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妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
15/32

No.14 公安零課

 銃剣警局。銃剣警高校や銃剣警大学を卒業した銃剣警学生の大半が就職する所。簡単に言えば、銃剣警局に就職していないフリーの銃剣警への依頼斡旋、何か事件が起こればそれを知らせたりする連絡網の管理、民間人の相談相手など色々行う何でも屋本部。

 けど実態は何でも屋本部とは名ばかりな所もある。その中の一つが公安部。この部署は普段は表立ったりしない反面、政治やテロ、凶悪犯罪になると秘密裏に動いて少々・・荒めに事を解決する。昔で言う所の公儀隠密である。

 但し公安部といえど、正式な殺害許可が下りなければ基本的に殺人は銃剣警法違反となる。……いくつかを除いては。

 銃剣警局には、職務上であれば合法的に殺人が許可されている部署がいくつかある。

 その一つが銃剣警局公安部、公安第零課。生存率72.1%。凡そ三割の人間が定年前に殉職してしまう危険部署。殺人が合法化され、凶悪犯罪の解決や暗殺も請け負う、


(……嘗て父さんが所属していた部署)


 午後。

 はるの家で昼飯を食べた俺はを晴菜達に任せて銃剣警局にいた。

 まず中に入る前、入り口が二つに分かれている。一つは金属探知機のゲートが設置された民間人が通る為の一般通路。もう一つはライセンスを提示して入る銃剣警専用通路。昔は全通路に金属探知機搭載だったのだが、武装を義務化されている銃剣警が一々探知機に引っ掛かって面倒臭いというので民間人用と銃剣警用に分かれた。

 俺は当然の如くライセンスを警備に提示し、銃剣警専用通路を潜る。

 銃剣警局一階のロビーは民間人でも入る事が出来る。主に依頼の申し込みや相談に来たりするのが殆どだ。但し奥へは銃剣警のライセンスが無いと開かないゲートで塞がれているので、民間人が入れるのは本当に至極稀の事である。

 ライセンスを翳して開いたゲートを潜ると、その先には検閲がある。検閲を行う警備担当の銃剣警にライセンスを提示し、銃剣警法通りに武装がされているか、不審物を持ち込んではいないか、銃剣警局で働いていない場合は入る理由を必ず答えないといけないという厳重なチェックがある。ここで少しでも可笑しな言動を取れば問答無用で取り押さえられるという事は無い。というのも、検閲や出入り口の警備を行っている銃剣警局警備部はかなりの実戦経験を積まないと配属されない。しかも元々は公安部の精鋭だったのが軽い銃剣警法違反で左遷されたというケースもあり、不審かどうかは百戦錬磨を生き抜いた知識と勘によって見抜き、怪しいと断定すれば即身柄を拘束する。

 厳しい検閲を潜り抜け――ちなみに、ライセンスを見せたらチェック無しですんなり通してくれた――、目的の公安部を目指すべく階段を歩く。エレベータを使うのが早いのだが、エレベータは各階の専用パス無しでは動かせない。しかもこの専用パスは銃剣警局で働いていないと貰えないし、一度無くすと銃剣警法違反のオンパレードを喰らう。階段に至ってはライセンスを翳さないと開かないゲート付き。その上テロ占拠防止の名目で複雑な位置に設計されている。もっと面倒なのは、目的地の公安部は最上階から五番目の所にある為、結構な道のりを歩かされる。


「……なあ村正、父さんは毎日こんなにも長い道のりを歩いてたんだよな?」

『そうよ。じんにとっては仕事前の準備体操みたいだったわよ』


 準備体操って……

 村正の妖力並みに無尽蔵なバイタリティーとメンタルを持った父さんだし、確かにそう思ってても可笑しくは無い。

 廊下を歩いていると、途中で何人かの銃剣警と擦れ違った。その度、高校生がこんな所で何をしているんだ、という疑問の眼差しを向けられたが、むらまさを見た瞬間に全員納得した顔になる。全員揃ってこう思っただろう。


 ――ああ、あやむらの息子か、と。


 ライセンスを六回も翳して階段を上り、四階にまで来た所で、


「げっ」


 俺は思わず嫌な顔になる。見慣れた部署の前まで来た。その部署は俺にとっても苦手な所で、そこの前を通らないと上に進む階段へは行けず、今は扉が開きっ放しになっている。多分と言うかほぼ確実に呼び止められる。あやすじで脚力を強化して一気に通り抜けたいが、それをやると後で大目玉を喰らうので出来ない。


(……ここは気配を消しつつ素早く進むしかないか)


 俺はソロリソロリと扉付近まで近づいていき、素早く通り抜けられる辺りまで進む。

 扉までの距離約三m。これだったらあとは行ける。

 いざ進む!


「――とぉ~」

「うおっ!?」


 と思ったら、いきなり部署から一人の女性が現れ、俺の前に立ちはだかった。

 170と長身、ふんわりとした長い茶髪を靡かせ、ぴっちりとした黒いタイトスカートが見せる臀部のラインは何処か大人っぽい色気、白いブラウスで包まれたウエストは引き締まり、対照的にボタンが大きく開かれた胸元は、姉さんと比べても決して劣らない爆乳の谷間を大きく強調していた。おまけに美人。


「お久しぶりね~、正刀君♪」

「ど、どうもお久しぶり、です、久留米さん」


 女性はニッコリと笑い掛け、それに対して俺は愛想笑いというか苦笑いをしてしまう。というかそれしか出来ない。

 。三十三歳独身。銃剣警局特異諜報部部長。

 特異諜報部とは、スタイル抜群の美女しか配属されない、色仕掛けハニートラップを利用して情報収集やら裏方支援やらをやったりする部署。その色仕掛けというのが幅広い年代層に効果があるというかあり過ぎる上に人心掌握すら簡単にやってしまう為、ある意味危険と恐れられている。

 だが世の中には、綺麗な薔薇には棘があるという言葉がある。特異諜報部は外見だけでなく、実戦の強さも配属条件に含まれる。

 ここにいる久留米さんは見た目とは裏腹に格闘技の達人というかその域を超えている。今まで近寄ってきた男達(武道の猛者含む)の大半を病院送りにしてきたり、潜入に失敗して捜査を遅らせた部下の女性に関節技を決めて一ヶ月間寝たきりにさせたり、若い女性を付回していた男の一番大事な急所を潰したりと恐い一面もあり、素手だけでもというか素手の方が武装している時よりもかなり強い。俺も何度か組み手をしてもらったけど十秒でギブアップさせられた。


「ふふふ、刃さんのお葬式以来だから、もう三年は経つんだっけ?」

「そ、そうですね、もうそれくらいですかね。普段こんな所までやって来ませんし……」


 父さんの葬式の日だけでなく、久留米さんとは時々会っている。毎回ロクな事にならないが。


「そうよねぇ、まだ正刀君高校生だもんね~」


 久留米さんは顔を近づけ、俺の頬に手をやる。

 美女の顔が近づくと、男は皆照れてしまう。俺も例外ではなく、姉さんとはまた違った色香を持っているのと、殴り合いになるとタコ殴りにされるという恐怖が重なって気が気でない。

 加えて久留米さんの爆乳が目の前にあって余計に落ち着かない。しかもそれを分かりきっている久留米さんがからかう様にクスクス笑う。


「正刀君、聞いたわよ。百魔死団ナンバーズに捕まっていた女の子を保護したんですって?」

「は、はい。まあ色々とありまして……」

「うんうん。全部言う必要は無いわよ~。さすがは刃さんの息子さん。実力も似ていたら危険に遭う度合いもソックリさんね~」


 ……村正、父さんってこれに似たのに出くわした事あったのか?


 ――あったわよ。少なくとも月に一回は。多い時で一日一回は遭ったりしたし。


 月に一回はあったんかい! そんな所まで似たく無えよっ!


 ――仕方ないでしょ。刃は零課にいたんだし、寧ろ遭わない方が可笑しなくらいよ。


 それはそうだが……


「それじゃあ正刀君。用事があるんでしょ。早く行ったら?」


 久留米さんは顔を離して通せんぼしていた体を避けて俺に道を譲った。


「……珍しいですね。久留米さんにしては」

「あらあら~? それってどういう意味?」

「いや、普段の久留米さんだったら、絶対にラチって悪戯するでしょうに」


 何故俺が特異諜報部が苦手なのかと言うと、理由は色々ある。

 銃剣警になってこの中を歩いていた頃、気配を消した久留米さんが背後から忍び寄ってクロロホルムで俺を眠らせ、そのまま特異諜報部にある仮眠室に拉致して……この先はご想像にお任せします。


「それがね、今朝公安の人に言われたの。正刀君が公安部に行くのを邪魔したら許さないって。いくら私でもあの人達とはり合いたくないし~」

「そうですか……」


 二年前、女子高生に乱暴をした柔道黒帯の大男をフルボッコにして、男の尊厳すら文字通り握り潰した久留米さんが渋い顔をする。それほどに公安部はヤバいのだ。

 そしたらいきなり現れたのは邪魔に入るんじゃないのだろうかと疑問に思ったが、


「あ、それと正刀君に会ったら伝えておくよう言われたんだけど、公安零課に来て下さいって」

「分かりました。それじゃあ俺はこれで」

「はいは~い。いつでも遊びにおいでね~♪」


 久留米さんはニコニコと手を振って俺を見送ってくれた。久留米さんと別れた後は、ただひたすら公安部を目指す。

 歩き始める事三十分。とうとう目的地に到着した。

 銃剣警局公安部。その一番端っこに作られた、一見すれば目立たない部署の扉。

 公安零課。公安部本体とはまた違う異様な殺気を毎日欠かさず発している。

 俺はノックもせず扉を開けて中へと入る。普通はノックをしてから入るのが常識だが、どうせノックしても返事は無いのが分かっているのでしない。

 何故返事が無いと知っているかって? 答えは簡単。


 ――シッ


「っ!」


 ギィンッ!


 返事無し=不意打ち=挨拶だから。

 入ってきた瞬間、俺に振り下ろされた刀を、村正を半分抜刀して受け止める。


「……久しぶりだね正刀君。腕は鈍っていないみたいで何よりだよ」

「お久しぶりですなぎさん。これでもちゃんと鍛えてますから」


 相手はすぐさま刀を離して納刀する。俺も村正を収める。

 俺を斬った刀は、全長二百、刃渡り百五十、金で華やかに装飾された長い鞘に収められ、銀の蓮の花と金の龍が彫られた長い柄と黒漆の鍔が付いた大刀だった。

 その大刀の持ち主、つまり俺を斬った相手は一人の青年。身長は180㎝前後、短く切り揃えた黒髪、顔立ちは中々のイケメンでも、どんな標的でも決して見逃さないと言い切る無愛想な目と、左頬に付いた大きな縦線傷がそれを台無しにしていた。

 彼の名はくさかみ薙刀。三十三歳独身。銃剣警局公安零課所属。現銃剣警序列日本部門一位。久留米さんの同期。嘗ての父さんの後輩。

 薙刀さんは十八歳という若さで公安零課に抜擢された麒麟児である。戦闘力は当然の事、学力やそれ以外の分野に関しても優秀な能力を持つ。その凄さ故に、本来は銃剣警大学を卒業しないと入れない公安部の、しかも危険部署である零課に銃剣警高校卒業だけで入れた。勿論そう言った特例は過去にもある。なんせ父さんにすらその話が上がったのだから。尤も父さんはその話を断って正規の手順で零課に入ったが。

 父さんが生きていた時にはコンビを組んで任務に当たっていたらしい。かなりこき使われたそうで、時々フルボッコにされたり、名前の読みがナギナタとも読めるからナギナタと渾名を付けられたりもされたとか。

 薙刀さんの実力を支えたのは、本人の力だけではない。


『お久しぶりですね。村正さん』

『お久しぶり、叢雲さん』


 村正と挨拶を交わす絢爛な大刀こそ、薙刀さんの序列が一位になれた理由の大半を占めていると言っても良いだろう。

 大刀の銘は、しんとう天叢雲あめのむらくも』。村正と同じ、異刀コトナリガタナの一本。

 八咫鏡ヤタノカガミ八尺瓊勾玉ヤサカニノマガタマと並ぶ三種の神器の剣。世間一般的には草薙剣クサナギノツルギという名前で知られている叢雲はその昔、須佐之男スサノオ八岐大蛇ヤマタノオロチを倒した時に手に入れた宝剣。

 神刀と言われる通り、神の力を秘めていると言われているが実際の所をそれを目撃した者は少ない。というのも、叢雲の力は他の異刀とは違ってエネルギーの消費がかなり多く、並の人間には扱えない。薙刀さんはそんな叢雲を何の苦も無く使い、様々な実戦を積んで今の序列にいる。だが父さんと比べると遥かに見劣りする所が多く、父さんが生きていた時までは実質序列二位止まりだった。

 そんな化け物同然の父さんが殉職し、繰り上げで薙刀さんが一位となった。皮肉なモンだよ。お世話になった先輩を殺して序列一位になったんだから。


「……態々来てもらって悪いね。本当は僕の方から行くべきだったんだけど」

「気にせんで下さいよ。事が事ですし、情報漏洩が起こりにくい所で話すのが筋ってモンでしょ」

「まあ、そうだね。とりあえず座ってよ」


 薙刀さんに言われるままに応接ソファーに腰掛け、その反対側に薙刀さんが座る。


「刃さんの葬儀以来だから、会うのはもう三年ぶりだね」

「そうですね。久留米さんにも同じ様な事を言われましたよ」

「そっか……」


 久留米さんに伝言を任せたのは恐らく薙刀さんだろう、予想通りの反応を見せてくれた。


「それよりも薙刀さんの方はどうなんですか? 序列一位になって三年経ちますけど」


 俺が嫌味も含めて薙刀さんに訊ねる。返ってきた薙刀さんの答えは、渋い顔によるものだった。


「正直慣れないね。刃さんはよくこんな気分で毎日を送っていたものだよといつも思うよ」

「そうですか。家じゃそんな雰囲気なんか一切出さない親バカ丸出しの人でしたのにね」

「……確かに刃さんの親バカには呆れ果てる部分も多かったよ。国家を揺るがす大事な任務中なのに、正刀君の誕生日だからって理由でばっくれる事なんて沢山あったし」


 そういえばあったな。俺を理由に仕事サボってばっかで、職場の上司を怒らせていたって村正から聞いた。


「それはどうもすいませんでしたね。まあそんな人が死んで薙刀さんは清々しているんじゃないです?」


 明らかに棘の混じった言葉に薙刀さんはグッ、と詰まってしまう。


「……正刀君、刃さんを死なせてしまったのは明らかに僕の責任だ。一生怨まれたって文句が言えないのも分かってる。でも……」

「薙刀さん何か勘違いしてません? 俺は別に薙刀さんを怨んだことなんか一度も無いし、父さんが死んだのは薙刀さんのせいとも思った事も無い。父さんは父さんなりに銃剣警として死んだ、ただそれだけでしょ?」


 俺は薙刀さんの弁解を全て聞かずに、ただ淡々と言い放つ。このときの雰囲気がかなりアレだったのか、薙刀さんも中々難しい顔を止めようとはしない。


「でも、君は百魔死団を怨んではいるんだね?」


 やっと出た。俺をここに呼んだ理由、百魔死団。

 その単語が出てきた時点で、俺と薙刀さんは話の本題に入っていると確信に至った。

 一呼吸置き、ええ、と言って続く。


「普通なら、殺した相手を怨んだり、復讐したりするのは虚しいし、そんな事する暇があったら自分の強さを磨けとか父さんが言いそうです。けど、こればっかしはどうにもなりません。人の大事な家族を殺されて、それでも尚黙って指をくわえておくのは限界があります。かと言って薙刀さんを怨む気なんてはなっから無いですから、父さんを直接的に殺した奴らに全憎悪を、全怨念を、全復讐を注ぎ込むと決めました」

「…………」

「薙刀さん、そんな子供を哀れむ様な目で見ても無駄ですよ。俺はまだガキなんですから。考えが子供じみているのは重々承知しています。ですからもし薙刀さんが百魔死団の件から手を引けと説得しようが聞く耳は持ちませんし、止めようとするなら全銃剣警を敵に回したって構わないとも思ってますから」


 自覚が無かったが、今の俺からは今すぐにでも薙刀さんを斬り捨てようとする殺気が出でいた。実際はするつもりは無いが、薙刀さんががもしやり合おうとする気があるのなら、遠慮は要らない。

 ところがだ、薙刀さんからは敵対するような雰囲気を初めから感じられない。それどころか諦めたように溜息を吐いて両手を挙げた。


「……やっぱり、正刀君は刃さんの息子さんだね」

「……どういう意味ですか、それは?」

「いや、実を言うとね、課長や公安本部長、公安最上層部の人達に、百魔死団の件から手を引くよう正刀君を説得してくれって言われたんだ。君の事だからどうせ命令受けても従わないだろうって。一応僕も命令だったし、引き受けはした。けど課長達に言ったんだ。『彼はあの刃さんの息子さんですよ?』ってね。そしたら課長達、渋い顔したんだ」


 つまり、説得する前に交渉決裂になってしまって、この後でどんな言い訳を上司にするのか悩んでいる、と。


「それに、刃さんにも言われたからね。仕方ない、僕等が知っている百魔死団の情報を提供するよ」

「……ありがとうございます」


 一礼し、薙刀さんの話を聞く事にする。


「……まずは正刀君でも知っているような事から話すよ。百魔死団は超人越えした化け物連中百人から構成された超凶悪犯罪組織。構成員の一人一人には一騎当千の戦闘力と1から100までの数字のコードネームを持ち、一人一つの専門分野を極め、それによって得た異名もある。一時期は秘密裏に解決しようと政府も試みたけど、向こうの情報力の方が上手でね。簡単に世間に表立ってしまったんだ。どんな罪の無い人間だろうと、平等に無差別に無慈悲に惨殺する。そんな奴らを相手にした警察も自衛隊も、悉く無惨な姿で帰ってきた。事態の収拾を急いだ政府は、二〇一六年、僕達銃剣警に百魔死団を潰すよう依頼した」

「それが、かの百魔死団殲滅大戦ナンバーズデストロイ


 薙刀さんはコクリと頷いて続ける。


「百人の構成員と手駒として雇われた刺客が大勢、に対して僕等銃剣警は約十万人。全国はもとい、世界中から集められた異刀剣使いや超能力者、戦闘の猛者達だった。その中で生き残ったのは、僅か千人弱。百魔死団の死亡者数は、奴等に雇われた刺客を除けば0。その代わり奴らが使う能力に大きな傷を付ける事には成功して、二度と元に戻せない程には出来た。けどこっちの損害も甚大だったよ」

「東京銃剣警局は、最も重要戦力である父さんが殉職して、実質的に序列二位だった薙刀さんがその代わりを担っている訳ですか」

「そういう事。上としては刃さんが死んだのはとんでもない想定外だったらしいからね。僕ですら思わなかったし」

「俺だって思いませんでしたよ。普段通りに帰ってくるって思ってましたから」


 俺は嫌味を言ったつもりは無いのに、薙刀さんは嫌味だと受け取ったのだろう、暗い顔になってしまう。

 何故薙刀さんが責任を感じているのかというと、生き残った銃剣警達の中で、父さんが死ぬ現場を見た人達は、口を揃えてこう言うからだ。


 ――妖村は、草神に殺された、と。


 別に薙刀さんが後ろから刺したとか、そんな訳じゃない。でも薙刀さん本人はそれに酷似した責任を感じている。

 父さんの殉職理由、百魔死団との戦闘。より具体的に言えば遠くからの遠距離攻撃の撃ち合い――双方銃だったり超能力だったりその他諸々を含んで――の時に百魔死団は広範囲攻撃を放った。それを父さんや薙刀さん達がなんとか回避させたが、その直後に薙刀さんは百魔死団の回避不可能な弾幕を受けてしまう。

 草神薙刀はもう助からない。銃剣警序列日本部門二位の命運はここで尽きた。誰もがそう思っていた。

 だが結果は受ける筈だった。

 凡そ百二十発。全身に無数の銃弾を受けたのは、薙刀を庇って盾代わりになった、父さんだった。

 序列一位が二位を守る。逆なら分かるが普通に考えればそんなのは非常識。銃剣警世界は弱肉強食。弱い奴から死んでいく。それなのに、父さんは自分よりも下にいる後輩を守ったのだ。どんな相手でも必ず守る。銃剣警としてのプライドが、父さんを動かしてしまった。

 より厳密に言えば、父さんはそこで即死だった訳じゃない。それは丁度終結間際だった為、父さんはなんとか重傷患者として病院に搬送された。

 十何時間にも及ぶ手術。いくつも摘出された銃弾。皆が皆父さんの無事を祈った。

 結果は、延命措置には成功した。だけど、銃弾の殆どが致命傷に達しており、まだ生きているだけでも奇跡だった。

 それが可能だったのは、きっと村正による肉体強化を維持し続けていたからか、或いは元々の身体能力の高さと根性の違いか。どの道助かったとしても、社会復帰はほぼ不可能だった。

 手術が終わった次の日に、父さんは息を引き取った。まだ小学生だった俺は父さんの傍にずっといたけど、意外と不思議なもので、涙を流すことなんて無かった。


 閑話休題。話は戻る。


「それで、報告にあった女の子の事なんだけど、本当にようとう村雨むらさめ』を宿しているんだね」

「ええ。この目でしっかり見ましたし、殺されかけましたし、村正も激怒してました」

『そうそう。本当に村雨君って相変わらずよね叢雲さん』

『確かにそうですね。如何にも村雨さんらしいです』

「まあ、その子が異刀を宿しているのも重要だけど、それよりも重要なのが……」


 薙刀さんは、俺の目の前に一枚の書類を出した。覗いてみるとそれは、ある男の経歴書だった。


「その女の子――美雨ちゃんが19という数字を覚えてくれていて本当に良かった事だよ。確かに百魔死団の構成員にはNo.ナンバーズ19という洗脳技術を極めた生物傀儡師がいる。生物だったらどんなに狂暴な相手だろうと簡単に操る。異名は無情の心操師マインド・コントローラーっていうらしい。僕も直接戦った事は無いけどね」

「それは分かりましたけど、コイツは?」

「ソイツはたけひらいっさく。公安部が追っている化学者だよ。竹平は数年前、交際していた女性を新薬の実験体として監禁して最終的には殺したっていう犯罪をやってね。今も雲隠れしているらしいんだけど」

「けど?」

「その竹平は、19が雇った傀儡だよ。それも、二十年も前からだと思う」

「え?」


 別に可笑しくは無い。犯罪組織が外部の人材を雇うのはよくある話だ。いざとなれば捨てても良いよう最低限の情報しか与えずに。

 百魔死団もそれを行っていた。百人しかいないから、当然と言えば当然だろうが。


「ついでに言うと、しんどうきょうろうの脱走を手引きしたのも19だし、やなぎえいせきそうしまこうすけを雇って口封じに始末したのも全部19の指示だよ」

「……何で19はそんな事を?」

「理由の半分は美雨ちゃんだね。色々と調べていく内に、こんな事も分かったんだ」


 続けて薙刀さんが出した書類は二枚。一枚は男、二枚目は女の経歴書。


「男の名前はあまざきやすし。女の方は妻のなつ。昔騒ぎになった薬品散布事件の重要参考人であり、竹平の嘗ての部下であり……美雨ちゃんの実の両親だよ」

「え……?」


 俺は、薙刀さんが言った事が何なのか、一瞬分からなかった。けど、現実にはすぐに戻れた。


 美雨の、両親?


 俺の顔がそう問い掛けた様に思えたのだろう、薙刀さんが頷く。


「美雨ちゃんを検査した時に採取してもらったDNAを鑑定した所、天崎夫妻と血縁関係があるって分かったんだ。そして天崎夏音は妊娠をしていたらしいんだけど、表向きには流産って事になっている。でも裏では確かに出産していた。但し出産届けは出されていないけど」

「じゃあ美雨は、元から戸籍が無い……?」

「そういう事になるね。これは僕の勝手な想像だけど、天崎夫妻と竹平は危険薬品を使って人体実験をしていたらしい。でも実験体に自分達を使う訳にもいかず、かと言って拉致すれば面倒事になるし、その人体実験は赤ん坊の頃から試す必要があったらしい。だからその、美雨ちゃんは……」

「……美雨は、実験体として生まれてきただけの、存在だって事ですか?」

「さっき前置きした通り僕の勝手な想像だけど、色々と調べるとその線が濃いんだ。物的証拠が見つかれば、ほぼ確実だと思う」


 俺は絶句した。


 物心ついた時から、父さんは俺の事を大切に育ててくれた。母親がいないからなのか、父さんは親バカだった。仕事も適当な理由をつけて早めに切り上げて、俺と一緒にいる時間を作ってくれた。殉職したとはいえ、男手一つで育ててくれた事には感謝の気持ちで一杯だ。

 子供とは育ての親に感謝をする。親は生まれてきた我が子を大事に育てる。普通はそうだと俺は思う。


 でもこの夫婦は違う。自分の実験の為に戸籍も乗せず、道具として扱い、もし死んだってなんとも思わない。実験体が一体減ったぐらいの事しか考えないだろう。


「……そんな親、許せる筈無いでしょうがっ!」


 ――ドンッ!


 俺はテーブルに強く拳を叩きつける。でも薙刀さんは冷静だ。


「分かってる。少なくとも親として、人として最低だ。折角の小さな命を己の欲の為に使うゴミ以下だよ。でも世の中には自分の子供に虐待をする親、育児放棄をする親なんていくらでもいる。これはその延長線とでも思われるのがオチだよ」

「でも……それじゃあ美雨が可哀想じゃないですか!」

「それが現実だよ。古今東西、全ての子供が幸せって訳じゃないのは当たり前だからね」


 薙刀さんのいう事は正しい。確かに外国には飢えや病気に苦しむ子供や、戦争の道具として利用される子供も沢山いる。日本なんて平和だからそれだけでも贅沢なぐらい。その中で子供が苦しんでもそれが普通で済まされる。


「薙刀さん、それで天崎の行方は?」

「……十六年前、潰れたある研究所で火災があったんだ。死体は二人分。体格からして男と女。二体とも遺骨がかなり粉々に砕かれて身元割り出しが無理だったんだけど、その研究所は嘗て竹平が使っていたものなんだ。だから考えられるとすれば」

「天崎夫婦の死体だと?」


 うん、と薙刀さんが言う。


「天崎夫妻が殺された理由の一部は、実験における唯一の誤算だろうね。それは美雨ちゃんが生まれつき薬物免疫メディスン・レジスタンス持ちであった事。だから美雨ちゃんに投与される薬は全て無毒化してしまって実験が出来ない。そうなれば後は口封じに消すしかない。

 それだと一つの疑問が思い浮かぶ。何で美雨ちゃんは始末されなかったのか。それは多分こうだよ。美雨ちゃんに妖刀『村雨』が宿っている可能性があると百魔死団が踏んだから。奴らは妖刀『村雨』を宿す者は皆、先天的な薬物免疫持ちである事を知っていたんだ。だから美雨ちゃんは生かされた。いつ目覚めても操れるよう19を使い、開眼するのを待っていたんだ」


 そして待ち望んだ村雨の開眼。それは最悪のタイミングでもあった。逃がした新藤が誤って美雨を銃剣警である俺に渡してしまい、折角の実験体も無くなった。だから新藤は始末された。

 その実験体を取り戻そうにも、俺もまた異刀の使い手。一筋縄ではいかないから殺し屋を雇って美雨を奪おうとした。

 その戦闘中、百魔死団は美雨を操り開眼した村雨の放った技で雇われた殺し屋達は全員死亡。俺も重傷を負った。けどどういう訳かその洗脳が一度解けて美雨は正気に戻り、俺は病院送りになって暫く療養。晴菜から百魔死団の話を聞き、現在に至る。


「百魔死団はいつまた美雨ちゃんを操るか分からない。彼女を救うには19が作った洗脳回路ブレイン・パスを壊さないとけない。今も公安の人間が19の行方を捜しているんだけど……」


 とここで、俺と薙刀さんから同時に携帯の着信音が鳴った。


「正刀君、ちょっとごめん」

「いや、俺も失礼」


 お互いにスマホを取り出す。俺の相手は、晴菜からだった。


「もしもし」

『正刀君ですか? 晴菜です。今大丈夫でしょうか? 勿論今すぐにでも動けるという意味合いでです』

「……何かあったのか?」

『はい。時間もありませんので、簡潔にご説明致しますね』


 そう言って晴菜は一呼吸置き、俺にだけは言いたくない様な事態を知らせる。


『……百魔死団が美雨さんを洗脳し、あずささんを誘拐しました』

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