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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
19/32

No.18 村正vs村雨

正刀対美雨の殺し合いが始まります。

 ――ギィンッッッ!


「オラァッ!」

「っっ!」


 俺のむらまさ村雨むらさめ、二振りの妖刃がぶつかり合う。


「っ!」


 美雨の鋭い突きを村正でいなしてすかさず振り下ろす。が、美雨は身体を回転させてそれを弾く。


ふうれんいっとうつじいたち!」


 村正に妖気を纏わせた連続斬撃。美雨はそれに対して大きな構えを見せず、


 ――ギィンッギィンッギィンッギィンッギィンッ!


 最小限の動きで全ての斬撃を受け流した。


『若造よ、その程度か?』


 美雨は隙が出来た俺の懐に突きを繰り出す。


「うぉっ!」


 紙一重でかわしたが、美雨は追撃を止めない。何度も何度も斬りかかり、俺はその都度避けるか弾くかしている。

 鍔迫り合いになり、美雨の顔を覗き込んだ。美雨にはやはり心が宿っていない、冷たい表情をした人形の様な顔だ。


「美雨っ! いい加減目覚ましやがれっ!」


 正気に戻ってほしくて美雨に呼びかけても何の反応を示さない。


「美雨っ!」

「…………」


 美雨は無言で押してくる。それはあの非力としか思えなかった美少女とは思えない腕力だった。

 俺を押し返し、素早い足取りで近づいて一閃する。


「っとっとっと!」


 あまりの鋭い斬撃に足がもつれて転んでしまい、前髪数本掠めた。尻餅をついた俺に美雨は容赦なく村雨を叩きつけようと振り翳した。俺は反射的にバク転で後ろに下がる。


かいりん


 村雨がその名前を言った時にギョッとした。偽壊燐は晴菜が見せてくれた巻物に書かれていた剣技の一つ。後で聞いたが、偽壊燐とは刀を地面に叩きつける事で、斬撃の衝撃波を飛ばす技。

 振り下ろされる前に、バク転を途中で止めて村正を構える。

 美雨が村雨を地面に叩きつけた。同時に俺も村正を地面に叩きつけた。村雨から放たれた衝撃波は俺が同様に放った衝撃波とぶつかって爆発を生んだが、直撃は避けれた。


ぜっせん


 その直後に、煙の中から飛んで来た黒い螺旋――ドリルの様に回転した美雨が突っ込んできた。村正を斜めに構えて迎え撃つ。


 ――ジャリィィィィィィィィンッ!


 大きな金属音が耳に劈く。美雨の回転突進を村正で逸らせたが、重たい衝撃を完全に受け止めきれずに吹き飛ばされてしまう。

 なんとか倒れずに耐えた俺に、美雨は村雨を叩きつける。絶刺旋を受けた直後で手に痺れがあった為、受けれず避けるしかない。

 またもや強い衝撃波が撒き散らされる。


まさ

「分かってる」


 このまま避けてばかりじゃ埒が明かない。こっちからも攻めないと。


「辻鼬!」


 妖筋で強化した脚力で加速。美雨に近づいて連斬りを……


 ――ガキンッ!


「なっ!?」


 ……放てなかった。美雨が初撃一刀目を入れる前に村雨をぶつけて抑え込んできた。見切られた俺は驚いたままだったので、美雨の膝蹴りに気付かなかった。


 ――ガスッ!


「ぐっ!」


 美雨の膝蹴りは鳩尾に強く当たる。痛みに堪え、即座に腕で作った振動波を拳に乗せて反撃。


 ――ガシッ!


 美雨は躊躇いなく素手で受け止めた。


『……ほう』


 村雨は何か感心したような声を出し、俺の拳を受け止めたまま押し返す。


「ちょっ、どうなってんだよ……」

『正刀、次来るわよ』


 村正の助言で美雨の斬撃に気付き、村正を逆手に持ち替えてガード。だがその一撃は重い。これが女の子の繰り出す威力かよ。

 両者共に攻撃を仕掛けて互いに止められて二度目の鍔迫り合いになる。


「美雨っ! 聞こえてんだろっ! 目を覚ませってっ!」

「…………」


 もう一度呼びかけるが、やはり美雨は無反応。それどころか膝蹴りの動きを見せようとする。


「村正!」

『はいはい』


 バギバキバキ、と身体から筋肉を引き絞る音が聞こえる。

 美雨の膝蹴りがまた鳩尾に直撃。今度は妖筋で強化した筋力で持ち堪える事が出来た。


『……ふむ』


 村雨は分が悪いと判断して一旦美雨を後退させる。俺も下がって間合いを取る。


「イッテェなクソっ……」


 二度美雨に蹴られた鳩尾辺りを摩る。

 剣技と言い、蹴りと言い、美雨は明らかに俺を殺す気でいる。美雨がと言うか、正確には後ろでのんびり紅茶を飲んで傍観している19がだ。それでもマトモな攻撃を出来ずに防戦一方の俺が不利である状況は変わらない。

 それに、美雨の攻撃は一撃一撃がやたら重い。偽壊燐の衝撃波を喰らった時も絶刺旋を逸らした時も受ける度に重く感じる。それでいて動きは俊敏、対応は的確、今まで俺が戦った相手の中で群を抜いている。


『正刀』


 村正が話しかけてきた。


「何だよ」

『あなた、まだ諦めてないの?』

「……うるせぇ」


 村正が言っているのは、俺が美雨に呼びかけている事だろう。

 村雨の使うつきは使い手に憑依するが自我までは操れない。もし洗脳を受けている美雨が正気に戻れば、美雨が自身の意思で村雨を止められる。そうすれば美雨との死闘を回避出来る。そう思って試しはみたが、全く成果が出ない。


『あのねえ正刀、今の美雨の自我は百魔死団ナンバーズに操られていて、その美雨に村雨君が憑依してあなたを殺そうとしているのよ? 二重にとり憑かれた相手を、まさか呼びかけたら元に戻るみたいなアニメやラノベじゃあるまい行為でどうにかなるとでも? さっきも言ったけど、あなたと美雨の死闘を回避出来る確率は0よ』

「あのな、その絶対にありえない、0であろう確率を1%でもどうにかして作ろうとしている俺の努力を水の泡にするようなその発言止めてくんねぇかな? 後で塩水掛けて錆付けるぞ」

『別に良いわよ。後があればの話だけど』


 ですよね。今は目の前の戦いに集中しないと。

 俺と村正のやり取りを外野で見ていた19が可笑しそうに笑っていた。


「おいおいおい、随分と自分の刀と仲が悪そうだな。そんなんで小娘を救えるとでも思っているのかな?」

「黙れこの中二病野郎。誰のせいだと思ってんだよ」

「おい待て。勝手に人を中二病と決め付けるな」

「うるせぇんだよ。俺はあんたらに憎悪しか向けてないんでねっ!」


 俺は19目掛けて突進する。


「ふっ」


 19は嘲笑うように左腕で払う動作をする。


『正刀、後ろ』


 村正に言われずとも、背後から美雨が斬りかかって来た事は分かってたから突進を止めて回避する。


『若造よ、我を忘れては困る』

「チッ。会話のどさくさに紛れて攻撃してやろうかと思ってたのに。流石に無理があったか」

『ていうか、それでやられてたらそのテロリスト、余程の間抜けよ?』


 やっぱり美雨をどうにかしないと19までは辿り着けない。19をなんとかしないと美雨は攻撃を止めない。これをどうしろって言うんだよ。


「……村正、仮に美雨を救うのを諦めたとして、やっぱ殺さなきゃいけないしても、勝つ方法ってあんのかよ。どう考えても強いだろ、アレ」

『そりゃそうよ。身体は美雨でも、実際に動かしてるのは村雨君なんだし。あなたとは経験が違い過ぎるのよ』

「だよな……」


 妖刀『村雨』は何百年間も使い手に憑依しては新たな使い手に乗り移って時代を進んできた大業物。扱う人間が例え可愛い女の子でも、闘志も殺気も技も動作も全て村雨の意志で動いている。方や俺は十六年かそこらしか生きていないガキだ。潜って来た場数も質も圧倒的に違う。


『けど正刀、村雨君があくまでも憑依して操るだけの妖刀なら、まだ勝てない方法が無い訳じゃないのよ?』

「……どういう事だよ」

『考えてみなさい。虚楚憑は使い手に憑依して、村雨君が使い手の身体を動かす憑依技よ?』

「今更そんな事言われてもなぁ。場数踏んでる村雨が戦ってるからヤバいんだろうが」

『……それが分かってて、どうして気付かないのかしら正刀は』

「村正、さっきから何が言いたいんだよ」


 村正の言っている事に俺は全く理解出来ない。村正は呆れた様に溜息を吐く声が聞こえる。


『じゃあ言い方を変えるわね。虚楚憑は、ただ憑依するだけの技よ。自我は操れない、出来るのは身体を動かすだけよ』

「だからそれの何が……」


 そこまで言われて、俺はピンと来た。


「……身体を動かせる、だけ?」

『ええ。あの素早い動きも技も全部村雨君が動かしてるわ。けどね、逆に言えばそれしか出来ないのよ』

「つまり、あの憑依は『操作』は出来ても、『強化』は出来ない、と?」

『そういう事よ』


 成程な。美雨の容赦ない攻撃の数々に惑わされて気付かなかった。

 虚楚憑はただ使い手に憑依するだけの技。ゲームでプレイヤーがキャラクターをコントローラーで動かすのと同じで、行動操作が出来るだけ。村正の妖筋みたいに肉体能力の強化までは出来ない。つまり、どんな村雨の精度が高かろうが、動く美雨の身体能力は変わらないまま本人に依存している。

 前に美雨と一緒に寝た時に抱きつかれてて筋力は大体把握している。あれは普通の女の子並みかそれ以下のしかない。長い監禁生活のせいで体力も持久力もそんなに無いだろう。村雨の妖力がどんなに無尽蔵でも、美雨本人には必ず限界が来る。持久戦に持ち込んで気絶でもさせれば村雨は美雨を動かせなくなる。例え19に操られたままだとしても。

 けどだ。それには疑問がいくつか残る。


「村正、でもそれだと可笑しくないか?」

『あら、何がかしら?』

『偽壊燐』


 美雨が村雨を振り翳してそのまま叩きつける。村正で受け止めると物凄い衝撃波が掛かり、周囲にも齎された。妖筋で強化しているからまだ良いが、強化が足りなかったりしてなかったら今頃肉か骨が潰れていた。


「村雨の虚楚憑が肉体能力を強化できないとして、じゃあ何で美雨はこんな技が出せるんだよ」


 俺がさっきから疑問にしていたのは、美雨と打ち合う度に感じる威力の重さ。剣技も然り、ぶつかる刃だけでなく、鳩尾を二回狙った膝蹴りも最初は昏倒するかと思ったぐらい強かった。あんなの余程身体を鍛えるか、それこそ肉体強化でもしないと出来ない。腕力の無い美雨に何故出来るかが不思議だ。


『だから最初に言ったでしょ。村雨君があくまでも憑依して操るだけの妖刀なら、まだ勝てない方法が無い訳じゃないって』

「何が言いたい?」

『村雨君が虚楚憑しか憑依技を持っていなかったら美雨本人を動けなくさせればそれで良いのよ。でも村雨君は異刀コトナリガタナ。こと憑依に関しては右に出る刀はいない妖刀よ。晴菜の家でも見たでしょ?憑依技は虚楚憑だけじゃないわ。他にも色々あるのよ』

「あっ」


 そういや、そうだったな。晴菜が見せてくれた、あの巻物に呪文みたいな文字で書かれていた憑依技。最低でもあと三つあった。


『で、正刀の気になった、非力な美雨がやった力技だけど、それは憑皚よりしろよね村雨君?』


 村正と村雨がぶつかり、火花が散る。


『如何にも。村正、そして若造よ。主らの仮説は的を射ておる。真ながら我の虚楚憑、これは我が主に憑く事のみしか行えぬ。無論肉を強める事は不可。されど若造、我は村雨。主に取り憑きし妖刀。肉を強めし憑依を持たぬ筈が無い。それなるは憑皚。主に取り憑き、骨肉を強めし技なり。言うなれば村正の妖筋と酷似したものだ』


 マジかよ。どおりでこんなにも力強いと思ったら。使い手を憑依して心身を強化する技まであるか。


「つうか村正、そういう事はもうちょっと早めに言えっ!」


 村正に文句を言いつつ、美雨を押し返して斬りかかる。狙うは足。だが美雨がそれを見切って振るう前に弾いて反撃。これは村正で弾く。


「あと村正、もう一つ気になってんだが」

『あら、何かしら?』

「……さっきの俺の拳を、何で美雨は平気で止めたんだよ」


 二つ目に疑問に思ってた事。さっき俺が振動波を纏わせた拳を素手で受け止め、何の変化無く押し返した事だ。身体が一般人な美雨がまともに受ければ手の感覚が麻痺して腕どころか身体の半分が暫く使えない程の威力を乗せていた。それなのに、美雨の身体は未だに大丈夫そうだ。問題なく村雨を振るっている。


『……理由は簡単よ。美雨は確かに正刀の拳を素手で受け止めたわ。でも実はね、美雨はちゃんと振動波の影響を受けてるのよ』

「は?」

『いくら村雨君の憑皚でも、身体の内と外を攻撃出来るあれをまともに受けたら平衡感覚はまず狂ってフラつくでしょうね』

「じゃあ何で……」

『だって、あなたの技を受けたのは美雨の身体だけど、動かしているのは村雨君、そして自我は百魔死団によって操られているわ。もし美雨が操られていなかったら動きが鈍くなったでしょうけど、今の状況でどんなに美雨の肉体や感覚を麻痺させても、それを動かす村雨君には何のダメージも無いし、肉体そのものには憑皚が掛かってるから大した事無いのよ』


 なんだよそれ。チートじゃねぇか。

 振動波は効かず、身体傷害にも感覚障害も無効、殆どこっちの手が封じられてんじゃねえか。しかもこっちは村雨に一方的に体力気力を削られている。短期決戦で勝たないとやられる。さっきの考えと矛盾してんじゃねぇか。


「じゃあ村正、どうしたら良いと思う?」

『そうねえ、殺しなさい』


 おぉう。はっきり言いやがったこの日本刀。


「……一応聞くがお前、本気で言ってんだよな?」

『当たり前じゃない。この状況で冗談言うと思う?』

「思わねえなぁ」


 美雨の斬撃を避けたり弾いたりして、逆に俺も斬りつける。美雨も俺同様に避けるか弾く。


 ――ギィンッ!


 美雨の鋭い一閃を受け止める。直後、美雨は左脚を軸にして右脚を後ろに構える。俺の足を蹴ってこかす気か。

 そうはさせまいと、振動波を纏った掌底を美雨の腹部にぶつけて引き離す。


『若造よ。そなたのそれも無駄であるぞ。我が取り憑きし限り、我が主は敗れん』


 本来なら筋肉が麻痺して動けなくなる所を、美雨は何事も無かったかの様に突っ込んできた。


『偽壊燐』


 村雨を振り翳し、偽壊燐の構えだ。強化した脚力で回避。0.5秒後に衝撃波が叩き着けられた。


『絶刺旋』


 砂煙の中から、死のドリルが突進してきた。


「流石に二度も同じ手は受けねぇよっ!」


 これを予想していた俺は横に大きく回避する。


『若造よ、そなたに言われずとも承知しておる』


 突進する美雨は、回転したまま村雨を持つ腕を伸ばし、回転を続けた。


『正刀、刃煽舞みたいに斬撃が飛んでくるわ。つむじかぜを使いなさい』

螺旋ねじやじり


 今度はドリルからプロペラの様に回りだした村雨は黒い瘴気を帯びていた。村正からの忠告を聞いた俺は構える。


 ――ジャリンッジャリンッジャリンッジャリンッジャリンッ!


 円形の斬撃が縦向きにいくつも放たれた。斬撃は床を切り裂き、四方八方に飛んでいく。回転中に放つ数が多く、巨大なローラーカッターが無数に迫ってくる感覚。

 真正面にいれば突進を受け、横に逸れたら巨大カッターが切り刻む。これはいくらなんでも回避不可能だ。何もしなければ。


(――ふうりゅういっとう・旋風!)


 斬撃が放たれたと同時、村正の刀身に妖気を纏わせ、強化した脚力で床を蹴って突っ込んでいた。村正を羽、身体を胴体にしたプロペラみたく回転させながら。


 ――ギィンッギィンッギィンッギィンッギィンッギィンッ!


 二つの斬撃が激突する。村雨の斬撃を回転する妖刃で悉く弾き、一旦回転を止めた。美雨に背後から斬りつける為だ。螺旋鏃を終えた美雨は身を翻して村正を受け止める。


「村正、仮に美雨を殺すとして、なんか手立てとかあんのか? 殺せる事前提で考えないと何も出来ねえぞ」

『そうねえ、村雨君の憑皚は体力筋力を強化するって言っても、私の妖筋程強力じゃないわ。普通に斬っても傷は付くわよ。スパッと腕とか足とか斬っちゃいなさい』

「俺が可愛い女の子傷付けたくないって、お前知ってんだろ」

『正刀、任務に余計な情は挟まない。じんに言われるでしょ?』

「って言われてもなぁ」


 美雨は俺を押し返して斬りかかる。

 それを弾き、振動波を纏わせた回し蹴りを喰らわす。美雨は腕でガードしてすぐに反撃の一太刀。


「美雨っ!」


 鍔迫り合いになり、美雨に呼びかける。だが反応は無い。それが分かれば仕方無い。


「美雨、すまん」


 押し返してもう一度斬りかかる。美雨が受け止めて、俺は振動波を纏わせた掌で美雨の頬を思いっきりビンタした。


 バチンッ! という大きな音が聞こえ、美雨は若干よろめいた、気がした。


(……あれ?)


 気のせいかと思い、ふと19の方を一瞥する。

 さっきからニヤニヤしながら観戦していた19が一瞬、本当にほんの一瞬だけ表情を顰めたような気がした。


『どうしたの正刀?』

「……いや、なんでもない」

『若造よ、余所見をするとは、随分余裕では無いか』


 村雨の声が耳元で聞こえた。ちょっと目を離した隙に、美雨が迫ってきた。偽壊燐を放とうとしてきたので村雨の刀身を突いて阻止する。


「別に余所見してた訳じゃない。ちょっと休んでただけだよ!」


 お返しに辻鼬をお見舞いしてやろうと思ったが、美雨に初撃を弾かれて不発に終わった。


 それから暫くは斬り合いが続いた。


 斬って避けて弾いて殴って蹴ってまた斬る。


「セィッ!」


 ――ギィンッ!


 俺の斬撃を美雨は村雨を斜めにして受け流す。


「っ!」


 ――シッ!


「チッ!」


 美雨の鋭い突きを紙一重で避ける。すかさず美雨が俺の腹部に拳を当てる。強化した筋肉で防いだが、それでもかなり効く。


 追撃を続ける美雨。村雨を薙いで突いて殴る蹴る。俺は防いで弾いてか避ける。


「っ!」


 美雨の一閃を避けようとした時、腹部に痛みが奔った。その痛みに心の隙が出来てしまい、回避から防御に切り換えた。

 防御し始めた俺を見た美雨が突きに攻撃を変更した。村正と村雨がぶつかり、激しい金属音が耳元で劈く。

 鍔迫り合いになる前に美雨が俺を薙ぎ払って斬りかかる。さっきの衝撃と音で反応の遅れた俺はなんとか避けれたが、服に少し村雨のやいばが掠った。

 もう三十分近くは経ってるか。お互いに決定打を与えられずにただ時間だけが過ぎていた。


『……正刀』

「ああ。分かってる」


 時間が過ぎるほどに、俺は不利になり続けていた。戦闘開始時に残っていた体力の半分以上を使ってしまっている。この分だと気力も削がれてやられちまう。

 さっきもだが、俺の身体の要所要所が切り裂かれていた。今はまだ衣服だけで済んでいるが、このままだといつか肌に届く。

 ていうか俺が今着ているこの服、晴菜が何処からか仕入れてきた特別繊維の筈なんだが。妖筋で強化した筋肉を楽々斬った村雨にとっては障子紙並みかよ。

 早いところなんとかしないと殺される。俺は床を蹴って高速移動する。村正を振り翳し、待ち構える美雨に振り下ろそうとした時だった。また腹部に痛みが奔った。


「痛ッ!」

『……ふむ』


 痛みのせいで動きが少し遅くなったのを村雨は見逃さなかった。美雨は足を一歩前に出して俺の喉元を狙って突く。


(ヤバイッ! やられるっ!)


 村正を振り翳していたせいで防御が間に合わない。素手で止めたら指がソーセージになる。咄嗟に手に振動波を纏わせる。


 ――バシッ!


 喉に突き刺さる寸前、俺は手で村雨の背を弾いた。受け止める訳にはいかず、振動波で村雨との摩擦を軽減させて回避に成功する。身を乗り出していた美雨は村正の攻撃範囲に入り、俺は最初の予定通りに振り下ろす。

 が、刃が当たる前に美雨が俺の腹部に回し蹴りをしてきた。


 ――ガスッ!


「ぐあっ!」


 さっきの痛みと蹴りの痛みが重なって仰け反ってしまう。


『刃煽舞』


 その間に美雨は接近して村雨を薙ぎ払う。俺は後方にジャンプして刃煽舞を避ける。


「ハァ、ハァ、ハァ……」


 息を切らしながらも、腹部を押さえつつ体勢を立て直す。


『……正刀、あなたひょっとして』

「言うな」


 村正が余計な事を言い出そうとする前に黙らせる。

 これは本当にどうにかしないとマズい。長引くと確実に負けてしまう。しかも村雨の野郎、気付きやがったな。


 短期決戦としたかった理由が他にもあった。それは、俺の身体にある。


 先日、正確には村雨が開眼したあの日、殺す気満々だった美雨によって斬られた俺の腹。姉さんの手術と数日間の養生によって完治したその傷口が、開こうとしていたのだ。


 退院した時に姉さんから言われていた。


『正刀君、今回は傷が浅かったから早めに完治出来たけど、過剰な無茶とかすると傷口が開いてまたベッドでオネンネしなきゃいけないから気を付けてね~♪ そしたらまたお姉さんがお世話してあげるから♪』


 あの時は苦笑いして半ば鵜呑みにはせずに聞いてたけど、まさかここでそれが仇になるとは。最悪が重なって、俺は美雨から何回か腹部に打撃を受けている。その影響もあってか、何度も痛み出して反応が遅れたりした。妖筋のおかげで持ってくれているが、いつ開いても可笑しくない。一太刀でも受けないよう気を付けないと。

 しっかし、どうすっかなぁ。俺の体力もあんまり無いし、村雨に斬られたら即死確定、お得意の振動型体術も無効、あとはなるべく殺したくない。一方美雨は村雨が動かし、威力高、技量極、気力無尽蔵、経験多。おまけに女の子だから傷付けるのに抵抗あるし。


「……しかも巨乳だし、動く度にあっち行くしこっち行くし、スカート短いからパンツ丸見えだし、何処まで俺の集中力削ぐ気なんだよアイツ等」

『正刀、今それ気にする事じゃないでしょ?』


 村正にツッコミを入れられつつ、打開策を考えていると、美雨が突っ込む構えを見せてきた。


「あーあ、面倒くせぇ」


 俺も村正を構えて突っ込もうとした。が、突然美雨の動きがピタリと停止した。


「――待て。妖刀『村雨』」


 紅茶を飲み終えたらしい19が立ち上がり、美雨に近寄ってきた。どうやら村雨の動きを止めるよう美雨を操ったみたいだ。


『どうした小僧? そなたはあの若造を殺めるのではなかったか?』


 村雨は美雨を止めた19に不思議そうに問い掛けた。


「ああ、そうだ。それは変わらない。ただちょっと、俺の方が退屈になってきてな。このまま観戦してるのも良いんだが、少し待ってろ」

『……ふむ。我は構わぬ。早うな』


 村雨を引いた美雨は19の背後に隠れるように移動した。19はニヤニヤと悪人面して笑っている。


「……何だよ。百魔死団」

『妖村正刀。妖刀『村雨』とここまで渡り合っているその勇敢さと逞しさに敬意を表して、折角だから冥土の土産でも送ろうと思ってな。と言っても良い品ではないが』

「…………」


 一体何のつもりか知らないが、テロリストから贈り物を貰えるようだ。全然嬉しくも欠片も無い。寧ろ即日返品したい。


「一応言うが、土産と言うのはこの小娘に関する話だ。どうだ? 聞くか?」


 19は俺を見下す様にヘラヘラしながら訊ねる。

 美雨に関する話、つまりは美雨の情報だ。それは今まで調べても一行に出てこなかった、俺が一番知りたい貴重な代物。それをこのテロリストから聞けるのか。

 けど何でだ? 何故コイツはそれを今ここでする必要がある? このまま俺を美雨と戦わせ、疲弊させて殺せば効率的だし安上がりだ。19にとって、それをする理由が皆目見当がつかない。何か裏があるとしか思えない。


『どうするの正刀?』

「……聞こう。サッサと話しやがれ」


 俺は村正を下げて荒い息切れを抑える。

 今はコイツに乗った方が良いだろうな。話している間に体力も回復出来るし、どうやったら美雨を救えるのかを考える時間を稼げる。


「んじゃ話すぜ。ちなみに妖村正刀、お前はこの小娘の事を何処まで知ってんだ?」

「……美雨がお前の傀儡、たけひらいっさくの部下だったあまざきやすしと妻のなつの間に出来た娘で、天崎達は自分達の研究の為だけに産んだ実験体モルモット、だろ?」

「ああ。そこまで知ってるなら話が早えな」


 19は語り出した。特に意味も無いであろう、美雨の過去を。

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