぇぇぇぇい!」


 何でコイツが俺の昔の恥ずかしい話を知ってんだよ! また梓が吹き込みやがったな!


「梓お前、また俺の恥ずかしい話吹き込んだな!」

「何が恥ずかしい話よ! どう考えても恥ずかしいどころかマジでヤバい話じゃない!」

「充分恥ずかしいよ! 小学生の頃、プール授業で友達に水着脱がされてクラスメイトどころか担任教師にまで全裸を見られた何処の誰かの話より恥ずかしいよ!」

「はうっ! そ、そういう正刀こそ、興味本位でヤクザのアジトに忍び込んで見つかって捕まって殺されかけたでしょ!」

「ぐあっ! あ、梓だって突然水掛けられて服が透けて下着見られた事あるだろ!」

「はうっ! ま、正刀だって細菌兵器の使い手と偶然会ってウイルス盛られて死に掛けたでしょ!」

「ぐあっ! そ、それだったら梓だって……」

『あんた達いい加減にしなさい。ご近所迷惑よ』

「「はっ!?」」


 村正に言われ、すっかり口喧嘩に夢中になってた俺と梓は慌てて周囲を見渡す。た、確かに、朝出勤するサラリーマンや主婦の人達がこっちを見てる。これは今かなり恥ずかしい状況だ。


「あ、梓、とりあえず、入れよ」

「え? あ、う、うん」



 彼女の名はこくどう梓。俺の幼馴染であり、日本で有名なコンピューター企業、黒銅グループのご令嬢。つまりお嬢さまだ。梓の家は俺の家の隣にあり、ちょっとした豪邸である。普通なら俺の方がお呼ばれされるんだが、何故か梓の方がよく遊びに来る。今朝もこうして俺と一緒に朝飯を食う為に態々やって来た。


「しかしいつも思うんだが、梓は何で俺の家に来るんだ? 俺がお前の家に招かれるならまだ分かるのに」

「だって、私もこういう一般市民の生活ってのを味わいたいんだもん。家での生活は確かに裕福していて物には困らないけど、一般市民の暮らしだけは味わえないから」

「それは一部の一般市民に失礼な発言だと思うぞ。物好きなのは相変わらずだけど、それなら何で泊まったりしないんだ? やっぱ一介のお嬢様は、寝る時は豪邸の大きなベッドで寝るのがお好みか」


 俺は意地悪じみた事を聞きながら梓の反応を窺う。すると梓は俺をジト目で見る。


「別にそういう訳じゃないわよ。泊まったら正刀に襲われるし」


 あむ、と梓は俺が作った卵焼きを食べる。


「襲うってお前なぁ。そりゃ確かに梓が可愛くて胸もデカくてエロい体を持ってるからってな、俺は銃剣警だぜ? 銃剣警法第七章の第十八条、銃剣警は相手の合意を得ずに性的行為を行う事を固く禁ずる。俺が梓を襲ったら、殺されるだけじゃ済まされないんだぜ?」

「そ、そうだけど……」


 梓は言うのが恥ずかしいのか、顔を少し赤く染め、モジモジとしている。この仕草に俺は何度ときめいたことか。


「でも、正刀、私の胸見てたし」

「そりゃお前の胸がデカいからな。あと肉付きもエロいし」

「エロくない!」

「エロいさ。特に太股とか尻とか。小学生の頃まで一緒に風呂に入ってた俺が言うんだからな」

「はうっ!」


 梓がまたもやボンッと顔を真っ赤にしだした。梓は本当にこういう話に弱いからなぁ。分かりやすく言えば梓は超初心だ。だからそのせいで昔からよく俺にからかわれている。


「いやぁ、本当に梓はエロい体してるよなぁ。お前の家に遊びに行った時は時たま体を触ってたけど、やっぱあの時の感触は忘れられないなぁ」

「ダ、ダメ……」

「一緒に寝た時も抱きついて色々触ったもんだなぁ。あまりにもお前の体に魅力を感じてさ」

「や、止めて正刀……」

「逆にお前の方から抱きついてきた事もあったけど、それでも彼方此方触ったな。それに梓は良い香りがしたし」

「や、止めて。もう止めてえぇぇぇぇ! うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ!」


 やべっ、調子に乗って梓を泣かしちまった。あまりやり過ぎると泣いてしまう事を忘れてた。しかも中々泣き止まないんだよな。マジでちょっとやり過ぎたかな。


『梓、泣かないの。正刀がこういう風にあなたをからかうのはいつもの事でしょ』


 と、ここで村正が泣きじゃくる梓を宥める。昔は梓を泣かすと父さんから拳骨を喰らい、その後で宥めるのに時間が掛かた。今はコイツがいてくれるおかげで助かっていると言えば助かっている。


「ひっぐ、えっぐ、で、でも村正~」

『それに心配はいらないわよ。後で銃剣警法違反で銃剣警局に訴え出れば良いじゃない』

「え?」

「は?」


 俺と梓は揃って耳を疑う。ジュウケンケイホウイハンデジュウケンケイキョクにウッタエデル?


『だって正刀が梓に言った事って、完璧セクハラ発言でしょ? それって第七章の第十八条違反なんじゃないの?』

「おい待て村正。俺は別に梓に性的行為なんか一度もしてねえぞ」

『正刀、あなた言葉の暴力って知ってる? 言葉で人に心理的な制圧を加える心理的暴力の事よ。さっきあなたが梓に言った事は一種の心理的性行為じゃない』

「いや、それは……」

『それに正刀、あなた自分の立場分かってるの? いくら幼馴染って言っても、日本で五本の指に入るコンピューター企業、黒銅グループの令嬢である梓にセクハラ発言ばっかりして、梓のお父さんが黙ってるとでも思ってる訳?』

「うぐっ! そ、それは、その……」


 次々と(村正)に言われていく俺。

 確かに村正の言っている事は正しい。俺だって心の底じゃあやり過ぎたと本気で思っている。けど、今それ言ってどうにかなるかな。


「そ、そっか。お父様に言いつければ正刀をこの世から消す事が出来る」


 おい梓、お嬢様が物騒な事言ってんじゃねえよ。しかもなんか目が悪人の目になってるし。


『どうするの正刀、銃剣警局は特にこの違反には厳しいわよ。銃剣警局のプロの銃剣警があなたを殺しに掛かるまで昼夜問わず襲ってくるかもね。今からでも謝っといた方が釈明の余地はあるんじゃない?』


 確かにヤバいな。ここはちゃんと謝んないとこの世でも銃剣警にリンチにされて、あの世でも父さんに殺される!


「あ、梓、わ、悪い。少しからかい過ぎた。いやいつもお前の反応が面白くてつい、調子に乗っちまった。本当にすまん」


 俺は頭を下げて梓に謝罪する。

 梓はちゃんと謝った俺を見ながら数秒沈黙し、


「……パフェ」

「は?」

「駅前の、新しく出来た喫茶店のオリジナルジャンボパフェ。あれでチャラにしてあげるわ」


 オリジナルジャンボパフェってあれか。ドデカい容器にクリームやらフルーツやらお菓子やらがたっぷり盛ってある奴。あれを全て食べ切った人には賞金五千円が手に入り、駄目だったら逆に五千円支払うって書いてあったけど、今までに食べ切れた人はいないと言われている伝説のパフェだ。あれで俺の今後の人生が救われるんだったら安いものだな。


「分かった。奢る。ついでに梓の好きなケーキも奢る」

「……よし。許す」


 危なかったぁ、パフェとケーキで機嫌が直るなら今度も同じ手を使おうかなとか考えたが、やり過ぎると後々面倒だし、控えるか。


「んじゃ、今日は特に予定無いし、放課後に行くか?」

「うん、そうね。良いわよ。学校終わったらこっちから迎えに行くわね」


 ごちそうさま、と食べ終えた梓は食器をキチンと台所まで下げる。その足で身嗜みをするべく洗面所に向かった。何で態々俺の家で身嗜みするんだよ。


『正刀、命拾いしたわね』


 俺も食器を下げていると、テーブルの上の村正が他人事の様に言ってくる。


「あのな、命拾いしたって言うけどお前のせいだからな」

『けど半分はあなたのせいよ。梓も年頃なんだからいい加減セクハラ発言するのは止めなさい』

「はいはい。善処するよ」


 食器を下げた後の俺は部屋に戻り、身支度をする。


「えーっと、教科書持った、ペンケース持った、携帯持った、腕時計付けた、防弾着も着た、後は……」


 机の引き出しに入れているショルダーホルスターを防弾着上から装着し、後は銃を……ってあれ、無いぞ。いつも引き出しに仕舞っている筈の銃が無い。


「あれ? どうしたっけ?」

「正刀」


 後ろから梓の声が聞こえたので、振り返る。それと同時に梓から何かが投げられたので俺はそれをキャッチする。

 それは白い布に包まれた物体。解くと中には俺が使っている銃、グロック17があった。中を確認してみると弾も装填済みだ。


「銃剣警足る者、自分の武器の整備ぐらいやっときなさいよ。全然整備してなかったらしいじゃない」


 髪の毛をポニーテールに纏めた梓が呆れた様に言う。


「お前、勝手に持ち出したのか。あと銃を投げるな」

「違うわよ。昨日正刀が私の家に忘れていったから、朝届けるついでに整備してもらってたのよ。ウチのボディーガードさんに」


 忘れてったって、ああそういや梓の家で遊んだ後、なんか体に違和感があるなと思ったら、梓の家に忘れてったのか。ていうかグロック17は整備しやすいからしばらく放置してなかったんだがな。


「特別ライセンスを持っていない一般人が銃器及び刀剣を持ち出したら、銃刀法違反だぞ。お前逮捕されたいのか?」

「銃剣警が自分の武器を何処かに忘れた場合、相当厳重な罰が科せられるんじゃないの?」

「ぐっ……!」


 そうなんだよな。俺は前にも数回同じ事をやらかして、梓の家のボディガードさんに勝手に整備されたんだよな。まあ整備も腕が良いし、忘れた自分が悪いんだから文句の言いようも無いんだが。


「……ボディガードさんに礼言っといてくれ」

「はいはい」


 俺は整備してもらったグロック17をショルダーホルスターに仕舞い、制服の上着を着る。


「んじゃあ私そろそろ行くわね。おいしい朝御飯ありがとね~」

「気をつけて行けよ。いくら車で送り迎えしてくれるからって、世の中物騒になったんだからな」

「大丈夫よ。その時は正刀が助けに来てくれるから」


 梓が当たり前な事を当たり前に言ってウインクする。止めてくれよ。そんな可愛い顔でウインクされたら襲いたくなるだろ。


「それじゃあいってきまーす」

「いってら」

『いってらっしゃい』


 俺と村正に見送られ、梓は行ってしまった。


『正刀、私達もそろそろ行きましょう』

「そうだな」


 登校の準備を終えたので、俺も家を出よう。


「父さん、行ってきます」


 俺はもう一度、写真立ての中の父親に挨拶をする。

 左手に学生鞄を、右手に村正を持って家を出た。

 俺の名前はあやむらまさ。十六歳。日本・東京都、都立丸谷高校在籍。職業、銃剣警。

 そしてさっきまで俺が話していた相手は、今俺が持ってる愛刀、ようとうむらまさ』。

 いつもの日常、いつもの仕事、いつも通りの生活だ。けど、何故だろう。さっきから凄い悪寒がする。まるで、嫌な何かと出くわしてしまうような。



 少女は意識が途切れ途切れだった。自分が何処にいるのか、今が朝なのか昼なのか夜なのか、何時何分何秒かさえも分からない。体の自由が利かない。手足が全く動かせない。喋る事も出来ない。力が入らないのもあるが、それ以前に拘束されている気がするのだ。それに、肌に冷たい風が当たる。多分服も着ていない。多分全裸みたいだ。そして周りから男の話声が聞こえる。


「…………ま…………目覚め…………のか」

「はい…………を投…………も全く…………全て…………害にな…………んです」

「チッ。折…………たと思…………ア物なの…………だハ…………だな」


 少女は男達が何を言っているのか、途切れ途切れの意識の中では断片的にしか聞こえない。聞き取れても何を言っているのか理解できない。


「ボス…………が脱…………に…………そうです」

「よし…………収してこ…………連れ…………い」

「…………!」


 別の男の声が聞こえ、数秒会話した後、すぐに男の声が聞こえなくなった。


「ボ…………ろそろこの女が…………す。早く…………ないと…………」

「落ち着け。…………で何も出…………い。それ…………新し…………体を捜さ…………かん」

「では…………女…………ですね?」

「いや、それ…………こう。ま…………めない…………けで、何…………めるという…………入れておく。…………ツを運…………備…………おけ」

「はっ!」


 少女はやっと意識が戻ったのに、何故かまた消えていく。そして、真っ暗闇に包まれた。



 西暦二〇一七年四月。俺が十三歳の頃に銃剣警の資格を取った年だ。勿論適正試験を受けたのではなく、イレギュラーで通った。その理由は簡単。俺が持っているこれにあるからだ。


『ねえねえ正刀。さっきからあなたを通り越してく子達、皆逃げる様に歩いてるわよ。気にならないの?』


 村正がクスクス笑いながら話し掛けてくる。しかも分かり切った事を。これで何回目だよその話題。


「仕方ないだろ。俺が銃剣警だから、怖がって避けてんだろ。あと半分はお前のせいだよな」

『あら、どうして?』

「とぼけんなよ。いくら銃剣警が常時武装を義務付けるからって、普通の学校に本物の日本刀を持ってきてる奴なんかに近づきたいって思う訳ねえだろ」

『失礼しちゃうわね。私を丸出しにしてるせいであなたが目立ってるんでしょ。だったらバットケースとか竹刀袋に入れるか、背中に秘匿しときないよ』

「ヤダね。袋に仕舞ったらいざという時に抜けないだろ。あと背中に背負うと抜きづらい」

『そんな我が儘言ってるんだったら我慢しなさい。それに背中に入れといた方が背中の防御力上がって有利よ』

「あとお前が喋ってるから変な目で見られる気がするんだが」


 銃剣警のライセンスを取ってから三年が経った二〇二〇年六月。毎朝の如く俺は村正と喋っている。周囲の人間はそれが異様な光景に見えているだろう。

 それもそうだ。喋らない筈の刀から声がして、しかもそれと平気で喋っている高校生なんか見たらそりゃ気味悪がって近づきたくないだろう。平気で日本刀を持ち歩いている奴に近づきたくないのも、刀が喋るという現実を受け入れたくないのも分かる。けど、現に村正は喋る。そして俺はそれに半分困っている。


「兎に角、外で喋るのは止めてくれって言ってるだろ」

『はいはい分かったわよ。そんな事よりも、あれ良いの?』

「あれってどれだよ」

『ちょうど目の前にいるあれよ』


 俺が村正が言う方向を見てみた。


「なあなあ、俺らとどっか遊びに行こうぜ。奢ってやるからよ」

「え、いえ、でも、私達学校が……」

「学校なんてバックレちまおうぜ。良いだろ別に」

「え、えっと、その……」


 あちゃぁ、ウチの学校の女子二人が朝から不良二人組(体格が大きいと細いの凸凹コンビ)に絡まれてる。

 体格の大きい方の不良が眼鏡を掛けた女子――確かクラスメイトのうちって女子――を、体格の細い方の不良がポニーテールの女子――こっちも確かクラスメイトのまきって女子――に絡んでる。

 成程。絡む気持ちも分かるな。あの女子二人は中々良い成長をしている。その証拠に内田なんか胸が程よく育ってて柔らかそうだし、巻は胸がよく育ってるだけじゃなく、黒と赤のチェックのスカートから覗く脚も綺麗で中々宜しい。

 だが駄目だ。俺の好みには程遠い。梓と比べても負けるだろう。ていうか何を考えてたんだ。今朝梓をからかい過ぎた反省もあってそういうのは控えようと思ってた矢先にすぐこれだよ。


「なあ良いだろ。こっち来いよ」

「あ、あの、止めて下さいッ!」

「つれねえ事言うなよぉ。なぁ~」

「い、いやッ!」


 向こうがちょっとヤバくなってきたぞ。不良二人が女子二人の腕を掴んで引っ張ってる。女子はそれを嫌がって周囲に助けてほしい眼差しを向けるが、他の通行人達は自分達が痛い目に遭いたくないからと、見て見ぬフリをして素通りする始末。これ以上ヒートアップすると流石にヤバい。


「おい。お前ら止めろよ」


 ここは俺が銃剣警らしく、体格の大きい不良の腕を掴み、内田の腕を放させる。


「あぁ!? ンだテメェは!?」


 不良は俺から腕を振り解いてガンを飛ばす。もう1人の方も掴んでいた巻の腕を放し、同じ様にガンを飛ばしてくる。

 おーおー、怖い怖い。父さんや俺の師匠がキレた時の一千万分の一に匹敵するぐらい怖い。


「あのなぁお前ら、こんな朝っぱらから女の子に絡むってどんだけ暇なんだよ。まあそれは兎も角として、神聖な学び舎に通う清らかな女の子を汚い手で掴んだらけがれるだろうが」

「あぁッ!? テメェもう一度言ってみろゴラァッ!」

「端的に言うならお前らみたいな不良がここら辺をうろつくと迷惑だから失せろって言ってんだよ」

「ンだとテメェ! ヤるってのか! あぁッ!」


 体格の大きい不良が俺の挑発に乗っかり、襟首を掴んで怒鳴ってくる。

 朝から本当に元気だね。俺なんてまだ眠いよ。あと聞くぐらいなら一発殴れよな。と、心の中で呟く。


「ヤっても良いけどさ、お前ら、俺の右手全然見てねえだろ」

「あ?」


 不良二人が揃って俺の右手を見てギョッとした。そりゃ驚くよな。普通の高校生が日本刀持ってんだから。あと今まで気付かなかったのも凄い。ちなみに内田と巻は俺の事を知ってたみたいだから大して驚いてないみたいだ。


「テ、テメェ、ど、どうせ玩具だろ」

「いや、本物だぞ。その証拠にほれ」


 俺は制服の右内ポケットに入れている銃剣警のライセンスを出して二人に見せる。ライセンスを見た後の二人の顔が一瞬で青ざめる。なのでここで追い討ちをかける事にする。


「ちなみにお前らの方から仕掛けてきた場合、傷害罪で現行犯逮捕、或いはコイツを使うって手があるな。ああ心配しなくても殺しはしねえぜ。峰で全身滅多打ちにしてやるだけだから」

『あのね、そっちの方が酷いと思うわよ』


 突然刀から若い女の声が聞こえ、不良二人は揃って体がガタガタ震え始める。俺の襟首を掴んでいた手も力が緩んで放してしまう。そして一、二歩後退り、ようやく自分達を邪魔した奴がどんな奴か分かったらしい。


「テ、テメェ覚えてろよ! 行くぞよし!」

「お、おお。やまなか、帰っていりくらさんに報告だ!」


 不良二人はダッシュで逃げてった。足速いな。

 いやぁ、とんだ不良だったな。まあ大事にならずに済んで良かったけどな。けどあの不良、とんだ置き土産を残してくれた。デカイ方が山中、細い方が吉田、そしてアイツ等の上にいるのが入倉って奴か。一応覚えとこう。


「あ、あの……」


 おっと、助けた女子二人組を忘れてた。

 二人はオドオドしながら何かを言いたそうだったが、無理に言わせるのは止めておこう。


「んじゃ、俺行くわ」

「え、ちょっ、ちょっと」


 という訳で俺は一足先に学校へと向かった。思わずチラリと後ろを見たら、助けられた内田と巻は、ただボーっと俺を見ているだけだった。

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