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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
18/32

No.17 No.19 無情の心操師

「――ラアァァァァァァッ!」」


 内部に侵入してから十分。俺達は三つに分かれてそれぞれの役割を担っていた。


『ではここから先は三手に分かれましょう。夜千瑠さんは建物内の何処かにある管制室の制圧をお願いします。私は梓さんと美雨さんの捜索をしますので、夜千瑠さんは制圧後可及的速やかに私に情報提供をして下さい。そして正刀君ですが、とりあえず適当に暴れまわって下さい』


 ……要するに、俺は派手に動いて奴らの気を逸らしている間に自分達は悠々と動くって訳か。俺に対する指示の出し方が雑だな。

 別に良いけどね。寧ろ晴菜としてはそれぞれに向いた指示を出したと思う。夜千瑠の速さなら管制室を見つけてからの制圧は容易いだろうし、戦闘向きな俺が暴れるのも三人の中では適任だ。

 トランシーバーアプリをONにして二人と別れてからの俺は、目にする敵を兎に角村正でブッタ斬る。接近戦なら一振りで倒し、遠距離なら銃を使うか瞬時に近寄って斬る。

 建物内の通路は一直線の道が迷路の様に入り組んでいて死角が無い。途中途中で分厚いシャッターが下りてくるが、そんな物は村正の錆になっていく。対超能力者用特殊銀があるのはどうやら外の壁だけみたいで、簡単に村正の刃が通る。

 そりゃそうだよな。だって特殊銀高いもん。こんな大規模な建物全部に使ってたら加工代とかも掛かるから建てるだけで破産する。

 目の前に立ちはだかる敵を斬っては進み、斬っては進み、梓も捜しつつ暴れる。


「おいっ! いたぞ!」


 100m先の十字路にマシンガンを構えた男達が行く手を遮っていた。

 銃撃が放たれた瞬間、俺は床を蹴って壁に跳んでいた。そして壁から天井、天井から壁、壁から床と繰り返して跳び続け、銃弾を避けつつ接近する。


「何だこのガキっ!?」


 驚愕する男をチラリと見て、村正で斬り捨てる。

 悪かったなガキで。でもあんたら、そのガキに殺されて一生の恥だな。もう死んでるけど。

 村正に付いた血糊を払って奥へと進む。見つけた扉は片っ端から斬って梓がいないかどうか調べる。でも俺が見た部屋は全て空だった。


「ったく、梓は何処にいんだよ。本当に迷惑だぜ」


 衝撃波で何人か吹っ飛ばした俺は悪態をつきながら日本刀で斬りかかってきた男を逆に斬る。


『師匠、晴菜殿、こちら風魔夜千瑠で御座る』


 すると、耳につけていたイヤホンから夜千瑠の声が聞こえる。


『管制室の制圧完了。梓殿の監禁場所を発見したで御座る。位置は晴菜殿が一番近い故、お頼み申す』

『了解しました。詳しい位置を口頭でお願いします』

『御意』


 夜千瑠は監禁場所を正確に伝える。その間に俺は現れた十人ばかしを戦闘不能にする。


「夜千瑠、あと何人残っているのかそっちで分かるか?」

『然り。何分建物自体が広い故、凡その残り人数二百で御座る』

「二百か……」


 思ってたより少ないな。

 それぐらいの数なら問題ないが、見つけるのが大変だな。


「夜千瑠、敵の詳しい居場所を俺に細かく伝えてくれ。ついでに晴菜とも合流する」

『御意』


 夜千瑠の指示で敵の位置が分かり、何処に進めば何人いてどういう得物持っているのか事前に知れたので対処が早くなった。


「風連一刀・辻鼬!」


 連続斬撃で十二人同時に斬り捨て、グロックで五人を撃ち殺し、四人を振動波でショック死させて晴菜との合流を急ぐ。


『正刀君、夜千瑠さん、晴菜です』


 とここで、さっきの夜千瑠の連絡から十五分経って晴菜からの連絡が来た。


『梓さんを保護しました。ですが、申し訳ありませんがお二人ともすぐに来てくれませんか? ちょっと面倒な事になりまして』

「何だよ面倒な事って」

『いえ、梓さんの首に爆弾が仕掛けられてまして。ヘタに壊して外すと危険ですから夜千瑠さんに解除してもらいたいのです。あとどちらか一方でも構いませんので、出来れば早く来て下さい。でなければ私も梓さんも蜂の巣に……』

『いやぁあああああああああっ!』


 晴菜のマイク越しに梓の悲鳴が聞こえてくる。あと銃声も。

 それを聞いた俺は銃弾の如く立ち塞がる障害物をぶっ壊しながら突っ込む。


「邪魔だっ! どいてろっ!」


 俺は勢いを止めない。村正で斬っては斬りまくる。

 目的の場所まであと数百mという所で、多銃身機関銃ガトリングガンやらパンツァーファストやらの銃火器を揃えた、総勢百人以上はいる肉壁が現れた。

 日本刀一本VS危険火器数百丁。普通に見れば結果は目に見えている。


「……上等じゃねえかよ」


 だが侮るな。こちとら得物は異形の妖刀『村正』様だ。たかが火力が高い程度の玩具に負けてたまるかよ。

 なにより、俺には美少女達の命が掛かってんだからなっ!



 さて。時間を少し遡りましょうか。私、御門晴菜は夜千瑠さんのナビのおかげで梓さんの監禁場所へと最短ルートで向かえています。


「急急如律令・かみなり!」


 上に投げた御札からパチッと火花が鳴り、青い稲妻が降り注いで男の方達を襲います。

 必死で逃げようとする者もいるようですが無駄です。雷成の方が速いですし、触れたらすぐに感電死してしまいます。


「チッ!」


 逃亡が無意味と学習し、私を殺そうとナイフや脇差を構える大変勇敢な方達もいます。

 ご苦労様です。その勇敢も水の泡ですよ。


「夜叉、羅刹、やりなさい」


 なにせ、近づかれる前に私の式神、夜叉と羅刹が潰してしまいます。勿論物理的な意味で潰しています。

 私の戦闘スタイルは中遠距離寄りになる事が多いので、護衛としてこの二体よく使役します。他の式神同様に常日頃から手入れは欠かしませんし、なによりその肉体から得る、圧倒的質量の膂力が生む破壊力は群を抜いています。

 夜叉も羅刹も本当に良い子です。私の言う事を聞いて次々と殴殺、圧殺を繰り返し、私の為に道を開いてくれます。


『晴菜殿、そのまま100m先の向かって左側で御座る』


 夜千瑠さんの仰る通り、100m先に扉と思しきものが見えました。ですが、その前に十数人の邪魔な方々がおりまして、それはもう速やかな排除をしなくてはと思いました。戦闘向きではない私にはこの数を一度に相手するのは少々厄介です。対超能力者用特殊銀弾によって夜叉と羅刹が倒されてしまう可能性を考慮すると、アレならいける筈です。

 私は袖とは別に収納していた札入れから御札を五十枚取り出し、その全てに式力を注ぎ込みます。


「急急如律令・しらあらし!」


 その御札をまとめて放り投げます。

 何が起こるかと訊ねられたらこうお答え致します。お掃除終了。

 五十枚の御札は被弾した訳でもなく、勝手にボロボロと崩れて紙切れになります。紙切れになった御札は花吹雪の様に舞い、その紙片一つ一つが鋭利な刃となって邪魔な方々を切り刻みます。

 白嵐は一度に沢山の御札を消費する代わりに、剃刀よりもよく切れる小さな刃を無数に生み出し、一度に多くの相手を切る陰陽術です。屋外よりも逃げ道の少なくなる狭まった屋内で使うのが良いとされていますので、効果は覿面でしたね。あっという間に片付きました。

 ゴミ掃除も終わり、私は目的地に到着出来ました。それは良いのですが、また新たな問題が現れました。

 梓さんを監禁する部屋の扉は鍵が厳重に掛けられており、カードキーと暗証番号と顔認証が必要です。夜叉か羅刹で扉を破壊するのが手っ取り早いですが、どうやらその事を想定して扉のみ対超能力者用特殊銀で加工しています。大変ご迷惑ですね。


「夜千瑠さん、そちらから扉のロックを解除する事は可能ですか?」


 非力な私では力尽くで抉じ開けるのは不可能ですので、夜千瑠さんに協力を頼みました。


『晴菜殿、その答えは否で御座る。既に試みたで御座るが、扉の鍵は管制室からでは開けられない仕組みになっているで御座る』

「……では、部屋の中にいらっしゃる梓さんの位置は扉から離れていますか?」

『然り。扉の反対側の隅に蹲っているで御座る』

「分かりました。こちらでなんとかしてみます」


 梓さんが離れているのでしたら、扉を爆破させても問題ないでしょう。

 私は左手に軽い力を入れて扉に触れます。その後右手中指を折り曲げて親指に引っ掛けます。所謂デコピンの構えです。


げっきゅうしゅ


 左手に向かって右手でデコピンをします。

 その直後に大きな爆発が起こりました。私はその爆発には巻き込まれませんでしたが、扉は木っ端微塵に吹き飛んでしまい、これで中に入る事が出来ます。

 今私が使ったのは、身体の動きで生み出した振動波に小さな衝撃を加えて爆発を起こす特殊な振動型体術の一つ。正刀君が使う内外を攻撃する体術とは異なり、爆発させるのに何故体術であるかは不明という曰くつきの技です。

 それは兎も角として、私が入った部屋の中は非常に真っ暗で明かりが無ければ何も見えませんでした。


「鬼火、照らしなさい」


 幸いにも廊下から出る光と、灯り用に携帯している鬼火のおかげで幾分マシにはなりました。

 部屋が明るくなり、私はいきなりの爆発で驚いた顔をしている梓さんを見つける事が出来ました。


「はる、な……?」


 何が起こったのか分からない梓さんは……あろうことか裸にされていました。今現在も発展途上にある梓さんの身体は、その四肢や胸部が豊満な富を持って殿方の獣欲をそそるものでもあり、同性愛主義者でもある私の心を刺激する色香を備えていました。

 しかし今はお仕事中。感情的には動かずあくまでも理性的に動くべし。私は梓さんの元へと駆け寄り、いつものようにニッコリと笑いかけました。


「ごきげんよう梓さん。随分と愉快な格好をしていますね」

「変な事言わないでよ。馬鹿……」


 私の顔を見た梓さんはホッとして顔を綻ばせます。ですが、今自分の格好に気付いてそれに恥ずかしくなり、両腕で僅かながら隠そうと試みます。私はそれに助力をと思い、着ていた着物の一枚を脱いで梓さんに被せました。どうせ何枚も着込んでいますし、ナイフで刺されても破れない代物ですのでその場凌ぎにはなるでしょう。


「梓さん。急いでここから脱出しましょう。敵は正刀君が粗方片付けてくれたのでそう残っていないでしょう」


 私は梓さんを部屋から連れ出そうとしましたが、梓さん本人は私の着物の裾を引っ張りそれを拒否しました。


「ねえ晴菜、これって、爆弾じゃないわよね? 部屋から出たら爆発なんて事無いわよね?」


 その理由は、梓さんの首に着けられた金属製の首輪でした。調べてみる限りでは爆弾で、それも部屋から出ると爆発してしまうように組み込まれているようです。解除方法も鍵が必要ですね。誘拐慣れした事で身についた梓さんの危険予知には感心します。


「ねえ晴菜、八徹ちゃんは? 嘆さんは? 二人共大丈夫よね?」


 ……梓さん、他人よりもまずご自身の心配をされてはどうです? と言いたい気持ちを抑えてお答えしましょう。今はその方が梓さんのお心には良いですし。


「嘆さんは骨に皹が入った程度で済みました。ですが八徹さんは重傷で現在も治療中です」


 それを聞いた梓さんの瞳からじんわりと涙が出てこようとするのを、私が頭の上に手を置いて励まします。


「梓さん、ご自分を責めてはいけません。八徹さんは銃剣警として、嘆さんはボディガードとしてあなたを守ろうとしました。だからと言ってそれを名誉ある負傷とは言いません。ですが、その中にあなたが自身を責める要素は何一つありません」


 よくよく考えてみれば、梓さんが御一緒だったのは私がお呼びしたから。美雨さんを狙って襲撃してきた方達は非力な梓さんを狙えば私達が動揺すると判断したのでしょう。それは正しいです。おかげで完膚なきまでに叩きのめす必要が出てきましたし。

 八徹さんの負傷も梓さんの拉致も想定外でしたし、そもそも美雨さんが操られた事自体が想定外です。本気を出した正刀君無しであの状況を切り抜けるのは無理がありましたし、自分達が死なないようにするだけでも精一杯でした。何も出来なかった梓さんは、寧ろ何もしなかっただけの判断力を持っていたと思っています。

 というか、ここで梓さんを責めれば正刀君に斬られてしまいます。それだけは死んでも嫌です。


「ご安心下さい。八徹さんも簡単には死にませんし、露莉先生がどうにかして下さります。ですから梓さんはどうか元気を出して下さい。でなければ皆さん共々落ち込んでしまい……五壁」


 励ましの言葉を中断して、いきなり空気も読まずに降り注いできた弾幕を五壁を展開して防御します。


「な、何何何何何何何ッ!?」

「梓さん、喋ると舌を噛んでしまいますよ」


 梓さんの悲鳴を耳元で聞くのは正直煩いですが、それ以上に銃撃音が煩いです。見てみると十数人の方達が銃をこちらに向けて一斉に撃ってきています。


「それに、銀弾ですか……」


 五壁に当たる銃弾を確認すると、全て対超能力者用特殊銀弾。五壁とは相性が悪く、被弾する度に傷を受けます。今は急速修正していますが、このまま続けていたら私の式力が尽きてしまうのも時間の問題ですね。式神か陰陽術で撃退するのが一番ですが、五壁で覆っている間は何も出来ませんし、出したところで撃ち落されて無駄にするだけです。

 ではどうしましょう。こうしましょう。


『正刀君、夜千瑠さん、晴菜です』


 正刀君と夜千瑠さんに全部丸投げしましょう。



「……という事です。ご足労掛けました」

「……お前さ、いくら不利な状況だからって丸投げはやめろよ。少しはこっちの迷惑考えろ」


 結局、肉壁共を衝撃波で吹っ飛ばし、晴菜から俺に注意が逸れている間に夜千瑠がお得意の鍵開け技術ピッキングスキルで梓に着けられた爆弾を解除し、俺は片っ端から肉の解体作業に従事し、ついさっき片付き終わった。


「申し訳ありません。正刀君達ならなんとかしてくれると思ってましたので」

「勝手にンな事思うな。まったく面倒な女だぜお前は」


 晴菜の行動にやれやれと呆れ果てる。慣れてるから良いが、よくこんなんで付き合いが長いもんだよ。


「師匠。解除完了で御座る」


 軽い雑談をしていると、夜千瑠が爆弾解体を終え、梓を連れてきた。流石は忍者。中々の手際だ。


「正刀……」


 晴菜の着物を羽織っている梓は俺を見てホッとしている。

 晴菜と夜千瑠によると、誘拐された梓は衣服を全て剥ぎ取られ、裸のまま監禁されていたらしい。そりゃ非力な人間を無力化する一番楽な方法だけど、年頃の女の子を裸にするってどんな鬼畜野郎共だよ。


「ったく、酷い事するよな。俺だって梓を裸にした事無いってのによぉ。ていうか梓、おっぱい揉ませて」

「ひゃうっ!」


 俺のセクハラ発言に梓は顔を赤くして胸元を慌てて隠す。晴菜の着物で足首辺りまでスッポリと隠れているが、それでも身体のラインはくっきりと分かる。当然ご自慢のお胸様もバッチリと。是非とも掴んでみたい。


「正刀君、それは銃剣警法に抵触しますよ。死に掛けた後で死にたいのであれば私は見て見ぬフリをしていますが」


 横から晴菜がニッコリと注意する。しかもこの顔は少しあれな顔だ。怒らせると後が怖い時のだ。


「……んー、止めとく」


 確かにこれから死ぬかもしれないのにまた死ぬのは嫌だ。そもそもここで生きられるかどうかすら危うい。


「で、これからどうするで御座ろうか?」


 夜千瑠がこれからの事について聞いてきた。

 現状ではまだ戦闘員は残っている。これを三人で全て狩り尽くすのは時間が掛かる。おまけに梓も連れている訳だ。脱出するだけなら問題ないが、それだと駄目だ。俺にはやるべき事が残っているからな。


「晴菜、夜千瑠。お前らは梓を連れて先にこの島から脱出しろ」

「分かりました」

「御意」

「え? え? え?」


 晴菜と夜千瑠は了承し、梓を連れて行こうとするが、当の梓が訳が分からずにいる。


「ちょっ、ちょっと待ってよ。正刀はどうする気よ」

「どうするって、美雨を連れて帰るに決まってんだろ。アイツだけ除け者にしたら可哀想じゃねえか」

「な、何言ってるのよ正刀。今の美雨は百魔死団に操られてるのよ?」

「らしいな。で?」

「でって、美雨は正刀を殺すかもしれないのよ?」

「かもじゃなくてガチで殺してくるな。で?」

「だ、だから、もし正刀が死んだらどうするのって言ってるの!」


 涙目になっている梓の質問は的を射ている。美雨はまだ百魔死団の制御下にある。もし村雨が現れて憑依したら死闘は確実のものとなる。美雨というか百魔死団は本気で俺を殺しに掛かる。かたや俺は戦う相手が美雨だ。出来れば傷一つ付けたくないという迷いがある。肉弾戦闘は互角になるとして、心理戦では俺が圧倒的に不利だ。

 不安なんだろうな、梓は。

 美雨に斬られて死に掛け、その傷も完治したとは言い切れず、なのに捕まってしまった自分を助けに来てくれた幼馴染が自ら死地に飛び込むのが嫌なんだろう。いつも傷だらけになって笑顔を向ける俺が一体どんな行動を取るのか、誰よりも俺の血が流れるのを見てきたから理解している。もうそんな姿を見たくもないし、見せてほしくもないんだろうな。……俺が勝手に思ってる事だが。

 けれども、けれどもだ。


「梓、勝手に人が死ぬ事を前提で話を進めてんじゃねえよ」

「だ、だって、この前は本当に死にそうだったじゃない!」

「それは否定の仕様が無いな。だからってこのまま美雨を見捨てるなんて事は、俺の銃剣警としてのプライドが許さないんだよ」

「そんな事言われなくても分かってるわよ! でも正刀一人だけなんて……」

「俺は一人の方が死ににくい」


 研ぎ澄まされた刃による斬撃の如く言い放った俺の言葉は、梓の不安を一瞬で掻き消す程の切れ味と威力を持っていた。


「……って言ったら、安心してくれるか?」


 俺は梓の頭に手を置き、優しく撫でながらニッと笑う。


「……する訳無いでしょ。逆に心配よ」

「だよな」


 案の定、コイツはキメ顔で何言ってんだ的な目で否定された。決まったと思ったのになぁ。


「つうかな、お前がここにいる時点で俺は心配だっての。それに相手は異刀使い。サシでるのが一番常套手段だ。それにな、一度は家族にしようと思ってた女の子を見捨てたら、男として廃るってモンだろ」

「そりゃそうだけど……正刀ってやっぱり正刀よね」

「そうですね。正刀君ですね」

「然り。師匠で御座る」

「悪かったな」


 少し場の空気が和んだ所で、そろそろ動かないとマズいな。


「そういう訳だからお前ら梓を頼むな。俺は残党片付けながら美雨を捜すから」

『その必要は無い』


 突如、和んだ空気を重くする言葉が耳に響いた。それはどうやら何処かに設置されたスピーカーからの声だった。


『妖村正刀。お前が捜し求めているものは最上階にいる。邪魔はいない。安心して上がってくるがよい』


 声の主はそう言い残してそれ以降は何も聞こえなくなった。

 あの声の主は100%百魔死団の構成員。それも美雨を操っている19とかいう奴だ。俺を名指ししたって事は、



「……お前ら、早く行け。どうも向こうは最初から俺に用があるみたいだ」

「……分かりました。お二人とも、参りましょう」


 晴菜が先頭、夜千瑠を殿に美少女三人は逸早い離脱を行う。


「……ねえ正刀」


 梓が立ち止まって俺に話しかける。


「何だよ梓」

「……また、ケーキ食べに行きましょ。今度は美雨も一緒で」

「……ああ。嘆さんも追加でな」


 笑顔で言ってあげると、梓の顔は綻んだ。

 三人が去るのを確認した俺は、深呼吸をして精神統一する。


『……正刀』

「何だよ村正」

『本当に良いの? 正刀が死ぬか、美雨が死ぬかもしれないのに』


 俺の手に握られている相棒はらしくない事を言い出す。それくらい村正にとっては面倒臭い事なんだろう。


「なあ村正、一つ確認なんだが、異刀使い同士が死闘して、両方が生き延びる可能性は0なんだよな?」

『ええ、0よ。言っておくけど相討ちは止めてちょうだいね。迷惑だから』


 俺に残されたカードは、美雨と死闘して生き残り、尚且つ美雨も生かして洗脳を解かなくてはいけない。プラスアルファで百魔死団と戦って死なないようにする。ハッキリ言って無理ゲーだ。成功確率は0と断言出来る。

 たとえ0でも、諦める理由にはならない。


「了解。なんとかするわ」

『出来るの? 美雨を殺さず傷付けず村雨君に勝って洗脳も解くなんて芸当』

「出来る出来ないじゃねえよ。やるんだよ。なんせ俺は、アイツ(美雨)のお兄ちゃんだからな」

『……ご主人様の間違いじゃなくて?』

「だからペットじゃねえって」


 村正の冗談にツッコミを入れて、目的地へと駆ける。



 走る事十分、最上階に辿り着いた。と言っても広い建物の割には三階程度しかなく、直通の階段であっという間に着いた。


「おいおいマジかよ……」


 廊下に出た俺はとんでもないものを見た。

 彼方此方に血が飛び散り、名刀で綺麗に斬られた人間の肉塊が無数に転がっていた。これはもうムゴいというかグロい。R18どころか20は指定出来るレベルだ。死体を見慣れていても昏倒しているかもしれないな。俺は平気だけど。

 よく見たら服装が黒いスーツだった。下で邪魔はいないと言っていたのはこういう事か。しかも肉塊から黒い瘴気の様なものが滲み出ていた。


「村正、これって」

『ええ。これ全部、美雨っていうか、村雨君が斬ったのよ』


 百魔死団の野郎、美雨を洗脳して自分の手駒を消しやがったのか。悪逆非道なテロリストらしいやり方だ。


『来たか妖村正刀』


 俺が来た事で、再びスピーカーから声が聞こえた。さっきと同じ奴だ。


『そのまま真っ直ぐ進め。村雨はそこにいる』


 それだけ言ってブチッと音声が途切れた。村雨、つまり美雨はこの一直線の廊下の先にいるって事だ。


「……面倒臭えなぁ」


 カツン、カツン、と静かな廊下に響く靴の音。あとは俺と村正の声しか聞こえない。


「村正」

『何?』

「……父さんだったらこんな時、どうすると思う?」

『…………』


 村正はいきなりの俺の質問に黙りこくる。


『……良いの? 言っちゃって』

「ああ。言ってくれ」

『……分かったわ。刃だったらね、何の躊躇いも無く美雨を殺してるわね』

「……だよな」


 父さんは基本的には優しい。というか俺にはめっちゃ甘い人だった。厳しくされた所も多かったけど、世界で一番お前が可愛いと毎日言ってそうなぐらい親馬鹿な人だった。実際にも耳にタコが出来るぐらい言ってたし。そんな父さんでも周りには容赦ない訳では無い。

 昔、父さんがこんな事を言っていた。


 ――良いか正刀。銃剣警たるもの、どんな事案が発生しても、常に理性で動かないといけない。感情的になる場面が無いとは言い切れないけど、例え身近にいる親しい人が犯罪者になろうと、銃剣警は全力を持って逮捕しないといけないし、時には殺さなくてはいけない。銃剣警が仕事に私情を挟むのは、最もやってはいけない事だ。


 どんなに優しい父さんでも、仕事の為なら親しい友人すら平気で殺す。それぐらいの非情さを持っているかいないかで生存率が大きく変動するからだ。だからもし俺が銃剣警になっても、情で心を揺らがせるなと言いたかったんだろうな。


 ちなみにその日は俺に筋トレに付き合ってもらった日で、帰りにステーキ屋で俺が100gステーキセットを食べている間に父さんは1㎏ステーキセットを三人前完食していた。


 俺の心情としては、やっぱり美雨を殺したくない。でも俺が生き残るには美雨を殺す他ない。もし俺が死ねば、美雨は百魔死団の傀儡になってしまう。

 結局、何の答えも出せずに俺は目的の場所である扉の前にやってきた。


「あーあ、こんな俺って、銃剣警失格だよな村正」

『そうねぇ、まだ人間らしさが残っていると考えたら失格とは言えないけど、やっぱり刃と比べたら赤ん坊同然ね』


 はっきりと言っちゃうあたりが村正らしい。後で折ってやろうか。後があるかどうか知らんが。


「行くか相棒(村正)

『ええ相棒(正刀)


 なんだが色々と考えてムシャクシャしていたので、手では開けず蹴って開ける。


 バンッと景気良く開いた扉を潜ると、そこは広々とした空間だった。壁の色は汚れ無き真っ白に統一され、電灯がある以外は何も無い。広さはサッカーコート四個分ぐらいだ。


 そんな何もない場所に、例外があった。こちらに背中を見せる様に白い椅子に腰掛け、白いテーブルに置かれたティーセットで入れた紅茶を手に取って啜っている人物がいた。

 黒いコートのフードをすっぽりと被っていて顔は見えないが、その纏っている殺気が異常極まりない。一度だけ感じた事のある、父さんのガチ殺気と対等に渡り合える並みの恐ろしさだ。超凶悪犯罪組織の構成員になっている訳だ。

 俺は殺気にも気圧されず、静かに近寄り、50m程の距離を取って立ち止まる。


「……その紅茶、ダージリンか?」

「……いや、アールグレイだ」


 とりあえず気になったので質問してみたら、相手はすんなり答えた。声からして男だ。


「暇な時はいつも飲んでいてな。お前もどうだ? 一応ティーカップはもう一つ用意してあるが」

「いや、いい。大して喉が渇いてないしな」

「そうか。それは残念だ。折角最期の一時を味わえる貴重なチャンスだったのに」


 男は溜息を吐き、ティーカップを置く。


「そういえば自己紹介がまだだったな」


 次に立ち上がってこちらに顔を向け、被っていたフードを取る。

 現れたのは若く見える黒髪黒目の男。但し目つきが悪いのか、第一印象は根暗が似合うと思う。服装もコートの下は黒いベルトでいくつも止められた黒い戦闘服だ。なにより印象が強いのは、右頬に彫られた19の数字のタトゥーだろう。


「とりあえず礼儀として名乗っておく。百魔死団第19番手。人は俺を無情の心操師マインド・コントローラーとも呼ぶ。まったく、こんな中二病みたいな異名で呼ばれる側の身にもなってもらいたいぜ」

「知らねえよンな事」


 確かに中二病臭い異名だけど、同情する義理は微塵も無い。


「まあ良い。それよりも本題に移るか」


 パチン、と19は指を鳴らす。

 奥から靴音が聞こえてくる。顔を向けると、小さな黒い影しか映らない。次第に影は大きなり、姿が分かる。


「美雨……」


 俺は悔しさと怒りが湧き出てきた。

 最初の頃に見せてくれた無邪気な表情と汚れ無き麗しい瞳が失われ、無感情の人形に闇の宿った光無き瞳へと変貌した美雨が、上半身をAEBの拘束衣で拘束されたまま歩いてきた。


「どうした妖村正刀。会いたがっていた娘にやっと会えたんだぞ? 嬉しくないのか」

「……嬉しいに決まってんだろ。けどな、本当に喜ぶのはまだ早いだろ」


 その瞬間、俺は肉眼では捉えきれない速度で走り、19に斬りかかり……たかった。

 落ち着け。今ここで斬っても、どうせ避けられるか美雨を盾にされるだけだ。迂闊に手が出せない。

 19はフッと笑う。


「そんな事を言っていて良いのか? 今日がお前の命日になるというのに」


 19は美雨に近寄り、ポケットから鍵を取り出して拘束衣を解除する。梓とは違って身包み剥がされた訳ではなく、服は変わっていない。変わっているのは、操られている事、村雨を握っている事だ。


『若造よ、よもやここまで来るとは。若さゆえの至りなのか、はたまた単なる愚かなのか。そして村正よ、それを止めぬお主も随分と愚かであるな』


 中年男性の声が刀から発せられる。村雨、昼間ぶりだな。


『あら村雨君、確かに私の使い手は馬鹿だけど、あなたが思っている程馬鹿でもないわよ。それに私が言ったぐらいで正刀が止まる訳無いし』

「村正、馬鹿の部分も否定してくれねえかな。正直傷付くぞ」


 俺は相棒の貶しにへこたれつつツッコミを入れる。


『若造、初めに言うが、今の我が主はお主を容赦なく殺めに参る。無論我もそれに対し、全ての力を持ってお主を殺める。それでも良いのか?』

「構わねえよ。どっち道、その中二病野郎はそのつもりなんだし」


 俺は19を睨みつける。19はヘラヘラ笑って美雨から数歩離れる。


「妖村正刀、お前にこの娘を救い出す事は不可能だ。何故ならお前は既に詰んでいるからな」

「そんなの、やってみなきゃ分からねえぜ。お前を殺すって手も残ってるだろ」

「させると思うか?」


 19の前に、村雨を憑依した美雨が立ちはだかった。もう戦闘モードに入っている。

 これはやるしかないか。そう思って俺も村正を構える。が、


「おい19、一つ聞きたいんだが良いか?」

「何だ?」

「お前、戦わないのか?」


 俺がこの部屋に入ってきた時から気になっていた事があった。それは19から戦意が一斉感じられない事だ。殺気は今でも充分ある。でも戦おうとする気が全く無い。隠してるつもりも無く、不思議と疑問に思っていた


「そうだな。この娘を戦わせるが安心しろ。俺は戦闘には参加しない。別に俺が出る幕でもないという理由じゃない。参加したくても出来ないんだ」

「それってどういう……」

「どうせここで死ぬんだ。教えてやろう」


 19は、嵌めていた右手の手袋を脱いだ。露出した右手を見て俺は言葉が出なかった。

 19の右手には皮膚が無い。黒い鉄で出来た掌があった。


「お前、その手っつうか腕……」

「ああ。右腕どころか左足も義肢だ。ついでに左腕も半分麻痺していてな。普通に動かす分には問題ないが、いざ戦闘になるとやっぱり使い物にならなくなってな。これも全部あの百魔死団殲滅大戦ナンバーズデストロイのせいだよコンチクショウ」


 19は恨みがましく言うが、さっきまでの手足の動きを見る限りでは義肢には見えない普通の動き方だった。さすがは百魔死団と言った所か。


「さあ妖村正刀。こんな四肢でも自分の護身ぐらいは出来る。俺は高見の見物で我慢してやるから、思う存分殺し合え」


 不気味で悪魔的な笑みを浮かべる19。その直後だった。


 ――シッ!


「っ!?」


 ――ギィンッ!


 美雨の放った一撃を村正で受け止めた。

 鍔迫り合いになり、俺は美雨の顔を間近で見れた。

 あの純粋無垢でちょっとした仕草が可愛らしく、守ってあげたくなる表情をする美雨が、屑共の実験体として生まれて散々いいように利用されて、挙句の果てにはこんな機械人形みたいにただ戦うだけの妖刀使いに成り果ててしまった。


「……良いぜ。やってやるよ」


 妖筋で強化した筋力で美雨を押し返し、追撃の一振りを下ろす。美雨はこれを避ける。

 可能性が0だろうが、不可能といわれようが、俺は絶対に諦めないし、お前達百魔死団を絶対許さない。


「美雨、お前は俺が救う。あと覚悟しろよ村雨。俺はあの妖村刃の息子で、お前の主様の兄になる男だからな」


 自覚は無かったが、この時俺も19と似た悪魔的な笑みを浮かべていたと、後で村正から聞いた。

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