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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
17/32

No.16 空石島

美少女を救いに潜入開始です。

早速戦闘あります。

 一騎当千。一人の騎兵で千人の敵を相手に出来る事から、人並み外れた才能や技術、経験の持ち主を意味する四字熟語。

 この言葉を使うのに一番相応しいのは、銃剣警の世界では大きく分けて三つ。

 一つ、銃剣警序列世界部門百位以内の銃剣警。

 一つ、世界最恐にして最低にして最悪な刑務所、冥絶監獄ハーデス・プリズンで働く職員達。

 一つ、百魔死団ナンバーズ

 三番目のは、耳にタコが出来るぐらいに聞いた事がある。戦闘向きでない構成員でさえもそうであるらしい。一度関われば命は無い。戦って生きられるのは百戦錬磨を百回以上は経験する必要があると例えられている。


 けれどだ。そんな奴が仕切る所に行けばどうなるだろう。


「……うわぁ、面倒くさ」

「面倒ですね」

「面倒で御座る」


 あずさ美雨みうを救うべく、俺、はるの三人はなぎさんの協力によって光の道を潜り抜け、二人を誘拐した野郎共のアジトに難なく入り込めた。入り込めたのだが、そのアジトのある島に足を踏み入れた第一声は、三者満場一致となるものだった。

 まずこの場所について簡単に説明しよう。ここは東京ドーム三個分の広さを誇る孤島だ。その中に東京ドーム一個分の広さを持つ巨大な建造物が聳え立っていた。建造物の壁は磨かれた銀の装甲で、恐らく対超能力用特殊銀が用いられているのだろう。上部には砲台がいくつも取り付けられており、晴菜の放った式神もこれによって撃ち落されたんだな。

 百歩譲って建造物はまだ良い。俺達三人が問題にすべきは外にいるこの人だかりだ。

 残りの島の敷地面積、凡そ東京ドーム二個分に配備されていたのは、黒スーツに身を固めた男達。日本刀やナイフ、違法改造銃など、あきらか物騒な得物を携えている。しかもコイツらから溢れ出ている殺気、間違いなく経験を積んだプロの殺し屋か傭兵によって出来た摩訶不思議集団だ。

 男達は俺達の姿を見るや否や、自分の得物を構えて一斉に襲い掛かってきた。

 一人ずつ倒すのも面倒なので、俺は村正を抜刀。あやすじで肉体強化を施して力を込める。


えんげついっとうかいてん!」


 村正を力一杯薙ぎ払う。


 ――ドガァァァァァァァァァンッッ!


 強烈な衝撃波が周囲に炸裂し、囲む様にして掛かってきた男達は吹き飛ばされてしまった。


「やっぱ一度に来たらこれだよな。前は梓と美雨がいたから加減する必要あったけど、お前らだから変に気遣わないで済むし」

まさ君、今のは流石に私も嫌でしたよ?」

「然り。師匠は拙者達だからという理由で何事も行うのは勘弁してほしいで御座る」


 回天の衝撃波を式神で防いだ晴菜と夜千瑠が苦情を言うが、お前らも普段似た様な事をしているのでスルーする。

 今のが合図になった様に、他の男達も一斉に攻撃してきた。俺達は互いに背中合わせになる。


「コイツらって何人ぐらいいるんだろうな」

「そうですね、ザッと見積もっても百人は軽くいると思いますよ。幸いにも、百魔死団に加担した者は殺害しても問題ないと銃剣警局より通達が来ておりまし、遠慮はいりません」

「そっか。じゃあ早速暴れまわるかっ!」

「はいっ!」

「御意!」


 俺達は思い思いに戦いを開始した。


「――っ!」


 まず最初に俺が相手するのはナイフ持ちの男五人。構えと言い速さと言い、中々の練度だ。ナイフ術を用いた殺し屋だな。

 だからどうした。首の頚動脈を狙うナイフを紙一重で避け、避け様にがら空きになっている男の腸を村正で斬り捨てる。今度は峰打ちではなく言葉通りの意味で。防刃繊維を着ていようが、妖刀『村正』の前では布切れ同然。一人目を斬った勢いで、二人目、三人目、四人目、五人目と斬っていく。

 ナイフが駄目なら刀ではどうだ、という質問をぶつけるみたいに刀持ちの男が群がってきた。

 解答。確かにあんたらの腕は良い。でも得物が悪かった。


ふうれんいっとうつじいたち!」


 妖気を纏った村正を素早く振る。一度に放たれた複数回の斬撃。ゲームで言う連撃技だ。俺に振り下ろされる筈の刀は村正が軌道を進んだだけでスパッと切断され、ついでに持っていた男達もスパッと斬られた。

 さっきも言ったが、村正の前では防刃繊維の服は布切れ同然。それぐらいよく切れれば普通の日本刀を真っ二つにするぐらい造作も無い。

 その後も十何人斬った辺りで、接近戦では勝てないからと銃を構えるのが多くなった。


 剣が駄目なら弾が効く。その発想を否定する気は無いけど、誰がそれを決めた?


 俺を取り囲んでの一斉射撃。俺はその寸前にグロックを抜いていた。

 今現在、俺の視界はあやまなこによる動体視力補正が掛かり、スーパースローに近い状態となっている。

 弾数、弾道、発射位置、その全てを一旦確認し、身を動かして避けられる弾と、村正で防ぐ必要がある弾と、僅かに掠る程度の弾にそれぞれ赤、黄、青で分別する。これを0.3秒で処理。

 次にその全ての弾に対してその行動を取れる様に身体を動かす。この弾幕を回避するには指を微妙に曲げるだけでも失敗する精密な判断力と力加減が試される。それを0.4秒で処理。

 最後に避けた後だ。男達の持つ銃はマシンガンや拳銃といったより取り見取りのものばかり。その大半が違法改造したのだ。それらを全部一度に破壊するのはいくらなんでも無理だ。それでもグロックの弾数、十七回までなら出来る。残りは先に補正しているから大丈夫だ。回避後の反撃が取れる姿勢を0.3秒で処理。


 ――パパパパパッッッ!


 ――ギィンッギィンッギィンッギィンッギィンッ!


 ――バキンッ! ガシャァァァンッ!


 男達は目を見開いた。絶対に避けられないであろう弾幕を、身体を僅かに動かし、また村正で弾き、服に掠る程度しか当たらなかった俺と、流れ弾で破壊されてしまった自分達の銃に。


 ――パパパパパパパパパパパパパパパパパァンッ!


 その驚いている隙にグロック全弾で残った十七丁の銃火器を破壊する。即座に弾を再装填して倒せそうな奴の頭を撃ち抜く。ザクロの果実が潰れたみたいに飛び散る血を気にせず、強化された脚力によって走って近づき、村正で斬り捨てる。

 やっと我に返った時にはもう遅い。体勢を整える前に接近して斬り捨て、遠距離で撃ち殺している。


「コイツッ!」


 俺の不意を突いてきたナイフの一突き。死角を狙った良い手だ。事実、俺は三人を斬った後なのですぐに防御を取れない。このまま刺されて死んでしまうだろう。


 ――ガキンッ!


 普通の筋肉しか持っていなかったら。


「なっ!?」


 俺を仕留めたと思っていた男は、首を狙って刺したナイフが折れた事に目を見開く。その間に俺は振り返るついでで男の胴体を袈裟斬りで両断する。

 首は人体の急所の一つ。暗殺においてよく狙われる箇所でもある。だが妖筋の肉体強化に掛かれば首の強度を数十倍に高めてナイフの刃を折るぐらいの芸当は造作も無い。もっと言えば銃弾も弾こうと思えば出来るが、それでも当たると痛いので避けている。

 敵も腐っても鯛と言うべきか、俺の死角を狙い、気配を消して接近して来た。これには反応が遅れてしまい、俺でも避けれず受けてしまった……なんてつまらない事にはならない。ちゃんと気付いている。


 ――ズドォンッ!


 その死角を狙った男は突然の衝撃音と共に地面に叩き付けられた。ミンチ肉にはなっていないが、圧迫された骨が折れて心臓に突き刺さり、絶命してしまった。


「……ナイス晴菜」

「いえいえ。お安い御用ですよ」


 ニコニコと鉄扇を広げる晴菜。その傍らにいる、二体の怪異。


 一体は青い体躯に右側が左側よりも長い角を持った鬼。


 もう一体は対照的に赤い体躯と左側が右側よりも長い角を持った鬼。


 この二体の鬼は晴菜の使役する式神。青鬼を夜叉、赤鬼を羅刹と言う。どちらも仏教において護法善神の十二天である。筋肉隆々な肉体から放たれる一撃は万物を破壊すると言われている。


「夜叉、羅刹。思う存分暴れて下さい」


 晴菜の命令が掛かると、二体の鬼神は縦横無尽に攻撃する。銃弾は跳ね返り、刃は折られ、逆に強力な破壊力を受けて死んでしまう。一方的な虐殺に等しい。

 こんな式神を使役していても、晴菜本人は必ず狙われる。近づこうとすれば羅刹夜叉コンビが護衛するので遠くからの銃撃が降り注がれる。

 アサルトライフルやマシンガンといった危険銃火器に囲まれているというのに、晴菜はニコニコとしたまま鉄扇をパチンと鳴らす。その途端、晴菜は袖から取り出した数十枚の御札を放り投げ、目の前で五芒星を描く様に指を動かす。


「急急如律令・へき


 晴菜が唱えたと同時、御札達は五枚が五芒星を作り、五枚一組で四組の五芒星が出来上がった。五芒星は晴菜の前後左右を囲い、それを中心にして壁の様なものが現れる。

 周囲360度から放たれた一斉射撃。回避不可能な弾幕と五芒星の壁が激突する。


 ……どっちが勝つかなんて一目瞭然だろ。弾、全然効いてねえ。


 急急如律令・五壁は晴菜の持つ防御技の中でも最高峰。例えるなら核爆弾や電磁投射砲レールガンの直撃でも皹すら入らない。物理的な攻撃から超能力まで何でも跳ね返してしまう五芒星の壁に守られている以上、晴菜には傷一つ付けられない。俺でも壁一つ破壊したのがやっとなくらいだ。


「おいっ! 銀弾ギンダン持ってる奴やれ!」


 目には目を、歯には歯を、超能力には対超能力を。対超能力者用特殊銀弾を装填した銃持ちが一斉に構えてすぐ射撃した。

 どんな攻撃も防ぐ五壁も所詮は超能力の一種。銀弾を受ければすぐに破壊されて晴菜は蜂の巣に……ならない。

 五壁は銀弾に当たっても、破壊どころか皹も入らずさっきと同様にただ跳ね返す。銀弾は跳弾して逆に男達が犠牲になっていく。


「ど、どうなってんだよっ!? 何で銀弾が……」


 男の声は途中で羅刹が殴殺した。

 確かに尤もな疑問だ。あらゆる超能力に絶対の破壊と無効を誇る対超能力者用銃弾が何故効かなかったのか。

 そう、五壁は対超能力攻撃すら完全防御する……だったら苦労しないしそれなら今頃御門家がとんでもない事になっている。

 誤解があるだろうが、厳密にはちゃんと効いている。その証拠に銀弾の被弾箇所には亀裂が入っている。このまま何もしなければ五壁は簡単に破壊されてしまうが、晴菜は銀弾の先端部が五壁に当たった直後に式力を亀裂した所に注いで高速修正しているのだ。修正された五壁は銀弾の効力を受けつつも物理障壁同様に跳弾している。

 五壁は便利な防御技だが欠点も多い。まず発動時に沢山の御札を使う事。この御札は使い捨て用なので多用出来ない。

 次にこの技の維持には膨大な式力を消費する。だから持続時間は長く出来ない。それに発動中の間は自分は五壁の中にいるので身動きが取れないなど、御門家でも限られた人間でしか使えない術だ。

 まあ、生まれつき陰陽師の才覚を持って底無しとも言える式力を持っている晴菜からしてみれば大した支障は無いだろうが。

 晴菜は密閉空間にいつつも布石を置いてある。それは男達の周りに漂う数枚の御札。奴等はそれを本能的にヤバいと感じて銀弾で撃ち落す。


「ヤベッ」


 俺はその御札の正体を知っているので、すぐに退避した。

 そんな事しなければ良かったのに。

 御札は破かれた途端に大きな爆発が発生し、晴菜を狙い撃ちしていた男達は巻き込まれてしまう。

 今のはばくと呼ばれる、破かれるとプラスチック爆弾並みの威力を持った爆発を起こす御札。仮に撃たなくても式神で破かせていたからどの道爆発していた。


 一度に十何人も倒したのは良いが、一つ文句を言いたい。


「晴菜、危ないだろ」

「おやおや、それはすみません正刀君。あなたの事ですから百枚くらい爆破しても平気かと思いまして」

「平気な訳ないだろ」


 俺まで巻き込むな。危うく死ぬ所だったぞ。晴菜の奴、俺まで爆殺しようとしやがって。爆符を見た途端に距離を取って正解だった。しかも自分は五壁で守られているから平気という、戦闘中でもムカつく女だ。

 辺りを見渡してみると、最初は百人近くいた男達も三分の一程まで減っている。この短時間でここまでやったつもりはなかったが、或いは何の音も無くバタバタと男達が倒れているからだろうか。


「流石は夜千瑠。仕事が速いな」

「否。師匠が遅いだけで御座る」


 その師匠に対して嫌味を言う後輩、夜千瑠は俺と晴菜が暴れている間にひっそりと男達を仕留めていた。

 夜千瑠は忍。姿気配を消すぐらいお手の物だし、暗殺技術も殺し屋達には決して負けない腕を持っている。

 これまでの戦闘で、夜千瑠は俺達三人の中で一番地味な立ち位置にいた。男達は村正を振るう俺、式神や陰陽道を使う晴菜に気を取られていて夜千瑠の存在を忘れていた。ついでに俺も半分忘れていた。

 ていうか、俺と晴菜がった人数が大体二十人から三十人ずつとして、残り約三十人だから夜千瑠が殺ったのも二十人から三十人。短い間でよく出来るのが凄いと言える。


「さてと、数も減ってきたし一気に片付けるか。晴菜」

「はい」


 俺は妖筋による強化で筋力の上がった拳に力を入れる。晴菜も五壁を解除して御札を一枚取り出す。


せつ!」

「急急如律令・れいしょう!」


 俺と晴菜が同時に地面に拳と御札を叩きつける。


 地中を経由して足元から振動波を喰らわす振動型体術と衝撃波を喰らわす陰陽道。二つの技が重なり合い、男達の脳や心臓に強いショック攻撃を与える。ある者は吐血して倒れ、ある者は振動波で脳が潰れ、ある者は持ち前の忍耐力と耐久力で堪えたが、最後は式神と夜千瑠によって終わりを遂げた。


 戦闘開始から一時間ぐらいは経った。島をうろついていた殺し屋達は全て亡骸となった。


 俺は見回す。抉れた地面、彼方此方を染める鮮血、足元に転がる人間。


「……しっかし晴菜。いくら自分の式神が壊されたからって、ここまでやらなくても良いだろ」

「いえいえ。いくらてつさんが重傷を負ってしまったとはいえ、夜千瑠さんも少々ムキになり過ぎですよ」

「否。たとえ梓殿と美雨殿が攫われたとはいえど、師匠も聊か暴れ過ぎで御座る」


 皆が皆、自分の事は棚に上げて相手をディスる。

 外が片付いたし、次は中に入るだけだ。俺達三人は銀の建造物に向かう。

 建造物の周囲を調べてみたが、正面の入り口を除いて、何処にも人が入れそうな所はなかった。あっても金網が被ってある通気孔ぐらいだ。

 正面扉の鍵は電子ロックが掛かり、十桁の暗証番号とカードキー、指紋認証に虹彩認証と厳重なセキュリティになっている。壁の表面は銀だが、中身は物理的衝撃に強い合金だろう。


「夜千瑠、お前の変化の術で蜘蛛にでもなって通気孔入ってくれよ。余裕だろ?」

「否。拙者はその様な忍法は使えぬで御座る。晴菜殿が式神を用いて扉を破壊するのが良いで御座る」

「いえいえ。この壁は対超能力者用特殊銀でコーティングしていますので、私の式神では破壊不可能です。ここは正刀君が力技で何とかして下さい」


 正直な話、誰もこれを破壊したくない。だって殴ったりしたら絶対痛いでしょ。嫌だよそんなの。


「……面倒くせえな。俺がやるか」


 でもそれをグチグチ言っていたら何も始まらない。仕方なく俺が貧乏くじを引く事にした。

 さて、こういう厚さも硬度も分からない塊は村正で一刀両断が手っ取り早いが、超能力を遮断する銀と妖刀は相性が悪い。刃を当てた時点で普通の日本刀になるのがオチだ。

 ならばあれを使おう。俺は扉から距離を取り、妖筋で脚力を強化。ついでに身体も色々動かして振動波を作り出し、それを拳に溜め込む。後は呼び動作も無しに扉目掛けて突っ込む。


りゅうすいせつ!」



 龍彗羅刹は、瞬間的に加速して全体重と作りだした振動波を拳に乗せて体ごと対象に突っ込む体術。受けた対象は内側と外側に全体重が加算された強い衝撃波を受ける。


 ――ガッシャァァァァァァァァァァァンッッッ!


 拳を受けた扉は内外共に強い衝撃波を受け、更には扉を貫通して反対側にも轟音が鳴り響いた。

 村正の妖気すら無力化する対超能力者用特殊銀と言えど、身体的技術による攻撃には只の分厚い鉄板と同じ。中の合金も振動波と衝撃波で木っ端微塵に吹き飛び、細かな金属片となった。


「よし。それじゃあ行くか」

「はい」

「御意」


 百魔死団の潜む銀の要塞に、俺達は足を踏み入れた。



 同時刻。


「ば、馬鹿な……!?」


 せんよしまさは元銃剣警だ。銃剣警法違反でライセンスを剥奪されてしまった。理由は誤認逮捕を認めず、挙句に冤罪を作ってしまったから。職を失い、前職で身につけた技術スキルを生かして、彼はこの場にいる。勿論自分がどんな立場にいるのかぐらいの自覚はある。自分は今、ある犯罪組織の下っ端として働いてる。

 ここは日本列島から離れた孤島。通称空石島そらせきじま。この島に辿り着くまでには海路か空路のどちらかを何時間もかけて移動する必要があるが、その両方を使うのは自殺行為だ。何故ならこの島に建てられた巨大な建造物には強力な対空兵器が無数に完備されており、周囲1㎞圏内を侵入した時点で自動砲撃が発生。戦闘機も戦艦も完膚なきまでに蜂の巣にされて海の藻屑となる。たとえそれが超能力による防御があろうとも、対超能力用特殊銀弾によって迎撃する。

 百歩譲って、なんらかの方法を用いて島に辿り着けたとしよう。それでも無意味だ。島中には百人を超える見張りが散らばっているのだから。彼らは今までに凶悪な犯罪を幾多も犯し、多くの実戦経験を積み、人を殺すことに関して無抵抗でいられる殺人集団達だ。島に着いてもリンチを受けて骨折り損の草臥れ儲けになる。

 千田の序列は五千位台だったが、それでも戦闘経験は豊富にある方だ。でも今の彼に与えられた仕事は管制室で監視カメラを見る事。建造物内には超高性能ハイテクカメラが設置されている。最先端技術が使われ、羽虫一匹見逃さない程に厳重だ。

 内心では見張りでなくて良かったと安堵している。今まで何人も殺してきた様な連中達と同じ職場など御免被る。


 今日もとあるターゲットが島に到着し、いつもの様に監視カメラを見ていた千田は、突然の出来事に目を疑っていた。


 いや。この一連の出来事を見て疑うな言われる方が困る。


 誰が予想出来るだろうか。何処からともなく少年少女三人が現れて、島全体に散らばっていた見張り達を悉く倒していったのだ。

 たかが三人。それも子供だ。見張り一人だけでも充分な筈だ。それなのに、たった一時間で全てが変わった。

 一人の少年は背中から日本刀を抜き、まるで狂戦士の如く暴れまわって男達を切り刻み、時には拳銃で撃ち殺す。時折、日本刀から怪しげな“何か”が出ていた。


 着物姿の少女は、手に拳銃と鉄扇を持ち、まるで日本舞踊の様な動きで可憐に倒していき、取り出した紙切れを放り捨てたかと思ったら、そこから巨大な怪物が現れて周囲を蹂躙した。その上少女を囲む対超能力者用特殊銀弾も謎の呪術に類するもので防御し、逆に男達を爆破した。


 忍者に近い格好をした少女は他の二人に比べて地味ではあったが、忍者刀や手裏剣で相手を一撃かつ確実に仕留めた。恐らくはかなり高度な暗殺技術だろう。二人が派手に戦っている間に何人者の精鋭がやられている。


 何故こんな奴等がいきなり? 只の子供の筈なのに。そもそもどうやってこの島に入ってきた? 探知機には海路空路共に一斉反応がなかった。まさか瞬間移動してきたとでもいうのか。千田の頭の中で、様々な憶測が飛び交う。


「……理由は単純だろう」


 そんな千田の思考を読み取ったかの様に、一人の男がぬぅっと現れた。


 その男は、フード付きの黒いコートを身に纏い、顔は下から覗いても見えない。全体的に暗いイメージがある。


 だが千田は知っている。彼がこの組織に入って間もない頃、この男が裏切り者をミンチになるまで虐殺した様子を見た事がある。それぐらいこの男は危険極まりない。少しでも機嫌を損ねれば命に関わる。この男の存在だけでも、毎日を死と隣り合わせでいる大半の理由だ。


「じゅ、19様!? 単純とは一体どういう事でしょう?」

「……そうか千田、お前はあの三人を知らなかったな。あの刀を持っている小僧は、嘗て我ら百魔死団を苦しめたあやむらじんの息子、妖村正刀だ」

「っ!?」


 千田は続けて驚いた。


 妖村刃。東京銃剣警局の最強戦力にして、元日本序列一位、異刀コトナリガタナの使い手。直接の面識は無いがよく知っている。いくつもの伝説を作った、超人を超えた超人。そんな男の息子だ。規格外な強さを持っていても不思議じゃない。


「ついでにあの着物娘はかどせいげんの長女、御門晴菜。忍娘はふうびゃくろうの一人娘、風魔夜千瑠。次代の公安零課候補と言われている連中だ」


 千田は頭の中がついていかなくなっていた。

 御門と言えば陰陽師の大家、安倍あべの晴明せいめいの血を引く一族。その現当主である御門晴玄は妖村刃と共に公安零課に所属し、あらゆる超能力犯罪者を消していった。その娘である晴菜は陰陽師としての才覚を持つ麒麟児である。


 風魔一党は嘗て相模を拠点に活動していた忍者の一族。風魔小百郎は現当主にして御門晴玄同様元公安零課の人間。極めて高度な暗殺技術で殺すことが不可能とされていた犯罪者を幾度となく屍に変えた零殺者ゼロ・アサシン。一人娘の夜千瑠はその忍の才能を引き継ぐ風魔の申し子と賞されていた。


 妖刀使い、陰陽師、忍者、それぞれの才能に秀でた若者達が結束して超凶悪犯罪組織に対抗してきたのだ。


「19様、如何致しましょう? 幸いにも奴等が侵入するのには時間が掛かりそうです。その間に対処をせねばなりません」


 千田は19と呼ばれた男に意見具申する。

 幸いにも建物内に入るには扉しかなく、窓も無いし通気孔も人が入れる大きさも無い。その扉自体も対超能力者用特殊銀を覆って作った超合金製。鍵も何重に掛けられて強固である。まず入る事すら出来ないであろう。千田はそう認識している。

 だが19はそうでなく、呆れた様に溜息を吐く。


「……千田。お前はそれでも元銃剣警か?」

「は? と、申しますと……」


 千田が聞き返そうとした瞬間、巨大な轟音がモニターのスピーカーから鳴り響いた。ビックリした千田が慌ててモニターを見てみる。

 砂煙が舞っているのでプログラム補正を掛ける。

 画面に映ったのは、何故か開いている入り口。扉は粉々の金属片となって飛び散っていた。そして、入り口前には妖村正刀が拳を突き出した姿勢で止まっていた。


「なっ、これは一体どういう……!? 超能力の類は効かない筈では……」

「超能力じゃない。正真正銘、身体的技術だ」


 千田の疑問に19が答える。


「そんな事がありません! 身体的技術のみで超合金を破壊出来る訳が無いです!」


 だが千田はその解答が信じられなかった。その根拠は、110mm個人携帯対戦車弾(パンツァーファウストⅢ)を十発打ち込まれても傷一つ付く事のない扉の強度にあった。たかが殴られた程度ではビクともしない扉を破壊出来る身体能力など存在しない。千田はそう言いたいのだ。


「……普通にやったのでは確かに不可能だ。だが奴等は、振動波を用いた体術を体得している。それをもってすれば合金など只の障子紙同然だ」


 19には分かる。妖村正刀は体の動きで振動波を作り、それを乗せた打撃で扉を、恐らくは尤も弱い箇所を集中的に破壊したのだ。たとえどんな頑丈なものであろうと、必ず何処かに脆い部分がある。そこだけを狙えるのが彼の使う体術の大きな利点である。


「では19様、どのような対処を講じるおつもりですか? このままでは奴等によってここは潰れてしまいます!」

「……ところで、実験台モルモットが連れて帰ってきたあの小娘はどうしている?」

「は? しょ、少々お待ち下さい」


 19の質問に千田は急いでモニターを切り替える。19は自らの力で操った美雨で梓を拉致し、島に帰ってからは部下達に梓の身柄を引き継がせたのだ。


「ひ弱な娘でしたので特に拘束はしていませんが、一応身包みは剥いで実験台の観察室で軟禁しています。……出ました」


 映し出されたモニターを見てみると、部屋の中は真っ暗闇なのでカメラに暗視補正を掛ける。

 観察室と言っても、中にあるのはトイレぐらいでそれ以外の要素は何も無い密閉空間だ。音も光も匂いも外から一切遮断してしまうこの部屋に入れられた人間は、ジワジワと精神を削られていき、最後には従順な実験台へと成り果てる。食事でさえも専用の小窓から渡される形なので、扉が開く時は大抵実験を始める時ぐらいである。

 モニターに映し出されたのは、全裸にされて部屋の隅っこで蹲っている梓の姿だった。さっきから大した動きを見せない。拡大鮮明化してからサーモカメラで見てみても死んでいない事は分かる。ただ、呼吸のリズムが一定である。これを見た19は一つの推測をした。


「……寝ているのか?」

「顔は見えませんが、恐らくは」


 梓の行動に千田は理解できなかった。

 何故、いきなり拉致監禁されたという状況で睡眠という行動を取れるのか。普通は恐怖を感じて怯える筈だ。年頃の娘ならば尚更だ。


「……そういえばあの小娘、こくどうグループの令嬢だったな。大方、誘拐慣れしてるから寝ていられるんだろう」


 19がそんな憶測を呟き、少し考え込む。


「19様。やはりあの娘を人質にして奴等を始末致しましょう。さしもの化け物といえど銃剣警。民間人を見殺しには出来ません」

「いや駄目だ。小娘はあのまま放置しろ。下手に出せば取り返されかねない」

「し、しかし……」


 19の命令に反論したかった千田だが、今はグッと堪える。ここでもし逆らって機嫌を損ねたりでもしたら自分が殺されてしまう。ここは素直に従う事にしよう。

 それに、19の言う事にも一理あると思っている。超人の血を引く彼らならもし人質として銃を突き付けようが簡単に救ってしまうだろう。


「では19様。如何致しましょうか? 何かご命令を」

「……千田、建物内にいる人間全員に連絡しろ。死んでも構わないから足止めだけでもしておけ、と。俺は少し外す」

「ど、どちらへ!?」


 身を翻して管制室から出ようとする19に千田が訊ねる。


「……奴等に血の村雨むらさめを降らしに行く」

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