表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖刀使いの妹(ペット)  作者: 黒楼海璃
No.1 ある日、妹が出来ました。
14/32

No.13 百魔死団

 晴菜は巻物を巻いて懐に戻し、次の議題に入る。


「夜千瑠さん、これまでに分かったことの報告をお願いします」

「御意。まずは美雨殿を閉じ込めておられたスーツケースで御座るが、あれは防弾、防刃、耐熱、耐衝撃、耐圧、超能力耐性のついた、一般的に銃剣警がよく使う型のもので御座る」


 銃剣警が一般的に使うスーツケースってことはあれか。重要証拠品の収納、移動、保管、やたら頑丈だから盾代わりにもなるタイプ。世界的に武器や兵器を販売している某重工業メーカー製で、多銃身機関銃ガトリングガンの弾幕や何十tもある戦車に踏みつけられてもビクともしない高性能――どう作られているのかは不明――、高いものだと何百万もするから買う人は滅多にいない。ちなみに昔壊せるか試してみたら、(妖筋全開放出で)呆気なく村正の錆になり、その後俺は激しい筋肉痛になった。


「AEBも含めて、あんな馬鹿高いものを使うってことは、新藤の仲間達はそれだけの財力があるってことか? どんだけ金持ちなんだよ」

「普通はそうだと思いますよ。どんな組織であろうと、結局はお金が物を言いますからね。先日正刀君達を襲った輩も、お金で雇われた人間なんですよね夜千瑠さん?」

「然り。素性を徹底的に調べた結果、警察、銃剣警双方の公安がマークする殺し屋や傭兵で御座った。実力も師匠とほぼ互角に近いほどで御座る」


 まあそれは言えるな。黒尽くめの奴らの連携といい戦い方といい、あの時は梓と美雨を同時に守りながら戦っていた。余裕ぶってたが、村正無しならやられてたかもだし、夜千瑠が加勢に来なかったら尚更だ。


「次で御座る。美雨殿を拘束しておられたAEBについての調査の続きで御座るが、不覚ながら手掛かり無し。されど、スーツケース内から見つかった粉については分かったで御座る。あれは独自に配合された、極めて強力な麻酔薬で御座る」


 夜千瑠は懐から、その粉の入ったビニール袋を取り出す。漏れないよう厳重に封がしてある辺り、吸えば危険ってことか。


「……独自にってのは、オリジナルってことか?」

「然り。分子構造が複雑過ぎる故、成分の解析に時間を要したで御座るが。一度服用すれば象どころか狂暴な熊でさえすぐさま気絶オチるで御座る」


 うん。危険も危険。熊すら眠らすほどに危険だったな。


「そんなにも強力なお薬を美雨さんに使うとは。逆に言えばそこまでしないと美雨さんは眠らないということですね」

「そりゃあなぁ、毒喰らっても平気なぐらいだし」


 熊すら気絶オトす麻酔薬を美雨に使う理由、それは驚異の薬物免疫メディスン・レジスタンスを持っているからだ。毒や麻薬、覚醒剤を体内に取り込んでも全て無効、麻酔や化学薬品すら効きにくい。ある意味超人的な体質のせいで、無理矢理眠らすにはその手しか無い。あとはスタンガン使うか殴るかぐらいか。催眠ガスは……分からん。


「話を戻すで御座る。師匠、晴菜殿、吉報と凶報の二つを報告するで御座る。まずは吉報、師匠が療養中、新藤しんどうきょうろうを発見したで御座る」

「マジかっ!?」

「マジで御座る。そして凶報、新藤は屍となって見つかったで御座る」


 淡々と答えた夜千瑠は、新藤恭太郎の事件記録を取り出して俺に手渡す。

 新藤の死体写真を見た俺は絶句した。新藤は、全身がバラバラになっていた。銃剣警になってから、こんな惨いシーンは何度も見てきたからもう慣れてしまったが、女の子一人を銃剣警に渡したぐらいで、ここまでやることは無いだろうに。


「新藤は鋭い刃物で全身を骨ごと断ち切られ、某山林の中に遺棄されていたで御座る。今の所は晴菜殿のおかげで大事にはなっていないで御座る。恐らく新藤の仲間が殺めたかと」

「そうか……」


 俺は事件記録を夜千瑠に戻し、顔を手で覆う。これで手掛かりが無くなった訳だ。さて、どうするか。

 俺が悩み始めようとすると、夜千瑠が俺の肩をポンポン叩く。


「師匠、次こそは吉報で御座る」

「……それって、美雨に関係する事か?」

「然り。スーツケースの内と外、AEBからの指紋検出は無理で御座ったが、とある箇所に付いた指紋の採取に成功したで御座る」

「とある箇所、とは?」

「それは、美雨殿の口を塞いだガムテープで御座る。粘着部分から複数の指紋が検出されたで御座る」


 それはやった。恐らく犯人は、美雨を拘束する時とスーツケースに押し込む時には手袋か何かを嵌めていたのだろう。けど美雨の口をガムテープで塞ぐ時に手袋越しでだと出来なかったから、この時にだけ素手だった。そしてそのガムテープに指紋が付いたということか。


「そしてこれは僥倖で、その中に前科者がいたで御座る」


 夜千瑠は懐から書類の入った茶封筒を取り出し、中身を出して俺と晴菜に渡す。

 俺と晴菜は揃ってその書類を見る。


「おい、コイツら」

「ええ。これで合点がいきましたね」


 書類のリストにあった人物は三人。


 やなぎえい

 せきそう

 しまこうすけ


 柳田英二は製薬会社に勤める薬剤師だったが、十五年前、独自に作ったドーピング剤による不正投与が発覚。出所後は音信不通になった男。

 関宗太は二十年前までは暴力団の幹部であったが、警察がガサに入る前に雲隠れしてしまい、そのまま行方知れずの男。ちなみに傷害と覚醒剤取締法違反の前科がある。

 羽嶋孝輔は元銃剣警だ。十年以上も前に殺害許可が下りていないにも関わらず、ある殺人事件の容疑者を射殺した。しかもその容疑者が冤罪である事が後になって判明して問題になった。結果、羽嶋は銃剣警法第七章の第一条違反により銃剣警のライセンス剥奪&懲役をくらい、数年前に出所してきたらしいが、柳田同様に音信普通。


 強力な麻酔薬は柳田が作り、眠らした美雨を関かその仲間達が運び込み、そのスーツケースは羽嶋が調達した。単純に考えればそうなる。けど不自然な所もある。


「……妙だな」

「妙ですね」

「妙で御座る」


 美雨を運び込んだり拘束する為の物に指紋を残さなかった奴らが、口を塞ぐガムテープにだけ指紋を残すなんてミスをやらかすのは可笑しい。しかもその指紋を残した人物が複数いて、前科のあるというのも明らか変だ。


「……お前らはどう思う?」

「そうですね。誘っているのか、或いは本当にミスをしてしまったのか、少なくとも簡単には見過ごせませんね」


 晴菜はパチンと鉄扇を鳴らし、急須のお茶を自分の湯のみに注ぎ入れる。


「拙者も同感で御座るが、あえて注意を此奴等に誘導し、罠に陥れるとも考えられるで御座る」


 夜千瑠は覆面を外して茶を啜る。真面目な話をしている時に不謹慎だが、やっぱり夜千瑠の顔は可愛いな。っていう俺の思考を読み取ったのか、夜千瑠の目線が聊か怖くなったので目を逸らす。

 晴菜も夜千瑠も、指紋が残っているのが罠だと考える。そして俺も同じだ。妖刀を宿した女の子を運ぶんだ。計画が用意周到に練られていて当然。

 俺は茶を啜り、自分の考えを言う。


「……俺も二人と同意見だ。だが、あえてこれにのってみても良いと考える」

「は?」

「む?」


 晴菜と夜千瑠が間の抜けた声を上げ、すぐに晴菜が、あぁ、と納得した顔になる。


「正刀君は、相手の裏の裏を掻くおつもりですね? もし仮にこれが罠であったとして、それに食いつけば向こうの思う壺。別の手を用いようにも情報が少な過ぎる。かと言ってコチラがのったフリをして裏を掻くことも向こうは想定済みの筈。ならばそれの裏も掻けば良い、ということですね? ですがその事自体も想定済みと考えますと、一体何回向こうの裏を掻けば宜しいのでしょう」

「愚問だな晴菜。何回裏を掻けば良いかと訊かれたら、何回でもと答える。それに、罠だと思っていたのが本当にミスという線もありえる。問題はその三人をどう捜すかだが……夜千瑠」


 夜千瑠に目を向ける。夜千瑠自身もそれが分かっている顔だ。


「まずはこの三人の居所を調べてくれ。晴菜は上層部に掛け合ってなんとかしてくれ」

「御意」

「正刀君、私への頼み方が雑ではありませんか?」

「よし。次の話だな」

「あの、正刀君?」


 さっきの仕返しに、晴菜の訴えをスルーする。


「晴菜、お前がこの前言っていた、深刻な事態ってやつについてなんだが」

「……はい。完全に深刻なので本日お話しするつもりでした。ですがその前に……」


 何かを諦めた晴菜は懐から、銀製の小さな鍵を取り出して俺に差し出す。それは美雨を拘束するAEBの鍵だった。


「どうぞ正刀君。美雨さんを自由にしてあげて下さい」

「ああ」


 鍵を受け取った俺は、美雨の手足を拘束するAEBを解除。その後村正でケーブルを切断する。


「美雨、痛くなかったか?」

「……うん」


 美雨はコクリと頷き、村雨をジーッと見つめる。未だに術式で封じられている村雨は、妖気を纏った指で五芒星を描く晴菜によって解かれ、貼り付いていた御札はボロボロに崩れて無くなった。


「むら、さ、め、だい、じょ、うぶ?」

『うむ。わが主よ、案ずるな。これしき大したことではない』


 村雨はそう言い残し、妖気を纏って姿を消した。美雨の体内に戻ったのだ。


「では参ります。

 正刀君が療養中の間、私は様々な方達からお話を伺いました。その中で、美雨さんを操り、妖刀『村雨』を使って正刀君を殺そうとした人物に心当たりが出来てきました」

「マジかっ!?」


 俺は驚きと喜びのあまり声を大きく上げる。


「はい。ただ、知ってしまい後悔もしているんです。知らないままの方が良かったかもしれない、と」

「……どういうことだよ?」


 俺の問いに、晴菜は嫌そうな顔を背けて渋っている。晴菜だけではなく、事前に知っているのであろう夜千瑠までも顔を背ける。そこまで言いたく事だというのが充分伝わってくる。


「…………」

「晴菜っ!」

「…………分かってます。ちゃんとお伝えしないと正刀はしつこいですので」


 晴菜は一度深呼吸し、俺の方を向く。そして、その目つきは真剣そのものというか、かなりの厄介事の時に見るものだった。


「……美雨さんを操った者は恐らく、百魔死団ナンバーズの構成員です」

「っ!!!??」


 それを聞いた途端、心の底から、とんでもない憎悪と怒りがこみ上げてくる。その怒りの余り、持っていた湯のみが粉々に砕け散ってしまい、俺はハッとした。


「あー、わ、悪い晴菜」

「お気になさらず。無理もありませんし、その湯のみは五十万程度ですので」


 って待てやおいっ!? 五十万もする湯のみを普通に使ってんじゃねえよっ! しかも割られても平気ってっ!?

 湯のみに対する驚きがいきなりだったので、百魔死団に対する怒りは他所に行ってしまったので一旦置いておくとして。俺

 晴菜から渡されたフキンで濡れた手を拭き、晴菜に再度確認を取る。


「晴菜、それ間違いないんだな?」

「はい。間違いありません」


 百魔死団。その名前を知らない銃剣警は……いるかもしれないが、少なくとも俺は今までこの方一度も忘れたことは無い。

 百魔死団とは、正式総数百人で構成される、超凶悪犯罪組織。

 約二十年程前に突然姿を現し、日本だけでなく、世界中で数々の悪行を働いた。

 たかが百人、されど百人。日本での一番最初の被害は、とある捜査で警察が百魔死団の構成員の一人を見つけ、特殊急襲部隊(SAT)の協力の元、計五十人態勢で逮捕を試みた。

 が、全員殺された。突入した者達が、無惨な地獄絵図となって発見され、どの死体も原形を留めていなかったという。

 対処に困った警察は、荒事の解決にうってつけの銃剣警に依頼。が、銃剣警でも全く歯が立たなかった。それでも死体が原形を留めていただけまだマシである。構成員一人に対し、警察と銃剣警から出た犠牲者は三桁にも及び、一時期世間を騒がせていた。

 奴らは一騎当千を誇る戦闘力に加え、その構成員は様々な分野を一人一つずつ極めており、右に出る者はいないと言い切れる程のスペシャリスト達でもあった。

 組織名からも分かる通り、百人の構成員は全てNo.(ナンバーズ)1~100の数字をコードネームとし、異名と取れる通り名も持っていた。加えて、奴らは自分のコードネームである数字のタトゥーを身体の何処かに刻んでいるという。


「先日、美雨さんが19という数字を覚えていると言っていましたね。19という素数がどうにも気になってしまって調べてみたのです。それで、百魔死団の19というコードネームを持つ構成員は、あらゆる生物を自分の意のままに操れる、洗脳技術の使い手だそうで」

「となると、美雨が19を覚えていた理由は、意識がある時、その場に偶然いた百魔死団の19が誰かと会話していたから、とかか?」

「そうでしょうね。美雨さんの記憶が曖昧ですので、確証はありませんが」


 晴菜の言葉に嘘は無い。嘘は無いという事は全部本当。全部本当という事は、美雨を拉致監禁して何らかの人体実験をしていた人物の黒幕は、百魔死団で確定になる。しかも、高度な洗脳技術の使い手。

 晴菜が茶をゴクリと飲み干し、続けて話す。


「このNo.19は、過去にも似た様なことをしていました。自分の洗脳技術を用いて、人体実験に必要な実験体モルモットを意のままに操っていたと。当然銃剣警局も対処に急ぎました。ですが、送り込んだ銃剣警達はほぼ壊滅、大半が原形を留めておらず、なんとか生還出来た方も、腕や足や目が無くなった状態だそうです。その方達からの証言によりますと、19は洗脳好きですが、決して戦闘好きではないそうです。実際に戦ったのは19本人だけでしたが、それでも尚六十人の猛者達を殲滅したそうです。

 戦闘力だけでなく、19の洗脳技術は国一つ落とすとも言われています。過去、普通に会話をしていただけで、ある国の大統領を自殺に追い込んだこと、無数の毒蛇の群れを操り、街中で多くの犠牲者を出したり、精神を完全に支配して操り人形の如く動かすことすらやってのけたとか。

 但し、洗脳には条件があるそうです。19は最初に生物を操る際、一時間だけ相手と目を合わせる必要があるんです。途中で目を逸らされると、その時点で洗脳は遮断されます。これは19が、自身と相手との間に洗脳回路ブレイン・パスと呼ばれる特殊な回路を組む為です。この洗脳回路は術式を繊細かつ複雑に組み込む為、時間と力が必要なのです。組み込んだ後は、自身の視界内に入っていれば数秒で自由自在に操れます。尤も、操った者が死ぬか、組んだ本人で回路を断たない限り、洗脳からは抜け出せませんが」

「じゃあつまり、19は超能力者?」

「恐らくというよりは、確実に」

 

 晴菜の言葉には信憑性が高い。少なくとも、真剣な話になれば尚更説得力がある。

 戦闘好きじゃない筈なのに、銃剣警局の猛者というか精鋭達を六十人も倒したり、大統領を自殺させたり、生物関係なく何でも操ったり、超能力者でもないとそんな芸当出来ないか。いや、仮に超能力抜きでも充分ヤバい。会話だけで人を洗脳させる技術は昔からある。殺し屋の中にもそういう技術を持った奴は多い。それに関して優れていれば、もしかしたら俺も操られる可能性だって高い。


「ちなみに正刀君、あなたが19に操られる可能性は皆無と言っても良いでしょう。ですから安心して下さい」

「は? 何で皆無なんだ?」

「これは銃剣警局のとある部署から伺ったお話なのですが、どうやら19はあの一件・・・・以来、操ることができる生物が女性というか、雌類に限られるようになったそうです。しかも、一度洗脳回路が断たれた者を再度洗脳するのも不可能になってしまったらしいです」

「マジかよ……」


 万能な洗脳術も、あの一件・・・・で大きい損害を受けた訳か。となると、俺は大丈夫だが晴菜や夜千瑠が操られる可能性が高くなってきた。まあこの二人なら平気だろう。仮に操られても適当にボコれば多分直る筈。


「正刀君、念の為ご確認します。この件から手を引くおつもりは?」

「無い」


 俺は即答する。予想通りの返答を聞いた晴菜は、そうですか、と小さく言う。


「もし銃剣警局が手を引けと命令してきても、ですか?」

「命令してきても、だ。どんなに大きかろうが小さかろうが、一度自分が関わった案件を途中で投げ出すのは性分じゃない。ましてその内容がコイツらだったらな」


 俺の険しい目つきで睨まれた晴菜は、深い溜息を吐く。


「まあ、正刀君ですしね。百魔死団を怨むのは無理もないかと」


 晴菜は夜千瑠と顔を合わせ、笑うの堪える。

 俺がジト目で見ていたのを気付き、失礼、と詫びを入れた晴菜はパチンと鉄扇を鳴らして笑顔になる。


「では、本日の話し合いの結論は二点。

 一点、柳田、関、羽嶋を捜査する。二点、百魔死団とやり合う。ですが、一つ問題があります。正刀君と夜千瑠さんの今の序列ですと、百魔死団とやり合うのは難しいかと……それを私になんとかしてほしいという顔ですね?」

「さっき言ったじゃんかよ。何とかしてくれって」


 俺はニッと笑う。

 現時点での俺の銃剣警序列は千三百五十一位。銃剣警法では、序列千位未満だと百魔死団の様な凶悪犯罪組織に関する案件を担当する事は出来ない。だが、千位未満の銃剣警の仲介があれば特例として許可される事がある。勿論許可されない場合もあるが、かの御門家の長女であり、銃剣警序列四百十一位の晴菜に掛かればそれくらいは赤子の手を捻るものだ。ちなみに夜千瑠の序列は俺よりも低い二千七百九十四位、てつはもっと低くて十万五千八百二十二位だ。

 晴菜は諦めたかの様に、深い、深い溜息を吐いた。


「正刀君、あなたのことですからこれぐらいのことは一応は予想していましたけど、上に掛け合うのは大変なんですよ? 少しは私の身にもなってください」

「悪いな。さっき散々人の事を言ってくれた仕返しのつもりで頼んでるから」

「その仕返しの度合いが高いと言っているんですよ……」


 それはお前の自業自得だ。普段からムカつくことばかり言って俺を怒らせて楽しんでいるくせに何を言っているか。


「では、そろそろお開きにしましょうか。おや、もうお昼ですか。時間は進むのが速いですね」


 時計を確認してみると、本当に昼になっていた。そこまで長い様には思えなかったのに。


「折角ですし、お昼ご飯はコチラで召し上がりますか? 簡単なものしか出来ませんが」

「んー、そんじゃお言葉に甘えさせてもらうわ。美雨も別に良いよな?」

「……うん」

「では拙者も頂くで御座る」


 美雨と夜千瑠も賛同し、これからのことはとりあえず昼飯を食ってからにしよう。

 晴菜が結界を解除し、元の空間に戻った俺達が庭に目をやると、そこには小さい黒い影がいた。


「おっ、八徹」


 小さい黒い影――夜千瑠の傍付き忍、まがうね八徹が片膝を突いてそこに待機していた。


「お嬢様、正刀様、晴菜様。お疲れ様です」

「どうした八徹。そのような浮かぬ顔をして」


 夜千瑠の言う通り、八徹は何処か浮かない顔をしている。これは何か悪い知らせを持ってきたと言わんばかりの顔だと俺の勘が言っている。


「……はい。その、皆様にご報告がありまして」

「あー、八徹。その報告、俺が当てても良いか? 柳田と関と羽嶋の三人が死体で見つかったとか?」


 俺の問いに、八徹は半分驚きつつも平然を装い、


「……はい。柳田は毒漬けにされた状態で都内某所の冷凍庫から、関は全身を鋭利な刃物で肉塊となって都内の公園に、羽嶋はバラバラの死体をスーツケースに詰められた状態で海中に捨てられていました」


 惨い。惨過ぎる。普通に首絞めるとかして秘密裏に死体を埋めるとかっていう発想は無い訳かよ百魔死団は。てか、よく海に捨てられていた羽嶋の死体を見つけられたな。

 三人の死体が一遍に見つかったということは、


「……夜千瑠、どうやら奴さん等の指紋、ミスで付いてしまったみたいだな」

「……そのようで御座る。それらが分かり次第に口封じで殺めるのは分かるで御座るが、何とも惨い事を。拙者など心臓一突きで仕留めるで御座るに」

「そうですねぇ。私でしたらお茶で毒殺でしょうか。或いは舞いに乗じて喉を切りますか」

「あの、お嬢様、晴菜様、そういう問題では……」


 八徹の言う通りだ。殺し方云々で議論するなそこのくノ一と陰陽師。

 しかし、八徹の報告によって、俺達がやろうとしたことの一つが途絶えてしまった。つまり、これで振り出しに戻った訳だ。


「それと、正刀様にも一点御座いまして」


 八徹は、何とも言いにくそうな顔を俺に向ける。八徹、そこまで言いたくなかったらもう言わなくても良いぞ。後で梓に沢山可愛がってもらえ。


「……何だ?」

「その、銃剣警局が正刀様をお呼びしておりまして。今日中に銃剣警局に来るようにと伝言を」

「それって、まさか公安部からか?」

「はい」


 俺はあまりの嫌さに深い溜息を吐いてしまった。百魔死団が関係していると分かった辺りで、呼び出されると思っていた。

 何で俺が百魔死団の名前を聞いて過剰に反応していたのか、その理由は単純で、俺が百魔死団を怨んでいるから。


 ――二〇一七年四月。それは俺が銃剣警になった年。


 そしてその一ヶ月前の二〇一七年三月。それはとある超凶悪犯罪組織と、銃剣警局の精鋭揃いが激突した戦いが起こった。


 その戦いは「百魔死団殲滅大戦ナンバーズ・デストロイ」と呼ばれ、銃剣警局は多くの犠牲者を出したが、その中で最も重要な戦力を失ってしまった。


 銃剣警序列日本部門一位、世界部門十六位。


 東京銃剣警局公安部、公安第零課所属、あやむらじん


 俺の父さんは、百魔死団との戦いで殉職した、最強の銃剣警だった人だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ